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第23話 ゆけむりの町ユガーラ

週末時間が取れなくていよいよストックが尽きてきました・・・。

手直しが不十分で、読みにくかったらごめんなさい。

 夕飯を終えると僕達はユガーラの町へと繰り出した。仲居さんからユガーラの町が一望できる夜景の名所があると聞いたからだ。


夕食ですっかり僕の胃袋をつかんできたユガーラの町の事をもっと知りたくて。浴衣に身を包み、宿から山へ続く石畳をカラコロ歩いて行った。


マリアも浴衣を着て後をついてくる。髪もアップに纏められていて、うなじがとても艶っぽい。


町はあちこちから源泉が湧き出ていて、湯気に包まれている。

石畳沿いに建つ旅館の窓からは情緒あるランプの灯が洩れている。

旅館街の石畳は街燈が整備されていてとても歩きやすい。目的の山の展望台までしっかりと続いているのが見える。


展望台に着くと、そこそこの人でにぎわっていた。

歩く隙間もないほどでも無く、ガランとしてるほどでも無く、適度に人が居る感じ。

名所というだけあって、色々な屋台も出ていた。あとで見て回ろう。


展望台から町を望むと、綺麗に並ぶ大きな旅館街、その先へ延びる街燈の灯、その周りに広がる家々の灯、高い石の壁に灯る見張りの灯。その全てが温泉の湯けむりを通して幻想的に見える。


温暖な気候のこの地だが、標高もあり涼しい風も吹きつける。

本当に過ごしやすい気温だ。夜に出歩いても寒くもなく暑くもない。



そんな僕を優しい眼差しで見守るマリア。

僕が聞きたいことがあるとなんでも教えてくれる。僕が黙ってると静かに黙っている。


まだ目が覚めてから半日も一緒に過ごしてないけど、10年一緒に住んでいるぐらいの安心感がある。


寂しくも無ければうるさくも無い。ちょうど良い距離感。


このユガーラの町のような過ごし易い、おばあちゃんのような親しみのある、僕が求める女性像にぴったりな優しい女性だ。

いや、おばあちゃんのようなは失礼かな(笑)でも僕にとって一番長く一緒にいた存在がおばあちゃんだから。誉め言葉だよ。


サラ以来初めて僕が本音を出してしまった女性。このマリアが僕と一緒に居てくれるって言ってくれた。


まぁまだ決まった訳では無いけど、気持ちだけでもとても嬉しい。一期一会というけれど、この出会いが一瞬の物になるか一生の物になるか。

この出会いそのものを楽しんでみよう。



「屋台でも見に行こうか。」僕がマリアに声を掛ける。

「はい。」マリアが優しく微笑む。


屋台ではタコ焼きならぬ貝焼き?や、ソースじゃなくて塩で味付けた焼きそば、フルーツの搾りたてジュース、飲んでいないのでどんな種類かはわからないがお酒等を売っていた。


夕ご飯も食べていたけれど、これは食べるしかないとばかりに焼きそばと貝焼きを買ってベンチに座る。その間にマリアはジュースを買ってきてくれた。


焼きそばは具が多めで味濃いめで、ちょっとしょっぱかったけどなんか懐かしい味だった。でもちょっとソースが恋しくなった。


貝焼きはタコ焼きの中身貝バージョン的な作りで、生姜醤油的なソースが掛かっていた。

中トロトロで外サクサクな美味しい焼き加減。貝の食感もコリコリしていて、タコに遜色ない味わいだった。


マリアは貝焼きが好きらしく、ハフハフしながら夢中で食べている。とても絵になるなぁ。

銀髪碧眼の浴衣姿の美人エルフが貝焼きをハフハフ食べている。どうも違和感を感じそうな組み合わせだが、そこがまた良い。




のんびり休憩した後、僕たちは宿へ帰った。


宿に帰ると宴会場からはレイ隊長が楽しそうに歌ってる声が聞こえた。

まだ盛り上がっているところのようだ。


僕は倒れていたこともあり個室を用意してもらっているので、こっそり部屋に退散した。


部屋はシンプルな旅館仕様の作りで、入り口の襖を開けると1畳ほどの空間があり、そこで靴を脱ぎ更に襖をくぐると9畳ほどの部屋になっている。


その奥に障子があって、3畳ほどの空間にイスとテーブルが置いてあり、窓の外が眺められるようになっている。そんな日本の旅館っぽい作りだった。


ホントここが異世界っていうのを忘れちゃうぐらい。


その部屋には僕が寝ていた布団が1組敷いてある。後ろを振り返るとマリアが立っている。いや、もう自分の部屋戻ってもいいよ?


