第50話 邪神教
本日もご拝読ありがとうございます。
とりあえずこれで第2部は完結とさせて頂きます。
最近仕事が立て込んでいてなかなか書く時間がとれないでいましたが、なんとかキリが良いところまでは持って行けたと思います。
続きは少し時間をおいてから始めようと思っています。
それまでに少しでも多くのストックを貯めておかないと・・・。
それではしばしのお別れを。
3百年程前、死の大陸では人族・亜人族の連合軍と魔族の間で戦争が行われていた。
元々死の大陸の南側は魔族の領域で、亜人族と言えど住むことさえ困難な環境の土地だった。
魔族には住みやすい環境ではあったが、亜人族の持つ能力や豊富な資源を求めて北側の領域に攻め込んできていた。
亜人族達と交流を持とうとしていた人族が、魔族を退ける事で、より良い関係を築けると考え魔族との戦争を決断した。
戦争は数年に渡って行われたが、最終的にハイエルフの秘術により、魔族は死の大陸南部にある領域に封印された。
その領域は干渉不可領域とされ、今でも近付くことを禁止されている。禁止されていなくても簡単に近付ける様な場所ではないらしいけど・・・。
世界中に沸き続ける魔物はその魔族の最後の足掻きとされていて、スタンピード等の災害も魔族による呪いだとされている。
邪神教は元々魔族が信仰していた宗教だが、人族の中にも魔族の仲間入りをしたいと考える思想の者達が一部存在していて、邪神を復活させることにより、それが叶うと考えられているそうだ。
何があって魔族の仲間入りを切望しているのかはわからないが、迷惑な話である。
しかも自分の命よりも儀式の成功を願っているとなると、本当に意味が解らない。
よっぽどのことがあったんだろうなと考えるしかないな。
というのが僕が聞いたこの世界、というか死の大陸の歴史だった。
森の中の1点に集中した魔物の気配を追っていくと、物凄く開けた空間に出た。
空間の中心には天まで届くのではないかという程高い高い柱の様なものがあり、虫型の魔物たちはその柱を守る様に集結していた。
その魔物たちの足元には魔法陣のような物が描かれており、儀式を行うために作られたというのが分り易い程の場所だった。
心配していた魔族の姿はそこには無く、白ローブの姿さえも見られなかった。
「我々の存在に気付き、魔物だけを残して逃げ出したのかもしれないな。」ミルドレイク伯がそんな言葉を漏らした。
付近にはそれを物語るような痕跡が残っていて、例の烏の紋章が入った木箱等数多くの物がそこに残されていた。
「どっちにしろ、その証拠品を調べる前にあいつらをどうにかしないといけないみたいだな。」柱の前に集結している魔物の数はおよそ200匹。2m程の大蜘蛛、3m程の大蟷螂、10m程の長さの大百足からなる大軍団だ。それぞれの細かい数はわからない。
とにかく広範囲にわたりワサワサいる。非常に気持ち悪い。というか普通に考えてこの人数で勝てる数じゃない。
しかし勝算はあった。スタンピードの時に僕が放った大魔法だ。
火の魔法と風の魔法を組み合わせた【ファイアストーム】。あれを使えばかなりの数を減らせると思う。常識的に考えて虫の弱点は火だと思うしね。
さっきは森の中だった為、火の魔法を使う事を躊躇したが、この広い空間でなら大丈夫だろう。
僕のもつ魔力を一気に開放してやればかなり広い範囲で炎の嵐が起こせると確信している。
その場合魔力切れで倒れた僕を抜かして、残った魔物を全員で倒してもらう必要があるが、悪い賭けではないと思う。
普通に戦ってもまず勝ち目はないからだ。
作戦を伝えるとミルドレイク伯は「ガハハハ」と笑いながら僕の背中を押してくれた。
後のことは任せろということだろう。
