106.突然のDM
「リッキー、食べる？」
「ありがと」
悠がお菓子を差し出してきたのでお礼を言って１つだけ貰う。現在は修学旅行の全日程を終えて、新幹線に乗り帰路についているところである。
修学旅行4日目は午前中に奈良公園に行って鹿と戯れただけなので正直ダイジェストはない。
しいて言うなら僕が鹿に好かれすぎたせいで、鹿せんべいを持って全力で鹿を呼んでいる市倉さんをさておいて鹿せんべいを持っていない僕に鹿の大群が群がってきたことくらいだろうか。
昔から野良猫に好かれる性質なのだが、市倉さんには悪いんだけど動物に対してあんまりがっついていかない方がいいのかもしれない。
「修学旅行楽しかったねー」
「うん...」
たった3泊4日の日程だがいろんなイベントがありすぎて今までの人生で最も濃縮された3泊4日だった。
「もしかして、リッキー眠い？」
「ちょっとね」
いろいろあって楽しんだ反動で、その緊張感が途切れた瞬間に一気に疲れが襲ってきた。行きの新幹線の騒ぎようとは打って変わって車内の半分が眠ってしまっていた。
「近くなったら起こすから寝てていいよ」
「ん、ありがと」
帰ったら修学旅行中休んでいた冬コミの準備を再開しなければならないし休めるときに休んでおいた方がいいか。
「おやすみ」
「すみ...」
悠の善意に甘えて素直に寝るとしよう。
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【篠宮悠視点】
「すぅ...すぅ...」
隣で静かに寝息を立てているリッキーの顔をそっと覗く。リッキーの寝顔を見るのはいつかの保健室以来だろうか。
うわっ、めっちゃまつ毛なが！
前は前髪で隠れていて見えなくなっていたけど、最近前髪を短くしたことでその防御力が弱まってるんだよなぁ。リッキーって中性的で整った綺麗な顔立ちだから男女どちらからも好まれそう。
「...ん」
寝顔を見ながらそんなことを考えているとリッキーが少し呻いた。
「悠...」
え、うち？なになに！
「鹿せんべい食べないで...」
「食べるかぁ！」
思いがけず大きな声で突っ込んでしまったがリッキーはすやすや寝たままだった。
ていうかリッキーの夢の中のうち、何やってんだよ...。
「うぅん...」
なぜだかリッキーは眉間にしわを寄せていたので人差し指で戻してあげる。夢の中のうちに相当困らされてるんだな...なんかごめん。
寝ているリッキーの頭をそっと撫でてあげるとふっと表情が和らいだ。普段の言動がクールな分、寝顔のあどけなさとのギャップで母性本能がすごいくすぐられる...。
くっ、リッキー育てたい。
「はぁ」
寝るほどではないんだけどうちもちょっと疲れたなぁ。
毎日配信でリスナーと話すことで話したい欲を発散していたけど、修学旅行中は当然配信できないしちょっとモヤモヤしてたんだよね。
リッキーからも言われたけど修学旅行のことは流石に話せないのだが、それ以外にも話したいことはいっぱいあるし家に帰ったら速攻配信しようかな。
たまには雑談じゃなくて他のライバーさんがやってるみたいに企画とかもやってみたい。それこそゲームクリア耐久みたいな？
リッキーから「悠にはゲーム向いてない」って言われたけど流石にそこまでひどくはないよね。
まぁ人よりはちょっと出来ないけどうちにだって出来るゲームは探せばあるだろうし、今度リスナーのおすすめでも聞いて耐久配信とかやってみようかな？
「よし！」
企画を決めたらなんだかやる気が漲ってきた。早く帰って配信したい！
「あ、そうだ」
まだまだ駅に到着するまで時間はあるし、この前リッキーに教えてもらってやろうと思ってたやつやってみようかな。
一応自分の席の周りを見渡してみんな寝ているのを確認してから『陽向ゆう』のチャンネルを開いて枠を立てる。
365日後にライブ配信
2021年11月20日 0:00
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ひなたぼっこ【フリーチャット】
51人が待機中
↑5 ↓0 □
【陽向ゆうCH】チャンネル登録者数12万人
〇【なにこれ！】
〇【なんかできてる！】
〇【通知来たからビビった】
〇【フリーチャットだ】
〇【急に通知きた】
お、できたっぽい。
この前リッキーにフリーチャットというものを教えてもらったんだよね。これがあればサムネで今月の予定とかをリスナーに教えられるらしい。
