第32話 領都防衛
ちょっと真面目な展開が続いています。
だからたまにふざけます。空気が読めないおふざけだった場合はごめんなさい。
元々空気が読めない性格なのでよく失敗します。
西の森に入って13日が経過した。金曜日かどうかはもうわからない。
毎日頭の隅で気配察知を使いコロニーの動きを追っている。それと同時にマリアと談笑したり、お肉を調達しに行ったり、料理をしたり、ぐっすり寝てみたり。割とダラダラと過ごしている。
緊張感無さ過ぎなのは自覚している。でもしょうがない。だって監視して待つだけなんだから。
そういや、マリアが色々と魔法を覚えたらしい。まずは水属性魔法の身体強化【プロテクション】水の魔力で身体を覆い防御膜を張るというもの。隊商の警護兵の副リーダーが使っていたっけな。
攻撃を完全にカットするわけでは無いので過信は禁物だが、確実に役に立ってくれるだろう。
その他、攻撃系の魔法に関しては多分できるだろう、っていう所まで仕上げたみたいだけど、派手に音や衝撃が出てしまうとコロニーを刺激しそうだからと控えて貰った。
攻撃系以外で言うと、単純に水を生み出す事もできるので、待機生活中毎日その水を役立たせてもらっている。
魔法石で水を出す魔道具もあるんだけど、出る量が違うからね。魔法石の方は大きな鍋をいっぱいにするのに5分ぐらい放っておかないといけないぐらいだからね。
魔法で出せばほぼ一瞬でいっぱいになる。魔法って便利だなぁ。
因みにマリアは僕とは逆で身体強化よりも攻撃系の方が得意なようだ。攻撃系っていうか具現系?身体に魔力を巡らす事よりも具現化した魔力を操る能力が高いっていうのかな。
かなりの量のお水を出してもらっても全然魔力量に響いてないらしい。
前回ゾンビやスケルトンやゴースト相手に戦った時にもウォーターアローを連発していたけど、全然魔力が枯渇する感覚は無かったそうだ。
弓が使えて魔法も出来て、マリアは凄いなぁって関心している。
そう言ったらマリアが「疾風様の方が素晴らしいです!スケルトンをぐるんぐるんと投げ飛ばした時なんて、すぐにでも抱きつきたい衝動を抑えるのに精一杯でした!!」ってベタ褒めしてくれた。ちょっと褒め過ぎだと思うけど悪い気はしない。マリア大好き。
こんな感じでのんびりとバカンスでも楽しむかのように日々を過ごしていた。今度遠征行くときはデッキチェアみたいなの持っていくかな。いや、そもそもこの世界にあんな感じの家具売ってるもんかな。
っていうか普段の遠征でこんなのんびりバカンス気分は楽しめないだろう。っていうか今楽しんでるわけじゃないんだよ。緊張感もって監視してるんだよ。
ってほら、言ってる傍から様子がおかしいぞ。
「マリア、コロニーの様子がおかしい。ダンジョンに戻ったコロニーの交替が出てこない。次々とコロニーがダンジョン内に戻っている感じだ。」コロニーの気配が一斉にダンジョンに向けて戻っていっている。
「多分スタンピードがはじまります。」マリアも緊張した表情を浮かべる。
マリアに魔道具で報告を入れてもらい、急いで荷物を纏めると僕達は速足で領都へと戻る。
行きはこの場所まで約8時間かかった。
今の太陽の位置からみて、日が落ちる前までには辿り着けるだろう。
僕らは休憩を挟まず、交替で領都へと急いだ。
領都に着くと門の前にはたくさんの人が居て、忙しそうに作業を行っていた。
門の前の拓けたところに木製のバリケードがぎっちりと置かれていて、その後ろには櫓を組んで大きなバリスタが10門設置されている。壁の上には櫓が何個も組まれていた。
僕達が帰ると皆から「ご苦労さん!」「準備はもうすぐ整うぞ!」と声を掛けて貰った。
門を潜ると僕達はギルドへ向かい、出迎えてくれたケイトさんに案内され会議室へと通された。
会議室には対策本部が設置されていて、ギルドマスターとミルドレイク伯が中心となって次々に指示を飛ばしていた。
「ご苦労だったな。報告を受けて最終準備を整えている。お前たちは少し休んでくれ。明日にはお前たちにも守備隊に参加してもらう予定だ。」ミルドレイク伯が僕達に労いの言葉をかけてくれる。
「住民の避難は終わったのか?」僕がミルドレイク伯に聞くと、ギルドマスターがそれに答えてくれた。
「ほぼ全ての住民は避難が終わっている。スラム街には避難を拒否して残っている者たちが居るがな・・・。」ミルドレイク伯が辛そうな表情を浮かべる。
