第35話 スラム街を救いたい男達
魔の週末です。
投稿を始めて既に1か月以上経っていました。いつの間にか・・・。
毎日投稿を始めてから1か月ぐらいですかね。
その間でも週末は全然PVが伸びなくて寂しい思いをしています。
定期的に見ていてくれている方もいらっしゃるので0にはなりませんけどね。
私のような弱小作家にとってモチベの維持が難しくなる週末は不安しかありません。
でも頑張っていきますので皆さまどうぞお付き合いくださいませ。
魔物解体&炊き出し作戦は想像していたよりも多くの人達を巻き込み、大成功のうちに終わった。
最終的にはギルドマスター・サブマスターやミルドレイク伯と息子のキャスもやってきてスタンピード討伐謝恩会の様相を呈してきた。
ギルドマスターがギルドの酒場にあったお酒なんかも提供してくれて、朝までどんちゃん騒ぎをする羽目になってしまった。
目が覚めると柔らかな感触に包まれていた。美味しそうなお茶の香りと頭を撫でられる気持ち良い感触。
目を開けるとマリアの優しい微笑みが見える。
「お目覚めになられましたか?」マリアから優しく話しかけられる。ずっとこうしていたいぐらい。
やけに眩しいな。あぁ外か、昨日は外で宴会になってそのままテーブルで寝たんだった。
「まずはお茶を飲みたいな。」ずっとお茶のいい香りがしてた。マリアが入れたお茶の香りだ。
「はい、準備できております。」身体を起こすとマリアは僕にお茶を入れてくれる。さわやかなお茶の味ですっきりと目が覚める。
昨夜はキャスとスラム街の事について熱く語った。僕が魔物解体の仕事を与えて、食事の提供をしたって話から、キャスが今迄温めていたっていう思いを打ち明けられたんだ。
キャスバレイク・レム・ミルドレイク、ミルドレイク辺境伯の長男で、以前魔物に襲われているところを隊商の面々と一緒に助けた事で知り合った。
内政を中心に領都の統治に関わっているという事で、スラム街の再生を目下の目標として頑張っていると言っていた。
キャスは僕と同い年で今年15歳になったばかり。あまり武芸の才能が無かった為、成人の儀を行うにあたって色々と問題が発生してしまった。まぁその顛末が件の救出劇に繋がっているのだが、今はそれが問題なのでは無くて。
キャスは子供の頃から聡明で領都の運営についての教育を受けていた。ミルドレイク伯が行う政策についても熟知していて、それをいかにサポートしていくかを常に考えているそうだ。
今回の僕がやった事についてもスラム街の住民に仕事の機会を与えられる素晴らしい転機だったと喜んでくれた。
今までも色々な仕事を作りスラム街の住民に与えてきたが、その仕事自体永続的に与える事が出来無くて、住民の安定した生活の基盤には繋がらなかったそうだ。
しかし今回のような仕事は、これからも永続的に続けていくことが可能だという事でキャスからとても感謝された。
どうしていけば継続的に運営していけるか、その他の生活サポート等に関しても色々と朝まで2人で議論していたんだったな。
そして最終的に理想の為にはどれぐらいのお金が必要か、っていうところで頓挫してしまって現在に至るっていうところだ。
キャスは今テーブルの向かいの席でいびきをかいて寝ている。
これは起こすべきなのかなぁ?
