1.属性過多
「・・・」
こんにちは、僕の名前は瀬川律月。
4時間目終わりの昼休み、僕は教室のど真ん中で絶賛孤独耐久企画中です。
高校2年生にもなって、友達はこの高校内で2人のみ。しかも、どちらも小学生からの幼馴染なのでこの高校内からの友達は誰もいない。
中学生まではまだ同じ地区の友達がたくさんいたのだがとある理由で高校では友達作りに難航している。
「律月ちゃーん、弁当たべいこー!」
そうやって思想にふけっていると二人しかいない貴重な友達の1人が扉のふちに手を掛けながら僕を大声で呼んだ。
「わかった」
僕は教室にいる人の視線を避けるように下を向いた状態で急ぎ足で教室を出た。教室ではほぼ無言でいるからなのか、なんとなく物珍しいような視線にさらされる。
教室を出て、廊下をしばらく進み中庭のベンチを目指す。ここは誰もいない上に日当たりもいいので昼食をとるにはちょうどいい。
「というか、律月ちゃんって呼ぶな。ちゃんて」
「いやだって、律月君って言ったら変じゃん。それにばれるのはいやって言ったの律月だよ?」
「律月でいいのでは?」
横に座ったこの少女の名は櫻木桜花。小学生からの幼馴染の一人で数少ない僕の秘密を知る一人だ。
思案顔の桜香は、そっか、と小さくつぶやいて卵焼きを頬張る。
実は僕はいわゆる『性同一性障害』である。
正確には生物学的に言えば身体は女子で精神的には男子だ。これについては中学生のころにあったある出来事で大分悩んだ。自分がこれからどちらの性で生きていこうか、悩んだ末に今の僕がある。つまり、悩みから逃亡中だ。
「ま、あんまり言えないけど大丈夫そうなら言っても大丈夫だと思うけどなぁ」
「...軽く言うなよ。なんも考えてないような顔してさ」
「いや、ひどすぎん?!仮にも数少ない律月の友達だよ?」
「今日から友達は総司だけになりました。悲しいことに!」
「捨て身タックルじゃん」
僕は他愛のない会話をしながら昼休み終了のチャイムと共に桜香と別れて教室に戻る。また、あの場所に戻るとなると億劫で仕方ない。僕の学校での唯一の気の休まる時間は終わったことによって7時間目の終了までただひたすらに耐えなければならない。
「あ、瀬川さん」
「・・・」
教室に入った瞬間僕の席に座っていたかなり陽キャっぽい女子と目が合った。というか、話しかけられた。
「ごめん、いまどくねー」
「あ、いや。ごゆっくり」
自分で言ったけど、なんだごゆっくりって。僕は旅館の女将か何かか。
自分の言動に高速ノリツッコミしていると彼女と一緒にご飯を食べていたであろうギャルっぽい友達がむすっとした顔で口を開く。
「律月ちゃんさ」
ちゃん!?
陽キャってなんでもかんでも「ちゃん」とかつけがち(偏見)だけど、ほぼ初対面の僕にも適用されてるんですか、それ。
「なんか私たちのこと避けてる?」
「え、いや、そんなことないけど・・・」
くそ、こいつ心が読めるスタンド使いか…。
「でも、あんまり話してくれないよね」
「・・・」
確かに前にこの陽キャちゃんに話しかけられた時はめちゃくちゃ苦笑いしながら何も言わずにその場を去った。
まぁ、クラスメートが数人集まってカラオケいかない?みたいな内容だったから、絶対行きたくなかったし。
「まぁまぁ、ごめんね瀬川さん。ほら行くよ、悠」
友達はギャル娘の手を引っ張って僕に軽く謝罪した。いや、別にあなたはわるくないので謝らなくても...。というか、苦手にしてるのは事実だから彼女にも何か悪いことがあるのかといわれれば別にないけど。
彼女は去り際にくるっと僕の方に向き直した。
「ただ私も律月ちゃんと友達になりたいだけだからね。覚えといてね」
陽ギャル娘は最後にそう一言だけ呟いて自分の席に戻っていった。
なにそれ、めちゃくちゃキュンとくるやん。
漫画の世界の話かな?
「始めるぞー、席つけー」
そこで現文のおじいちゃん教師が教室に入ってきて5時間目が始まった。
さっきのことを考えてみる。
ギャル娘こと篠宮悠さんはこの教室のカースト一位(独断と偏見による)
そんな彼女が僕に話しかけてくるなんて、いつぶり以来だろう?前話したのは落としたシャーペンを拾ってもらった時の、
『はい、これ』
『ありがとう・・・』
だったはず。
それでいきなり友達になりたいとは?こんな喋ることじたい稀な僕に対して?
はッ!まさか、友達内の罰ゲーム・・・?
