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第22話 ユガーラの町

今週末はあまり時間がとれなくて筆が進みませんでした・・・。

ちょっと頑張っていかないと!って思った日曜の午後でした。

 別に未練があるわけじゃなかった。

両親は3歳の頃に他界し、14歳まで育ててくれたおばあちゃんも亡くなってしまった。

引き取ってくれるはずの親戚も僕を持て余し揉めている。そんなところに行きたくもなかった。

 

せめて最後に、両親とおばあちゃんのお墓参りに行っておきたかったな。

大好きだった家族にお別れを言う間もなく異世界に来てしまった。

こっちの世界でもお祈りをしたら届くのかな。

また教会があったら今度は家族に届くようにお祈りしてみよう。



目が覚めると泣いていた。大泣きである。鼻水まで垂らして泣いていた。

優しく撫でられる。目を開けると美人エルフが優しく微笑む。


ずっと見られてた・・・。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をそむける。恥ずかしい・・・。

その後もずっと優しく頭を撫でてくれていた。

なんて心地いいんだろう。ずっと堪えてきた気持ちが、心が癒されていく。

「大丈夫です。私がついています。」そう言ってずっと撫で続けてくれた。




ガタン、ガタガタ。馬車が止まる。誰かが話してる。

ガタガタガタ。再び馬車が動き出す。



ガタガタン。再び馬車が止まる。


ふわっ。身体が軽くなる。空を飛んでるみたい。

優しい風に包まれて広い大空を揺蕩う(たゆたう)

時折包まれる雲も綿菓子みたいにフワフワしている。

まるでお花畑に居るようないい香り。

幸せな香り。



目を開けると木目の鮮やかな木の天井が見えた。どこか見覚えのある和風な天井。

横を見ると美人エルフが隣に座って目を瞑っている。

身体を起こして周りを見渡す。


畳敷きの和室に低いベッド、その上に和ふとん。

美人エルフは座布団の上に横座りして壁に寄りかかり眠っていた。

僕の気配に気が付くと美人エルフは目を開けて微笑んだ。

「気が付かれましたか?」声まで美人だ。確か馬車の中でも聞いたっけ。


「貴女は?」美人エルフに聞く。


「私の名前はマリア。ミルドレイク家でメイドをしております。魔物に襲われ死にかけていたところを疾風様に命を救って頂きました。」マリアは正座に座り直して頭を下げる。


「頭を上げてくれ。自分にできる事をしただけだ。」たしか、治癒魔法を使って魔力切れと貧血で倒れたんだっけな・・・。その後ずっと幸せ枕で寝てた気がする。あー・・・、しかもぐしゃぐしゃの泣き顔も見られた気がする・・・。物凄く恥ずかしくて顔が真っ赤になり、思わず下を向く。


その後マリアから色々と事情を聞いた。


かいつまんで説明すると、ミルドレイク辺境伯の長男キャスバレイク・レム・ミルドレイクの15歳を祝う魔物討伐遠征の道中、ヴォルカノタイガーの群れに襲われていたところを、偶然隊商が通りがかり助けたという事らしい。


襲われた時に近衛兵4名がヴォルカノタイガーと対峙したが、10匹近い群れに襲われ善戦虚しく倒れてしまった。

その後冒険者経験のあるマリアと元騎士団所属の執事ランバで食い止めようとしたが力及ばず負傷してしまったという事だった。



僕が治癒魔法でマリアさんを治療している間に、ランバさんと警護兵たちにより、残りのヴォルカノタイガーは討伐されたが、既に近衛兵たちは事切れていたらしい。


僕が気を失ってる間に近衛兵達の遺体を回収し、ミルドレイク家の馬車は遠征を中止して領都へと引き返すべく、隊商の馬車に便乗して、今はユガーラの町に滞在しているそうだ。

マリアさんは執事のランバさんへ断り、僕に付き添って隊商の馬車へ乗ったという事だった。


「逆にすまない。」マリアさんが付き添ってくれたことについてお礼をすると、マリアさんはまた頭を下げた。


「命の恩人に尽くすのは当然のことです。この先の人生は疾風様の為に生きるつもりでございます。」とんでもない事を言い始めた。

え?僕の為に生きるってどういう事??ついてくるって事???


