32.隣を歩く君との距離(後編)
少し時間が空いてしまいました。
不定期投稿の予防線を張っていたおかげで助かりました。
リッキーと他愛のない話をしつつ昭和のレトロな雰囲気の残る通りを進むこと数分。とある喫茶店にたどり着いた。
『喫茶ドルフ』という看板が掲げられている。レンガ造りの外装がなぜか私を懐かしい気持ちにさせた。ノスタルジックってやつ?
店の前にはメニュー表の看板がおいてあり、その上部に大きな文字で『撮影オーケー』と書いてあった。何か有名なところなのだろうか?
「悠、入るよ」
「おっけー」
中は若干暗めで4人用のテーブルが3つだけあるこじんまりとした内装だった。
「奥の席でいい?」
「ん?いいよ!」
リッキーに促されて席につき改めて周りを見渡す。
他の席には私たちと同じように2人組の客が座っていて、なにやら店の中をスマホで撮っているようだった。まぁ、今ではあまり見ないレトロな雰囲気のある喫茶店ではあるけど。
席についてちょっとすると奥のほうから若いウェイトレスさんが水を運んできた。
「いらっしゃいませ。メニューはこちらになっております」
メニュー表はナポリタンやハヤシライスなど、とことんレトロなラインナップだ。
「リッキーは何にする?」
「私はオムライスで」
リッキーはメニュー表も見ずに即決した。もしかして、一度来た事があるのかな?
「じゃあ、私もそれにしようかな」
「オムライス二つですね。少々お待ちください」
そういえば、さっきからリッキーがどことなくそわそわしているような気がする。きょろきょろと辺りを見渡しているが、もしかして...トイレ...?
「リッキーどうかしたの?」
「いや、悠がいつ気が付くのかなーって」
「気が付く?」
はて、私が何か見落としていることでもあるのだろうか?
私も店の中を見渡す。どことなく、見覚えがあるような気がするがどうもピンとこない。
もう一度、リッキーのほうを向くと若干口の端がニヤニヤしている。かわいい。
悩んでいる間にオムライスが運ばれてきた。
「こちら当店自慢のオムライスでございます」
「ありがとうございますー」
オムライスにはなぜかイルカのマークの付いた旗が刺さっていた。
ん?これって...。
「もしかして...映画のやつ?」
「そうだよ。いつ気づくかなって思ってた」
私のびっくりした顔にリッキーはしてやったりな表情ではにかんだ。
お、何気にリッキーの笑った顔は初めてかも。
「えー、全然気づかなかった!!そういえばそうだね!」
「途中に立ち寄ったお店のモデルなんだよ」
確かカイとレイカが旅の途中で昼食をとろうと喫茶店に立ち寄るシーンがあった。そこで彼らは私たちと同じこのオムライスを食べていたはず。
「てことはリッキーは1回あの映画見てたの?」
「いい映画は何度見てもいいんだよ」
「たしかにね」
「ほら、冷める前に食べよ」
リッキーに促され、半熟のオムライスを掬った。
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「めちゃくちゃ美味しかったね!」
「そうだね」
もしかしたら、今まで食べたオムライスの中で一番美味しかったかもしれない。ちょっと私の語彙が貧弱だから言葉には表せないんだけど。
リッキーはいつもより上機嫌な様子で振り返った。
「実はね、この近くに映画に出てた岬があるんだ」
「へぇー!」
「歩いていけるんだけど行ってみない?」
そこまで言われて行かないという選択肢はないよ。
「レッツゴー!」
喫茶店を出て数分歩くと人通りの少ない道になってきた。さっきまではお店とかたくさんあったのに。
「ここ登ればつくよ」
そう言ってリッキーが指さしたのは一本の道もといめちゃくちゃ長い階段だった。
「え?ここ登るの...?」
「ん?まぁ、徒歩ならここしか道ないからね」
階段の上の方を見てみるが霞んでいて見えてこない。しかし、横を見るとリッキーは何ともないような顔をしている。
「それにこの階段も映画で主人公が登ってたんだよ」
「たしかにそうだったかも」
だったらいくしかないか。
映画でも登り切れているんだし、大丈夫でしょ。
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なんて思っていた時期もありました。
「はぁ...はぁ...」
案の定めちゃくちゃ疲れている。
足の裏とか擦り切れすぎてもはやくるぶしで歩いてるもん!
