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31.隣を歩く君との距離(前編)

本当はこれだけで終わらせるつもりでしたが、ちょっと長くなったので前編・後編に分けます。


午前8時ジャスト。



私、篠宮悠は一人駅前のベンチで日曜だというのに会社へ向かうスーツ姿のサラリーマンに心の中でエールを送っていた。


いつもご苦労様です。

何連勤ですか?




今日はリッキーと映画を観に行く約束をしていたのだが、リッキーはなぜか「朝8時駅前集合」と昨日伝えてきた。映画を見に行くんだったら、もっと近い集合場所はあるはずなんだけど...。まぁ、リッキーなりに何かプランがあるんだろう。




実は先ほどから近くでリッキーうろちょろしているのはわかってはいるのだが、あえて気づかないふりをしている。まぁ、おどおどしているリッキーもかわいいからいいんだけどね。


あれ、私って案外S...?



「悠...おはよう」


お、ようやく決意を固めたみたい。



「おはよ、リッキー」



おぉ、これが普段のリッキーか。いままで制服を着ている姿しか見たことなかったからすごく新鮮。


少し大きめの黒いパーカーにスキニージーンズでキャップをかぶっている。はたから見れば男子が女子か分かりづらい。

ジェンダーレスファッションというやつなのだろうか?



まじまじと観察しているとリッキーは不審な目をこちらに向けてきた。

 

「え、何...?」


「いや、リッキーがかわいいなーと思って!」


「あ、そう...それはどうも」



なぜか彼女はすこし複雑な表情をした。

恥ずかしがって動揺する様子が見たかったのだが、ちょっとマズったかもしれないな。今度からはあまり面と向かって言わないようにしよ。



「でも、これ桜花が見繕ってくれたんだ。私のセンスだとダメだからって」


なるほど、桜花がセレクトしたのか。グッジョブ!


「本当はどういうので来ようとしてたの?」


「N〇KEの上下ジャージ」


うーん、男子中学生。



「ま、いいや。それで今日はどこ行くの?」


「あ、うん。ちょっと遠出しようと思って」


遠出?






『次は~...~、お忘れ物の無いようお気を付けください』


「お、終点」



電車に揺られること1時間。リッキーとおしゃべりしている内に電車は終点までたどり着いた。

遊びに出かけることは多いけど、こんな遠くまで来た事はないな。



電車から降りたリッキーが私のほうを振り返る。


「じゃあいこっか」


なんかいつもと違ってかっこいい。


「...うん!」



駅から出て、路線バスに乗り込んだ。数分バスに揺られると映画館に到着した。どうやらこの映画館が目的地らしい。



中は少しこじんまりした感じでレトロな雰囲気もある。きょろきょろと周りを見渡しているとリッキーが近づいてきた。



「はい、これ。悠の分のチケット。あと、ポップコーン買ったけど...キャラメルで良かった?」


「あ、いくらだった?払うよ」


「別にいいよ。私が誘ったんだし...」


いや、でもなんか申し訳ない...。



「悠にはこの前迷惑かけたし、これくらいは」


うつむきがちに彼女は不安そうな表情を浮かべる。

おそらく私を誘った時の一件だろう。



「いや、全然迷惑じゃないよ!まじで」


というか、リッキーが誘ってくれたこと自体めちゃくちゃ嬉しいしね。


「でも...」


でも、まぁこれで彼女の罪悪感が消えるというんだったら受け入れよう。お昼代は私が出せばいいか。



「うーん、わかったよ。そういえば、全然聞いてなかったけど何観るの?」


いままで映画を観るということだけは伝えられていたが肝心の題名を聞いていなかった。いや、正確には学校や電車の中で何度か聞いてはみたのだが、彼女は答えてくれなかったのだ。