他のテーブルを見ると半分ぐらいの人は既に帰っており。ギルド職員とスラム街の住民達でテーブルの片付けを始めているところだった。
席を立ちキャスの肩に手を置き軽く揺する。
「そろそろ起きろー。一緒に片付けられちゃうぞ。」反応がないただのしかば・・・。いや、起きたかな。何か言ってるぞ。
「猫耳は好きなんだがなぁ。」なんの夢みてんだこいつ。そりゃ猫耳はいいだろうけどさ。俺も好きなんだが。
「おい、キャス起きろ。」さっきより強めに肩を揺する。
ガバッ!テーブルから跳ね起きて大きく息を吸うキャス。
「良かった。空気がある・・・。」だからどんな夢みてんだよ。
「そりゃ良かったな。そろそろ片付けするみたいだぞ。お前も一緒に手伝え。」昨晩熱く語り合った仲だ。もう貴族とか関係ない。キャスからも頻りに『俺たち友達だよな!?』って確認されてたから。多分もう友達って事で良いと思う。
勝手に片付け手伝わせたらお父様に怒られそうだけど、そこは社会勉強って事で許してもらおう。
テーブルの上を片付けて、テーブルと椅子をギルドの倉庫に運んでいく。
昨日解体をしていたギルド職員やスラム街の代表も一緒に片付けをしていた。
スラム街の代表の男が近付いてきて僕に声を掛けてきた。あ、因みにこの背の高い人はマッシュっていう名前だそうだ。
「昨日はありがとうございました。スラム街の皆を代表してお礼をさせて頂きます。」僕に向かって深々とお辞儀をしてきた。
「解体の仕事はまだ残ってるぞ。今日も人を集められるか?」ギルド職員の人もうんうんと頷いている。まだまだ解体すべき魔物の死体は山積みだ。オーク肉もがっつりある。
「勿論です!!皆解体の作業も慣れてきたところです。仕事をさせて頂けるなら全員連れて窺います!」マッシュはそういうとキャスにも頭を下げて皆の元へ走っていった。キャスは以前からスラム街の件に関わっているのでマッシュとは顔見知りなのだそうだ。
今日も解体&炊き出しをやるからテーブルと椅子、炊き出し道具類はある程度残しておいた。
「キャス、今日も魔物解体と炊き出しをするけど見ていくか?」一応キャスに聞いてみる。
昨日はギルドの仕事をミルドレイク伯と一緒にやってたから、今日も引き続きそっちかもしれないけど。スラム街の事についての話ももう少し詰めたいし、キャスが来れるならありがたい。
「それについてなんだが、疾風ちょっと俺に付き合てくれないか?」男には興味無いんだが、多分そういう意味じゃないだろうから付き合っても良いかな。
「解体作業が始まる前でいいか?」途中で抜けるのはちょっとまずいからね。一応責任者的な立場だし。
「あぁ。時間はとらせないよ。」そう言うとキャスはこっちこっちと僕をギルドに連れていく。
ギルドに着くとマリアはケイトさんに呼ばれて昨日に引き続き事務作業に駆り出された。キャスは3階の奥にある会議室に向かっていく。
会議室に入るとミルドレイク伯がギルドマスターと一緒に書類仕事をしているところだった。
「父上失礼いたします。」キャスがミルドレイク伯に声を掛ける。
「おぉキャス、それに疾風も。昨日は色々すまなかったな。この町の最大の問題だった、スラム街の住民の雇用先問題の答えが、こんな形で出るとは思わなかったぞ。キャスが以前から一生懸命になって取り組んでくれていたことだからな。」ミルドレイク伯は立ち上がるとキャスと僕の肩をポンポンしながら笑顔でそういった。ポンポンというよりはバシバシだった。むしろドカンドカン。
「昨夜疾風と、昨日からの魔物解体の件も含め、今後のスラム街の再生計画を色々と話し合いました。今は色々とお互いに忙しいと思いますので、今度お時間を頂いてこの計画についてご相談したいのです。」キャスは真剣にミルドレイク伯に訴えた。
「勿論だとも。スラム街の再生はこの町の重要課題の一つだ。是非とも成功させてほしい。この仕事が片付いたら早速会議を開こうじゃないか。」ミルドレイク伯は大歓迎という感じで聞いてくれている。僕とキャスは互いに顔を見合わせ頷きあった。
「ではそのようによろしくお願いいたします。本日は疾風と一緒に魔物の解体と炊き出しを担当いたします。」キャスは貴族っぽい洒落た動作で軽く頭を下げる。エレガントだ。エレクトーンだっけ?エレキング?