ちょっと疲れすぎて思考回路も回ってないかもしれない。
「そろそろつくよ」
リッキーは涼しげな表情で隣を歩いている。もしかしてリッキーって何気に体力ある?
登り始めて20分のところでようやく頂上が見えた。
リッキーに支えられながら階段を登り切ると小さな広場のような場所になっていて観光客がちらほら来ていた。もしかしてこの人たちもあの長い階段上ってきたんですか...。
「何か飲み物買ってくるからそこのベンチに座ってて」
リッキーに促されて近くにあったベンチに腰掛ける。少なくない観光客が歩いていたがみんな疲れている様子はない。みんなが強すぎるのか、私が貧弱すぎるのか。
「悠。はいこれ」
「ありがと」
リッキーが戻ってきて手に持っていたペットボトルとアイスクリームを受け取った。
「このアイスクリーム、北海道の天然塩入っててめちゃくちゃおいしいんだ」
「そうなんだぁ...あっ!お金は...」
「いや...ちょっと悠疲れてるみたいだし、ちょっと悪かったなーと思ったから。お詫びに」
疲れたけど、それはリッキーが悪いわけじゃないしねぇ...。
「これならロープウェイ使えばよかったけど今更しょうがないよね」
「ん?」
ちょっと待って。今、聞き捨てならない単語がきこえたんですけど。
え?ロープウェイとかいう文明の利器あったんですか?
「ちょ、ちょっと待ってリッキー...なんでロープウェイ使わなかったの...?」
「え?映画で階段使ってたからいけるかなって」
・・・。
ふぅ。
リッキーの頬を挟み込んで、大きく息を吸い込んだ。
「そういうのは最初に言えーーーーー!」
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「ゆ、悠。ごめんね...。怒ってる?」
リッキーは先ほどからおどおどして私の周りをまわっている。小動物のようなリッキーもかわいいけど、あんまり不安な気持ちにさせるとストレスで死んじゃうからほどほどにしないと。あれ、それウサギ?
「全然怒ってないよ。でも今度からは私にも相談してね」
「わかった!」
なんかリッキーが幼女に見えてきた。
「あ、こっち来て」
リッキーに引っ張られながら私はついていった。
何気に私たち今、手つないでるんだけど!リッキーはたぶん気が付いてない。言わないでおこう。
「ほら、綺麗でしょ」
「うわぁ!」
柵の向こう側には太陽をキラキラと反射している広い海とその手前に私たちが登ってきた平野がどっしりと構えていた。なんかこの景色、油絵とかにしたらすごい良さそう。私、絵心ないからかけないけど。
「すごい綺麗だね!」
横を向くとリッキーはなぜかすごく神妙な表情でうつむいていた。
「どうしたの?」
「いや、あの...」
リッキーはゆっくりと私の顔を見上げて、私の目をジッと見つめた。
「実は私、まだ悠に言ってない秘密があるんだ」
「...うん」
「でも、今悠に言えるだけの勇気はない」
「...」
「いつか、いつか絶対に言うから。勇気が出るまで待っててくれる?」
彼女の表情からは何を思っているのかはわからない。
だけど、この声からは本当に真剣に私に話してくれているのだと感じられる。
「誰しも言えない秘密の一つや二つくらいあるよ。もし言いたくないなら一生言わなくてもいい。それでも、もし言ってくれるんだったらいつまでも待つよ!」
リッキーの手を握って彼女に向かってとびきりの笑顔ではにかんだ。私だって彼女に対して小学生のころ助けてもらったことを言えていない。私もいつか近いうちに言える日が来るといいな。
「ありがとう...」
「いいってことよ!」
リッキーにはまだ返しきれない恩があるからね!
「あ...あの...」
「ん?」
リッキーはそこで我に返ったようにそわそわとし始めた。
どうかしたの?
「手...手...つないでるんです、けど」
...さっきのエモエモ空間はどこですか?
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【その後...】
「悠、帰りは下りだから階段でも楽だよ」
「うん!もちろんロープウェイで!!」
ロープウェイからの景色も絶景だった。
ところで某グループの新人ライバーさんみましたか?なんというか、これからいい意味で何をやらかしてくれるのかとても期待してます。