全員に身体強化をかけて、僕は前に出る。
天まで届くほどの高い柱を中心に、魔法陣の描かれた地面全体を覆うぐらいの規模をイメージしながら。
「巻き上がれ滅びの風、紅蓮の炎を纏い憤怒の雄叫びを上げろ。」
【ファイアストーム】
ごっそりと魔力を持っていかれ、その場で膝をつく。
見れば柱を中心に魔法陣の描かれていた辺りまでの範囲で50m程の高さまで巻き上がる炎の竜巻が魔物の群れを覆っていた。
魔物の群れを囲むように広げた範囲はほぼ全ての魔物が業火に包まれていた。
炎の竜巻が収まった痕には大量の魔物の焼死体が転がっていた。その業火から逃れた魔物も居たが、数えられる程度だった。
領兵とミルドレイク伯が向かっていくところだった。
マリアは僕の傍に残って倒れそうな僕を抱きとめてくれていた。
モノも一緒になって僕にギュッと抱きついている。
2人に凄く癒される。
マリアが魔力回復薬を飲ませてくれた。
失われていた魔力が少しずつ戻ってきて、ふらつく頭がハッキリとしてくる。
残っていた魔物もミルドレイク伯達が狩り尽くしてくれたようだ。
僕は立ち上がってミルドレイク伯の元へ向かう。
マリアとモノも歩くのを手伝ってくれている。まぁモノは僕に抱きついてぶら下がっているだけだけど。
狙った通り、中心にあった柱諸共魔法陣は魔法の衝撃で崩れ去っていた。
これで儀式はもう行えないはずだ。
まぁまた作れば良いだけの話だろうが・・・。
魔法陣の外側で白ローブが残していった痕跡を領兵達が手分けして探ってくれている。
「ご苦労だったな疾風。しかし、お前の魔法は本当に凄いな。あれだけの魔物を一瞬で倒してしまうとはな。」ミルドレイク伯が労いの言葉を掛けてくれる。イメージで出来るとは思っていたが、失敗しなくて本当に良かった。
「いつでも仕事は募集中だ。」僕は軽口をたたく。
「近いうちに又一仕事頼む予定だ。予定を開けておけよ!!ガハハハハハハハッ!」ミルドレイク伯は僕の背中をバンバン叩きながら大笑いしていた。だから死んじゃうってーの。馬鹿力め!
その後痕跡を探った結果、魔族が絡んでいるという事実は判明しなかった。
しかし、邪神教の存在は明らかとなり、烏の紋章と獣人族を使った降魔の儀式が行われようとしていた事実が確定した。
既に逃げ出していた白ローブの足取りはつかめず、依然誘拐の心配が残る中、獣人族を領都で保護するという事でこの事件は解決となった。
当分はモレスビーに引き連れていった領兵の半分を残して引き続き警備に当たらせ、開拓村にも冒険者を雇い門番を増やすように指示が出されていた。
300名以上居る獣人族達は、領都のギルド宿舎と新しく建設しているスラムの施設に別れて居住させ。施設の早期建設、職業訓練所での人材育成に一役買って貰う予定という事だった。
施設の建設が終わるまでは宿屋とか色々工面してくれるみたい。数が数だけに凄い事になりそうだけど・・・。まぁ何とかしてくれるでしょ。ミルドレイク伯がついてるんだしね。
これでやっと計画が先に進むな。と僕はホッと胸を撫で下ろした。
領都へ帰る馬車の中でもモノはずっと僕に抱きついていた。もう普通に動けるんだけどなんか心配みたい。
マリアもそんな僕にずっと付き添ってくれていた。帰りの馬車に乗り込むまではずっと食事とか着替えとか甲斐甲斐しくお世話を焼いてくれた。
これからまた邪神教の真相、白ローブの行方も追っていきつつ、色々なところにも行ってみたいな。港にあるというネフレシアという町にも行ってみたい。まだミルドレイク領の外に出た事も無いしね。
これから色々な出来事が待っているだろう。
辛い事、楽しい事、どんな出来事であっても、皆が居れば僕は乗り越えていける。
僕達の冒険はまだはじまったばかりだから。