『じゃあ、悠の負けねー』
『あー、罰ゲームあの陰キャと1週間友達か。いや、キッツ』
『それなー』
的なやつか!?
くそぅ・・・あの時、オタクに優しいギャルがいるという都市伝説はやはりなかったのか・・・無念。あの時、キュンときてこの人なら友達になれるかも・・・と少しでも浮かれてしまった僕よ。貴様の夢は潰えた!
(ここまで悲しいオタクの一人語り)
「前回どこまで読んだかな…女子の・・・佐切までか。じゃ、瀬川。156の3行目から」
「はい」
そういえばまだ話していないことがあった。
実は僕は前世?というものがある。
ここでなぜ断定して言えないのかというと正しくいうと「前世のような記憶が少しだけある」ということになるからだ。
どういうことかというと、普通「前世がある」と漫画や小説の主人公がなんらかの事故で転生して子供の頃にいきなりそれを思い出すというのがテンプレだろう。
だが、僕にはそんな記憶はない。
ただ、ぼんやりと僕の前世の名前が「和希」らしいのと高校生時代3年間の記憶がところどころ思い出せる程度だ。
こんなのはもしかしたら子供の頃に作り上げたただの妄想だと一蹴されるかもしれないが、それは違うと確証を持てるのには理由がある。
実は自分が小さい頃に何気なしに描いた絵を母親が見て驚愕していた。それが自分の生まれる10年以上前に放送されたアニメでテレビでも再放送などはされていなかったからだ。
物心ついたころからなんとなく僕は男だと思いながら生きてきたのだが、やっぱり男子的な精神が確立してしまっているなかで無理やり女子として生きようとしてもかなり苦しい。
このことを親に初めて相談したとき、さらっと受け止められた。おそらくその前にお絵かき事件以外にも様々なことをやらかしたからだろう。
いや、でも本気で僕のこと心配してくれてたんだと思う。そのあと、そういう人達が集まっている特別な学校への編入も打診されたが僕はそれを断った。
そのころには近所に住む幼馴染の二人にはそのことを話していた。小学生ながらに口の堅い二人はこのことを内緒にしてくれるということだった。それに気持ち悪がるようなこともしなかった。本当に小学生だったのだろうか?できた子たちだ。
それからは一応自分の気持ちを封じながら友達とも接していた。小学生の頃は別に性の意識はそれほどなかったのだと思う。だから、男子と遊んでいたとしてもそれほど不自然ではなかった。
だが、中学校になればそれは別だ。
自分の性を強く意識し始める多感な頃だ。男子と女子の間にもそれまでにはなかった壁が出来上がり、容易には踏み込めないようになっていた。そうなれば、僕は女子サイドだ。でも、中身は男子なのだから当然男子といるほうが楽である。
しかし、ここで本当に男子とつるんでいれば女子の嫉妬を買い、ハブられてしまう。このころの子供は異端なものを目の敵にして許さない。違うものに対して大義名分を得たように一斉に誹り始める。前世の高校生活で同じような目にあっている女子をみた記憶があるから僕にはわかる。
だから、僕は上っ面だけは女子のふりをする。そうすると必然的に口数も少なくなれば、人との交流も途絶えていく。
小学生のころはこれでも明るいほうでどっちかというと自分から話しかけていくタイプだったんだけどな。
まぁ、そういうわけで僕はこうして肩身の狭さから逃げ出すようにオタク的な活動に全力で逃げることにした。
エ○ァを見て相変わらず雰囲気だけでうんうんとわかってる風オタクをしてみたり、戦記物のラノベ見ながらよく知りもしないミリタリーで頭いい風な気持ちになってみたり、7年ぶりに発売される新刊に心躍らせてみたりした。
中学3年生の時にオタクとして大きな変化というか衝撃が僕を襲った。
2017年に起こった『Ⅴライバー』という概念の誕生である。
そこから2018年にかけたVライバーの乱立期には様々なⅤが誕生してしのぎを削っていた。そのころにはまだ企業勢というものがいなかった。数人の個人Vが覇権を握っていて、個人勢同士のコラボが盛んであった。
ライブ2Dの開発により、当初よりも一般人の参加が容易になったためVになる人が増加した。
当初は供給される側だったのだが、最推しに出会ってから僕は受肉することを決意した。
前世でも、もともと行動的なオタクだったらしいので絵とかもバリバリかいていた。その経験を生かしてイラストを描き、頑張って勉強したライブ2Dで動きを付け、パソコン環境を整える。
親には自分の性について考えるうえで、配信をやってみたいといったら「やりたいことはなんでもやりなさい」と言われた。
あながちすべてが嘘というわけではない。配信を通じて性についてなにかがつかめるかもしれない。
「瀬川ー、ずっと黙ってるけどもしかして前に書類運ぶの押し付けた腹いせかー?」
この回想の間、オタク特有の脳内一人語りをリアルタイムで展開していた。
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