第42話 獣人族連続誘拐事件
本日もご拝読ありがとうございます。
いよいよ週末ですね。今日は時間がとれたんで、少し多めに書き上げました。
何度も書き直したリしているので繋がりがおかしくなっていたらすみません。
チェックはしていますが1回のチェックで投稿してしまっているので見逃しがありそうで怖いです・・・。
モレスビーの町は獣人族の住民が多く居住している、それは元々モレスビーの周辺にあるジャングルに、獣人族の居住地が点在していたことが起因している。
ひとくくりに獣人族と言ったが、細かく分ければ犬人族・猫人族・兎人族・熊人族等に分類でき。
更に細かく分ければ、犬人族の中でも原種に近い狼人族や猫人族にも虎人族・獅子人族と言われる種族も存在している。隊商のレイ隊長は獅子人族っていう分類に入る。
リーザスタッド王国は元々死の大陸と呼ばれる大陸にあり、人族が到達困難としていた土地でもある。大陸の南側にはかつて魔族が支配していた土地も存在している。
北側は元々獣人族・ドワーフ族・エルフ族等の亜人族の領域で、その亜人族たちと人族が一緒に手を組み魔族の侵略を退けた事でリーザスタッド王国は建国された。
かつて亜人族達はそれぞれが他種族との干渉を好まず、ひっそりと生活していた。
魔族の侵略を切っ掛けとして、他種族と手を結ばなければ滅ぼされる危険があったことから交流が始まったとされる。
死の大陸と大河を挟むローレンシア大陸は人族の領域で、船舶技術が発展して死の大陸に渡る事が出来るようになってからは、死の大陸に多くの人族が移住していった。
元々住んでいた亜人族達からすれば、魔族も人族も同じ侵略者と言えると思う。
しかし滅ぼす事を目的とした魔族と違って共存を望んだ人族が結果としてこの死の大陸を制することになった。
しかし現在でも南側の領域は人間が住むことを拒否するかのような過酷な環境下にあり、干渉不可領域と言われる場所も存在している。
モレスビーに着いて、ギルドで事件の詳しい話を聞いた僕達は早速調査を始めた。
部隊長以外の領兵の人達にはとりあえず町の警備に回ってもらい、僕とマリアと部隊長は獣人族のリーダーから話を聞くことになっていた。
そういえばモノはマリアが持つ手持ちのバスケットの中に居る。
僕が持つ大きな背嚢や。それに入りきらないぐらいの荷物を纏めてモノが収納してくれて。
そのモノ自身は自分の足で歩き回ると目立つし遅いので、今回はマリアがいつもお茶のセットを持ち歩いている手持ちのバスケットを使って連れてきている。
ずっと静かなのは寝ているからだと思う。さっき見た時はぐぅぐぅと寝息を立てて寝ていた。
あ、因みにお茶セットはモノが収納していてくれているのでお茶したいときはすぐにお茶が出来るようになっている。
町の様子はいたって普通だった。獣人族が多く暮らす町だと言っても、人族が多くを占めているからだ。
獣人族も少しはみかけたが、領都と比べて多いと言われれば多いという程度。
もしくは今獣人族達は人の目に映らない場所に避難しているという事なのか?
とりあえず僕達は獣人族のリーダーと領都に居た職人達の元へ向かっている。ギルドで聞いたところによると職人組合の建物に居るということだった。
モレスビーの町は大工や木工を生業とする人が多く住んでいる、その為その職人達を束ねる職人組合が設けられていて、ミルドレイク領内の大工の多くは職人組合から各町へ派遣されているのが現状だ。
まぁそれが災いして、今回のような大工不足問題が起こっているのだが・・・。スラム街再生計画で職業訓練所が開設されたら、その問題は解消されるかもしれないな。
職人組合の建物に着くと、扉の前に門番が立っていた。大柄の熊人族の男達で、手には長槍と盾を持っている。
部隊長が領都から誘拐事件の捜査で来た旨を伝えると快く中へと通してくれた。
組合の建物の中には、何部屋かに分かれて多くの獣人族の人達が避難していた。町に獣人族の人が少なかったのはその為だったようだ。
とは言っても町の住民の比率から見ても少ないと言えば少ない。他の町でも感じたが、やはり人族の割合というのはかなり多くを占められているみたいだ。それだけ亜人達の存在は希少と言えるのだろう。
組合には人族やドワーフ族なんかもある程度の割合で居るには居るが、その多くは獣人族という事だった。リーザスタッド王国の大工はほぼ獣人族に支えられているという事らしい。
僕達は獣人族のリーダーで職人組合の組合長だという人物の部屋に通された。
リーダーは老齢の犬人族で名前をデンと名乗った。
