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125.とある強火叡知民

後編の前に閑話です


「久しぶりに来たな...」


コミマ会場を外から眺めて小さくつぶやいた。学生の頃は毎年のように参加していたけど社会に出てからは忙しすぎてそんな暇がなかった。


私は係員に誘導されるままアーリーチケットをリストバンドと交換し会場へと人の流れに従って進む。


本当は初配信の準備とかで色々やらなきゃいけないことはあるんだけど、それ以上に私には成すべき使命がある。



それは『瀬良さんのサークルでセットを確保しスケブを描いてもらうこと』


瀬良さんはブラック企業に勤めて心労で病んでいたときに出会い、そこから一歩踏み出す勇気をくれた存在だ。


瀬良さんのトークはリスナーとの距離が近くてダウナーな雰囲気なんだけど一切ネガティブなことは言わずに相談されたことに対して真摯に答えてくれるのでいつしか週1の雑談配信が私の心の支えになっていた。


よく瀬良さんの配信で話題になっていたフロムヒアのライバーを募集するということを知り、私はなんの躊躇もなく元の職場を退職しVライバーになることを決めた。



「はぁ...緊張する...」


会場に入るともうすでに瀬良さんのサークルにはちょっとした列が出来上がっていた。初参加だからなのかはわからないけど島中に配置されているため少し窮屈そうになってしまっている。

壁とまでは言わないけど誕生日席でもよかったんじゃないかな...。


正直瀬良さんとはちょくちょく裏でやり取りはしているけど対面するのは初めてなので震えが止まらない。

私は自分で言うのもなんだけど昔から物事を冷静に対処できるタイプだと思ってたんだけど、瀬良さんと話すときだけなぜか一気に限界化してしまうのでうまく話せないんだよなぁ...。



「セットでおねがいします」


「わかりました」


そろそろ瀬良さんのサークルが近くなってきた。

セット分の2000円は手に持ってるし、スケブもちゃんとID書いてある...よし、完璧。


マスクとサングラスで顔の印象を消しているので完全に存在感を消せている。もう瀬良さんにファンなのはバレているからいいんだけど全然冬コミに行くとか言っていなかったのに突然来たら強火ムーブすぎて気持ち悪がられてしまうかもしれないし。

普段はちゃんとセーブしているからライトなファンだと認識されている分、バレないようにしなければいけない。




「次の方どうぞ」


「はい...」


前の人がいなくなり私の番が来た。売り子をしている男の人に促され前に出る。

ちらっと隣を見るとフルフェイスマスクを被ってスケブを描いている人を見つけ一瞬呆気にとられつつもこの人が本物の瀬良さんだと気が付き感動が私の胸に押し寄せてきた。


マスクのおかげでもちろん顔はわからないようになっているが、少しダボっとしたパーカーを着ていたので体格もうまく隠れている。正直、解釈一致が過ぎる。


瀬良さんから後光が見えて手を合わせかけて我に返った。そうだ、バレないようにしなきゃいけないんだった。



「あ...セットください」


「はい、セットですね。2000円になります」


地声よりも若干低い声で話そうとしてみたが、緊張で声が上擦った結果地声で話してしまった。

今までスケブを描いていた瀬良さんの手が止まり私の顔の方に目線を向けられたため急いで視線を逸らす。


まずい...疑いを持たれている!



「スケブも...お願いします!」


「わかりました」


少し小さめの声で低く話す。バレる前に早く撤退しなくては!

瀬良さんからの視線を周辺視野の端の方で捉えながら焦りすぎて冷や汗がとめどなく流れている。



「あの...」


「瀬良さんいつも応援してます!頑張ってください!それでは」


瀬良さんが一瞬立ち上がって私に声をかけようとしたのにかぶせて早口でそれだけ伝えて逃げた。

ギリギリだった...これ以上いたら完全にバレてしまうところだが危機一髪で逃げれた。


いや、待てよ?


...今の態度、私だってバレていなくても普通に良くなかったんじゃ。

声をかけられてるのにそれを無視して逃げるなんて、私テンパりすぎてめちゃくちゃなことやってない?



「うわあああ....やらかしたぁ....!!」


ど、どうしよう...。スケブ取りに行くときにめちゃくちゃ謝らないと!!

あーもうなんで瀬良さんの前だとバカになっちゃうんだろう...。



「はぁ...」


大きなため息をついて瀬良さんの同人誌を手に取る。事前に言っていた通り、同人誌というよりは商業の単行本のほうが近いボリュームでクオリティが高い。


とりあえず目標は達成したので一安心ではある。



「他も回らなきゃ」


私が調べた限り、『瀬良リツ』関連の同人誌等を作っているのはあと3つほど存在する。「ゆうリツ」本が2サークル、「せらおーみ」本が1サークルでこれを確保することも私のサブ目標である。



一旦後のことは忘れて今は全力で楽しもう。

疑惑は持たれてるかもしれないけど瀬良さん視点だとキョドって逃げた人って感じだろうし、もしかしたらもう忘れてるかもしれない。


そうだ、そうに違いない。


スケブ受け取りに行くときにそれとなく謝罪してさらっと帰ろう...。



「ゆうリツ本から回ろ」


一旦ゆうリツ本から回って他のサークルの待機列でてぇてぇを補給して落ち着こう。それがいい。


この作品を読んでいただきありがとうございます!皆様からの応援が執筆の励みになりますのでよろしければ気軽に感想やご意見を送っていただけると幸いです。


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