49.ツーマンセル
【篠宮悠】
私は図書館前の広場でベンチに座りながら、リッキーたちがくるのを待っていた。
「ちょっと早く来過ぎたかなぁ...」
誰に聞かせるでもない独り言をつぶやきつつ、ため息をついた。
リッキーと外で合うのはこれで2回目。桜花とも学校では話すけど遊んだことはなかったなぁ。二人は家が近所にある幼馴染らしいけど、少なくとも小学校の時に私が桜花と会ったことはない。
あの地区には小学校がいくつかあってその中から選べるようになっていたので、おそらく違う方に行ったのだろうがけど。
ちらりとスマホの時刻を見るがまだ午後12時30分を少し回ったところ。まだまだ待ち合わせの時間には早い。
少し歩いて時間を潰そうかなぁ...とベンチを立ちかけたときだった。
「お!俺も早く来たつもりだったんだが」
ギギギ...と油が切れたように硬い首を回し、声のする方に顔を向ける。
「おはよう、篠宮さん。早いな」
そこに立っていた人物は私の天敵、日下部総司だった。
「...おはよう」
メガネからのぞく鋭い目つきが威圧的な雰囲気を醸し出している。まぁ、私が勝手に嫌なイメージを持っていることでバイアスがかかっているだけかもしれないけど。
「律月達来るまで中で待っていようか?」
「いや、私は外で待ってるから」
「あ...そうか」
私が突き放した言葉に少し悲しそうな表情を浮かべる。少し良心が痛まなくもないが仕方ない。
そもそもどうしてリッキーもこの男と話すときはあんなに素で接していられるのだろうか。もちろん、小さい頃からの幼馴染ということもあるんだろうけど、正直羨まし...いやけしからん!男子とあんなに親密なんてお母さんは許しませんよ!
私ももしかしたら小学校の時同じクラスだったことを言えば思い出してもらえるかもしれないけど、できればリッキーの方から思い出してもらいたいのでやめておく。あのときとは大分雰囲気も違うし、名字も変わったから難しいかもだけど。
「あ...律月たちそろそろつくらしい」
「そうですか」
くっ...どうして私じゃなくてこの男に連絡をするんだ...許せない!
私が塩対応しかしないことを悟った日下部は私に話しかけるのを諦め、気まずい沈黙のままリッキーと桜花が来るのを待った。
それから数分もしないうちにリッキーと桜花が一緒に歩いてきた。遠くからでもぶんぶんと手を振る動きで桜花だとすぐにわかった。
私はベンチから立ち、二人のもとに駆け寄った。
【瀬川律月】
「なんか悠ちゃんと総ちゃんはもう着いてるみたいだよ」
「そうなん?じゃあ、僕たちも早くいかないとな」
まぁ、総司に若干陰の気があるとしても悠は他人のパーソナルバリアなど関係なしに破壊するスーパーフレアを持っているコミュ強なのでなんとか僕たちがつく頃には打ち解けてくれているに違いない。何だったら肩でも組んでるかもな。
そう思いつつ、桜花と歩いていると図書館前の広場に悠と総司の姿を発見した。
「お!悠ちゃんと総ちゃん来てるー。おはよー!」
桜花が手を振りながら近づいていくと悠がものすごい速度で僕たちのところに駆け寄ってきた。
「桜花、リッキーおはよーー!!」
「うぐっ...!」
そのまま悠は僕にタックルもとい抱き着いてきたため、慣性の法則をもろに体でうけ体勢を崩しかけるがなんとこ踏ん張る。
ちらりと総司のほうを見ると何か得体のしれないものを発見したような目をこちらに向けていた。
「...おはよう。総司もおはよう」
「あ、あぁ...おはよう」
なぜか困惑している総司に対して悠は僕に抱き着いたままキッと睨んだ。
ははーん、なるほど?女子慣れしていない総司のことだから悠に対してデリカシーのないことでも言って怒らせたんだろう。女神のように優しい悠がこんなに怒るなんてよっぽどひどいことを言ったに違いない。やっぱり、総司も女装させるべきだったな。
「あっついし中入ろー!」
「そうだね」