●【みんな見えてる？】
〇【見えてる！】
〇【ゆーちゃんきた！】
〇【4日ぶりのゆーちゃんが心に沁みる】
〇【ふりちゃありがとう】
〇【最近配信なくて寂しかった...】
そっか、寂しかったか。なんかそんなに私の配信を待ち望んでくれているって思うと照れくさいな。
●【今出先だから配信は出来ないけど帰ったら夜に雑談する予定だよ！】
〇【やったー！】
〇【やったあああ！】
〇【嬉しい】
〇【久しぶりに栄養補給できる】
〇【干からびかけてたからたすかる】
配信で雑談するのも楽しいけどこうやって文字でやりとりするだけでもみんなの反応が返ってきて楽しいな。
●【雑談でも話そうと思ってるんだけど、ゲーム配信するなら何がおすすめ？】
〇【え？】
〇【あぁ...】
〇【ゲーム配信ですか？】
〇【うーん】
〇【まじで？】
え、さっきまでの盛り上がりようが嘘のようなんだけど。なんでうちがゲームって言った瞬間にみんな気まずそうにするわけ？
〇【やっぱソリティアとか？】
〇【ソリティアかな】
〇【トランプ系のフリーゲームがいいよ】
〇【爆弾探しとか】
〇【うーん、ないかも】
いやないことはないでしょ！
もしかしてだけど、ちょっとナメられすぎてる？
●【君たちうちのことナメすぎでは？】
〇【草】
〇【草】
〇【それはある】
〇【それはそうｗ】
〇【ぺろぺろ...】
いや草じゃないんだけど。この前のラビットマンみたいなアクションゲームはともかく、パズル系とか推理系のゲームなら自信あるし！
てか今気持ち悪い奴いた？
●【パズル系とか推理系とか頭使うゲームなら自信あるよ！】
〇【そっち系か】
〇【あーなんだろ...】
〇【よく広告で流れてくるやつとか？】
〇【「謎解き脱出」っていうゲームあるよ】
〇【謎解き脱出シリーズいいじゃん】
おっけ謎解き脱出シリーズね、メモっておこう。よくユーライブの広告で流れてくるから存在は知っていたんだけどやったことはないのでちょうどいいかもしれない。
●【謎解き脱出ね。ありがと！】
〇【いえいえ】
〇【許可いけるか？】
〇【配信出来たらいいね】
〇【見たい】
〇【こちらこそ】
ゲーム配信するんだったら許可取りとか必要なんだっけか。あとからガイドライン見て確認しておかなきゃ。
●【じゃ、また夜にね！ここは常設しておくからみんなでお話ししてね！】
〇【またねー！】
〇【夜に！】
〇【フリチャ開設感謝】
〇【配信ないときこれで寂しさ共有できるわ】
〇【ありがとー】
駅に着くまで自分もちょっと仮眠を取ろうかなーと座席に深く腰を掛け直した時、ふとリッキーの席のテーブルに置かれていたスマホの通知が目に入った。
『フロムヒア公式（@fromhiretv）さんからDMが届きました』
え、待って...フロムヒア公式？
IDは『fromhiretv』だから...うん、これ本物だ。
勝手に人のスマホを見るのはあまり良くないことではあるんだけど、さすがにリッキーも不用心過ぎないかい？
「リッキー、起きて！」
「う、ん...何。もう着いた？」
気持ちよさそうに寝ているリッキーに罪悪感を感じつつもゆさゆさと揺さぶって起こす。流石にこれは早く教えた方がいい。
「スマホ見て！ＤＭ来てた！」
「ＤＭ...？仕事依頼かなぁ」
リッキーはふわぁと大きな欠伸をしながら半目でスマホを手に取る。
【フロムヒア公式】
@fromhiretv
Vライバーグループ『フロムヒア』公式アカウントです！配信やイベント、グッズなど様々な最新情報をお届け！
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〇『突然のご連絡失礼します。
株式会社フロムヒアの採用を担当している佐井と申します。
今回瀬良リツ様にVライバーモデル制作の依頼をお願いしたくご連絡いたしました。
詳しくは後日お伝えいたしますのでご返信いただけると幸いです。
ご検討よろしくお願いします。
フロムヒア 佐井』
スイッターを開いて送られてきたフロムヒア公式のＤＭを開いて少し固まった後、そのプロフィール画面に飛んでしっかりと本物であることを確認した。
「なんだ...まだ夢の中か」
「現実逃避しないでリッキー！」
確かにうちも突然こんなことがあったらバグり散らかす自信はある。
あまりの出来事に完全に混乱してしまったリッキーのケアをしながらも、フロムヒアにリッキーが関われるということに他人事ながらなんだか興奮していた。