「へ?」思わずマヌケ面で驚きの声を発してしまった。


「たとえ半分だけとはいえ、私も誇り高きエルフ族の端くれ。命を救われた恩は我が命をもって返させて頂きとうございます。是非私を従者にしてくださいませ。」わかりやすく説明し直してくれた。とても丁寧に。でも大混乱は止まらない。


「貴族家のメイドさんが急に辞めますって言って辞められるもんなの??」動揺のあまり思わず本音で聞いてしまう。こんな美人がついてきてくれるってのは嬉しいんだけどね。いろいろな意味で。


「執事のランバ様には既に相談済みです。一緒にご主人様へ頼んでくれるとのお言葉を頂きました。」手回し済みだそうです。


「元々冒険者だった私はミルドレイク辺境伯様からの強いお誘いで、領兵へとなる予定でした。そこを私の我儘で無理やりメイドにしていただいたのです。」

「メイドとしての私は半人前でした。領兵としてならいざ知らず、メイドとしての私にたいした価値は無いと思います。きっとお許しを頂けると確信しております。」確信しちゃったんだなぁ。


「なんでメイドを希望したの?」疑問に思ったので聞いてみた。こうなったらもう素のまま。


「ミルドレイク家のメイド服を見てしまったからです。こんなに可愛いメイド服を着られるなんて幸せの極致じゃないですか!!」あれ?なんかおかしな展開だぞ?


「それまでの私は冒険者として死なない為の装備ぐらいしか着ることは無く、可愛い服など夢のまた夢でした。そこへあの可愛いミルドレイク家のメイド服が着られるチャンスが転がっていたんです!!これは着ない手はないでしょう!?」マリアさんは興奮して立ち上がりガッツポーズをしながら力説してくれた。鼻からフンスフンス鼻息吹き出しながら。


「うん。わかる。」そんな激しい勢いに負けて思わず同意してしまう。


それからマリアは得意気に可愛いは正義な持論を力説してくれた。1時間ぐらい。


あー、この子美人だけどちょっと残念な子かも・・・。




マリアが落ち着いたところで、僕は倒れてしまった事の謝罪と無事目が覚めた事を報告しに、レイ隊長の部屋へ訪問していた。


「そうか、目が覚めたか!それは良かった。」がっはっはっはっはっ!豪快に笑いながらレイ隊長が迎えてくれた。

「倒れたことは気にするな、あんな凄い魔法1日に2回も使ったんだ、倒れない方がおかしい。」全然気にしてないぞと言わんばかりにそう言った。


「俺の事よりも、ミルドレイク伯のご子息がお前の事を心配していたぞ。挨拶に伺った方がいい。」そう言ってキャスバレイク様のお部屋を教えてくれた。


はぁ貴族と会うの面倒くさそうだ・・・。いやレイ隊長も貴族なんだけどさ。

 

僕の気持ちを察したのかマリアが声を掛けてくれる。

「大丈夫です、キャスバレイク様はとてもお優しい方です。お父様に似てとっても気さくな方なので安心してご訪問ください。」そう言って励ましてくれた。


よし、頑張るか。



トントン、部屋の扉をノックする。

ガチャリと扉が開かれ執事のランバさんが出迎えてくれた。


「疾風様、この度は当家ミルドレイク家御嫡男キャスバレイク様をお守りいただき誠にありがとうございます。並びにマリアの命を救って頂いたこと、とても感謝しております。」ランバさんはご丁寧なお礼をしてくれた。かしこまり過ぎて僕もかしこかしこしちゃった。


「気にするな。当たり前のことをしたまでだ。」かしこ過ぎて口調がいつもの対外口調に戻ってしまった。


中に案内されると金髪の好青年が座椅子に座り出迎えてくれた。

「此度の救援、マリアの救命。誠に感謝する。本当にありがとう。」深々と頭を下げる。いや、貴族が簡単に頭下げたらだめでしょ!って勝手に焦る僕。


「気にするな。好きでやった事だ。」ヤベー口に気をつけろこのあほたれー。相手は貴族様だぞ!!ってレイ隊長も貴族様なんだけど!!


