42.かくしごと
【櫻木桜花】
「いててて...」
いつもとおなじ中庭で律月ちゃんと昼ごはんを食べているわけだけど、最近律月ちゃんが私に隠し事をしているのではないかという疑惑がある。
それに今日の律月ちゃんはなぜか全身筋肉痛らしい。怪しい...。
じーっと律月ちゃんの顔を見ていると、彼女から怪訝な表情を返された。
「え、なに?」
ここはストレートに聞いてみる。
「律月ちゃん、隠し事してる?」
「ブフッ!!どぅ、え、何が!?」
動揺がすごい...。
もしかして本当に隠していることがある...?
「あるの?」
「ぼ、僕が描く仕事...じゃなくて!!隠し事なんてするわけナイじゃん!」
イントネーションがおかしかったのは気のせいかな?
「いや別に悪いってわけじゃないけど。何か今日も全身筋肉痛で来たじゃん?」
「それはほら...筋トレしてたんだって」
「昨日いきなり筋トレに目覚めたの?」
「ま、まぁ」
「いや、ダウトだね!」
律月ちゃんは自分から体を動かすことはあまりない。
ランニングにしてもあまりに家にこもって不健康な生活をしているから気分転換の意味も込めて1,2年前から私から誘って始めたものだ。
「この前もなんか寝不足だったよね?」
「まぁ確か。あんまり覚えてないけど」
「悠ちゃんにおぶさってたことも?」
「え、なにそれ?初知りなんだが!?」
動揺する彼女の顔を両手でつかむ。
「私の目、見て。本当に隠し事してない?」
「し、してない」
「ほんとにーー?」
目が右往左往している。
これは完全にダウト!
というか、実のところ私も彼女が何を隠しているのかの憶測はついている。
この前に総ちゃんと律月ちゃんの二人で話をしていたことがあったのだが、私は来た瞬間になぜか話を切り上げられてしまったことがあった。
そのことが関係しているのなら総ちゃんと律月ちゃんの共通しているアニメとかそっち系のことだろう。
「あーあ、私は悲しいよ...。いつから律月ちゃんは私に嘘をつけるような悪い子になったの?」
「お前は僕の親か」
「もう10年以上一緒にいるんだし、家族みたいなものでしょ!」
「う...なんか...まぁいいや」
なぜか律月ちゃんは顔を赤くして横にそらしてしまった。
「よくないよ!それって総ちゃんは知ってるんでしょー?私も知りたいー!!」
「...それ総司に聞いたのか?」
「ううん。私の勘だけど...当たってた?」
「まじかよ...」
このリアクションを見る限り、総ちゃん絡みということは間違いないっぽい。私の勘も捨てたものじゃないね!
「てか総司と僕絡みならオタクっぽいことだってわかるじゃん。桜花あんま興味ないんじゃなかったか?」
「興味ないんじゃなくて部活忙しくて興味持てないの!それに律月ちゃんも総ちゃんも全然教えてくれないじゃん」
「そりゃあ桜花の邪魔しちゃ悪いと思って...」
全くそんなことないのに。
私だって陸上以外になにか趣味がほしい!それに3人でいるとオタク的な話をしているときに入れないから寂しいし。
「それで、なーに隠してるの?」
「...言ったって桜花にはわかんないと思うよ?」
「それでも知りたいの!」
はぐらかそうとする律月ちゃんの体に後ろから抱きつく。律月ちゃんは昔からスキンシップに弱い。こうすれば大抵わがままを聞いてくれる。
「ちょ!はぁ...桜花って良くも悪くも猪突猛進だよな」
「それってどういうこと?」
なんかけなされたような気がするんだけど。
「悪く言えば人にとって嫌なことでもズケズケ聞いちゃうタイプってこと」
「えー、ひどい!!そんなことないよ。私でも人が嫌がりそうなことはわかるし!それにこれは別に律月ちゃんにとって嫌なことではないんでしょー?」
「嫌なこと...まぁ、桜花には知られてもいいけどさ」
私だって本当に聞かれたくないことはこんなに突っ込んでいったりなんかしない。でも幼馴染だからこそ律月ちゃんの今回の件は別にそんな雰囲気は感じない。
「なになに〜?」
律月ちゃんは諦めたようにため息をついた。
「バーチャルライバーってわかる?」
ばーちゃる、らいばー?