「おう、よろしく頼む。疾風キャスをよろしくな。」ミルドレイク伯は僕に向かって片目を瞑って見せた。ちょっとドキっとした。親子そろって僕を狙ってるのかもしれない。まぁそんなわけはない。知ってる。
ミルドレイク伯に挨拶を済ませると2人で門の広場まで歩いていく。今日は解体の仕事は早々に任せて、昨日の内から仕込みを始めておいたベーコンを完成させたいと思っている。
昨日に引き続きギルドの職員が解体を指揮してくれている。あ、この解体担当かどうかは知らないけど解体してくれる職員さんはガンドさんって言うらしい。いい加減名前で呼んであげないと可愛そうって思ってきたので呼んであげる事にした。
今日もスラム街の住民は全員で解体&炊き出しを手伝ってくれるということだった。
ガンドさんとマッシュに後は任せたとだけ断って。僕とキャスはオーク肉を大量に抱えて炊き出し班の元へ向かう。
ちなみに昨日解体した大量のオーク肉は、マリアが覚えたての氷魔法で凍らせてくれているので今日明日ぐらいは持ちそうだ。
炊き出し班は昨日と同じ面々であった。女性中心の頼もしい面々だ。なかには以前食堂で働いていたという人もいた。今回はその、名前はセレナさんというんだが、その人に僕の知っているレシピを何個か伝授して、昼・夜と作ってもらおうと思っている。
僕は大量の塩水に、砂糖と香草を入れて漬け込んでおいたオークのバラ肉を、塩抜きして燻製にする作業が待っている。意外と簡単だが、量が量だけに一日がかりになりそうだ。
今日の昼はオーク肉のハンバーグとパスタを作ってもらう予定。セレナさんに作り方を説明して、簡単に見本を見せていく。大量に作ってもらうだけにしっかりと覚えてもらいたい。
パスタに関してはスープを合わせてスープパスタにしてもらう予定なのでスープの味の濃さはちょっと薄めで少し粘度があるポタージュを頼んでおいた。かぼちゃがいっぱいあるからかぼちゃのポタージュがいいねって。
という事で僕はキャスを連れてベーコン作りを始めた。まずは昨日から漬けてある肉を真水に2時間ほどさらして塩抜きをする。
その合間にパスタの捏ね方やハンバーグの味付けについて指導していく。まぁ指導とかいうと偉そうだけど、元々料理の出来る人達なので簡単な指示ですぐに僕がやりたいことを理解してくれていた。とても頼もしい。今後も頼りにしたい。
昼ごはんを食べたら次は燻製作業。
燻製は干し肉を燻製する小屋を貸してもらった。ちょっと小屋が大きいから時間が掛かりそうだが、昼から夜まで燻せば充分だと思う。
燻製には入れ終わったお茶の葉を使う事にした。毎食マリアがお茶を入れてくれるから結構出涸らしが溜まっていた。後で燻製を作るためにとっておいたんだ。おばあちゃんが教えてくれた。サクラチップが個人的には好みなんだけどね。
そして燻製している間に夜の仕込み。
夜ごはんには角煮を作る予定だ。醤油がそれほどないから、下茹ではお水と野菜くずだけで一回お湯を捨てて、少し薄めにたれを作りそこで蓋をして長時間煮込んだ、最終的に濃く煮詰まって結構甘めな美味しい角煮になった。八角とかあると中華風で美味しい風味に仕上がるんだがなぁ。
まぁ近いうちにまた醤油を仕入れにユガーラへ行きたいな。
解体作業もだいぶ片付いてきていた。明日には全て解体し終わると思う。
あ、あと町の住民が戻り始めていた。
既に町もだいぶ活気を取り戻してきている。
他の町から来てくれていた冒険者や王都の兵士たちも報酬を受取り、それぞれの町へと帰っていった。
そして晩御飯にはオークの角煮と美味しいパン!
パン職人が帰って来たので早速作ってもらったんだ。このパンがあれば主食はとりあえず安心。
パンに角煮を挟んで食べたら凄く美味しかった。
そして楽しみにしていたベーコンも良い感じに燻された。
塩漬けが短いからあまり日持ちはしないけど、スラムの人達に給料替わりに持たせてやるには良いと思う。
簡単に炙るだけで美味しく食べられるしね。
そして近いうちにミルドレイク伯としっかりと相談して、スラム街再生計画を始動させるつもりだ。
資金は・・・。なんとか搾りだす。昨夜キャスと話し合って概算出したけど、きっともっと詰められるはずだ。2人だけじゃなく多くの人から知恵を借りればきっと上手くいく。