「マリアは自分の部屋ちゃんととってあるんだよね?」気になったので聞いてみた。


「いいえ、私は疾風様とご一緒させて頂くと決めておりますので。お傍で控えさせていただきます。」え?一緒にこの部屋で寝るってこと?急に汗がダラダラ垂れてきた。暑いなこの部屋。


「年頃の男女が一緒の部屋で寝るってのはちょっとまずいのではないかと・・・。」汗も止まらないけど動揺も止まらない。目線がキョロキョロ定まらない。


「私の事はお気になさらず。空気だとでも思ってくださいませ。」涼しげな顔でそんな事言ってるけど、そんな風に思えるわけないじゃん。美人でエルフでお姉さんで幸せ枕で・・・。


「今からでも遅くないから部屋用意してもらって来るね。」慌てて部屋を出ようとする。


「その必要はありません。もし気になるようでしたら部屋の外の廊下に控えておりますので。」そっちの方が気になるわい。


「じゃぁわかった。僕はこっちの窓際の椅子で寝るからその布団使って。」僕は慌てて窓際の椅子に腰かける。


「主をそんなところで寝かせるわけにはいきません。疾風様はちゃんとお布団で寝てください。」そういうとマリアは僕をお姫様抱っこして布団へ運んだ。


「いやいやいや、まだ寝ないし、お風呂行くし、マリアもちゃんと布団で寝ないといけないし、もうどうしよう。」ダメだもう耐えらんない。混乱祭りは宴もたけなわである。


「お布団はもう一つありますので大丈夫ですよ。」マリアはクスっと笑うと押し入れからもう1組の布団を出して隣に敷いた。


「この部屋で一緒にってのは引かないわけね・・・。」僕もう降参です・・・。


「疾風様は私の恩人です、寝ている間もお守りするのは当然の事です。」正論っぽいけどなんか凄い丸め込まれた感。



「はぁ、わかったよ。とりあえず温泉入ろうかな。」僕はタオルを持って立ち上がる。

「お供いたします。」マリアがついてくる。まさかお風呂まで一緒に入ってこないよね??



まぁ流石にそれはなかった。

男女別それぞれの暖簾をくぐって脱衣所へと入る。

浴衣を脱いでタオルを巻いていざ温泉へ!


小さめの内湯を抜けると外には大きな露天風呂があった。洗い場で軽く体を洗って早速露天風呂へ。

久しぶりの湯舟、そして温泉!!大興奮だ。


山に囲まれた温泉宿なので風呂からの景色は期待していなかったが、裏に流れる川沿いに露天風呂が作られていて、なかなかの風情があった。


それほど大きな旅館でもなく、ほぼ貸し切り状態の隊商が絶賛宴会中という事で、露天風呂は僕のソロライブだった。

湯舟にゆっくりと大の字で浸かり、のんきに歌なんか歌ってた。



「お待たせいたしました。」振り返るとそこにはタオルのような物を身に着けたマリアが立っていた。

「な、な、な、な、なんで!?」マリアは女湯の暖簾くぐったよね??


「こちらの露天風呂は混浴となっておりますので。」マリアが落ち着いた声で教えてくれる。


「だからって平気で入ってくるって・・・。もし他の人いたらどうすんだよ。」顔を背けながら反論する。


「大丈夫です湯浴み着を着ております。疾風様のお世話は私の仕事でございますので。」この世界のメイドさんってこんなに献身的なのかな?


もうきっと何言っても無駄だな。僕は悟った。きっとこの子はこういう子なんだと受け入れるしかない。



マリアは僕の隣に来ると肩まで浸かる。


「良いお湯加減ですねぇ。」僕はそれどころじゃないんだけどね。もう既にのぼせそうです。



その後貸し切り状態のままマリアに背中を洗って貰ったり頭を洗って貰ったりしたが殆ど記憶がない。


だって僕この世界では成人してるとはいえ、日本では中学生ですよ。こんな美人なお姉さんが一緒にお風呂入っていて正常な精神状態で居られるはずがない。




部屋に戻ると僕はそのまま布団に潜り込んだ。

温暖な気候の上風呂上りという事もあり、僕は少し汗ばんでいた。

マリアは隣に座るとうちわで軽く扇いでくれる。


「マリアはどうしてそんなに僕に尽くしてくれようとするの?」僕は疑問に思っていた事をストレートに聞いた。マリアは命の恩人だからと言っていたが、それだとしても異常なくらい世話を焼かれている気がする。



「命の恩人、というのも勿論なのですが。」マリアは何かを堪える様に少し押し黙った。



「私には年の離れた弟がおりました。私たち家族は隣国オルフェン王国に住んでおり、当時内戦がピークを迎えておりました。弟が3歳の頃、町へ攻め込んできた反乱軍に襲われ、私達を町から逃がす為にと両親は犠牲になってしまいました。」重い話きた。マリアのご両親は亡くなられているんだね。


「その後私達はオルフェン王国からこのリーザスタッド王国のミルドレイクへ逃げ延び、以前からやっていた冒険者として細々と収入を得ながら生活をしていました。他国で登録したギルドカードは国を超えても有効だったのが唯一の救いでした。信用もない流れ者に出来る仕事は少ないものですから。」そういえば元冒険者って言ってたっけな。