全然わかんない。
「まったく全然」
「簡単に言うと、ユーライバーをアニメのキャラクターがやってるみたいなやつ」
「へぇー」
ユーライブとか配信サイトは基本的にあまり見ないので正直良くわからないけど最近そういう人たちが流行っているのは知ってる。
もしかして私って古い人間...?
「それでそのVライバーを僕がちょっと前からやり始めたって話」
んんー?!
一気に話が飛躍してない?見てるんじゃなくて、配信してるの!?
「えぇ!!ちょっとまって...つまり律月ちゃんは配信者、ってこと!?有名人じゃん!」
「いや、別に配信してるからって有名人ってわけじゃないと思うが...」
そうなの???
「ユーライブってチャンネル登録者数ってあるんだよね、たしか。何人くらいいるの?」
「あー、今の所...15万人くらいかな」
「じゅ、じゅうごまんにん!!」
登録してる人集めて関ヶ原の戦い起こせる人数じゃん!
「いや、そこまで多い方でもないけど」
「何言ってるの!?15万人ってちょっとした都市の人口と同じだよ?」
「そう考えると、多いのか...」
っていうか、いっちゃなんだけど自分のことコミュ障だってあれだけ言っていた律月ちゃんがなんで配信なんて始めたんだろう...。
「なんでまたいきなり配信なんて」
「まぁ、いきなりってわけでもないけどさ。うーん...桜花は推し、っていうか憧れてる人とかいる?例えば陸上で」
陸上か...。
なら、ハラー選手かな。私が小さい頃にテレビを見て初めて陸上の世界に興味をもった人物だし。
「中長距離のムハド・ハラーかな!その人見て陸上始めたし」
「僕も同じで憧れる人に出会ったからバーチャルライバーになったんだ。まぁ、そういう理由」
つまり、律月ちゃんは憧れの人を追いかけるために配信を始めたってことなのかな。
「ライバーになればもしかしたら推しにも会えるかもしれないじゃん?」
おや?
「え、なに。その人に会うために始めたってこと...?」
「そうだよ」
おおう...澄み切った目をしている。
私もハラーに憧れを抱いて陸上を始めたきっかけではあるけど、彼に会うために陸上をやっているのではない。
なんというか、律月ちゃんは昔から自分の好きな分野だけには行動力がものすごいんだよなぁ...変な方向に。
「それで律月ちゃんはなんていう名前で配信してるの?」
「え、それは言わないよ」
「えぇー!!なんでー?」
私も律月ちゃんが配信してるところ見てみたいのに!
「なんでじゃないわ!知り合いに見られるほど恥ずかしいことはないから」
「そうかなぁ...ちょっともダメ?」
「ちょっともくそもあるか。絶対ダメ」
むむむ...にべもなし。
そんなに恥ずかしがらなくても、ちょこっと配信みて応援するだけなのに。
「このことって悠ちゃんには...?」
「言ってない。なんか悠が最近ライバーに興味持ってるから、話したらバレるかもしれないし」
「そうなんだ」
ん?
てことは私もそのバーチャルライバーってやつを見ていけば、いずれ律月ちゃんを見つけられるかもしれないのかな。
「ちなみにさ、そのバーチャルライバーってどれくらいいるの?」
「どれくらい...まぁ、詳しい数は知らんけどざっと1万人以上はいるだろうな」
「1万...」
流石に1万人の中から律月ちゃんを見つけるのは無謀すぎるか...。
あーあ、律月ちゃんが配信してるとこ見たかったのにな。
ちょうど私のお弁当箱が空になった時に昼休み終了のブザーがなった。
「そろそろ帰んないとね。もし知らせてくれる気になったら言ってね!」
「ならんと思うけどな」
まったく律月ちゃんは頑ななんだから...。
まぁ、今日帰ったらバーチャルライバーの配信でも見てみようかな。そうしたら今度、総ちゃんと律月ちゃんのオタ話にも入っていけるかもしれないしね!
「そういえば桜花こんなに悠長に歩いてていいのか?」
「え、何が?」
「5限って桜花のクラス体育じゃね?着替えしてないし、間に合うのか?」
あ...
「やっばあああああああああい!!ごめん、律月ちゃん!私走る!」
「転ぶなよー」
Bボタン連打!!




