第26話 新たなスタート
第2部突入でございます。
この1話で何度も書き直ししていて、どうしても先を書けずにいました。
とりあえずこれで落ち着いたので、先を書いていこうと思っています。
しかし残りストック1・・・。
もしかしたら週末は少しお暇を頂くかもしれません。
大きくは無いが、窮屈でもない。真っ白い磁器で作られた円形のバスタブは快適だった。
足を延ばして両手をバスタブの淵に掛ける。
だらーんとしてゆっくりとバスタイムを満喫していた。
日本人はやっぱり風呂だなぁ。
シルエラの町は良いところだったけど、風呂が無かったからなぁ。
まぁ普通の宿屋さんでお風呂まで求めちゃダメなんだろうな。日本じゃないんだからさ。
でもこうやってお風呂のある生活を送ってしまうと、どうしても風呂が欲しいと考えてしまう。この領都で部屋が借りれるならお風呂付が良い。
少しぐらい家賃が高くても頑張って働けばいい!!
これは向上心につながるな。
そんな事をしているとドアがコンコンとノックされる。
しまったなぁ今裸だし。
「ちょっと待ってくれ。」とりあえず声だけ掛けておく。
立ち上がりバスタオルを手にすると。
ガチャッ。扉が開かれる。
「!?!?」言葉にならない叫びをあげバスタブに飛び込む僕。
「失礼しました。お世話が必要かと思い勝手に入室いたしました。」マリアが頭を下げる。絶対失礼だと思ってないよね?
「ちょ、ちょっと向こう向いててくれない?」後ろを向きながらそういった。
「大丈夫です。向いております。」全然向いてないよね?目が合ってるよね?
「ホント少しだけ向こう向いて?」ちょっと強めにお願いする。
「わかりました。」マリアは寂しそうに背中を向ける。ため息交じりに。やれやれって感じで。
いや、それぐらい聞いて?
僕は急いで身体を拭き服を着る。
「お風呂ぐらいゆっくり入らせてよね。」ぷんぷん。僕はマリアに激しく抗議する。
「疾風様のお世話が私のお仕事でございます。」マリアはそう言うと、お風呂の後片付けをしてくれる。
「もう大丈夫なの?」さっきまで近衛兵の葬儀を行っていた。マリアもそこに参加していたはずだ。
「滞りなく終わりました。この後は晩餐の席が用意されますので少々お待ちくださいませ。」テキパキと片付けをしながらマリアが教えてくれる。
「わかった。」そういうと僕はまたテラスに出た。
すっかり日が暮れて、外は涼しい風が吹く。
風呂上りにはとても気持ちがいい。
のんびり夜風に吹かれているとドアがノックされ、マリアがそれに対応してくれる。
「お食事の準備が整ったそうです。ご案内いたします。」マリアが迎えに来てくれた。
食堂は用意して貰った部屋からそう遠くはなかった。この屋敷の規模からして部屋数も相当あるだろう。
食堂だけでも何個かあるんだろうなぁ。
屋敷の横幅だけでも豪華客船より大きいぐらいの大きさがあるんだから・・・。
食堂に入ると僕の席へと案内された。隣にはレイ隊長が座った。
隊商の他のメンバーも席を用意されて同席していた。
しばらくするとミルドレイク伯とキャス、そして女性が一人ミルドレイク伯の隣の席に着いた。おそらく奥様だろうな。
「今日は皆ご苦労であった。心ばかりだが夕餉を用意させてもらった。今夜はたっぷり食べて飲んで疲れを取ってくれ。」ミルドレイク伯がそう言うと、レイ隊長や隊商の面々は「おーーーー!」と叫び盃を掲げる。
僕もこそこそ真似をしてみる。「ぉー!」
レイ隊長がこっそり僕に言った。「普通の貴族なら隊員達を同席なんかさせちゃくれないんだぜ。なんなら俺だって同席なんか許されねえ。俺だって貴族とはいえ領土も持たないエセ貴族だからな。」なるほど普通そんなものなのかぁ。貴族の世界ってわかんないもんだなぁ。
「ミルドレイク伯はそんな俺たちにも平等に接してくれる。本当に良い人なんだ。」レイ隊長はそう言うとがっはっはっはっは!と豪快に笑った。
今日実際に会ってみて、色々なところで聞いていた通り、ミルドレイク伯って人はとても良い人柄なんだなと思っていた。
この領都を拠点にするっていうのは正しい選択かもしれないな。
「疾風、まだ旅は続けるのかい?」僕の向かいの席に座るキャスが話しかけてきた。
