121.東京到着
「東京ついたー!」
「桜花、声でかいって」
「田舎者丸出しだからやめておけ」
「えーいいじゃん!実際田舎者なんだからさ」
本日は12月29日。
桜花は東京にいるお姉さんに会いに、僕と総司は冬コミのために地元から新幹線に乗って東京にやってきた。
「僕たちはあっちらへんで待ち合わせしてるんだけど...桜花は?」
「私はちょっと離れたところだからゆっくり歩いてくよ!」
「わかった。気をつけてな」
「うん!りっちゃんと総ちゃんもイベントがんばってねー!」
「おー」
ブンブン手を振りながら人混みに消えていく桜花の背中を見送り僕たちも待ち合わせ場所へ向かう。
「近江さんって人が来るんだよな」
「そうだよ」
「その近江さんってどんな人なんだ?」
どんな人...配信上のキャラだと割とやばい人なんだけど、裏で話してる感じラインをしっかり見極めていて自分をキャラをちゃんと理解するくらい頭のいい人、って感じなのかな。
「ちょっと難しいなぁ。でもいい人だよ」
「ふーん...その人も配信してるんだよな。例えばどんな配信してるんだ?」
「エロ同人の作業配信系」
「ん?!」
事実だからしょうがない。
「すみません。瀬良リツさんとご友人の方ですか?」
そんな雑談をしているとおもむろに声をかけられた。
「あ、はい。そうです」
「よかった。どうも初めまして、近江アルファです。近江でもアルファでも好きなように呼んでください」
「どうも」
振り返るとどこからどうみてもあんな意味不明な配信をするような人には見えないくらい優しげな雰囲気を纏った男性が立っていた。
「立ち話もなんですし、車乗りますか?」
「あぁ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
催促されて近くに止まってあった車に乗り込んだ。
「瀬良さんは...まぁいつもどおり瀬良ちゃんって呼びますけど、ご友人の方はなんて呼べばいいです?」
「あぁ..えっと、総司で大丈夫です」
「あれ...君が総司くん?」
「?...そうですけど」
運転しながらアルファさんはなぜか困惑の表情を浮かべた。
「てっきり君が瀬良ちゃんかと...。あれ、てことは...」
「あ、僕が瀬良です」
「瀬良ちゃん...なるほど。失礼じゃなければ答えてもらってもいいかな」
「なんでしょうか?」
「俺てっきり声が高い男性だと思ってたんだけど...もしかして」
なるほど...。
配信上で作ってる声だと女性だと割と低音だから男性かどうかわからないのは仕方ないか。
ていうか、もうアルファさんに高校生って言ったときに性別も言ってたつもりになってたけど言ってなかったのか。
「まぁ...僕の性別は僕なんで」
「なるほど。多様性の時代だもんね。ごめんね、プライベートな質問しちゃって」
「いいですよ。アルファさんなら」
総司も驚愕の成分を含んだ表情を僕に向けてくる。
「律k...リツがそこまで言うってことは、近江さんって割と信頼されてるんですね」
「まぁねー!言うて出会ってもう半年以上経ってるからね」
まぁ、ただ単に出会って半年の人には絶対こんなこと言わないけど。アルファさんだからこそこんな気軽に明かしてるだけで。
「総司君と瀬良ちゃんはどういう関係なの?」
「物心つく前からの幼馴染です。ほぼ兄弟みたいなものですね」
「その場合、俺が兄になるな」
「...否定はしきれない」
僕、総司、桜花の3人が兄弟だとすると間違いなく総司が兄で桜花が末っ子だと思う。
まぁ、どっちにも数えきれないくらい世話にはなってるんだけどね。
「ははは!ほんと仲いいね!」
「あ、すみません」
「いいよいいよ。瀬良ちゃんって裏でもめちゃくちゃ礼儀正しいからこういう同年代と砕けた感じで話してるのを見ると新鮮でいいね」
「そうなんですか...?こいつが礼儀正しくしてるところなんて見たことないんですけど」
「ちょっと失礼すぎない?」
確かに今まで同年代以外の人と接することなんて僕の親くらいのものだから、総司からしたらそう見えるのかもしれない。
「アルファさんって裏だとだいぶ常識人なので配信上で接してるみたいに毒吐けないんですよ」
「表では毒吐いてるのかよ...」
「まぁね~。瀬良ちゃんって一番最初のコラボ以外はかなり俺の扱い心得てるよね」
まぁ、絡む前からちょくちょくアルファさんの配信は覗いたりしていたが、こんなに変なキャラだとは思っても見なかった。
「総司くんは瀬良ちゃんの配信のことは知ってるんだよね?」
「えぇ、まぁ少しですけど」
「何かサポートとかしてるの?」
「いや、全然。手伝ってくれって頼まれたのはこれが初めてですね」
確かに『瀬良リツ』に関して相談とかはしたことはあっても直接的な手伝いはしてもらったことなかったな。
「というか自分とリツはオタクのカバー範囲が全然違うのでVライバー関係はわからないんですよね」
「へぇ、そうなんだ」
「僕はVオタで総司はアニオタなんですよ。特に美少女ものの」
オタクと言っても種類は様々だからなぁ。
まぁ、Vライバーもアニメも両方嗜んでいるオタクはいるだろうけど、僕たちはどっちも両極端に特化しすぎているからオタクトークがかみ合ったことがないんだよね。
「なるほど...時に総司くん。クログレは知ってるかな?」
「もちろん。クロノ・レトログレードですよね。数いるヒロインの中でカズハが人気ありますけど、個人的には陰で主人公に対して一番献身的なキリカが好きなんですよ」
「おお!キリカ推しとは...君、なかなかやるね」
「いえいえ...」
なんだか僕には全くわからない話が始まってしまった。
ちょこっとスマホで調べてみたら僕が生まれる10年以上も前の作品だった。アルファさん的には世代だからまぁわかるんだけど、総司のカバー範囲が広すぎる。
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そんな感じで適当にトークしているとしばらくしてアルファさんの家に着いた。
奥さんに挨拶でもと身構えていたところ、今の時間は外に出ているらしく普段配信している部屋に通された。
「狭いから気を付けてねー」
「これって、防音室ですか?」
「そうだよ」
始めて防音室に入った...。
僕の場合、住んでいるところが住宅密集地でもないし配信でそこまで声を張り上げることはないから正直必要はないんだけど配信者として防音室に憧れはあった。
「広いですね...いくらくらいしたんですか?」
「200くらいだっけな」
200!?
福沢諭吉の1個中隊出来ちゃうじゃん...。
「稼いでますね...」
「そんなことないよ。ていうか、それで言ったら瀬良ちゃんの方が」
「僕の場合、仕事始めたのは今年からですし配信も収益化してませんのでそこまでですよ」
なんの強運かはわからないが、Vライバーとしてかなりの人に見つけてもらってイラストレーターとしての仕事も途切れることなく頂けているけど流石に同人誌界隈でトップを走るアルファさんと比べるにはまだまだだ。
「そういえばそっか。収益化はしないの?」
「僕まだ17なんですよ。もうちょっとしたら出来るんですけど...正直、今現在お金に困ってないので」
「謙虚だね。まぁでも活動の幅を広げるっていう意味では1つの方法だとは思うよ」
確かに。
まだ確定じゃないけどもし3Dモデル作るんだったらそういうのにもお金はかかるからなぁ。
「配信の準備しちゃうから瀬良ちゃんは総司くんとゆっくりしてて」
「ありがとうございます」
本当はこれと次の話で1話だったのですが長くなってしまったので分けます。次話は出来次第すぐに上げます。




