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第6話 旅の準備

 お昼ご飯を食べたあと、さっき習った風の魔法を練習することにした。


空気の塊を大きくしたり小さくしたり、先程切り倒した木に向けて何度か撃ってみた。

やはり火の魔法程、弾速や軌道のコントロールは自由にできないけど、思った場所に命中させることはできた。

 火の魔法より威力は落ちるが、威力を押さえて戦う必要がある相手にはちょうどいいかもしれない。


風の刃に関しては、ちょっと威力があり過ぎるから人間相手には使わない方がいいかもしれないな。何度か倒木に試してみたが、刃を小さくしてもかなりの威力があった。



昨晩は魔法を練習しすぎて魔力切れを起こしてしまったので。まだ日も高いし、これぐらいでやめて食料の追加をしようかな。


「サラ、僕ルエダの実を採りに行ってくるよ。」祭壇に腰かけ練習を見ていたサラに言った。

『じゃぁ儂もいくぞ!他にも食用可能なものがあれば教えてやるのじゃ。』祭壇からぴょんっと飛び降りてサラが言った。

サラがついてきてくれるならどんなモンスターが出てきても安心だな、きっと。


ペットボトルのウーロン茶はもう飲み切ってしまったので、泉の水を代わりに入れておく。

そして昨日ゲットした盾と短剣を腰に下げて、ペットボトルを入れたパンダちゃんのエコバッグを肩に下げる。


「サラ、基本的な魔法も教えてもらったし。食料を今日中に確保して、明日の朝出発するよ。」今朝からなんとなく考えていたことをサラに話した。「食材をみつけても、調理するための道具や調味料も無いしね。ちょっと限界は感じてたんだ。町や村にたどり着けば、それらの物も揃えられるし、やりたいことも見つかるかもしれないしね。」

『そうじゃな、それがいいじゃろう。しばらくお別れになるが、ノームのじいさんが来たらすぐに追いかけるからの。それまで死ぬんじゃないぞ?お前様ならそう簡単には死なんとは思うがな(笑)』なんだか知らないけど、サラは随分僕を高く評価してくれているんだな。



準備を終えて、ルエダの実があった方向へと歩を進める。前回つけた印をたどっていく。

できればサラがいるうちに魔法を使った戦いを経験しておきたいところだが・・・。まぁそう都合よくモンスターとか現れないよな。

とか言ってるそばから・・・。

 前回感じた妙な気配を感じた。ジリジリした視線の様なもの。


 『お前様、お客さんのようじゃな。』サラも感じたらしい。

『左右と前方に1匹ずつおるようじゃ。多分この気配はフォレストウルフじゃな。毛皮を剥いでいけば町で売れるんじゃないかのぉ。よく人間の狩人が狩っていくぞ。』サラが教えてくれた。

確かにそれは助かる。町に行ってもこの世界の通貨を持っていないと何も買うことが出来ない。換金できる素材があれば食事ぐらいはできるだろう。

前回同様、ジリジリした視線は感じるがなかなか姿を現さない。今のうちに強化魔法だけでもかけておくか。

 【ファイアアップ】一番弱い状態でかけておいた。これだけでもだいぶ強化されている。練習の時にこの状態で片手懸垂ができた。しかも軽々と何回も・・・。

さて、どうしたものか。しばらく待ったがあちらからは動こうとしない。不用意に前方に移動すれば左右からの攻撃でやられそうだし、左右どちらかを狙っても同じ事になるだろう。こちらから打って出るにしても近接攻撃をしかけるのは得策じゃない。

まずはどちらかの方向へ魔法攻撃をしかけてみるか?火の魔法ならかなりの精度でコントロールする自信がある。

 しかし森の中で火を使って大丈夫だろうか?火力を押さえたとしても山火事になる危険はある。


まだコントロールはうまくできないが、空気の塊をぶつけてみるか。当たらずとも誘い出すことはできるだろう。

「サラ、ちょっと隠れていて。」小声でサラに言った。

『大丈夫じゃよ、元々あいつらにわしの姿は見えておらん(笑)』サラは楽しそうにそう言うと、ピョンっと木の上に飛び乗った。


自分の前方、気配を探りながらある一点を見つめる。おそらくあそこだろう。右手でソフトボール大に空気を圧縮していく。腰から盾を取り出し左手に装備して左右の位置を探る。大体の場所を把握したら思い切って戦闘開始だ。