「いや、しばらくこの町に滞在しようと思っている。」僕はそう答えた。ユガーラの町ではとりあえず領都まで旅をするとしか言ってなかったからね。旅の目標なんかは話していなかった。
「明日にでも冒険者ギルドに行って仕事を探してみようと思う。」そう付け加えた。
「お?疾風は領都で冒険者やってくれるのか?」ミルドレイク伯がなんだか食いついてきた。
「あぁ、そのつもりだ。」食いついかれたので僕も食い気味にそう答えた。
「それはありがたいな。ミルドレイク領では今多くの冒険者を募ってるんだ。街道には多くの盗賊が蔓延ってやがるし。領都の近くにあるダンジョンも、近くスタンピードが起こるんじゃないかって囁かれている。人手は出来るだけ多く欲しいんだ。」そういえばシルエラの町でもそんな話聞いたっけ。ミルドレイク伯が領兵や冒険者を大量募集してるって。
「仕事があれば俺も助かる。」当分遊んでは暮らせるぐらいのお金はあるけど、蓄えは大事だからね。
生活の基盤は欲しい。安定収入万歳。それが人助けになるなら尚の事大歓迎だ。
「こいつはシルエラで盗賊退治なんかもしたらしいぜ。町の皆から大感謝で送り出されてたよ。」レイ隊長がミルドレイク伯に話した。
「オリバーから報告を受けてるよ。お前が片付けてくれたのか。マリアやキャスの事だけじゃなくってそれにも感謝しないとだな。」ミルドレイク伯は僕に向かって笑顔を向けた。
「お前がこの町で仕事をしてくれるなら指名依頼もさせて貰うだろう。その時はよろしく頼む。」確実に仕事を貰えるのはありがたい。
「俺の中の正義に反する事では無い限り、なんでも受けよう。」お仕事お待ちしてます。ぺこり。安定収入万歳。
「正義か。良いねぇ、好きだぜそういうの。」ミルドレイク伯は満足そうにお酒を飲みほした。
まぁこの人が持ってくる仕事なら大丈夫だろ。ちょっと指名依頼って響きに憧れてたし。
という感じで僕が領都で冒険者するっていう事が決定した。お仕事募集中です。
そういえばこの食事の席で、今回の報酬についての話があったんだ。キャス御一行を助けた事なんかについてのね。
隊商だけじゃなく僕にもって話になってたんだけど、丁重にお断りさせて貰った。
だって僕は既に貰ってるからね。マリアっていう大事な家族を。
今日も食事の間中マリアは僕に付きっきりでお皿を下げたり料理を持ってきたりと色々お世話をしてくれた。
夕食後、部屋に戻るとマリアがお茶を入れてくれる。
「マリア、これから一緒に生活をするにあたって幾つかルールを決めたいんだ。」僕は今迄気になっていた事をなんとかしたくて、マリアとじっくり話し合う事にした。
「私は全て疾風様のご希望通りにいたします。疾風様が死ねとおっしゃるのであれば喜んで死にましょう。」重いよ!言わないしそんな事。
「そんな事言わないよ。でも希望通りにするって言ったね?言質とったよ?」よし、まぁある意味好都合だ。
「まず、僕は当分の間この領都を起点としてギルドの仕事をしてみたいんと思ってるんだ。」とりあえず僕のこれからの予定を相談することにした。この町についてはマリアの方がよく知ってるだろうしね。
「この領都で冒険者として暮らしていくにあたって、住居をどうするか相談したいんだけど。普通はみんなどうしてるのかな?」一般的な冒険者の場合どうしてるのかまずは聞きたいね。
「そうですね、短い間だけという事でしたら。まずは宿屋を一定期間契約して借りる事も出来ます。1週間とか1か月単位で借りる事によって、1日当たりの宿代を多少安く済ませることが出来ます。」なるほど宿屋をそういう風に使うことも出来るんだね。
「ただ、ここは領都ですので。当然付近にある町とは物価が違います。狭くて薄汚い最低限の宿屋でも1部屋1日銀貨7枚~8枚はします。月極で契約したとしても月々金貨2枚前後は掛かると思います。」金貨2枚というと、うへっ20万かよ。月20万の家賃は高いねぇ。となると宿屋を起点にっていう考えは改めないとだねぇ。