「はいこれ」


そういって渡されたチケットには『もう一度だけ君と』と書かれていた。たしかこのアニメ映画、今めちゃくちゃ流行ってて、すごい泣けるらしい。



「リッキーもこういうの観るんだね」


シアターに向かいながらリッキーに話しかける。



「ん?こういうのって?」


「あ、いや別に差別じゃないんだけどさ...オタク?の人たちってこういうメジャーなコンテンツってあんまり好きじゃないのかなーって勝手に思ってたからさ」


「んー、まぁ1人なら見てないけど...今日は悠がいるから。たまにはいいかなって」


「へぇ、そっか」


彼女は少し照れながら私に気づかれないようにしている。

なんかリッキー見てると無条件でときめく。本人には言えないけどやっぱり可愛い。



「このシアターだよ」


場内には5つほどのシアターがあり、この映画が上映されているのは一番奥に位置する場所だった。シアターの中は席が段差になっており、他のお客さんもかなり入っているみたい。



「はい、これ。この映画のパンフレット」


「お、ありがと」


席に着いてリッキーから貰ったパンフレットを開いた。パンフにはこの映画のあらすじが書いてあるらしい。


『あらすじ*主人公のカイは過去のとある事故によって記憶を失ってしまう。目が覚めると自分の家族と名乗る人たちに自分が5年も眠りについていたことを知らされる。ある日、幼馴染と名乗る少女・レイカが病室にやってきて記憶を取り戻すための旅に出ようと主人公を誘う。家族に置手紙をして彼女と共に病室を抜け出して旅に出た。カイは少しづつ家族のことや自分についてぽつりぽつりと思い出していくが、どうしても彼女のことは少しも思い出せない...』


なるほど。

なんとなく、シチュエーションは理解できた。



「はじまるみたいだよ」


リッキーがそういうと、場内が暗くなりスクリーンに映像が映し出された。私、この映画が上映される前に流れる他の映画の予告とか好きなんだよねー。


そういえば友達のエリはこの映画ひとりで観に行ってボロ泣きしてたって言ってたな...。さて、世間の評価はめちゃくちゃいいらしいけど、果たして私のことを満足させることができるかな?


ふっふっふ...。







「ううう...感動した!」


もうボロ泣きである。少なくとも映画が終わってから劇場出るまでずっと余韻で涙が止まらなかった。


実はレイカは5年前にカイと同じ事故で亡くなってしまっていた。彼女は早々に息を引き取ったが彼にはこちらに来てほしくないと現世にとどまる。ある日、カイが目を覚ましたことで未練が生まれ、彼と最後の思い出づくりの旅に出た。


というのが、映画の真相だ。



なんていうか、最後の最後に家に帰ってから写真を見て初めてレイカのことを思い出すシーンは鳥肌が立った。



「めちゃくちゃ泣いた!面白かったね」


「そうだね」


しかし、リッキーはあくまでクールだ。

あれ、リッキーの琴線には響かなかったのかな。



「リッキーはあんまり感動しなかったの?」


「え、めちゃくちゃ泣きそうだったよ。まぁ、でも人前で泣くのってちょっと恥ずかしいから......あ!違う!!いや、あの...今のは悠が恥ずかしいとかじゃなくて!」


大きな身振りでなんとか誤魔化そうとしているリッキーを見ていると、やっぱり彼女はちょっと抜けているらしい。まぁ、そこも彼女の魅力だけどね。



「ふふ、大丈夫だよ。そろそろお昼だしご飯食べよ」


「あ、そうだね。場所はもう決めてあるんだけど...いいかな?」



お、リッキーおすすめの場所か。

リッキープレゼンツならどこでもオールオッケーだよ!


「いいよ」


「うん。じゃ、ついてきて」


先を歩く彼女の背中は心なしか、いつもより大きく見えた。

この作品を見つけてくれてありがとうございます。お気軽に感想・評価等々よろしくおねがいします。


私の知識が未熟な部分も多々あるので「ここなんかおかしいな」と思ったら、ぜひご意見をよろしくおねがいします。




追記:ジャンルをコメディーからヒューマンドラマに変更しました。

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― 新着の感想 ―
「この前迷惑かけたし」って保健室まで背負われたことじゃなくて告白騒動の方か。 優しいギャルにお世話になりすぎている…。
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