148.ストリーマー企画のお誘い
「...そろそろ時間か」
作業の手を止めてちらりと時間を見るとアルファさんとラジオの打ち合わせの約束をしていた時間が近づいてきているのを確認した。
「まだ来てないか」
5分前ではあるが一旦部屋に入ってみたものの流石にまだアルファさんは来ていないようだ。とりあえず椅子に深く腰掛けてぼーっとしてアルファさんが来るのを待つ。
それにしても昨日は今まで生きてきた17年の人生の中でも最上位クラスで緊張した。
本当はリリカ様の凸待ちに行く気もなくただただROM専に徹していたのだが、油断していたらまさかのリリカ様本人から逆凸通話がかかってきてしまった。
それはもう...いくしかないよね。
現在はカットされていて僕は確認できていないのだがどうやらボイチェンが外れた僕の声が少しだけ乗ってしまっていたらしい。
あの時は緊張MAXすぎて何を思ったか退出するよりも先にボイチェンのボタンを押していたからな...。
まぁ...でも、瀬良リツの声は僕の地声よりもかなり低く意識して話しているしバレることはおそらくないとは思う。
...ないよな?
『あー、お疲れ様。瀬良ちゃんごめんね、お待たせして』
「いえ、自分も今入ったところです」
そんなことを逡巡していると時間ぴったりにアルファさんがディスコに入ってきた。
『わざわざ通話でごめんねー』
「いや別にいいですよ」
でも確かに、いつもはチャットでやり取りしていて通話なんて作業する時につなげるくらいなのに。
『じゃあ、とりあえず次のせらおーみラジオの日程なんだけど...2月7日で大丈夫そうかな?』
「はい、大丈夫です」
せらおーみラジオは不定期開催ではあるものの大体2か月クールでやっているが、今回は少し早めだ。アルファさん曰く2月後半は少し忙しくなるらしい。
『おっけーおっけー...で、ゲストも用意するんだけど予定大丈夫そうな人にこっちから声かけちゃうけど大丈夫?』
「だい...じょうぶです。一応、僕と知り合ってる人に声かけてくれるんですよね?」
『そうそう』
「であれば、はい」
僕の知り合いと言えばかなり限られてくるしおおよその見当は付きやすい。おそらく無人島組の誰かだろう、ただの僕の予想だが。
『じゃあラジオはそういうことで...で、なんだけどまだ時間大丈夫かな?』
「はい、いけますよ」
『よかった。ちょっと瀬良ちゃんに企画のお誘いがあるんだよね』
「はぁ...なんでしょう」
企画のお誘い?
もしかして無人島人狼みたいな大人数コラボとかだろうか。
『ゲームインライフって会社知ってる?』
「ゲームインライフ...どこかで聞いたことあるような気がします」
『ゲーム情報を発信したり、eスポーツ大会の開催をしたりしてる会社なんだよね』
どこかで見たことがあると思ったらよくゲーム攻略サイトとかで一番上に出てくるサイトの名前だ。僕はあまり知らないけどスピ6のオフライン大会も主催していたとかいうのはネットニュースで見た。
『一昨年からそこが主催でGIL鯖っていうゲームの招待制サーバーの企画をしてて...大体1週間くらいの短期鯖で』
「結構短いんですね」
『そうそう。で、今回新しく2月中頃に開催することになって、運営さんから1名招待枠もらってるから瀬良ちゃんとか興味あればどうかなーと思ってさ』
「な、るほど...」
そういえばフロムヒアではアリス様がそういう大人数配信者サーバーに参加していたな。悠が大はしゃぎしていた気がする。
「それって大体何人くらいの方が参加されるんですか?」
『えーっと、そのゲームにもよるけど前の第5回は150人くらいはいたはず』
「はぁ...」
1週間の短期サーバーでそんなにも多くの人が集まるのか...超一大コンテンツじゃん。
そんなところにコミュ力皆無・エンタメ性皆無の僕が参加して上手くいく未来がまったくもって見えないのだが。
『最近瀬良ちゃんメタノヴァとかも始めたじゃん?』
「はい、始めました」
『あれのロールプレイなしバージョンだと思ってくれればいいよ』
なるほど...?
でも僕の場合せっかくの交流サーバーだっていうのにまだ10人くらいとしか関わってないからあまりよくわかっていない。
『基本は交流メインだからいろんな界隈の配信者と関われるいい機会だしさ』
「うーん...それは確かに。でも僕、いろんな面で迷惑かけちゃいそうで...」
『迷惑?』
「コミュ力ないし、エンタメ力ないし...」
『いやいや、瀬良ちゃんは素が面白すぎるからそのままいるだけで大丈夫だよ』
素が面白いってどういうこと?
基本的にはコミュ障全開ムーヴしかしてないような気がするんだけど。
『もし何か困ったことがあったら俺がサポートするから参加してみない?』
「うーん...まぁ...じゃあそこまで言うなら」
『おけおけ!じゃあそういうふうに運営に言っておくね』
わかったことが1つある。
僕は確実に押し弱すぎる。
「ちなみにどういうゲームするんですか?」
『えっとね。その時によって違うんだけど、前回は「Scrap」っていうMMOサバイバルゲームだったかな』
スクラップ...そういえば前ユメセカイで限定サーバー作ってやっていたのを切り抜きしたな。
終末世界でファームしたり敵から強奪したりするゲームだっけか。
「やっぱりチームとか作ったりするんですかね」
『んー...まぁ基本的にはそうなんじゃないかな。もし行くところがなかったら一緒にやろうよ』
「ぜひ」
アルファさんのチームに内定もらえたなら安心だ。
この人、なんだかんだいってリーダーシップあるし。
『じゃあまぁ...今日の打ち合わせはこれくらいかな。何もなければ解散だけど』
「僕からは何もないです」
『おけ。じゃ、次のラジオよろしくね。おつかれー』
「お疲れ様です」
そう言って僕は部屋から退出した。
「MMOか...」
僕のゲーム遍歴はほとんどスピ6のような格闘ゲームが占めているのでMMOのような大人数のプレイヤーと関わるゲームはほとんどやったことがない。
メタノヴァはMMOと言えばそうなのかもしれないが、あれは僕の中ではどちらかというと即興劇だと思っている。
「インしたら速攻アルファさんのところいこ」
ゴースティングも辞さない覚悟ではある。
まぁ...それするくらいならアルファさんと一緒に始めればいいだけなんだけども。