94.今後の予定
「...ってことだから今から考えとけよー。じゃあ解散」
まだ若干ふわふわとした頭を右に左に揺らしながら朝のHRを聞いていた。先日のラジオのあと、モチベーションがあったので毎日投稿のためのイラストの下描きをしていたらいつの間にか深夜になってしまっていた。この調子では1限の数学なんて頭に入ってこないに決まってる。
頑張って目だけでも開けておこうと頬をつねって気合いを入れていると、いつも通りのポジティブオーラを撒き散らしながら悠が近寄ってきた。
「リッキー、おっはー!」
「ふわぁ...おはよう」
「うわ、めっちゃ眠そう。なんかあったん?」
僕の眠気を感じ取った悠が僕の赤くなった頬をさする。手、ひんやりする...。
「ちょっと昨日遅くまで起きてて...」
「ふーん、あんま無理しちゃだめだよ」
「...ん」
悠は優しいな...。でも大丈夫、今日の2限の生物はしっかりと休む予定だから。
「てか、リッキー班決めどうする?」
「班決め...何の?」
「え、さっきの話聞いてなかった?」
「ごめん...1割くらいしか」
というか最後の「考えとけよー」しか聞こえなかった。
「修学旅行だよ、修学旅行!」
「しゅ、修学旅行...!?もうそんな時期か...」
そういえばうちは2年生のうちに3泊4日の修学旅行に行くんだった。諸々の学校行事はひたすら目立たないように過ごしていたからあまり思い出はないけど流石に修学旅行は楽しみだ。
「もうあと1カ月だからねー」
「そっか」
「それでホテルの部屋割りと自由行動の時のグループ決めなきゃいけないの」
「いつまで?」
「来週の金曜までだよ。ね、リッキーが良ければどっちも一緒のグループにしようよ!」
「えっ、あぁ...」
悠と同じグループっていうことは同じ部屋で寝泊まりする......いやいやいや!
別に僕は悠に対してそんな不埒なことは考えていませんとも!!聞いてるか、悠のお父さんよ!!!
(ボクは一向に構わんよ...)
なぜか頭の中でサムズアップした悠パパの幻覚が見えたが、頭を振ってかき消す。
「リッキーどした?」
「いやなんでもない」
まぁ逆に悠以外の人と4人グループ組まされても、眠くもないのにすぐ布団にくるまって他3人が雑談しているのを聞いている姿を容易に想像できる。それなら悠と同じ部屋の方が見知った人がいる分気まずい思いはしなくていいかもしれない。
「じゃあお願いしようかな」
「やったー!部屋は4人グループだからうちの友達の中でリッキーと合いそうな人に声かけてみるよ!」
「ありがと」
「まっかしといて!」
そういうと悠は1限の予鈴と共に自信満々の様子で自分の席に戻って行った。正直、うちのクラスで特別仲の良い人は悠以外にいないから悠がいなかったら最後に余ったグループに入れてもらうという地獄になるところだった。悠に感謝だな。
「はーい、席ついてー」
ところでさっきつねった頬が若干熱を帯びてより眠気が増した気がするのだけれど...さて、僕は何分くらい起きていられるだろうか。
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結局1限2限とフルで充電を回復したことで昼頃には眠気も吹っ飛んで行ってしまった。4限は世界史Bの授業なのだが、急遽先生に予定が出来たため自習となった。こんなことならこの時間に寝ればよかった。
自習と言っても提出しなくてもいいプリント1枚を配られただけでやる気のない人たちは最初から友達と雑談を楽しんでいる様子だった。僕も悠と話して時間を潰したかったのだがあいにく悠は日本史を取っているため僕は一人だ。ヴィットーリオ=エマヌエーレ2世を学びたいだけで世界史を取ったけど、僕も悠と一緒に墾田永年私財法すればよかった。
何人かの真面目な生徒は配られたプリントに一生懸命取り組んでいたので僕もそうするべきなのだろうが、そこまで僕は勤勉というわけでもないしやる気もなかったので教室の隅っこで校庭でやっている他クラスの体育を眺めていた。
「はぁ...」
もう来月には修学旅行か。
京都といったらいろんなアニメのモデルだらけだし自由行動の時に聖地巡礼して回りたいなぁ。だとしたらやっぱり、悠・桜花・総司のメンツだと気兼ねなく楽しめるかな。今日の昼休みにでも話してみるか。
修学旅行もそうだが、年末にかけてリアルでもネットでもイベントが多すぎる。
もしも来月の抽選発表で受かっていたら冬コミに向けて「画面の向こうの君に会う方法」を最低10話分は描き切らなければならない。あと6話分描くには今よりもう少しペースアップしないと間に合わなそうだな...。
それに初参加とはいえ、オリジナルだけでは少々物足りないし何か他にも作りたい。今まで毎日投稿してきたイラストをまとめた画集とか、描いたけどまだあげてないリリカ様の2次創作とか...あとはグッズとか?
全部作るわけにはいかないけど何かしらは作りたいよなぁ。今度、配信でリスナーに欲しいもの聞いてみようかな。見ている何人が実際に来てくれるのかはわからないけどある程度の需要はわかるだろう。
あ、ていうかずっと後回しにしてきたけど僕の新衣装も早く作らないといけないんだった。本当は30万人記念でお披露目しようと思っていたんだけど代わりに「佐藤パラダイスロスト」とかいう黒歴史のライブ2Dを作っていたら忘れてしまっていた。
一応、いくつか衣装のラフをノートに描き起こしてはいるのでその中から作ることにはなるだろうが自分ではなかなか選べないんだよなぁ。いっそ悠に選んでもらおうか?
本当はマロから安価でリスナーの案を新衣装にするという配信をしようとも一時期思ったのだが、ちょくちょく勝手に来る新衣装案がセーラー服とバニーガールしかないのでやめた。しかも文面的に同一犯じゃないのが怖いんだよな...。
僕は精神衛生上エゴサーチはしないけどこの前悠が「瀬良リツ」の掲示板を見つけたとか言っていたのでもしかしたらそこで結託しているのかもしれない。うーん解散命令だそうかな?
「んー...」
校庭で行われている別クラスの体育の様子を見ていたら4限終了のチャイムが鳴った。プリントは一切手を付けていないけど今後の予定は明確化できたな。
校庭から引き上げてくる生徒がこちらに向かって手を振っていたので目を凝らすと桜花だった。
なんだ、桜花のクラスだったのか。どおりで一人だけやたら足の速いのがいると思った。それにしてもよくこんな薄暗い教室の中にいる僕を見つけられたな。まぁでもあいつ視力2あるって言ってたしおかしくないか。
僕は小さく桜花に手を振って僕は教室を出た。次の授業は古典か...あの先生話し方がゆったりしてて周囲20メートルの人の意識を狩るデバフ持ちなんだよなぁ
「さて」
教室に帰って悠からポジティブオーラ浴びて頑張るか。




