135.幼馴染3人組
以前から考えていたことではあるのですが、次回からタイトルを「TSして前世の記憶があっても推しの前では関係ない!!」にマイナーチェンジします。ご了承ください。
午前中のうちに始業式が終わりみんなが続々と帰路につく中、僕はいつもの小ホールで総司を待っていた。
「りっちゃーん!」
すっかり真っ白に染まったグラウンドを眺めていると大袈裟な身ぶりで遠くから桜花が走ってきた。
「悠ちゃんは?」
「今日はエリさんと新しくできたカフェ行くらしいよ」
悠は僕のことも誘ってくれたのだが、流石にコミュ障にとってそういう場所は敷居が高すぎる。
ファストフード店の注文ですら一人じゃできないのに。
「へぇー、じゃあ総ちゃん待ち?」
「うん、朝に今日は部活ないって言ってたから」
「ふーん…」
グラウンドも雪で使い物にならなそうだしなぁ。
「じゃあ、私も一緒に帰っていい?」
「いいけど、部活ないん?」
「今日は自主練だから帰れる!」
「なるほどね」
桜花も総司も放課後は部活に勤しんでいるから3人で一緒に帰るのはすごい久しぶりだな。
「久しぶりにりっちゃんち遊び行きたーい!総ちゃんも一緒で」
「んー…いいけど、自主練は?」
「いーのいーの!たまにはオフも必要だよ!」
「そうなんだ…」
桜花は陸上に関してはどこまでもストイックなのでこんな発言をするなんてとても意外だ。
「お待たせ。何の話してたんだ?」
そんな話をしていると総司が荷物を片手にやってきた。
「このあと、久しぶりに3人でうちで駄弁らないかって」
「お、いいな。律月の家、最近行ってないし」
「おー!じゃー、けってーい!」
いつもより目に見えてテンションが高い桜花を引き連れて帰路につくことにした。
「とりあえず帰るか」
「いこいこー」
・
・
・
「お母さん出てるっぽいな。適当に僕の部屋行ってて」
「わかった」
「お邪魔しまーす!」
家に着くと扉が施錠されていたので鍵を開けて桜花と総司を二階の僕の部屋に上がらせる。
両親の車が無かったので大方買い物にでも行っているのだろう。
「前来たときと全然違うねー」
「まぁ、2人が最後に来たときはまだ配信も始めてないしなぁ」
適当にお茶とお菓子を持って僕の部屋に入ると桜花は物珍しそうにパソコン周りを物色していた。
「マイクとかパソコンすごー!本物の配信者っぽい!!」
「本物の配信者ではあるよ」
一応ね。
「なんかまた推しのグッズ増えてないか?」
「リリカ様が公式から出してるグッズは全部飾ってるからね」
壁にはアクキーやラバスト、実寸大タペストリーが飾られており、衣装ごとのアクリルスタンドもすべて綺麗に陳列している。
表に出してある鑑賞用のものに加えて使用用と保存用が別の場所にしまってあるのでこの倍はあることになる。
「ねぇねぇ!私もちょっと配信してみたい!」
じろじろと僕の配信機材を眺めていた桜花がいきなりそんなことを言い始めた。
「いや、そんなラフな感じで言われてもなぁ...なんで急に?」
「だってりっちゃん配信始めてから凄い楽しそうなんだもん!」
「まぁ…そうなんかな」
確かにリスナーのみんなと雑談したり、ゆうとゲームしたりするのは楽しいけど。
「一生のお願い!今度、りっちゃんの好きな駅前の新作ドーナツ奢るから!」
「え、うーん…」
確かにあそこのドーナツは美味しいけど…。
「今ならシェイクも付けます!」
「じゃ、あ……ちょっとだけ…」
「やったぁ!」
さすがにドーナツの誘惑には抗えなかった。僕一人じゃ買いに行けないからな…。
「おい、律月いいのか?」
「ん?」
「俺もあまり配信に関してはそこまで知識ないが、桜花は俺に増してそうだぞ」
桜花は陸上一筋でインターネットはほとんど通ってこなかった人間なのであまり配信などネットのルールについて詳しくない。
「まぁ、そうだけど...いちオタクとしては同じコンテンツに興味持ってくれるのは嬉しいしな」
「確かに...」
「りっちゃん、ここ座ればいいのー?」
「あぁ、ちょっと待って」
桜花や総司とはもう十数年の付き合いになるし別に似通った趣味を持っていなくても気軽に話せる仲ではあるのだが、それでもやっぱり自分の1番好きなものを知ってもらうことはオタクの性分としてしょうがない。
「それに普段のアカウントじゃなくて新規で作るからそうそう人来ないよ」
「まぁ...それなら何かやばいこと言っても大丈夫か」
流石にネットリテラシーほぼ皆無の状態でいきなり2万人の前に放り出したらどうなるかわからないからな...。
まぁ、僕のようにある程度ネットで知名度を稼いでからではなく完全な初配信なら興味を持って配信に来る人も多くても10人程度だろう。
「ちょっと待ってな...新しいアカウントでやるから」
「うん!」
瀬良リツとVをすこれのアカウントの他に使用していない真っ新なアカウントがあるのでそれで配信させることにする。
「これで...よし!あとはここの配信開始押すだけ」
「うわ、すっごいドキドキする...」
「そう緊張しなくても大丈夫だよ。どうせそんなにたくさんの人は来ないだろうから」
「わ、わかった...じゃあ、押すね」
人生初めての配信!
