17.相手を知れ(前編)
【櫻木桜花視点】
「篠宮さんと友達になることになった」
いつもの中庭での昼休み。席について好物のだし巻き卵を口に運ぼうとした時に律月ちゃんから急にカミングアウトされた。あまりの驚愕にだし巻きは私の箸から抜け出し、3回転後きれいにスカートの上に着地した。
「え!?ど、えぇ!?」
もはや言葉にもならない。
少し前まで友達を作るどころかクラスの人と話すのも鬱陶しいと言っていた律月ちゃんが「友達をつくった」!?
「どーいうこと!?説明求む!」
あの律月ちゃんが?
「実は母さんに心配されてな。いつも迷惑かけてるし、安心させたいと思ってさ」
う、うーん...。
「そっ...か」
でも腑に落ちないな。私が何度言っても作らなかったのに親孝行を思いついてサッサと行動に移すだろうか。誰かから唆されているんじゃないかなぁ...。
「でもまぁ、性別のことは話さないことにした」
「あ、そうなんだ」
「幸いあっちは僕がオタクだからこういう言葉遣いをしているんだと勘違いしているようだし、そうならそう思ってくれる方がマシだ」
確かに。
まぁ、でも律月ちゃんに私達以外の友達ができるのは喜ばしいことだ。こうやって少しづつ人と触れ合うことでトラウマを払拭していけるかもしれない。
というか、じゃあ私がせっかく練り上げた悠ちゃんと律月ちゃんの二重スパイ計画はいらないってこと?くぅ...あれ作るのに2日もかかったのに。
まぁ、律月ちゃんがいいならいいけどね。
「そこで桜花に質問があるんだけど...」
「ん?なに」
今ならどんな質問でも答えちゃうよ。律月ちゃんと悠ちゃんが親交を深める手伝いをしてあげよう!
「あの子と何話せばいいんだ?」
「え...?」
これはちょっと1から教えるしかないのかもしれない。
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【篠宮悠視点】
私は普通の女子高生、篠宮悠。
律月ちゃんが見知らぬ男子生徒と教室を出て行って普段とは違う様子でにこやかに話している現場を目撃した。
律月ちゃんを見るのに夢中になっていた私は、
背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった。
私はその後、律月ちゃんから呼び出され、目が覚めたら・・・
律月ちゃんと友達になっていた!
瀬川律月がオタクであることがバレたら、彼女に大きな傷をつけることになる。
彼女の願いで彼女の正体を隠すことにした私は、教室に帰ってきてから友達に用件を聞かれて、とっさに「ワカメ!」と答え、律月ちゃんの趣味を知る為に急いで家に戻ってパソコンを立ち上げた。
たった一つの真実見抜く見た目は少女、頭脳はそこそこ。
その名は、篠宮悠!
なんてね。
学校が終わり、放課後になると律月ちゃんはさっさと荷物をまとめて行ってしまった。あぁ…一緒に帰りたかったなぁ。
仕方がないのでいつもどおり友人たちとだべりながら帰ってきた。
「はぁー」
そりゃー、ため息もついちゃうよ。せっかく友達になれたってのに話しかけても律月ちゃんはいつも通り。
まぁ、まだ私のこと信頼できていないんだろうからしょうがないか。これから、もっともっと積極的に絡んでいって交流していけばいい。
そうなるとやはり、律月ちゃんが喜びそうなものといえば「サブカルチャー」の話題ではないだろうか。
アニメ・漫画・ゲーム...その他諸々。むかしは私も魔法少女系のアニメを見てグッズを母にねだったりしていたけど年を取るにつれ、次第にみなくなっていた。
とりあえず、今やっているアニメを一時間ほどかけて見てみることした。
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うーん...なんというか、私にはしっくりこないかなぁ。
どうしてこの主人公は自分が死んで異世界に転生させられたのに一瞬で現状を受け入れているのだろうか。私ならもっと狼狽えたり、泣きわめいたりすると思う。
ちょっと冷静すぎない?
