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28.フリーズ強制シャットダウン


学生からすると月曜日というものは週の中でもっとも憂鬱になる日である。しかし僕にとって昨日の月曜日はいつにもまして最悪な日だった。



結局、配信を終えたあの後、配信機材の片づけやあれやこれやをしている内に2時になってしまった。これはまずいということで急いでベットに潜り目を閉じたのだが、なぜか眠れない。


2時という最も眠い時間帯を過ぎてしまったことによって頭が完全に冴えてしまっていた。しょうがないのでちょっと頭を使って眠気を誘う作戦で、深夜にライブ配信しているライバーさんのチャンネルを開いた。



そして気が付くと朝になっていた、というわけなのだ。


いや、だってそのライバー初見だったけどめっちゃ面白かったんだもん...。



昨日の記憶はほとんどない。誰かに背負われていた気がするが、それすら夢かもしれない。



「・・・」



今ふと思い出したんだけど、そういえば僕ってジキルから課題出されてたよな...?



フロムヒア一期生リレー配信とかがあって記憶が薄れかけてた。普通に重要なことなんだけど推し活してたら完全に忘れちゃうもんだね。




確か課題は「篠宮悠と仲良くなって出かける」こと。


いや仲良くなるってどこからが仲良いってことになるんだよ、って言わせないように‘出かける’って付け加えてるところが抜け目なくてアイツらしくて嫌だ。


僕的には毎朝挨拶してそこそこ話しかけてもらってる時点で仲良くなったってことでいいと思うんですけど。




「はー、だる...」



火曜日も憂鬱な一日になりそうな気がする。





一番乗りの教室で何も流していないイヤホンをつけながら考え込む。もちろん、他のクラスメートに話しかけられないためだ。



何事も傾向を鑑みて対策を練ることが大切だと思う。その場のノリで「あ、日曜空いてる?あそばね?」とか言えたら、もはや僕は朝からこんな悲しいことしていない。



まぁ、端的に言ってしまえば僕が「あの...今週...」とか言った時点で彼女は察して「遊び?いいよ!どこ行く?」とか言ってしまいそうだが、それではダメなのだ。

いや、ダメってわけじゃないけど。


なんというか、それじゃあ僕の彼女の関係は対等じゃない。何でもかんでも彼女に依存してたら悠にとっても僕にとっても良くない。



ここは僕から「悠、日曜...映画見に行かない」って言わないといけないと思う。



よし。


決めたらとことん徹底してやる。

まずは文章を考えないといけない。その場で即座に考えても絶対しどろもどろになっちゃうからな。



『悠、日曜日空いてる?良かったら、私と映画に付き合ってほしいんだけど』


いや、完璧。これしかない。





「リッキー、おはよー」


独り妄想の世界に浸っていたため、急に声をかけられてビビってしまった。悠とご友人方が登校してきたみたいだ。


「おはよう」


言うのか、今言うべきなのか...。


「どうしたの?」


くっ...。


「いや...なんでも」


悠は僕を覗き込むように顔を近づけたが、思わず顔をそらしてしまった。


「...そう?」



悠は不思議そうな顔をしながらギャル集団の中に戻って行ってしまった。くそ、チキってしまった。


まぁ、過ぎたことはどうでもいい。



決行は今日の昼休み。ほかの人とお昼を食べ始める前に鐘が鳴ったらすぐに悠に話しかける。これしかない。







やばい。緊張しすぎて4限の内容「いとおかし」くらいしか頭に入ってない。まぁいいんだ、そんなことは。



そろそろ4限終わりの鐘が鳴る。



「あ、鐘なったのでこれで終わります。明日小テストあるので復習しておいてくださいねー」



よし、いくぞ。



先生が教室から出て行った瞬間に急いで立ち上がり、悠のもとに向かう。僕はお弁当をカバンから出している悠の前に仁王立ちした。



「ん?リッキー、どうしたの?」


「あ...っと」


うつむいてしまった。ここにきて決心が揺らいできた。やばい、なんで遊びに誘うだけでこんなに緊張するんだ。男だろ、しっかりしろよ僕。



「んん~?」


不思議そうな顔をしながらも僕の言葉を待ってくれている。

さっさと言わないといけないのだが、さっき考えた文章などとうに頭の中から消え去った。


く...思い出せ、思い出せ、思い出せ!



はっ、断片的に思い出した!



覚悟を決め、顔を上げる。小さく深呼吸して言った。



「私と付き合って」


ん、あれ?今何を...。


「うんうん...って、え?」







その瞬間、教室にいた誰もが凍り付いていた。







その後、いち早く混乱状態から脱した悠が「あ、あー!遊びにね!遊びに!おっけーおっけー!リッキーの頼みならいつでもオッケーだよ!!」という神の一言によってひとまず事態は収束した。まじで申し訳ない。



あの時のクラス中の「え???」みたいな雰囲気が頭の中にこびりついて離れない。


あの大失敗の最中、僕はというと「あ、これやらかしたな」と思った瞬間に回線がショートした。強制シャットアウトだ。



再起動したのはだいぶ後で、なんとか悠が混乱を収めてくれた後のことだった。気が付くと近くには桜花もいて、僕たちは静かに教室から退場した。


「...どこから見てた」


「いや、全然。今来たところだよ」


「ならいいんだけど」


「まさか律月ちゃんがあんな堂々告白するとはね~」


「いや、がっつりみとるやん!!」


ニヤニヤしないでほしい。こちとらトラウマになりそうで記憶から完全に消去しようと思ってるんだからさ。


「でも、すごいことだよ!いままで自分から進んで話しかけたことあんまりないじゃん?」


「まぁ、そうだけど」


「大きな一歩だよ!」


だけど、テンパりまくってたし、やばいこと言った気がするし(消去済み)、どう考えても悠が助け舟を出してくれてなかったらクラスどころか学校中で噂になって晒上げられていたかもしれない。恐ろしい。



「悠に助けられてばっか...はぁ、ほんと僕ってだめだなぁ...」


病むかもしんない。


「なんかへこんでる律月ちゃん新鮮~」


「茶化すな。こっちは真剣に悩んでんだよ」


「茶化してなんかないよ!律月ちゃんは本当によくやってるよ!0からどころかマイナスからのスタートなんだもん。頑張ってるって!」


桜花は桜花なりに僕を励ましてくれているのか。桜花とはかなり長い付き合いになる。中学校で一時期不登校になった僕をもう一度学校に通える状態まで回復させてくれたのは彼女だ。悠と桜花、二人には感謝してもしきれない。


「そっか...まぁ、少しづつだよな」


「そうそう!それで悠ちゃんと遊びに行くんだって?」


「まぁ、そう」


あ、そうだ。桜花も誘って3人で行けばいいじゃないか。そうすれば、何か問題が起こってもフォローしてくれるだろうし。


「あ、でも私は行かないよ?」


僕が誘う前に桜花はきっぱりとそう言い放った。

僕の心読んでる?


「え、なんで」


「いやいや、デート邪魔するほど野暮じゃないって!」


「デ、デートじゃないわ!!」


確かに僕視点だとそうなっちゃうんだけど。



「ほら、私いたら悠ちゃんの邪魔になっちゃうからさ!仲いい人とまだ友達になったばっかりの人だったら私に頼ってきちゃうでしょ?」


「・・・」


図星つかれて反撃もできない。



「この際、二人っきりで仲を深めて恋!!」


「おいちょっとまて、最後なんかおかしかったぞ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 社会人になっても月曜は地獄ですので 安心してください!
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