「その後弟は6歳になり、私も冒険者としての経験をある程度積んできて、少し難しい依頼を受ける事も増えてきました。」しかも結構優秀な冒険者だったらしい。


「難しい依頼を受けると、少しの間家を空ける事になりますが。弟も大きくなってきていたので少し安心して遠征するようになりました。」弟さんしっかりしてたんだ。


「そんなある日、5日間の遠征を終えて家に帰ると、家は火事で完全に焼失していました。」再び重い話きた。弟さんは無事だったのかな。


「夜中に突然火の手が上がり、近所一帯10軒程の家が一瞬で炎に巻かれ焼け落ちたそうです。放火でした。」放火とかマジで許せないな。


「弟は自室のベッドの上で焼死体として発見されました。きっと眠ったまま起きることもなく亡くなったのでしょう。」マリアどんだけ不幸なんだよ。弟さん可愛そう。


「私がもし家に居れば。冒険者などやっていなければ。弟は助かったかもしれません。そんな後悔から私は塞ぎ込んでしまい、家から殆ど出なくなりました。」責任感じるよな。僕なら耐えられないかもしれない。


「当時私はミルドレイク辺境伯様からの指名以来を数多くこなしていて、私が塞ぎ込んでいる間もよく訪ねてきてくださいました。」ミルドレイク伯って噂通り凄く良い人なんだな。ってか指名以来を数多くこなしてたって、相当信頼されてたって事か。


「塞ぎ込んで2年が経った頃、私の蓄えもいよいよ尽きてこのまま餓死でもしてしまおうかというその時。ミルドレイク様が私の腕を見込んでと、私を領兵へとお誘いくださったのです。」2年も塞ぎ込んでたマリアも凄いが、そこへ2年も通ってくれるミルドレイク伯どんだけ優しいんだ。


「その時の私は冒険者をしていた事に後悔をしていたので、領兵のお誘いはお断りいたしました。ですがミルドレイク様は熱心に毎日私の元へお訪ねになりお誘いくださいました。」もう戦うっていう事自体に拒否反応起こしてたのかな。


「ミルドレイク様はお訪ねになる度にお美しい侍女をお連れになっており。何度かその侍女を見かけるうちに、私もそのメイド服を着てみたくなりました。ミルドレイク家のメイド服は素晴らしく可愛かったのです。」ん?話が怪しくなってきた?


「このまま餓死してしまおうかと思っていた私が、そのメイド服を着てみたいとまで思える程可愛かったのです。」マリアのちょっと残念なところ出てきたね。でも死んでしまおうって気持ちを癒すには可愛いが必要だったのかもね。わかる気もする。


「私はミルドレイク様にこう言いました。『領兵になる事はお受けできません。ですがメイドでしたらならせて頂きます。』と。」ミルドレイク伯もびっくりするよね。領兵の勧誘してんのにメイドだったらなりますって。全然違うしね、領兵とメイド。神と悪魔ぐらい違う。そこまででもないか。


「ミルドレイク様は最初困った顔をされていましたが、最後には折れてくださいました。こんなメイドとしての価値もない私をメイドとして雇って下さったのです。」雇ってもらって良かったね。どん底から這い上がれて良かったね。偉いねマリア。ミルドレイク伯優しいね。一度会ってみたくなったよ。


「疾風様を見ているとそんな弟の事を思い出すのです。泣き虫だった弟を。疾風様に命を救われ、意識が戻った私の上で倒れている疾風様を初めて見た時から、疾風様と死んだ弟とを重ねずにはいられなかったのです。」あれ?再び弟登場。っていうかそういえばなんで僕に尽くしてくれるの?っていう質問したんだった。それすら忘れてた、話長いから。話長いとか言うな、めっちゃ悲しくて真剣な話だったのに。ってか泣き虫って。そういえば僕夢見て泣いてるところ思いっきり見られてたんだった。思い出した恥ずかしい。ってか死にそうだった人の上で倒れてたってのも恥ずかしい。


「疾風様に一生仕える事で私の弟への罪悪感を償いたいのかもしれません。」思った以上に重いなこれ。マリアも物凄く悲しい顔してる。騙しててごめんなさいみたいな顔だ。そんな自分を許せません的な顔してる。でも僕別にそんな事気にしないんだけどね。


「マリアがそれで救われるなら僕はマリアを救ってやりたいと思ってる。」偉そうに救ってやりたいと思ってるとか言っちゃった。すんごく偉そう。


「一人で心細かったけど、マリアが居てくれてユガーラの町は凄く楽しかった。きっと僕もマリアに救われてる。」本音で話せる相手って大事なんだって思った。自分の弱いところを見せられる相手、慰めてくれる相手って必要なんだな。今は心からマリアについてきて欲しいって願ってる。


「ありがとうございます。」そう言うとマリアは三つ指ついて深々と頭を下げた。

僕も慌てて起き上り頭を下げた。



この夜はお互いに初めて本音で話し合えた。これからもマリアとはずっと本音でいきたい。そう思った。

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