65.サークル申込み
この作品に出てくる冬コミはコミケによく似た全くの別物のイベントです。
「ふぅ...久しぶりにいい汗かいたな」
桜花と1時間ほどのランニングを終えて先ほど家に帰ってきた。疲れ果てながらもシャワーで汗を流した後で髪も乾かさずにそのままベッドに倒れこむ。
まったく、5キロ程度ランニングする予定だったのにまんまと桜花に乗せられて結局10キロも走らされた。桜花は僕が帰った後も走るらしいし、本当にどれだけスタミナあるんだよ...。
お昼の雑談で名前を出してしまったことについては快く許してくれたけど、正直桜花がそういったものの知識があまりないので少し後ろめたい。まぁ、あの後急いでアーカイブを編集したしリスナーも民度がいい方だと思うので大丈夫だと思うけど。
夕食が出来るまで少し眠ろうと思っていると、なにやらアルファさんから通知が来ていた。はて...またコラボのお誘いだろうか?
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――――――――新着のメッセージ――――――――
○オーミアルファ
『今大丈夫ー?』
○瀬良リツ
『空いてますけど、なんですか?』
○オーミアルファ
『ちょっと前の配信で冬コミに参加したいみたいなこと話してたからもしわからないことあれば教えようかなーっと思って』
そういえばそうだ。
危ない危ない、ほとんど記憶から消えかけていた。
○瀬良リツ
『いいんですか。助かります』
○オーミアルファ
『いいよー。文字のやり取りだと面倒くさいから通話つないでも大丈夫?』
○瀬良リツ
『はい。大丈夫です』
急いでPCを立ち上げて通話を繋げる。
・
・
・
「あー、あー。聞こえるー?」
「聞こえてます」
何気に裏で通話を繋げるのは初めてかもしれない。
ちょっと緊張する...。
「おっけー。じゃあとりあえず申込書からだけど...紙の申込書って持ってる?」
「いや...持ってないです」
「大丈夫大丈夫!オンライン申込もあるからね」
そうなのか...まったくもって知識がないから申込書の買い方すらわからなかった。
「じゃあとりあえず送ったURL見てもらえる?サークル申込みの注意点も下のほうに書いてあるからさ」
「わかりました」
送られてきた注意点などをサーっと読み進めていくととあるところに目が止まった。
「まぁ、そんな難しいことは書いてないから大丈夫だと思うけど」
「あ、あの...」
「ん?どうしたの?」
「一部年齢制限のあるイベントがあるって書いてあるんですけど...」
これってもしかしてサークル参加も含まれるのか...?
だとすれば僕はまだ17歳なので参加できない可能性もあるんだけど。
「まぁそういうイベントもあるけどもしかして瀬良ちゃんも興味あるかんじ?」
「いやそんなんじゃないです」
「そんな冷たく言わないでよー。ていうかなんでそんな質問を?」
「えーと...」
言うべきか...言わないべきか...。
確かにライバーになってから早数カ月アルファさんに助けられたことは多々ある。人柄的にはところどころタガの外れている部分があるものの、基本的には今みたいに面倒見がいいし信頼はしているのだけど...。
少しの間、悩んだ末結局言うことにした。
ごまかすこともできただろうけどアルファさんなら外部に漏らすこともないだろうし、今すぐとは思っていなかったけど時間がたてば伝えようとは思っていた。まあ、年齢くらいなら別に問題もないだろう。
「えっと、実は僕まだ未成年で...」
「アハハハハ!!瀬良ちゃんも冗談とか言うんだね!」
「・・・」
「え...マジで?」
「はい」
「えぇ......いやいやいや」
僕の沈黙で冗談ではなく本当のことだとわかるとアルファさんは明らかに引いていた。
「あ、あー!なるほど。大学生ってことかな?」
「いや...高校生です」
「・・・」
「本当ですよ」
「いやいやいや!!信じないよ!どこにプロの絵師で活躍してる高校生がいるもんか!」
そんなこと言われても...。
「キャラ付けとかじゃないよね?」
「ここでキャラ付けする必要ありますか」
「いやないけどさぁ...うそでしょ...」
きっぱりと僕が言い切るとアルファさんはうなだれてしまった。いやまぁ確かに配信上でもかなり失礼なことは言ってしまっているけど。
「まぁ確かに配信で生意気なこと言ってますけど...」
「いやそれはエンタメだし別にいいんだよ...」
「じゃあなんでそんなに落ち込んでるんですか?」
「それはあれだよ!もうなんか自信とか尊厳とか...いろんなものが崩れていってるんだよ」
「そんなもんですかね」
「勝手に同じ年くらいだと思ってたから同業者として競争心もってたわけよ!なのに俺より一回りくらい若い子があっさり俺を追い抜いていったのかと思うと...」
「ご愁傷さまです」
「本当に冷たいね!」
アルファさんにとっては悲しいことなのかもしれないけど最高の誉め言葉として受け取ることにしよう。
まぁ、アルファさんの絵ってかなりクセの強いタッチだから僕の絵とは根本的に違うんだよね。そういう意味ではイラストレーターを比べてどっちが上手いとかはあまり関係ないような気もする。僕もアルファさんやいろんなイラストレーターさんのイラスト集を参考にして勉強してたし。
「それで...サークル参加ってその年齢制限には入るんですか?」
「いや、入らないよ。サークル参加自体は中学校卒業してる人ならだれでもできるし」
「そうなんですね...安心しました」
なんとか参加はできるみたいだ。今の段階で二次創作にするかオリジナルにするか曖昧にしか決めていないけど参加できないことにはなにもできないからな。
「まぁ、参加できるかは運しだいだけどねー」
「運?」
「そ。みんながみんな参加できるわけじゃないからね。結構な確率で落ちちゃうんだよ」
確かに考えてみればそういうこともあるか。応募して終わりと思っていたけどそこが受からないと参加もできないんだ。
「じゃあオンライン申込みやっちゃおっか。俺も教えながらやるから画面共有できる?」
「はい、わかりました」
・
・
・
これで送信、っと。
「おっけー!これで申込完了だよー」
アルファさんに教えながらなんとか申込みすることができた。僕だけだったら多分書類の不備とかで落とされていたかもしれないので助かった。
「これっていつ頃当落がわかるんですか?」
「うーん...例年だと11月頃かなー?」
「11月...結構遅いんですね」
「まーねー。なんせ毎年5万組くらいのサークルが送ってくるから」
流石国内、いや世界最大級の同人誌即売会。桁が一つも二つも違う。
でももしその時に落選したっていう通知が来たらどうするんだろう?せっかく何カ月も頑張って用意して落ちたらやめたくなるかも。
「もし落ちたら俺のとこのスペースで委託参加してもいいけど」
「委託?」
「他のサークルで参加するってこと。まぁ、俺が落ちるかもだけど」
なるほど、委託参加。
そうすれば落ちたサークルでも参加することが出来る裏技みたいなもの...なのかな?知らないけど。
「とりあえずやることは終わったけど他に聞きたいことはある?」
「今のところは大丈夫です。ほんとにありがとうございました」
「いいよいいよ!ま、あとでわかんないこと出てきたら言ってねー」
そういうとアルファさんは通話を落ちていった。
アルファさんがいなかったらまじで今年は諦めることになってたかもな。なんで裏ではこんなにいい人なのに配信であんなんになっちゃうんだろう...。
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