第2話 泉を守る精霊
週末で時間がとれたので少し多めに投稿します。
やっとここまで載せることが出来た・・・。
ゴブリンの死体を前にして色々な事を考えていた。他者の生命を奪う事について。この世界で生きていくという事。この世界の事。そして先程聞こえたゲームのSEみたいな音。パンダは可愛いって言う事。
ホント色々考えた、考え過ぎた挙句ちょっと疲れた。
うん、帰ろう。とりあえず拠点に帰ることにした。
ゴブリンが大事そうに最後まで握りしめていた短剣を引き剥がすとそれを使って地面に穴を掘る。頑固な鍛冶職人だったらこめかみに青筋立てて怒り出しそう。「わしの作った武器で地面を掘るなどけしからん!」これだから頑固なドワーフは困るなぁ(勝手なイメージ)。
穴掘りって意外と疲れるんだね。小さいゴブリを埋める穴ですらこんなに時間と体力を奪われるんだ。穴を掘るだけで結局1時間ぐらいかかった。
いい感じに埋まりそうな穴が掘れたところでゴブリンを穴に入れていく。吹き飛んだ頭頂部も拾ってきた。
掘り返した土で穴を埋めていく。掘っている時とは反対に割と簡単に埋まっていく、当たり前だがゴブリンの体積分だけ土が余るので、こんもりと小山ができた。山の上に短剣を刺してお墓にしようとしたが、何も持たず着の身着のまま異世界に来てしまったので刃物ぐらいは欲しいところ。サバイバル的にね。
ゴブ吉には悪いが盾と共に短剣も持ち帰らせてもらおう。戦利品って事で彼も許してくれるだろう。っていうかこの盾と短剣もきっと人間の冒険者から奪ったものなんだろうし・・・。
というわけで盾と短剣を無事ゲットした僕は泉に向けて歩き始めたのであった。
泉に向かって歩いていると、ひどくお腹が鳴った。随分とお行儀の悪いお腹である。
いや、そりゃそうだよね。お腹が減ったからコンビニに食べ物買いに行って、その帰り道にそのまま異世界に来ちゃってんだもん。
とりあえず拠点に戻ったらおにぎりでも食べて落ち着こう。でもその前に手が洗いたい。戦闘の返り血でベタベタな上に、穴掘りで両手というかもう全身泥だらけの汗だらけだし、まずは泉で綺麗に洗いたい。
そんなこんなで拠点の泉に戻ってきた。もうなんか全身汚れてるからこのまま服脱いで泉で水浴びしてしまおうか。でもこんなに綺麗な泉に入って水を汚してしまっていいものだろうか?そんな考えが脳裏に浮かぶ。
買い物に出かけた時の恰好。制服の上に迷彩柄のウインドブレイカーを羽織り、アフガンストールを首にぐるぐる巻いたスタイル。
ストールは顔を隠せるのでほぼ1年中首に巻いている、前髪も目を隠すように長めに垂らされている。人と顔を合わせたくない自分なりに選んだ格好だ。
ウインドブレイカーは夕方の買い物だったので出掛けに羽織ってきた。海沿いの僕の住む町は日が落ちると風が冷たくなるからね。
今まであまり意識しなかったが、こちら(異世界)の気温は高めのようだ。裸で水浴びをしても問題なさそうなぐらい暖かい。まぁおかげで汗だくになったわけだが・・・。
返り血やドロで汚れた上着も洗いたいし、何よりも汗でびちゃびちゃだから身体も洗いたい。思い切って水浴びさせてもらおう。
意を決して服を脱ぎ捨てる、汚れたウインドブレイカーと汗で濡れたインナーは身体と一緒に洗ってしまいたいので泉の傍に置いて入る。泉の畔に丁度いい台?テーブル?の様なものがあったので置かせてもらった。
泉の水は冷たいが我慢できない程ではない、火照った身体にはむしろありがたいぐらいだ。
浅そうに見えた水深も腰ぐらいの深さがあった。身体を屈め全身を泉に浸す、水中で目を開けてみるとあり得ない程視界がはっきりとしている。水が綺麗だから?いや、こんなのあり得ない。まるで水の中じゃないぐらいはっきりと見えてる。これはどういう事だろう?
