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10.見てしまった

【篠宮悠視点】



律月ちゃんがこちらをチラチラと見ながら別クラスの男子と一緒に出ていってしまった。確か、彼は日下部総司。生徒会にいて服装を注意されたことがあるから覚えている。



「あー、瀬川さん行っちゃったねー。もしかしたら告白とか?」


「いや、どうだろう...」


一人にされた私に友達が近寄ってくる。

多分、そんなことはないと思うけど...。



「でも、なんで瀬川さんと仲良くなりたいの?悠のことだし同情してるってわけでもないでしょ」



そんなこと、当たり前だ。




「可愛いからにきまってるじゃん!」


いつも下向いてて顔が前髪で隠れてるけど、何かの拍子に見えた彼女の顔はめちゃくちゃ可愛かった。可愛さもあるが、マッシュショートと顔から中性的な魅力も兼ね備えている。



「はぁ...そうかもしれないけど、瀬川さんは乗り気じゃなさそうだったけど?」


「まぁ、そうだけど」



でも、本当の彼女はああいう感じではなかったはず。私の記憶にある彼女はもっと明るくて、困っている人に手を差し伸べるタイプだった。



「そういえば、悠って瀬川さんと小学校同じだったんだっけ?」


「そう!でも、全然気づいてないみたい...」


「言えばいいのに」


「あっちから気付いてほしいじゃん!こっちからいうのは恥ずかしいし」




あの頃の私はとても引っ込み思案で友達もいなかった。教室の端に一人でいたところに話しかけてくれたのが律月ちゃんだった。そこから彼女と学校でよく話すようになり、私が5年生で転校するまでよく遊んでいた。

転校してからは手段もなかったため、それ以来連絡はとれていなかったが彼女のおかげで友達もできた。今、こうしているのも彼女のおかげといっても過言じゃない。




そして去年、この学校で奇跡的に再会を果たしたが、久しぶりに見た彼女はあのころとは変わっていた。中学校時代に何があったかはわからないけど誰とも接触したくないようなオーラを発していた。何かを恐れているような、そんな感じ。



私のことは思い出さなくてもいいけど、これから改めて友達になりたい。そして、彼女の悩みを解決してあげたい。あの頃の恩返しをしてあげたい!



「めんどくさー...まぁ、悠がそうしたいならそうすればいいよ。仲良くなったら私たちにも紹介してよね」


「わかった!」



しかし、今になって彼女が何を話しているのか気になってきた。日下部総司といえば2年生にしてサッカー部のエースで県大会ベスト4にまで押し上げた立役者だ。


もし律月ちゃんの魅力に気づいてしまったとして、彼が本当に告白しているのだとしたら。


律月ちゃんはあの性格だ。何も言えないままおろおろして動揺していることだろう。そのままなし崩し的に付き合わされてしまうかもしれない。



「私、見てきてもいいかな...」


「えぇ、野暮じゃない?」


「でも、もし告白されてたら絶対オロオロしてるよ。助けてあげなきゃ!」


「うーん。余計だと思うけどなぁ」



それでも何かあったらいやだ。彼女が付き合いたいのならそれでもいいが、断りたいときにいえないかもしれない。私が言ってあげなきゃ。



「私、行ってくる」


「あーそ。でも、瀬川さんにばれないようにしなよ。本当にただの相談だったなら迷惑だからね」


「わかってる!」



私は教室をでて彼女たちが歩いて行った方向に進む。この時間はまだ登校している人が少ないので相談するなら廊下でしていてもそこまで気にする必要もない。おそらく、この先にある小ホールにいるだろう。




「・・・だな」


そこで話し声が聞こえてきた。この声は日下部くんの声か。私はダメなことだとは思いつつも壁に体を引っ付けて聞き耳を立てる。



「僕は自分が好きなことには妥協などしたことはない」


この声は律月ちゃん?!

なんかいつもよりも元気だし、全然イメージが違う。小学生だったころの律月ちゃんを彷彿とさせる声だ。



「その行動力を少しでも実生活に回せればいいのだがな。それで今度はどうして?」


「推しを至近距離で享受するため」



聞こえてくる律月ちゃんの声は溌溂としていて本当はこっちが素なんだと改めて気づいた。だとすると、どうして教室ではあんな感じなのだろう...。



「意味不明だ。それにいってることやばいってわかってるのか?」


「え、やばいって何が?」


「こいつ、だめだ...」


「厄介オタクなのはわかってるけど僕がジュニクしたら関係なくない?合法じゃん」


「そういってる時点でアウトだよ...。まぁ、いい。多分、名前は教えてくれないだろう?」



ジュニク?なにを言っているのかわからないけれど、一つだけ違和感を感じた。

先ほどから律月ちゃんは自分のことを「僕」と呼称している。いつも教室では普通に「私」と言っているのだが...どういうことなんだろうか...。



悩んでいると廊下の奥のほうから人が歩いてくるのが見えた。確か彼女はいつも律月ちゃんとお昼一緒にいる桜花さんか。


私は背中を向けて足早にその場を去った。





教室に戻りながら、頭の中に引っかかっている先ほどのことを考えていた。


先ほどの会話から察するにオタク的な面があるのは間違いない。推しとかいってたし。

だとすると「僕」という呼称は自分の好きなキャラとかに引っ張られて言っているのかもしれない。でも、どうして言う相手が日下部なんだろう?告白ではなかったけど、二人の関係性はよくわからなかった。



「お。おかえりー。どうだった?」


「普通に相談っぽかった」


「ほらねー。だからやめときなっていったのに」



確かに野暮だった。それに彼女の知られたくない部分を見てしまったのかもしれない。今度、桜花さんあたりに尋ねてみるのもいいかもしれない。



「でも、あの二人ってまったくタイプ違うよね。話しても続かなそうなのに」


「うーん...そうだね」



でも、それは彼女の素の姿ではない。さっきの律月ちゃんが話しているのを聞いていると本当に心の底から信頼しているような感じがした。それにあれは男女の友達というより男同士が話しているようだった。

それほど仲がいいってことなんだろうか?







話していると担任が教室へ入ってきた。もうホームルームの時間か。


同時に後ろの方からこそっと律月ちゃんが入ってくるのが見えた。彼女はじーっと私の顔を見て、そのまま自分の席に戻っていった。

え、私の顔になんかついてる?





「篠宮ー、早く自分の席つけー」


周りを見渡すと席についていないのは自分だけだった。


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― 新着の感想 ―
小学校同じでも幼馴染みの関係は知らなかったのか。 ソーシャルハッキング身バレとはならなかったけど、部分的オタバレか。
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