【エアバレット】前方の気配めがけて思いっきり塊を投げつける。それと同時に後ろに跳躍した。

「ギャイン!」前方から鳴き声が聞こえる、当たったようだ。先程まで僕が立っていた場所に左右から影が躍り出てきた。後ろに避けていてよかった。左右から出てきた影は器用にお互いがぶつかることなく着地を決めてこちらを睨む。サラがフォレストウルフだって言ってたっけ。全長3m程もありそうな大きな黒い狼だった。2匹の狼は歯を剥き、唸り声をあげている。


「グルルルルル」

僕は盾を構えると今度は右手に風の刃を作り出す。


1匹が姿勢を低くして身構えた、次の瞬間。

 ダッ! すごい速さで僕をめがけて走り出す。喉をめがけて飛び掛かる黒い狼。

 しかしそれは読んでいた。構えていた盾で狼の顔を上にそらしつつ、同時に僕は下にしゃがみ真上に向け【ウインドエッジ】黒い狼の首をめがけて風の刃を放つ。

『ズババババババババババッ!!』派手なSEと共に狼の頭と体が綺麗に分かれて後方へ飛んでいく。

すぐに立ち上がり残った1匹を視界にとらえる。


残った1匹は踵を返すと逃げ出していった。最初にエアバレットを放った前方の1匹を探すが見つからなかった。

 恐らく当たりはしたが致命傷には至らず、一緒に逃げてしまっていたようだ。


「ふぅ~。なんとかなった・・・。ちょっと怖かったなぁ。さすがにあの大きさはビビる。」

『2匹逃したがまずまずじゃったな。落ち着いて対処していたのは高評価じゃ。儂の目に狂いはなかったな。』サラは笑顔を浮かべて木の上から見ていた。


『それよりお前様、早く仕留めた狼の処理をせんと、他のモンスターが寄ってくるぞ。』

なるほどそれはヤバいかも。急いで狼の元へかけつける。


実はジビエ料理に興味があって、ハンターが獣を捌く動画なんかもよく見ていた。動画で見ていただけなのでうまくできるかわからないがやってみるしかない。

っていうか持ってるのが刃渡り50cm程もある短剣なのだがこれでできるであろうか・・・。


本当は釣って捌くとやりやすい、とのことだったが。吊るすロープも無いしそのまま寝かせて解体することにした。

今回は調理道具も調味料も無い関係上、食べることを目的としていないので、血抜きや内臓の処理は省くことにし、皮剥ぎだけやっていくことにする。


まずは首の切断面から短剣の刃先を入れて、そのまま肛門まで表皮だけ斬っていく。そして皮と肉の間に短剣を滑らせてお腹側の皮をはぐ。やはり短剣じゃやりにくかった・・・。

ある程度刃が入ったらあとは手を入れて力任せに剥いでみる。肉体強化の効果もあり、グイグイと皮が剥げた。あとは服を脱がせるように足の部分もそれぞれ剥いでいって、背中のところは手を皮と肉の間に滑らせて剥がしていく。

3mはある大きな体も肉体強化で軽々持ち上がり、皮剥ぎは簡単に終わった。


今回は食べるわけでは無いので肉はこの場に放置していくことにした。実に名残惜しいが、調味料も無い状態で肉を焼いて食べても美味しくもなんともないからな・・・。

干し肉にするにしても大量の塩を必要とする。ルエダの実で甘く調理する方法も考えはしたが、やはり調理道具も無しにやれることは無い。


町に行ったらまずは調理道具と調味料を買おう。出来れば野営道具も。いや、まずはそれが入る背嚢か。パンダちゃんは好きだが肩下げカバンは戦闘には向いていない。


剥いだ皮は畳んで手に持った。割とかさばるから早めに蔦かなんかが欲しいところだな。それも含めて探しながら先へ進もう。



木から降りてきたサラに声を掛けて先に進むことにする。

歩くこと数分、ルエダの実が生えるエリアに到着した。その途中サラが蔦を見つけてくれて畳んだ皮をぐるぐる巻きにして背中に背った。蚤とかダニとかいないといいなぁ・・・。



ルエダの実を6個ほど摘みパンダちゃんバッグに入れると帰途につく。

帰りはさっきの道だと、狼の死体を食べに来てるモンスターと鉢合わせしそうだったので、少し大回りして帰った。


すると道中サラが食べられる実があると言って採ってきてくれた。大きな木の上の方に生っていた実だったが、サラはスイーーっと飛んでとってきた。あれ?飛べるの??