僕達はミルドレイク辺境伯の息子キャスバレイクに依頼されて来た事を伝え、色々と話を聞き始めた。
「全ての被害者は自宅ではなく、人気のない場所で行方不明になっているとみられます。冒険者として町の外に出ていた者。木こりをしていて、森に入っていた者。農夫として畑に出ていた者。ほぼ全ての被害者は夜ではなく白昼堂々と連れ去られたと考えられます。」リーダーのデンさんは肩を落としてそう語った。
「では犯行は町の外という事だな?」という事なら街中での捜査は無意味になる。
「いいえ、畑で連れ去られた農夫は街中の畑で誘拐されました。」デンさんはそう答えた。
「町の外で誘拐された者たちの犯行現場は特定しにくいが、畑なら何か痕跡が残っているかもしれない。その農夫の畑を教えてくれ。」他の現場はわからないが、唯一何か痕跡を見つけられるかもしれない犯行現場を、まず最初に捜査するのが得策だろう。
「案内します。」デンさんが連れて行ってくれるらしい。それなら安心だ。
僕達はデンさんに案内されて、町の外れに位置する畑に連れて行ってもらった。
モレスビーの町には門が2か所ある。
僕達が入ってきた町の西に位置する正門。
そして逆側東の開拓村に通じる裏門。
畑はそれらの門から遠い南側の壁沿いにあった。
町の中心地から歩いて1時間ぐらいの所にある。町の中心地はシルエラの町の3~5倍ぐらいの大きさで、聞いた話によると住民の数は約4000人、その中で獣人族の数は約300人という事だった。
誘拐された農夫の畑に着くと、周りを見渡す。
遠くに農作業をしている農夫の姿がちらほらと見える。この距離だと人族なのか獣人族なのかまでは確認できない。
「獣人族の農夫は多いのか?」デンさんに聞いてみる。
「いいえ、獣人族の多くは大工や木工職人をしております。冒険者や農夫等は少数に数えられます。私が把握しているだけでも、この町で農夫をやっている獣人族は後2人だけです。誘拐にあった農夫の家族の者です。」誘拐した人を連れて歩くと目立つ。だから大半の誘拐は町の外で起きているのだろう。なぜ目立つ恐れのある街中で誘拐したのか?
「もしかして、この農夫の誘拐は一番新しい犯行じゃないか?」僕の考えが正しいとするとこの事件が一番最近起きた犯行のはずだ。
「その通りです。昨日起こりました。」デンさんはちょっと驚いた風にそう答えた。
「獣人族の住民達は誘拐事件を警戒して町の外に出る事をやめた。だから犯行場所を町の外から街中に変えたんじゃないかな?」僕は自分の推理を発表した。
「だとするとこのまま町の外に出ない。家族以外の人と接触しない。出掛ける必要がある時は信用できる人と人目に着く場所に限る。っていう事を守っていれば次の誘拐は起こらないはずだ。」多分それで次の犯行は防げるはず。
「すぐに獣人族全員に徹底させます。」そういうとデンさんは町に戻っていった。
僕達はもう少しここで捜査を続けると言ってこの場に残った。
昨日の犯行であればきっと何か証拠が残っているはず。そう思って僕は周りをよく観察した。マリアも部隊長のルイスさんも畑の周りを注意深く観察している。
付近に隠れられそうな場所、誘拐した人を隠せる場所。民家はこの場所からは見えない。建物と言えるものとしては、100m程先にある小屋ぐらいだな。農具をしまっておく小屋だろうか?
その小屋に向かっていくとおかしなことに、その小屋の入り口付近に大量の農具が立てかけてある。
いくらなんでも小屋があるのに外に道具を置いておくことなどあるだろうか?
その小屋の扉を開けてみる。中は何も入っていない無人の小屋だった。
中が一杯だから道具を外に置いたのであればまだわかる。何も入っていない小屋は不自然過ぎる。
マリアと部隊長のルイスさんを呼ぶ。そして小屋の中を調べる僕。部屋の中は埃っぽかった。しかし壁際のあたりは埃がかかっていない。おそらく外に散乱していた農具はこの中から運び出されたのではないか。
なぜ出した?それはこの中に誘拐した人を閉じ込めておいたから。刃物とかが置いてあれば拘束を解いて逃げられるかもしれない。
だから中にあったものを全て小屋の外に出した。そして夜になるのを待って、ここから被害者を運び出した。
今迄事件が起きていたのは町の外。その痕跡などがみつからず、犯人の潜伏場所がわかっていないという事は潜伏場所は町の外だろう。町の中に誘拐した人を連れてきているのであれば門番に見つかっているはずだから。
では逆に今回街中で誘拐した人を外に運び出すとしたら。門番が目撃しているのでは?