今流行のアニメは私には合わないみたいだ。
そういえば、律月ちゃんに休日の過ごし方を尋ねた時、配信を見ていると言っていた。
とりあえず、動画サイトを開いてみる。この名探偵篠宮悠が察するに、律月ちゃんが言う配信とはおそらく「ぶいちゅーばー」の配信なのではないだろうか。
クラスの男子がこそっと話しているのを聞いたことがある。まぁ、「ぶいちゅーばー」とはなんのことなのか、今の時点で全くわかっていないけど。
予測変換で出た「Vライバー」をクリックし、一番上に出てきた動画を開く。
久しぶりに配信するよー【未来ユウキ】
33,592人が視聴中
↑2万 ↓44 □
【未来ユウキ mikuru】チャンネル登録者数215万人
「はーい、見えてるかな?こんミクルー!バーチャルアイドルの未来ユウキだよー!」
〇【こんミクルー!】
〇【こんミクル!】
〇【こんミクルー】
〇【こんミクルーー】
登録者数をみたらさらっと200万人を超えていた。それもそのはず、この人はVライバーという知識がなかった私でも一度は聞いたことのある名前だ。
「配信するのは3ヶ月ぶりくらいかなぁ...」
〇【いつもの動画も面白いけどね】
〇【配信は定期的にしてほしい】
〇【ユウキがいてくれるだけで俺らは助かってる】
〇【生きる意味】
「みんなありがとー!私もミクナーのみんなのおかげで活動できてるから感謝!」
おお...返し方が完全にファンのこころをガシッと掴むやつ。私も気がついたらスーパーチャットの画面を開いていた...恐ろしい。さすがVライバーのキングと呼ばれるだけはある。
「そろそろ200万人企画とかやりたいんだけどいい案ないかなー?」
〇【凸待ち】
〇【耐久】
〇【凸待ち?】
〇【好きなことすればいいよ】
〇【歌ってみた】
「歌ってみたとかいいねー!凸待ちは〜まぁ、機会があればね!」
〇【おっと?】
〇【歌みたいいねー】
〇【オリ曲も聞きたいけど】
〇【凸待ちもしてみてほしい】
〇【この前のオリ曲鬼リピしてるわ】
やはり超人気Vライバーの名は伊達ではない。
なるほど、少しづつ掴めてきた。素人目からで申し訳ないのだが、端的に言えばVライバーとはアニメのキャラクターが自分の意志を持って話したりできるということが強みなのかな。
事前に少し調べたのだがこの未来ユウキは3Dであるが、Vライバーには3Dと2Dの人たちがいるらしい。ライブ2Dというらしいのだが、そちらの人たちも見てみよう。
適当に検索バーに「Vライバー」と打ち込んで上からマウスホイールをグリグリしていくと2Dの人が出てきたので即座に押す。
【雑談】そういえばそろそろ【リリカ・ルルーシア】
8950人が視聴中
↑5788 ↓34 □
【リリカ・ルルーシア】チャンネル登録者数20.3万人
「...あ、そうだそうだ。ちょっと話したいことあったんですよ!」
〇【お】
〇【朝は米派かパン派で30分経過】
〇【ようやくか】
〇【話したいこととは?】
「フロムヒアのサイト見てる人は気づいてると思うんですけど、フロムヒア一期生の初配信が今日からちょうど1週間後に決まりましたー!」
〇【おお!】
〇【いいねー】
〇【6時からはあけとかなきゃ】
〇【殿下は気になってる子とかいないの?】
「この前初めてフロムヒアの全員と事務所で顔合わせしたんですけど皆さんとてもいい人そうでしたよ!」
〇【いいひと、そう?】
〇【おや】
〇【不穏だな】
〇【ふっ不仲...?】
「おやおや、王国民の悪いところが出ましたね...?今の私はそんなことで狼狽えるほど弱くはないですからね!」
〇【くッ...あの殿下は帰ってこないのか】
〇【お強くなられましたな】
〇【↑じいやおって草】
●【強い殿下は我々が育てた】
〇【名誉国民もこういっておる】
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少し見てみてわかったが、なるほどこれはみんながハマるわけだ。今日見た中だとリリカ・ルルーシアさんが私的によかったかな。ユウキさんとリリカさんはさっそくチャンネル登録した。
よし、これで明日リッキーに話してみよう!