1人が視聴中
↑ ↓ □
【おーか】チャンネル登録者数0人
「お、おおー!!これ配信始まってるの?」
「始まってるよ」
「すごい、動いてる!」
せっかくなので以前趣味で作っていたVライバーモデルを使わせてみた。
桜花も首を振ったり口をパクパクさせたりしてVモデルが動いていることに感動しているようだ。
「あ、人数増えた!これ誰か見てくれてるってこと?」
「そうだよ。挨拶してあげて」
「こんにちは!」
〇【こんにちはー】
大変元気でよろしい。
桜花がVモデルで遊んでいる内に誰かが配信にやってきたようだ。
「初めまして!おうかって言います!」
〇【はじめまして】
〇【初配信?】
特にタグ付けもしてないのによく見つけてくるものだ。まぁ、僕も少し前までVライバー黎明期には新規Vの開拓のためにいろんな配信を見に行ったりしてたから言えた義理じゃないが。
「そう、ちょっと配信してみたくてやってみたの!」
〇【へぇー】
〇【Vかわいいね】
「V...?りっちゃん、Vって何?」
「その画面で動いてるキャラクターだよ」
「へぇ!まぁ、りっちゃんが作ったやつだからかわいくて当然だよね!」
なんか恥ずかしいな...。
「りっちゃん、何でもできるからね」
「そんなことないけど」
〇【自作なんだ】
〇【りっちゃん?】
「りっちゃんは私の友達だよ!ほら、りっちゃんも挨拶して!」
「え、僕はいいよ...」
いつも配信してるし。
「いいからいいから!」
「はぁ...りっちゃんです」
「総ちゃんは...可愛くないからいっか」
「おい」
桜花がそう言うとさっきまで部屋のすみで漫画を読んでいた総司が顔をあげた。
桜花って総司に対しては割と雑な時があるんだよな。
「僕のことはいいよ。せっかくのおうかの配信なんだから」
「そっかぁ」
〇【りっちゃんも興味あります】
〇【仲いいね】
〇【普段何してるの?】
気が付いたら同接が10人を突破していた。
タグ付けもしてないのにこういうのってどこから流れてくるんだろうか。
「普段?普段はねー...走るの好きだからランニングしたり筋トレしたりしてるよ!」
〇【いいねー】
〇【筋トレ女子か】
〇【外寒くない?】
「最近はちょっと寒いね!でも、こういう時期こそ冷たい空気で呼吸するのが気持ちいいんだよね」
〇【確かにそう】
〇【若いねー!】
僕の初配信と比較しても結構ちゃんと話せてるな。
まぁ、桜花は初対面の人ともフレンドリーに話せるくらい陽の者だから僕と比べるまでもないんだけど。
「まぁ...雪が積もってたら屋内でトレーニングもするけど」
〇【へぇ】
〇【アスリートだ】
〇【初見です!かわいいですね!結婚してください!】
「結婚!?りっちゃん、いきなり求婚されたんだけどどうすればいいの...?」
「お断りしなさい」
「え、あのー...ごめんなさい」
〇【草】
〇【草】
〇【残念です。これからいちリスナーとして推します】
桜花はこういうネットのノリもあまりわからないので結構新鮮だ。
「配信って楽しいね!いろんな人とおしゃべり出来るし」
「まぁね」
〇【本当に人生初めてなんだ】
〇【よかった】
「あ、もう30分もたったんだ」
「そろそろ終わろうか」
「そうだね」
〇【お疲れ様】
〇【おつ】
〇【これからも配信ありますか?】
「これから...どうだろう。りっちゃん、また配信してもいい?」
「まぁ、僕の目に見える範囲なら」
流石に一人でさせたらとんでもないことをやらかしそうで怖いからな。
まぁ、これで配信の沼にハマってくれるのなら嬉しい。
「おっけーだって!またいつか配信するよ!」
〇【やったー!】
〇【チャンネル登録しました!】
〇【これから頑張ってね】
「みんなバイバーイ!」
〇【ばいばーい!】
〇【おつー】
◎このライブストリームは終了しました。
人生初めての配信!
52回視聴
↑5 ↓ □
【おーか】チャンネル登録者数21人
「はー、楽しかった!」
「それはなによりだ」
今回はお試し的なノリだったけど、本人が乗り気なんだったら今度はもう少しちゃんと準備して配信させてみてもいいな。
「お、配信終わったか?」
「終わったよー!総ちゃんも話せばよかったのに」
「俺はいいんだよ」
確かに総司が配信してるところも見てみたい...。普段学校ではクールぶってるけど結構話せば面白い奴だしな。
というか、このなりで80年代から今までの美少女アニメについて詳しく語れる奴が面白くないわけがないんだけど。
「配信終わったんならあれやってもいいか?」
「あれ?」
「スピリットファイター」
「お、久しぶりにやるか」
Vライバーにハマる前は狂ったようにやってたからな。
「私もやるー!」
「いいけど...前やったときボコボコにしすぎて拗ねてたじゃん」
「だってずっと画面端で動けなくするんだもん!」
「あれは大人気なかったな…」
総司もうんうんと頷いて僕を責める。
「りっちゃんがいい感じに手加減してくれればいいんだよ」
「ごめん、僕勝負事は手を抜けないんだよね」
「いじわる!!!」
桜花はいちいち反応が面白いから悪いとは思いつつもついやっちゃうんだよね。
まぁ、ここ数年はアケコンに触れてすらいないし今なら案外いい勝負するんじゃなかろうか。
今日は桜花を気分よく帰らせたいしちょっと接待してあげるか...。
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