「疾風様、小屋の外の道に馬車が通った轍がありました。それと小屋の裏に馬糞もありました。」小屋の外を調べてていたマリアが小屋の中に入ってきて教えてくれた。
『この中変な臭いがする。』バスケットの中にいるモノがしゃべりだした。
「なんの臭いかわかるかい?」僕がモノに聞いた。
『わからない。でもすごく変な臭い。今迄嗅いだことがないよ。』モノはちょっと考えた後そういった。おそらく犯人の臭いか被害者の臭い、もしくはどちらかの持ち物の臭いだろう。
これは良い手掛かりかもしれない。これを辿るか、轍を辿るか。それで潜伏場所がわかるかもしれない。
「犯人はこの小屋で誘拐した人を監禁して、裏に停めておいた馬車を使って町の外に出て行った、という事だな。」僕は自分の考えを話した。
「臭いが辿れそうなら試してみてくれ。」小屋の外に出ると僕はモノにそう伝えた。
『外にはもう臭いは残ってないよ。』モノは残念そうにそういった。
「この轍が続いている先を追えると思います。」マリアはそう言うと轍を追って歩き出した。
僕達はマリアの後について歩いていく。
轍は東側の裏門に向かって続いていた。
農地を縫うようにして壁沿いの目立たない道を抜けて、裏門の近くまで歩いてきた。
裏門の近くは道が石畳に整備されていて、轍は既に追えない状態になっている。
僕の考えが正しければ犯人は裏門から町の外に出ているはずだ。
「昨夜この門を馬車が通らなかったかしら?」マリアに裏門にいる2人の門番に不審な馬車を見かけなかったか聞いてもらう。
「俺達が交替したのが今朝の交替の時間だ。そこからはこの裏門を通った馬車は居ないよ。昨夜担当していた者達はあそこにある詰め所で寝ているはずだ。行って聞いてみてくれ。」門番はそう教えてくれた。門番が居て馬車が通れるものなのだろうか?
「2人とも交替してからこの場を離れたりしていないのか?」通ったのなら門番の目を盗んでという事になるだろう。
「門番は2人態勢だからな、この場を離れる時は必ず1人はこの場に残るようにしている。だから今日は通ってないと断言できるよ。」門番はそう答えてくれた。やはり通ったとすれば昨夜に違いない。
門番にお礼を言って教えてもらった門番の詰め所に向かう。
詰め所では2人の門番が休んでいた。丁度起きてご飯を食べている最中だったので話を聞くことにした。
「昨夜裏門を馬車や人が出入りしなかったかしら?」マリアが食事をしている門番達に聞いてくれる。
「俺たちが立っている間には誰も通っていない。だが実は昨夜ボヤ騒ぎがあってな。住民に助けてくれと頼まれて少しの間だけ裏門を離れたんだ。」その時に通ったかもしれないという事か・・・。
「その間裏門は無人だったという事だな?」門番に聞いてみる。
「そういう事になる。申し訳ない。緊急事態だったんだ。」規則違反を責められると思ったのか門番は暗い表情になった。しかし今そんな事を責めていてもしょうがない。
「わかった。」そう言うと僕達は外に出た。
「門番達がどれぐらい離れていたかはわからないが、その間に門を出たのであれば門の外に轍が残っているかもしれない。そっちを調べてみよう。」僕はそう言うと門に向かう。
門の外に出るとそこには想像通り轍がクッキリと残っていた。今日は馬車が通っていないという事だったので、ここに残っている轍は昨夜裏門を抜けた犯人の物である可能性が高い。
再びマリアが轍を追ってくれる。僕も気配察知で索敵しながら歩く。魔物らしい反応はあるが、固まっている気配は見られなかった。
轍は街道を進んで行く。
しばらく歩くと轍は森の中に入って行った。
草木が生い茂る森の中に続く轍。草が生い茂っているが、倒れた跡から確実に馬車の進んだ道を追っていく。
轍はそのまま森の中を抜けていた。
そして森の中に入ってから1時間程歩いた先で森を抜けるとそこには大きく口を開けた洞窟の入り口があった。僕達は森の木陰に潜んでその洞窟を観察した。
『あの洞窟の中から小屋の中と同じ臭いがするよ。』モノが教えてくれる。
洞窟の入り口には誰もいない。洞窟の奥の方、中には50名ほどの気配を感じられた。洞窟は結構奥まで続いているようで、中の構造まではわからないが何人か固まっている空間が数か所あった。中の空間が驚くほど広いか、何個か部屋のような空間があるのかもしれない。
馬車が洞窟の入り口に停まっていないところを見ると、洞窟の中にまで乗り入れたんだろう。
部隊長のルイスさんは他の隊員を呼んでくると言って洞窟の入り口を離れていった。
マリアにこの場所を見張ってもらって僕は周囲を探索しはじめる。しばらく歩いたが、左右ともに他の入り口は発見できなかった。
洞窟の中の気配は大きく動く気配は無かった。
僕とマリアは洞窟の入り口の前で援軍を呼びに行ったルイス部隊長の帰りを待つことにした。