「スラム街のやつらはここを出ても居場所がないんだ。避難場所まで歩く体力すらない。」スラム街ってまだ僕は行ってないけど、結構酷い環境なのかもしれないな。マリアがスラム街に住んでたって言ってたけど、今度スラム街について聞いてみよう。
「では壁が破られればスラム街の人間は無事では済まんな。」僕の言葉でミルドレイク伯がうなだれる。
「俺もなんとかしたいとは思ってるんだ。でもスラム街の問題はなかなかに難しい事が多いんだよ。」ミルドレイク伯は辛そうにそう言った。
「ならばそうならないように守るまでだ。」僕はそう言うと部屋に戻った。
一晩ゆっくりと休息をとり、僕達は門の守備隊の1部隊に配属されることになった。
近隣のギルドから集められた冒険者の数は約300名だった。
魔法や弓が使えるものは壁の上や、バリケードの後ろに設置された櫓から攻撃する防壁部隊。近接攻撃が得意なものは門を守る守備隊へと配属されている。
守備隊は主に領都のクランメンバーが中心になって率いていて、僕が配属された部隊にはギルドの酒場でよく会う冒険者が何人か配属されていた。警戒任務に向かう朝に声を掛けてくれた冒険者もいる。
「アルカディア、警戒任務ご苦労様。この隊の隊長をすることになったアバランチのリーダーを務めているランディだ。よろしく頼む。」ランディさんっていうのね、会議の時に質問していた青白く光る鎧の怖い顔の人だ。怖い顔だけど笑顔で僕達を迎えてくれた。
「よろしく頼む。」固い握手を交わす。
「おいおい、なんだこのガキは?住民の避難はまだ終わってねーのか?」同じ守備隊のメンバーだろうか、なんだかうすら笑いを浮かべて僕に絡んでくるやつがいる。品がないな。他の町から応援にきた冒険者かな?
「彼らはアルカディア、住民じゃない冒険者だ。同じ隊になるんだ、揉め事はよしてもらおうか。」ランディさんが間に入ってくれる。
「そんな事言われてもこんなガキと一緒に戦えるかよ!!そんなガキに背中任せられるわけねーだろ!!」絡んできた奴は突然キレはじめた。
「そうか、なら別の部隊に配属してもらうまでだ。邪魔したな。」揉め事は困る。別にどの部隊にいてもやることは変わらない。ケイトさんにお願いして変えて貰おう。
「おい待てクソが!てめえなんかが戦場に出てくること自体邪魔だって言ってんだよ!!さっさと帰ってママのおっぱいしゃぶってろって言ってんだクソガキ。」どうしても気にくわないらしい。こういう血の気が多いやつと会わなかったから冒険者自体紳士な職業なのかと思ってた。
ミルドレイク伯のおかげでこの領都の冒険者のマナーが良いだけなんだね。やれやれ。
【ブチンッ】何かが切れる音がした。マリアがそいつに掴みかかろうと前に出ようとする。
それを僕は手で制した。マリアはこんなやつ相手にしなくていいよ。
「いつ戦いが始まるかもわからないこんな緊急時に、お前はなにがしたいんだ?その無駄な体力は本番までとっておけ。」僕は冷たい目を向ける。だってこいつバカみたいなんだもん。
「んだとこらっ!!」沸点が低すぎるのか、怒りが頂点に達したバカが殴り掛かってくる。とってもスローモーションな動きで。
どうすっかなぁ、怪我でもさせたら問題だよな。こんなやつでも貴重な戦力の一人なんだからさ。怪我させないで大人しくさせるにはどうしたらいいんだろう。まぁいっか。
殴り掛かってくる腕をとり投げ飛ばす。真上に。
【スババババババババババッ!!!】派手なSEと共に真上に向かってグルングルン回転しながら飛んでいくバカ。バカと煙は高いところが好きってね。
横にそのまま投げたら壁や木に当たって粉々になっちゃうからね。ぐるんって僕の身体ごと回転させて真上に向かって投げてみた。
やってみたらできるもんだな。
グルングルン
やっと落ちてきたかな。
【ウィンド】地面から上に向かって風を起こす。
グルングルン
落ちてきた。その身体を受け止めるように強く風を吹かせて、段々弱めていく。
すとん。無事着地。
「おい、このバカの保護者は誰だ?」多分怪我はしてないだろうけど、一応治癒魔法をかけておく。
冒険者の中から同じパーティーの人間だろうか、2人の男がでてきてバカを引きずっていく。
「これから大量のゴブリンがやってくる。無駄な体力や魔力は使うな。そいつが起きたらしっかり教育しておけ。」顔面蒼白になったバカを引きずる冒険者が「はいっ!!!」といい返事を返してきた。周りの冒険者達も小さくなっている。まぁ良い薬になっただろ。
力は正しい事に使わないといけない。
明日は厳しい戦いになる。
そんな予感がする。