ぐいぐいと悠を引きはがそうとしてみるがダイソンもびっくりの吸引力で僕の腕に抱き着いて離れない。仕方ないのでそのまま歩いていくことにした。
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「リッキーはなにからやりたい?」
「うーん...数学かなぁ」
「おっけー。じゃあ、三角関数からやろうか」
結局、二組に分かれてマンツーマン方式でやることになった。
桜花も隣でうーんうーんと頭をひねらせながら総司に教えてもらっている。どうやら暗記科目である生物基礎に狙いを定めて詰め込んでいるようだ。まぁ生物と化学は答えだけ丸暗記しておけば大体高得点取れるしな。
僕の場合は数学が苦手なのでわからない部分をこの際徹底的につぶしていこうと思う。
「それで...こうして」
「なるほど...。じゃあ、これは?」
「これはねー、この式を応用してみて」
なるほど、とてもわかりやすい。疑っていたわけじゃないけど学年3位の名は伊達じゃないみたいだ。
「どう?解けそう?」
「できたよ」
「どれどれ~」
悠は僕の解答を後ろから覗き込んできた。ちょっと気持ち悪いかもしれないが、めっちゃいい匂いする...。
「うん、あってるね。この問題はどう?」
「うーん...これは...こんな感じかな」
「ふんふん...途中まではあってるよ。でも、ほらここ。これを代入しないといけないから」
「あ、そっか」
悠の教え方は僕がわからないところを全部教えてくれるのではなく、どこがわからないのかを的確に把握してヒントを与えて僕が解けるように導いてくれるやり方なので確実に力がついてわかりやすい。もしかして過去に家庭教師でもやっていたのだろうか?
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そんな調子であっという間に数時間が過ぎて図書館が閉館の時間になってしまった。なんとか大まかに今回のテスト範囲をさらうことが出来たので良かった。
「うわーーー!もう頭パンクしそう!」
「普段から勉強してればこんなに一気にやらなくてもいいんだがな」
総司ははぁ、とあきれたようにため息をつく。
その言葉は僕にも刺さるのでちょっとやめてもらっていいですかね。
「リッキー、今日勉強したところは帰ってから復習してね。そしたらちゃんと定着するから」
「ん、わかった」
正直なところ、教師に教え方よりも悠の教え方のほうが100倍うまかった。マンツーマンでわからないところをすぐ質問できたということもあるだろうけど、僕がどこで躓いているのかをちゃんと把握してその解法を教えてくれていたのがよかったのだと思う。
「リッキーはこの後どこか行くの?」
「いや、直帰しようかな」
「そっか。じゃあここで解散して帰ろっか」
「そうだね!私もこの後ランニングしたいから帰るね!バイバーイ!!」
桜花は誰よりも先に走って帰って行った。おそらく家までランニングで帰ろうとしてるのだろう。ここから10何キロあるはずだけど、まぁ桜花にとってはいつものことか...。
僕はそんなことはせずにちゃんと電車で帰ろうと思う。
「総司、帰ろうか」
「あぁ...。!?...い、いや。やっぱり用事を思い出したから先に帰ってくれ」
「?...わかった」
なぜか僕の後ろを見て恐れをなして逃げ去って行った。後ろを振り返ってみるが仏様のようなおだやかな笑みを浮かべた悠しかいない。なんで総司は大量殺人鬼でもみたような顔になったのだろうか...不思議だ。
「悠、駅まで一緒に行こうか」
「いいよ!」
二人とも僕を置き去りにして行ってしまったので悠と一緒に駅まで歩く。なぜか悠は勝ち誇ったような満足気な表情を浮かべていたけど気にしないことにしよう。
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