『儂は精霊じゃからな。』答えになってるのか、なってないのかわかんない感じだったが、精霊は飛べるのが常識らしい。

「そっか。」僕は知ってたような感じで返事をしておいた。まぁそんなのもサラはわかってるんだろうけど・・・。


20cmぐらいの緑色の実で表面がブツブツっとしてる。匂いを嗅いでみるがフルーツの様な甘い匂いはしない。これテレビで見たことあるぞ僕。これってパンの実じゃないか?

思ってる通りならこれはちょっと嬉しいかも。もう少し欲しいなと思って上を見ると、既にサラが追加の実を4つほど抱えて降りてくるところだった。

「ありがとう!」サラにお礼を言ってパンダちゃんにしまう。

十分な食材を手に入れることが出来たので僕らは足早に帰ることにした。


泉へ戻ってくると丁度夕日が落ちるところだった。

 畳んであったフォレストウルフの毛皮は、裏側に残っていた脂を丁寧に削ぎ落とし、泉の水で洗ってから枝にひっかける。

まぁちゃんとした処理はできないけど、町まではもってくれると信じるしかない。


とりあえず今日の目標だった旅の準備はできたし、のんびり夕食でも食べて休みましょうかね。

殺菌と乾燥の意味も含めて、干してある皮の横で焚火をしている。

 その焚火の中にさっきサラにとってきてもらったパンの実のようなもの(鑑定で見たらアルトの実と出た)をそのまま焚火に放り込む。


焼けるまでの間に。最後のお楽しみ、まるごとソーセージののった例のパンを食べる事にする。

サラを呼んで半分にしたパンを渡し、2人で並んで祭壇に座る。

早速サラは一口パクっ。『おっ!これは美味じゃのぉ~。』サラはニコニコしながら言った。『この上にのってる長いやつの香りとピリっとした味、中からじゅわっとあふれる出る脂。最高の味わいじゃな。それにかかっているソースの美味しい事よ。おにぎりに入っていたソースと同じやつじゃな。儂はこのソースが気に入ったのぉ。』サラが嬉しそうに食レポしてくれた。僕が一番好きなパンだけにサラに気に入ってもらえてとても嬉しい。

2人でニコニコしながらあっという間に食べ終えた。

 この世界の食材や調味料でいつか再現できたら嬉しいなぁ。


パンを食べ終わったところで焚火に投げ込んだアルトの実を取り出してみる。良い感じに表面が焼けている。

表面の焦げた皮を剥いてやる。すると中から白いフワフワした果樹部分が顔を出す。それをちぎって口に運ぶ。甘いサツマイモの様な味、食感はフワフワのパンのよう。うん、うまい。何もつけずにこれだけでいける。

サラにも差し出してみる。

サラも一口分ちぎって口へ運ぶ。

『ほほぉ、よくこうして人間が食べているのをみていたが、こんな味がするものじゃったか。なかなか美味いものだが、お前様がくれた食べ物のほうが何倍も美味かったな。』

「いつかこちらの食材で再現できるように頑張ってみるよ。」サラに僕の旅の目標の一つを話した。


マヨネーズは卵・油・お酢・塩があれば作れる。ツナに関しては同じような肉質の魚次第か。明太子に関しては魚卵を生でってのはちょっと厳しいのかな?まぁできればってところか。

パンに関してはこちらでのパンの材料見てからかな。カッチカチのパンしかないって事になると材料を手に入れられるかわからない。

 あんこは小豆さえあれば。生クリームはミルクが買えれば。

ソーセージに関しては使う肉によって味が変わってしまうため、完全再現できるかはわからないけど形にはなるかな。

あとは米かぁ。海苔もあれば欲しいしなぁ。なんなら醤油や味噌も欲しい。

まだ市場も見てないし、なんだったらこっちの世界の人間にもあってないし・・・。想像だけで予測も出来ないが、各素材の製造・調理方法はだいたい把握しているし案外うまくいくかもしれないな。


『いつかお前様が作ってくれるのを楽しみに待っておるぞ。』サラの為にも自分の為にも頑張ってみよう!

次回、いよいよ出発します。

ダラダラと初期位置で過ごしてきましたが、やっと物語が進んでいきそうです。

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