123.冬コミ当日(前編)
○瀬良リツ
@Rituse_mob
【お品書き】
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『東地区“K”ブロック-17a』で待ってます。
ここが推し活最前線です。
#C99
#コミマ99
2020/12/30
334件のコメント 2.5万件の高評価
「着いた...」
「電車混んでたな」
遂に冬コミ当日がやってきた。
僕と総司は朝早くにアルファさんの家を出て電車を乗り継いでコミマの会場にたどり着いた。冬コミが開催される日ということもあってか僕たちが住んでいる地方とは比べ物にならないくらい電車が混んでいて圧死するかと思った。
「荷物はスペースに届いてるんだよな?」
「そうっぽい」
現在の時刻は9時過ぎ。あんまり早く来すぎてもやることがなくて余計緊張しそうだから開場時刻の1時間前にやってきた。
「えーっと、僕たちのスペースはK17aだから...」
「ここじゃね?」
「お、あったあった」
僕たちのスペースには初参加とは思えないくらいの量の段ボールが積み重なっていた。
「これ売り切れるんかなぁ...」
「さぁ?でも律月...いやリツのフォロワー数的には余裕だと思うけどな」
みんなからもずっと言われてるけど正直全然自信はない。昔から卑屈な性格だからしょうがないね。
「とりあえず設営しようか」
「おっけ」
始まる前からなんだかんだ言ってもしょうがないのでスペースの設営に入る。
「僕ポスターとかやっとくから総司は同人誌とか頼む」
「おけ」
事前に用意してあったポスターを飾り、一目で見やすいような同人誌の価格表も机に置く。アルファさんにいろいろ相談してもらった結果、こういうレイアウトになった。
「すごい...コミマっぽい」
「コミマなんだよ」
綺麗に陳列された同人誌やアクスタを見て感嘆しているととなりのサークルの人がやってきた。
「あ、お隣のサークルの方ですか?今日はよろしくお願いします~」
「あ...よろしくお願いします」
「どうも、よろしくお願いします」
長机を2サークルで共有する形なので案外距離が近くて緊張する。
どうやら女性1人のようだが設営がスムーズで手慣れている感じがする。
「あ...頼くん」
「あれ、頼くん推しの方ですか!?」
並べられた同人誌の表紙にいた四月一日頼さんが見えたので口からぽろっとこぼれたらものすごいギラギラした目でロックオンされた。
「いや...推しというわけじゃないんですが何度か配信を見たことがあって」
「あぁそうなんすか。ちなみになんの配信を?」
「バーテックスで50キル耐久配信...でしたっけ?」
「あーはいはい!頼くん台パンしちゃったやつですよね」
全部見てないからそれは知らない。
え...てか、あの人台パンとかするんだ。
「あ、すみません...。身の回りに頼くんの話が分かる人がいなくて」
「いえ、全然」
「ちなみにそちらは?」
「あぁ~えっと...」
ちらっと僕のスペースに置いてある瀬良リツアクスタを見てどう説明したものかと悩む。話している感じ「瀬良リツ」についてはまったく知らなそうだし...。
「個人Vライバーをもとにした1次創作と架空のVライバー図鑑、ですね」
「へぇ~面白そうですね!!」
まぁ嘘はついていない。個人Vの1次創作は「キミアイ」のことでもあるし「瀬良リツ」本人のことでもあるから。
「俺たちは今回初参加なんですけど、お姉さんは長いんですか?」
「今回で4回目ですね」
やっぱり結構参加している。
「あ、そろそろ開場の時間ですね」
「もしかしたらご迷惑かけることもあるかもしれないので、そうなったらすみません」
「大丈夫ですよ。初参加だと緊張すると思うのでお互い頑張りましょう!」
良い人だ...。
「リツ、マスクつけなくて大丈夫か?」
「あ、そうだった。ありがと」
そういえば顔バレ防止のためにマスクを用意していたんだった。
「えーっと...あったあった」
「ほんとにそれつけるんだな...」
総司はマスクをつける僕を呆れたような目で見る。
正直普通のマスクとサングラスでもいいかなぁと思ったがなんとなく恥ずかしくて、ネットで頼んでいた仮面ヒーローっぽいフルフェイスマスクにした。
こっちの方が恥ずかしくないのかという疑問は置いておいて、細部に着いている電飾が光ったりフルスモークで外から顔が見られなかったりとかなり浪漫がある。
「かっこいいでしょ」
「うーんまぁ...お前がいいならいいんじゃないか」
総司にはこのかっこよさがわからないらしい。
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「始まるな」
「緊張してきた...」
『お待たせしました。ただいまよりコミマ99、1日目を開催します!』
「お、きた」
10時になりアナウンス流れるとともに会場から拍手が沸く。
開始からしばらくして誘導の声と共にアーリーチケット組がどんどん入場してきた。
「推し活最前線さんですよね?」
「はい、そうですよ」
緊張でガチガチのまま椅子に座っていると早速一人目がやってきた。
「セットで1つください」
「2000円になります」
「ちょうどで」
「ありがとうございます」
始まって1分もしないうちに1セットがはけた。
「スケブも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。お預かりしますね。閉場までに取りに来てください」
「わかりました。瀬良先生頑張ってください!」
「あぁ...どうも」
そういうとあっという間に彼は去っていた。なんというかスピード感がすごすぎる。会計の時も最初から2000円握りしめてきてたし。
スケブを開いてスイッターのIDを確認すると僕の配信でもかなり初期のころからコメントしてくれている視聴者だった。
僕のところのリスナーって割と民度がいいような気はしてたけどリアルでもちゃんとしてる人だからなんだろうな。
お題は...えーっと...。
『セーラーリツ』
・・・まぁ、お題「白スク」じゃない分いいのか?
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「セットで」
「2000円になります」
最初の1人からしばらくして僕のサークルの前にはまぁまぁの列ができている。総司がテキパキと捌く傍らで僕はせっせかスケブの制作にいそしんでいた。
さっきから描いているのだがお題の9割方が『○○リツ』なのはリスナー同士でなにか示し合わせているのだろうか?
「あ...セットください」
「はい、セットですね。2000円になります」
ゆう新衣装verの瀬良リツを描いているとどこかで聞いたことのある女性の声が聞こえてきた。ふと顔を上げるとマスクとサングラスという完全不審者スタイルの女性が立っていた。
僕が目線を合わせるとふいっと不自然に顔を背けた。
「スケブも...お願いします!」
「わかりました」
声が若干違うがこのクール系で落ち着いた感じの低音...ほぼ間違いなく黒森さんだ。
「あの...」
「瀬良さんいつも応援してます!頑張ってください!それでは」
僕が声をかけると早口でそれだけ言ってさっさと去って行った。瀬良さんって言ってたし確実に黒森さんだな。
「知り合いか?」
「いや、気のせいかな」
「そうか...」
総司が小声で聞いてきたので誤魔化しておく。
まぁ、本人もまだデビューしていないとはいえフロムヒアのVライバーだし僕と外で話して身バレしたら大ごとだしね。
それにしてもこういうイベントにまで来てくれるなんて自分で言うのもなんだけどかなりのファンなんだな...。
ストックが5話分あるので5週連続で投稿します。




