74.配信終わり
なんとか無事に悠の初配信が終わった。
「ふぅ...」
「お疲れ様。配信どうだった?」
「すっっっっっっっごい緊張した!でもめっちゃ楽しい!」
「それはよかった」
実際のところ、初配信とは思えないほど完璧な受け答えが出来てたし良かったと思う。僕が瀬良リツとして初めて配信したときは緊張して吐きそうだったし、早めに切り上げたりしてたしな。今思うといろいろとハチャメチャなことをしていたと思う。
それに比べて悠はなかなかに肝が据わっていたし、いい意味で普段通りの自分を出せていた。今回は二人だったけどこの様子なら陽向ユウの個人チャンネルで配信しても心配ないだろう。
「PCの設定ちゃんとできた?」
「うん、ばっちり!でも、本当にこれ貰っちゃってもいいの?」
「いいんだよ。どうせ使ってないやつだからさ」
悠には僕が少し前まで使っていたPCとWEBカメラを譲った。最近、配信用のもう少しいいスペックのPCに買い替えたので、このまま無用になるよりは正直悠に使ってもらった方がだいぶ有意義だ。
「でもなぁ...なんかで返せればいいんだけど」
「それならいっぱい配信してよ。僕もたくさん見たいし」
「えぇ!リッキー見に来るのー!?」
「そりゃ見に行くよ」
「なんかはずいなぁ...」
そりゃー我が子の配信は全部見に行くでしょ。なんなら僕が絵師になってやりたいことが、Vの我が子の配信にした僕のコメントにその子が反応して優越感を得たいっていうのが夢の一つだからね。
あれ...もしかして、僕って厄介オタク?
「改めて聞くけど...リッキーってガチで絵師やってるんだよね」
「まぁほどほどにね」
最近も新しく出るらしいカードゲームのキャラクターデザインの仕事を受けて作成中だ。途切れなく依頼が来るくらいには重宝してもらっている。
この仕事を始めるにあたって僕専用の口座を作ってもらったのだが、高校生とは思えないくらいの貯金がたまっている。
今のところ薄らぼんやりとしたイメージしか頭の中にないのだが、もう少しお金が貯まったらやってみたいこともあるので頑張らなくては。
「平日はふつー学校じゃん。お仕事する時間なくない?」
「あ~...」
考えてみれば確かに。まぁでも僕の場合一度に複数の依頼は受けないし、期限はできるだけ長くしてもらってるからだいぶ楽かなぁ。
「言うてもそんな忙しくないよ。毎日1時間ずつやれば期限内に終わるし」
「そうなんだ。いやぁ、大変そうだなって思ってさ」
基本的に何も予定がなければ土日は作業してるし、僕が速筆なのもあるだろうけどそこまで大変さはないかな。なによりも絵を描くことが好きな僕にとって仕事の時間というよりは好きなことをする時間として捉えている面もある。
まぁ...どっちかといえば切り抜き動画作る方が大変かもなぁ。音MADを作るための素材集めるのに何十時間というアーカイブを見たことか...。
「それより切り抜き作る方が大変かな」
「切り抜き?そんなのもやってるの?」
「うん、まぁちょっとね」
今はどちらかというとフロムヒアのライバーさんに焦点を当てて切り抜き動画を作っているけど、それでもやっぱり一人で作るには労力がかかりすぎる。本当はもっと音MADとか全ライバーのリアクション集とかも作りたいんだけど...僕が5人くらいに分裂しないかな?
「何っていうチャンネルなの?」
「Vをすこれっていう...」
「え、あれリッキーなん!?」
「うわ、びっくりした...」
悠の食い気味の反応にびっくりしてしまった。そういえば少し前に僕が作った「カグラ様のホラゲ絶叫まとめ」の動画見たって言ってたな。
「私、いっつも見てるよ!それにPRINCESSと生涯最推し宣言、鬼リピしてるし!」
「そうなん?」
「超いい曲だよ!全世界のオタクのための曲と言っても過言ではないよ!」
「...ありがと」
なんか面と向かってそんなに褒められるとすっごい恥ずかしいな...。悪い気は全然しないんだけどさ。
「いつも見てる切り抜き動画作ってるのがリッキーだなんて...。あれ、ていうかあの切り抜きってリッキー1人で作ってるの?」
「うん、そう」
「やばくない...?だって毎週1回フロムヒアまとめって動画上げてるよね?」
「アーカイブ見るだけでもかなり時間かかるんだよね」
「そうだよね?あれ、何人かで作ってると思ったからびっくりだよ...」
フロムヒアは現在8人いて、毎日誰かしらが配信を行っている。中には週に2,3度、佐倉海斗なんて毎日ゲーム配信をしているので生で見れなかったアーカイブはイラスト制作の作業中に流している。
「よかったらさ、私もそれ手伝おうか?」
「...え!いいの?」
「私もフロムヒアなら見てるし面白いシーンあったら教えるよ!」
それは本当に...本当に助かる。いくら作業中に消化しているとはいえ、やはりアーカイブ消化にものすごい時間がかかっていたから悠が面白いシーンを教えてくれるだけでだいぶ負担が減る。
「ほんとにありがとう。助かる」
「いいよ全然!それにしてもリッキー多才すぎん?絵描けて、歌作れて、しゃべりもうまいんだよね」
「しゃべりはどうだろう...」
「いや面白いって!リッキーとしゃべってると退屈しないもん」
いやなんか照れすぎて体温あがってきたんだけど。
「それに比べて私はなんにも才能ないしなぁ...」
「いやいやいや、そんなことないって。大人数の前であれだけ自分を出して話せるのは才能だよ」
「そう?」
「そうだよ。僕の初配信なんてまーひどいからね?」
「へぇ...今度確認してみようかな」
「それだけはやめて」
今でもちょっと見ただけで枕に顔を埋めて叫びだしたくなるくらいだから。いろんなライバーさんが初配信を1年後に振り返るみたいな配信をしているけど僕の場合は歌配信の次くらいにはやりたくない。
「悠は好きなこと話してるだけで面白いし、そう気負わなくてもいいから」
「いや照れるなぁ...」
やり返しだよ。
「あ、もうこんな時間。そろそろお風呂入んなきゃいけないから通話落ちるね」
「おー、お疲れさま」
「うん、お疲れー!」
そう言って悠は通話から出て行った。
僕もそろそろ今日のノルマ分のお仕事をした後で寝ようかと思っていると、チャットに通知が来ていることに気づいた。エルさんとアルファさんの2人しか登録されていなかった頃に比べて、無人島人狼をしたことによって一気に8人に増えていた。大きな進歩だ。
さてさて...誰からかな?
「んー...僕もお風呂入ってくるか」
「オーミアルファ」と言う名前を確認し、まぁ早急に返す必要もないだろうという判断のもと返信は後回しにした。




