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9.学校に行こう


月曜日とは学生諸君にとって最も忌むべき日なのではないかと僕は思っているのだが、そこのところどうだろう?




4月もそろそろ終わり梅雨の季節がやってくる。散り始めた桜を見つつ、ノスタルジックな気持ちに浸る・・・。


いや、別に全然感傷的な気持ちにならなかった。





そういえば、僕の学校は基本的にはクラス替えがない。なので、1年生から3年生までの間を一緒に過ごす級友は、大抵の場合そこそこの親交が生まれていてもおかしくはないのだが...。まぁ、僕の場合は平常運行だ。




バスから降りて駅から学校までは大体1キロくらい。ゆっくり歩いても20分もかからない。



いつもどおりの十字路を右に曲がろうとするとその先にあの陽キャギャル娘こと篠宮悠を姿を確認した。彼女は友人と談笑しながらゆっくりと登校している。このまま歩いて行けば追いついてしまうし、かといって同じスピードで一定の距離を保つというのも怪しい。  


仕方がないから、一度遠回りをしてから学校に向かうことにした。まぁ時間ならある。




本当であれば僕の幼馴染である桜花と総司と一緒に登校したいのだが、あいにくどちらも部活に所属していて朝練のためすでに学校にいる。

桜花は陸上部のエースで、総司はサッカー部のスタメンだ。明らかに僕が釣り合うような人間ではないのだが、幼馴染特権は偉大だ。  








いつもより10分以上遅れて学校に到着すると、篠宮さんたちがクラスの端で何やら話し合っていた。僕が扉を開けた瞬間に一斉に視線を送ってきたのでサッと下を向いて自分の席に座った。視線攻撃はメンタルにくる...。



僕はイヤホンをして音楽アプリを立ち上げる。コミュ障はこうやって「今、音楽聞いてるので何も聞こえませんよー」アピールも欠かさない。こうすれば、誰も話しかけてこないからな。僕なりの処世術だ。



と、思ったのだが。




「...ちゃん、律月ちゃん」


「…!な、なに?」


気がついたら篠宮さんが僕の机の前にいた。ご友人たちは遠くからこちらを伺っている。



「律月ちゃんって普段何してるん?」


え?急に何の話?

これって遠回しに何か僕がしてしてしまったことを責めてるのか。だとしたら一応謝っておくのが得策だ。何をしたのかは覚えてないけど。



「あの...ごめん」


「え?なんで謝るの」


「何かしてしまったのかと...」


篠宮さんは苦笑いしながらこちらを見た。



「いや、単純に休日何してるのかなーって。深い意味はなく」



深い意味はなく、か。だとしたらどういう吹き回しだろう。彼女とはつい最近少し言葉を交わした程度だし、雑談をする仲だとも思えないが。



「配信とか...見て、ますね」


すると、篠宮さんは顔をほころばせた。



「あー、私もよく見るよ!何だっけ、最近ぶいちゅーばー?っていうのが流行ってるんだよね」


「あっ...!っと、そうなんだ」



危うくオタクを発動するところだったが、ギリギリで抑え込んだ。ここでオタク特有の一人がたりをすれば確実に引かれるし、その後自己嫌悪に苛まれる。



「そうそう。それで、もしよかったら...」


「瀬川律月いるか?」



篠宮さんが何かを言いかけたところで僕を呼ぶ声がして遮られる。扉に立っていたのは総司だった。



「律月、今いいか?昨日の件で」


「あ、まぁ...いいけど」



ちらりと篠宮さんのほうを見るとじっと総司のほうを見つめていた。いや、どちらかというと睨みつけていたというほうがあっているのかもしれない。



「篠宮さん、少し律月借りるよ」


「・・・」



僕たちの背中を突き刺す無言の視線が痛い...。

僕としては篠宮さんから逃げ出せたので総司には感謝だ。







小ホールの窓を開けてグラウンドを走る陸上部たちを見る。ちょうどバックストレートのほうでジョグをしている桜花を見つけた。ちょうどこちらに気づいたのか、手を振ってきたので軽く振り返しておく。


総司は真剣な表情をしてこちらに向きなおした。



「それで単刀直入に聞くけど、バーチャルライバーになったってどういうことだ?」


周りを気にしつつ小声で話しかける。



「そのままの意味だけど」


僕のほうも声を抑えて話す。周りには誰もいなかったし、聞かれることはないだろうけど。




「はぁ...お前ってコミュ障という割にはいつも行動的だな...」


あきれたようにため息をつく。


「僕は自分が好きなことには妥協などしたことはない」


「その行動力を少しでも実生活に回せればいいのだがな」



それとこれとはまったく別問題だ。オタクというのは自分の好きなことに対しては脇目もふらずに直進する生き物なのだから。



「それで今度はどうして?」


「推しを至近距離で享受するため」


すると総司は深く息を吐いて、おでこに手を当てた。

オーバーリアクション気味に「やれやれ」とアクションして見せたがイケメンがやればそれなりに様になる。



「意味不明だ。それにいってることやばいってわかってるのか?」


「え、やばいって何が?」


「こいつ、だめだ...」


総司は思案顔をますます深める。



「厄介オタクなのはわかってるけど僕が受肉したら関係なくない?合法じゃん」


「そういってる時点でアウトだよ...。まぁ、いい。多分、名前は教えてくれないだろう?」



教えるはずないだろう。自分を知っている人に自分が演技しているのを見られることほど恥ずかしいものはない。演技というかまだどういうキャラで行くかは決めかねているけど。



「それなら俺に手伝えることはなさそうだな。まぁ、お前のことだから一人で完璧にやっていけるだろうが」


気持ちはありがたいが。




「このことは桜花には内緒でな」


「あぁわかってる」


桜花は総司と僕のようにオタク的な趣味はないので言ったとしても「ぶい、ちゅーばー...って何?」みたいな反応をするだろう。まぁ、オタク同士だからこそ総司に伝えたのだからな。




「ん?私に内緒ってなんのこと」


「うわっ!?」


目線を向けるとそこには少し汗をかいている桜花がタオルを首にかけて歩いてきていた。さっきまでグラウンドにいたはずなのに...もしかして偽物か?とおもって外を見るが桜花の姿はなかった。


「朝練中じゃないのか?」


「いや、早めに切り上げてきた。だって総司と律月ちゃんがなんかはなしてるんだもーん!仲間外れにしないでよ」


「いや、別になんでもないんだがな...」


「んー?ほんとにー」



彼女は僕と総司の顔を見上げるようにのぞき込んでくるが、そっぽを向いて顔をそらした。圧力には屈しないぞ。



「ま、べつにいいけどね...。でも遊びに行くときは私も誘ってよね!この前みたいに二人だけで行かないでよね」


「あの時はうちにゲームしにきただけで」


「反論無用!」



桜花がしゃべっている途中で僕の口を手でふさいだ。手、めっちゃ柔らか。



「ふぁい」


「ならよし」


彼女は満足そうな顔をして離れていった。去り際にこちらに顔だけを向けて僕をみた。



「そういえばさっきそこで律月のクラスの篠宮さんとすれ違ったんだけど、なんかあった?」






「「...え?」」


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