いくら考えても理解に苦しむ。異世界だから?
立ち上がって顔を水中から出す。確かに泉に潜っていたはずだが不思議なもんだなぁ。
そんなことを考えながら汚れた部位をゴシゴシと手でこする。髪の毛もだいぶ砂ぼこりで汚れたはずだから前かがみになり頭だけ泉につけてワシャワシャと洗う。頭を勢いよく上げ水がバシャーーっと後ろに飛び散る。なんかCMみたい。
『精霊神が守護する泉で全裸で水浴びをする美男児。絵になるなぁ~。いやいや、そういう場合じゃないじゃろ。なんで人族の男児がこの泉に入れるんじゃ?この神域に踏み入れられるのは、精霊との親和性の高い高位のエルフ族か、人族でも聖女と呼ばれる特別な者だけじゃというのに。この緊急事態に儂大混乱なんじゃが。』
最初の方は自分の頭の中で勝手に独り言を言ってるのかと思った。だが段々自分の言葉じゃないおかしな台詞が続いたので僕も大混乱なんだが?
「おい、誰かいるのか?」「誰が美男児だって?」声に出して周りを見渡す。
『な!?なんじゃと?儂の声が聞こえるじゃと?』僕が服を置いた台の方から声が聞こえてきた。そちらへ顔を向け注意深く観察する。
あ、居るなぁ。よく見ないと見えないぐらい淡い存在。実際にそこに居るのかどうか、自分ではっきりと居ると認識しないと見えないぐらいの淡いシルエット。でも居ると認識すればはっきりと見えてくる。12~3歳ぐらいの、髪の赤い女の子が台に座ってこちらを見ている。
「おまえは誰だ?少女よ。何処から来た?」少し顎を上げて見下すように見ながら声を掛ける。
『なにっ!?声が聞こえるだけじゃなくて見えてもいるじゃと??儂の姿を見る事ができる人族など初めてじゃ。いやいやいやそうじゃない、お前様こそ誰なんじゃ?どうしてこの泉に入ってこれた?ここは一般の者が立ち入れるような便利な泉じゃないはずなんじゃが?』
「俺の名か?俺の名は火神疾風、疾風と呼ぶことを許そう。」とりあえず自己紹介からしてみよう。勝手に泉で水浴びして汚したのとか怒られそうで怖い。いや、相手は少女だけど・・・。
『火神疾風か。いや、そうじゃない。名前を聞いたんじゃなくてじゃな。どうやってこの泉に入れたのか聞いたんじゃが・・・?火神か、いい響きじゃな。』【ぽっ。】少女の頬がちょっと赤くなる。
「どうやって入ったと言われても、買い物帰りに海岸を歩いていたら光にのまれて、気が付いたらこの泉の前に立ってたんだが。」僕はそんな事言われても困るんだが?という感じの何とも言えない表情で答えた。
『海岸?ここは内陸じゃ、海まで歩いたら数週間はかかるぞい?気が付いたら泉の前に居たじゃと?』少し考えこむ少女。『なんと面妖な事じゃ。転移魔法の類かのぉ?』
「とりあえず・・・。こちらをじっと見てるのをやめてくれないか?裸を見られて喜ぶ趣味は俺には無いのでな。」僕全裸だった、今気付いたらめちゃくちゃ恥ずかしくて顔真っ赤なんだけど・・・。とりあえず後ろ向いてくれないかな?と思って頑張って言ってみた。
『儂は気にせんぞ?水浴びを続けながら話を聞かせるがよい。』少女はニヤニヤしながらそう答えた。
なんだろ。僕も随分偉そうだけど、この少女凄く偉そう。王様か何かかな?まぁ仕方ない。
「そうか・・・。多分ここは異世界なんだと認識している。異世界と言われて少女には理解できるか?」どうしても後ろを向いてくれる気は無さそうなので諦めて話をつづけた。男の身体に興味を抱く年頃なのかなぁ、困ったなぁ。幸い腰までは水の中だし、なるべく正対しないようにして、極力下半身は見えないように立とう。
『異世界じゃと!?異世界から転移してきたと申すのか?稀にそのような事が起きるとは知識としては知っているが・・・。少なくとも儂が実際に見てきたこの数千年では見たことも聞いたことも無いのぉ。』え?今数千年って言った?実際に見てきたって言った?
