82.認知
「こんな感じなんだけど...どう?」
「うん...うんうん」
土曜日の配信の後すぐに原稿のペン入れを終わらせた。その後、素人なりにベタ塗りやトーン貼りなんかもしてなんとか形にすることができたと思う。
ここ最近睡眠時間を削っていたので少し眠たいが、完成したらすぐに悠に見せたいと思っていたのでなんとか気合で起きているギリギリの状態だ。
「すっごい!めっちゃすごい!」
「そう...」
悠のように手放しに褒められるとなんというか少しむず痒い。実際のところ、さすがに作業量の問題で背景は簡素なものになっているし、トーンもうまく切れなかったし...。
修正したいところは山ほどあるのだがあまり時間をかけていてもキリがないので妥協してしまった。
「話考えてくれて、ありがと...。悠のおかげだよ」
「リッキーに比べたら私の力なんてほんとにちょっとだけだよ」
「...そんなことないよ」
緻密すぎると言ってもいい原案兼設計図のおかげでとても作りやすかった。僕はそれを組み立てただけに過ぎない。
「ふぁ...ちょっと眠くなってきたからこれ投稿したら寝るよ」
「そっか、明日休みだしゆっくり休んでね。おつかれ!」
「ん...おやすみ」
「おやすみ~」
悠との通話を終えスマホを置いた。現在の時刻は午前0時30分、眠気も最高潮に達している。
僕は半分意識が曖昧な中あらかじめ下書きしていた文面とともに描き上げた漫画計16ページをスイッターに載せて投稿ボタンを押した。
○瀬良リツ
@Rituse_mob
『画面の向こうの君に会う方法1』(1/4)
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2020/9/11
3件のコメント 89件の高評価
「よし...」
ベッドまで歩く気力もなく、僕はそのまま机に突っ伏して眠りについた。
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明くる日、鳴り響くスマホの着信音で目を覚めた。変な態勢で寝てしまったので首や腰あたりがめちゃくちゃ痛い...。
僕は寝ぼけ眼を擦りながらスマホを確認し着信に応答した。
「...はい、もしもし」
「リッキーおはよう!もしかして今起きた?」
「うん...悠の着信で」
僕の声がガラガラなのに対してスマホの向こう側からはいつも通り元気な悠の声が聞こえてきた。
「じゃあ、まだスイッターは確認してないんだね。すごいことになってるからすぐ見て!」
「すごいこと?」
なにかやらかしたか?昨日半分意識がない中で投稿したからページが抜けていたり順番がごっちゃになっていたりという、なんらかの不備があってもおかしくないな...。
僕はつきっぱなしのパソコンで自分のスイッターを開いた。
○瀬良リツ
@Rituse_mob
『画面の向こうの君に会う方法1』(1/4)
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2020/9/11
558件のコメント 6.7万件の高評価
...ん?
もしかしてまだ夢の中から醒めていないのかもしれない。
「痛い...」
「え?」
「いや、なんでもない」
頬を思いっきりつねってみたがジンジンとくる熱をもって痛覚を感じた。夢ではないらしい...。
「めちゃめちゃバズってるじゃん...」
「そうなんだよ!鬼バズだよ!」
しかし、おかしいな...。
自分で言うのもなんだがそこそこ知名度のあるネットの配信者がこういう作品を投稿したとしてもこんなにことにはならない。まだ投稿してからたったの十数時間程度でこんなにバズっているということはその間に何らかの働きかけがあったに違いない。
「誰か宣伝してたりしてた?」
「どうだろ...あっ、ネットニュースに載ってるよ!」
あーまぁ、若い人向けにはネットニュースは割と届きやすいツールなので僕のファン以外にも拡散されているのかもしれない。それにしてもネットニュースに乗るにはその前にある程度バズっていないといけないはずだが...最初の火付け役は誰なんだ?
「ん~...あ、あー!」
「え、どうした?」
少し考えているとカタカタと何かを検索していた悠から大きな声が上がり椅子から落ちそうになった。ただでさえこの状況に驚いているのに急に大きな声を出されるとびっくりしすぎて心臓取れちゃう。
「これを見たまえ!」
「ん」
なぜか若干興奮気味の悠から謎のURL送られてきた。ドメイン名からスイッターのものだとおもうけど、何だろう?
○リリカ・ルルーシア
@LyricaLulucia
めちゃくちゃ面白いです!
私もオタクなので主人公くんに共感しまくりです~!!
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○瀬良リツ@Rituse_mob
『画面の向こうの君に会う方法1』(1/4)
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2020/9/12
55件のコメント 6718件の高評価
「...っ!!はぁっ...」
「リリカ様から感想来てるよ!まじですごいじゃん!!」
「...はぁっ...はぁっ...はぁっ...」
「え、ちょっと...過呼吸になってるよ!深呼吸して、深呼吸!!」
「はぁぁ...すぅ....はぁ...」
見た瞬間一気に脳が覚醒した。
今まではファンとして認知されたことはあるけどライバーという対等な立場で認知してもらえたことがとても...とても嬉しい。それにある意味作品のモデルともいえる殿下に届いて自分の作品に感想をしてもらったということに対して感動しすぎて心拍数があり得ないくらいのビートを刻んでいる...。
え、なんか未知の感情に晒されて吐きそうなんだけど。あれ、やっぱりこれ夢なんじゃないか?
「ふぐっ...」
「ふぐ?」
「いや、何でもない...」
試しにまあまあの力で腹パンをしてみたが本気で吐きそうになったのでやはり夢ではないらしい。
非公式イメージソングに対してコメントがされたときは多少認知されないかなぁという淡い期待もあったので多少心構えはあったけれど、今回のこれはまったくもって予想外のことだったので本当に感情の振れ幅がすごいことになっている。
「これで認知されたことでコラボに近づいたんじゃない?」
「コラボ!?」
たしかに...これで視聴者の『Vすこ』ではなくいちライバーの『瀬良リツ』として認知されたことで絡むきっかけになったのかもしれない。まだ、何もしていないのに自分と殿下がコラボしている姿を想像しただけで手が震えてきた。
「ほら早くリプ飛ばさなきゃ!」
「ど、どうやって?」
「いつも配信見てます、とか当り障りのないやつでいいから!」
「わ、かった...」
悠にそう促され僕は震える手を懸命に抑えながらキーボードを叩く。
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○瀬良リツ@Rituse_mob
返信先:@LyricaLulucia
itumohaisinnmitemasuuresiidesu
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「リッキー、緊張しすぎてローマ字になってるよ!」
「え、えぁあ...ほんとだぁ...」
画面を見ずに打ってしまったことでローマ字入力に気づかず送ってしまった。もう、だめなのかもしれない。
「あっ、見てリッキー!返信来たよ!」
「えぇ!?まって、心の準備が...」
ぼろっぼろに崩れ切ったメンタルをなんとか奮い立たせながら僕は意を決して更新をかけた。
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○瀬良リツ@Rituse_mob
返信先:@LyricaLulucia
itumohaisinnmitemasuuresiidesu
1件のコメント 250件の高評価
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○リリカ・ルルーシア@LyricaLulucia
arigatougozaiamasu!
tottemouresiidesu!!
0件のコメント 199件の高評価
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「うっ...うっ...うっ...」
「ど、どうしたのリッキー?」
「なんか、もう全部うれしすぎて画面見えない...」
推しが優しすぎてつらい...。
もしかしたら今日が人生で一番最高の日なのかもしれない。
とりあえずこのリプをスクショして速攻スマホの壁紙にした。