「ですので、大抵の冒険者はアパートの部屋を借りています。この領都では1ベッドルームとキッチン・リビングの間取りで月々金貨1枚ぐらいから借りることが出来ます。ギルドや町の中心地に近いところはもっと高くなりますが、それでも宿屋を借りるよりかはましな値段だと思います。」なるほど賃貸ね。1LDKで10万~ってところか。まぁまぁするけど、宿屋よりかは現実的だね。
「更に駆け出しの冒険者になりますとそれでも困難なので、他の冒険者とのシェアハウスに住む場合が多いです。郊外の1軒家を借りて、1部屋単位でお金を払っていくシステムです。その場合ですと月あたり銀貨40~80枚ぐらいで借りることも出来ます。当然プライバシーも無いですし、トラブルに合う事も珍しくありません。こういったシェアハウスの募集はギルド内の掲示板に貼られているので、大抵はそこで探します。」シェアハウスね、僕には荷が重そうだな・・・。
「そのアパートやシェアハウスも1部屋を2~3人、パーティー単位で使うことも出来ます。かなり手狭にはなりますが一人当たりの単価はかなり抑えられますね。私が弟と暮らしていたのはスラム街にあるシェアハウスでした。」そうか他人同士だと現実的ではないけど、パーティーなら2段ベッドとか使えば1部屋で数人寝泊りする事も可能だね。
「結構色々な方法があるもんだねぇ。じゃぁお風呂付の物件なんてものは夢のまた夢かな?」まぁお風呂に関しては贅沢品だってのがよくわかったので、無しでも別に良いんだけど。でも有ると無いとじゃ暮らしやすさが雲泥の差だからね。この世界にきて痛感した。
「お風呂付の物件ですか・・・。私には縁がない物件なので相場はわかりませんが、冒険者ギルドや商業ギルドに物件の情報がありますので、そこで調べてみるのが良いかもしれませんね。」なるほど、こちらの世界では不動産屋さん的なところじゃなくてギルドで物件を扱ってるようだね。っていうか商業ギルドっていうところもあるんだね。新情報。
「ありがとう。じゃぁ明日にでもギルドに行って、物件の情報を得よう。」明日の予定は決まったね。それでは本題に。
「じゃぁ、ルールについて話すね。さっき僕が決めていいって言ったから、勝手に決めさせてもらうよ。」異論は認めません。
「ルール1:このお屋敷を出たらマリアは僕の家族だ。食事をする時はテーブルについて一緒に食事をすること。」色々お世話焼いてもらうのも嬉しいんだけど、やっぱり一緒にご飯食べて楽しく暮らしたい。
「ルール2:冒険者として暮らしていくからには、仕事の報酬は均等に分配する事。」こういうのはキチンとしときたい。マリアだったら絶対要らないって遠慮するだろうし。
「ルール3:宿屋なんかに泊まる時には、出来ればちゃんと自分の部屋をとる事。」まぁ金額的に宿屋は結構高いみたいだから、2部屋ってのは現実的ではないのかもしれないけど・・・。でも年頃の男女が同部屋なのはどうかとおもうんだ。うん。
「ルール4:簡単に死ぬとか言わない。お互いに命を守りあって、助け合って生きていこう。勝手に居なくなるの禁止!お互いに寂しい思いをさせないように努力をしようね。」折角出来た家族だから。また失いたくはないんだ。
「わかりました・・・。宿屋に関しては先程も言いました通り、2部屋にするとどうしても料金が嵩んでしまいますし、仕事の報酬とのバランスが取れない場合があります。ですので、出来ればという事でよろしいでしょうか?」やっぱり2部屋は現実的ではないよね・・・。
「わかった、でもちゃんとツインの2人部屋にしようね。マリアが遠慮してソファで寝るとかってならないように。」それは最低限お願いしたい。
「そのようにいたします。それとそれを踏まえてなのですが、私からも一つだけお願いを聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」マリアからのお願いってなんだろう。希望には沿いましょう。
「勿論、希望はバンバン言っていこう。」
「ありがとうございます。私からの希望は一つだけです。」マリアは大きく息を吸った。
「疾風様専属メイドとして、このメイド服を着続ける事をお許しください!!!」マリアは大げさな身振りでメイド服を可愛くアピールしながら挨拶のポーズをとった。
マリアはこういう子だった。まぁ可愛いし全然良いんだけどね・・・。これから楽しくなりそうだ。