「数千年?そんな年寄りには見えんが?」僕はホントパニックでおかしくなりそうだが、いかにも狼狽えていませんと言わんばかりに平静を装って聞いてみた。
『そうじゃ。正確にいうならば、3600歳になるな今年で。』少女は無い胸を張って少し誇らしげにそう言った。
え?今とんでもない数字聞いた。今3600歳って事?おばあちゃんじゃん。
『おばあちゃんとは酷い言われようじゃな。儂などまだ若い方じゃぞ?ノームのじいさんなんて8000年ぐらい生きておるし、一つ上のシルフ姉さんでも5000年近く生きておるしな。それよりお前様、さっきから心の言葉遣いと実際の言葉遣いに開きがあり過ぎてギャップ萌えなんじゃがどうにかならんか?』
「なんだと?心の言葉遣い?いや、おばあちゃんって口に出してた?ホントごめんなさい。見た感じ凄く可愛い女の子なのにおばあちゃんとかなんかそれこそギャップ萌えなんですけど。ってかこの世界でもギャップ萌えとか言うんですか??」もうなんか混乱して心の声と言葉がゴチャゴチャになって本音が出てしまった。こんな風に人と本音で話したのなんておばあちゃんがまだ意識があったあの日以来だ。なんかちょっと嬉し恥ずかし大好きかも。
『やっと心の声とリンクしおったようじゃのぉ。自分に正直になるのは良い事じゃよ。』少女は嬉しそうに微笑んだ。凄く可愛い顔で。
『そうじゃ自己紹介がまだじゃったな。わしの名はサラマンダー。この世界を守護する精霊神の一柱よ。そしてここは精霊神が守護する神柱の泉じゃ。儂ら四柱の精霊神で守護しておる。いやここに居ればこの世界全体を守護できるって意味じゃよ?何もこの泉だけを守護しておるわけじゃない。だからそれだけこの泉が神聖な場所じゃというわけじゃ。そんな神域に人族の美男児がおったわけじゃ。しかも全裸で水浴びをしておった、これを見逃すわけにはいかんじゃろ。お前様がなぜこの神域に入れるのかという謎は置いといてじゃ、お前様には特別な何かを感じるんじゃ。特に名前じゃな火神。』
「火神は名じゃなくて家名だよ。名は疾風。こちらの世界では名が先にくるのかな?だとしたらハヤテ・カガミって事になるのか。」
『いや、問題にしてるのは名とか家名とか言う事じゃないんじゃ。火神という名。この名に何か力を感じるんじゃ、儂を虜にするというか・・・。何か意味のある名なんじゃろうか?』
「あぁ、そういう事か。火神という名は火の神と書くんだ、僕の世界というか僕の国の言語で。」
『なるほどそういう事か。名は体を表す。名前の持つ本来の意味で体を構成される。お前様の名が火の神じゃから火の精霊神である儂が心惹かれるんじゃな。そして神じゃからこそ、この神域に足を踏み入れることができたわけじゃ。不思議なこともあるものよなぁ。』
「え?僕神様になっちゃったってこと?流石に神様になりたいなんて思った事無かったんだけどなぁ・・・。」
『まぁ流石にまだ神にはなりきっておらんよ。これから積む徳次第じゃろうな。神にまで昇華する程の徳なぞ数百年で詰めるものじゃないじゃろうがな。しかし既に神域に入れる程の徳は積んでるわけじゃ、そう遠い未来ではないかもしれんな。』目を細めながら少女は僕の身体を上から下まで舐めるように眺めていた。
いや、俗物過ぎんだろ精霊神!!
週末にある程度書き溜めたので今週も少し多めに投稿していければいいなーと思ってます。
物語はまだ始まったばかりですが、どうぞよろしくお願いいたします。