「そうか。なら気にせん。」キャスバレイク様はニコッと笑うと僕らに座って座ってと向かいの座椅子を勧めてきた。


あまり長居はしたくない場面なんだが・・・。そう思ったが偉い人に席を勧められて座らないわけにはいかない。


座椅子に座るとササっと部屋に控えていた侍女がお茶を入れて出してくれる。

あ、これ緑茶だ、いい香り。


「ありがとう。」お礼を言ってお茶をすする。はぁ美味しい。思わずほっこり笑顔が出る。


「お、お茶気に入ってくれたかな?ユガーラの名物なんだ。」キャスバレイク様は嬉しそうに言った。

 

さっきから思ってたんだが、このユガーラとっても和風なんだよね。布団とか畳とかお茶とかっていうかこの部屋も和室なんだよ。扉もドアじゃなくて襖だったし。とっても金髪イケメンのキャスバレイク様とミスマッチな風景。いや逆に絵になるのかも。


「キャスバレイク様はユガーラに詳しいのか?」少し落ち着いてきた。


「ミルドレイク領内だしな。それに領都ミルドレイクからも近いからよく来るんだ。」

「あ、それと俺のことはキャスで良いぞ。」


「わかったキャス」

あー言っちゃった、素直に呼び捨てちゃったー。


「そう!それでいい!」にゃはははっ。楽しそうにキャスが手をたたいて笑ってくれた。にゃはははっって笑い声可愛い。


執事のランバさんも侍女さんもマリアも特に厳しいは顔していない。いいのか?これで?

まぁいいんだろう。


「疾風は15歳なんだって?俺も先日15歳になったんだ。同い年同士仲良くしてくれ!」キャスが手を差し出してきた。

「そうか、よろしく頼む。」そう言って僕も手を出し固く握手した。


その後キャスからこのユガーラの町の事や領都ミルドレイクの話を色々聞いて、そろそろ晩御飯の時間だからと部屋を後にした。

別れ際に「マリアをよろしくな!」と声を掛けられた。これはいよいよマリアの旅の同行が現実味を帯びてきた。

っていうか今も、さっきもずっとマリアは僕の斜め後ろで控えている。

メイドさんがいる日常ってこういう感じなんだろうか。




晩御飯は部屋でも食べられるらしいが、隊商の面々は大広間でみんな一緒に食べる事になっているらしいので僕も大広間へとやってきた。


「お!疾風大丈夫だったか?」警護兵のリーダーから声を掛けられる。


「心配ない。」僕はそういうと、空いている席についた。

マリアは僕の斜め後ろで正座している。

いやいや、席つかないの?


振り返るとマリアは「大丈夫です。」とだけ言った。

なにが大丈夫なんだろう・・・。まぁ気にするなって事なのかな。っていうかマリアは隊商とは部外者だから席も用意されてないって事か。


するとレイ隊長が気を効かせて言ってくれた。「メイドさんの席を用意してやってくれないか?」


それをマリアが遮り「私の席は不要です。私は疾風様のお世話をするためにここに待機しているだけです。どうかお気になされませんように。」と言ってまた僕の斜め後ろに正座した。

メイドとはそういうものなのだろうか。僕が気になってしまうなぁ。


「そうか。わかった。」レイ隊長はそういうと宴会の音頭をとった。



宿の食事はまんま旅館の夕食だった。


ほうれん草のお浸し。数種類の山菜と鳥の胸肉っぽい肉の煮凝り。鯛のような白身魚のお刺身。タラのような白身魚の切り身に味噌をのっけて焼いたもの。焼かれた石の上で焼かれている分厚いお肉のステーキ。松茸のようなキノコが入ったお吸い物。そしてもう諦めていた白米。炊き立てゴハーン!!

そう、日本食なのだ。そして、醤油!味噌!!白米!!!!


きたー!!欲しい物全部きたー!!!


どれも全部懐かしの味だ。本当に美味しくて涙が出てくる。

なにからなにまで日本文化全開のユガーラの町。もうなんだかユガーラが湯河原に聞こえてしょうがない。


もうここ住んじゃおうかなって勢いで求めていた食材・調味料に出会えてしまった。

ここにくれば手に入るのであれば、ここに住まないまでも買い出しには来ようと心に決めた。



食事の間中マリアはずっと飲み物を持ってきてくれたり、ご飯のお替りを持ってきてくれたり、甲斐甲斐しく僕のお世話を焼いてくれていたのだった。

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