第17話 休日の過ごし方
当初思っていたよりも筆が早く進み、なんとかストックも5話分ぐらいは先行して書けています。
自分の文章力では原稿の見直しを2回ぐらいしないと、投稿できるクオリティには仕上げられないのが困りどころではありますが・・・。
それでは本日もよろしくお願いいたします。
旅の準備はほぼ整った。後はドルトンさんが作ってくれる背嚢が仕上がったら、隊商について領都へ向かうのだ。
隊商との交渉はオリバーさんがしてくれるって言ってたし、あと自分でやれることと言ったら・・・。なんだろ?
ToDoリストを作ってみよう。
・旅の間に食べる食材を買っておく。
・教会に行ってみる。
・買った装備を素早く着たり脱いだりの練習。
・買った装備が上手く扱えるように練習。
・買った服を上手く着こなす練習。
・魔法の練習。
・隊商の人達と上手くコミュニケーションとる練習。
・町の人達と上手くコミュニケーションとる練習。
・上手に笑う練習。
・モテる男になるために自分を磨く。
思いつくものから箇条書きにしていったら最後の方はもう無謀な事ばかりしか思い浮かばなかった。
とりあえず出来る事から順番にやっていこう。
食材は出発する直前に買わないとダメになっちゃうだろうから、一番最後に回すとして。
まずは教会に行ってみることからだったな。
僕のおばあちゃんはクリスチャンで日曜日は毎週一緒に教会に行っていたんだ。
まぁクリスチャンと言っても教会に行ってお祈りをするぐらいで、それほど熱心という感じではなかったのかな?僕が知らないだけで色々あったのかもしれないけど、でもお葬式はお坊さんが来ていたし・・・。いやあれは親戚筋の意向なのかもしれないけど・・・。
まぁ単純にこの世界の教会ってのはどんな場所かっていうのが僕の興味を引いていただけだった。教会でお祈りする事は日常だったしね。
教会につくと丁度シスターが掃除をしているところだった。
「お祈りですか?」シスターにそう聞かれ、僕はただ頷いた。
教会の扉を開けてくれたシスターが、「どうぞご自由にお祈りしていってください。」と、中へ招いてくれた。
教会に入ると正面には大きな銅像が置かれていた。
テレビで見た、どこか外国の山の上に立っているキリスト像に似ている。
大きく手を広げて立つ男性の像。
サラが言っていた創造神様だろうか?
サラは精霊神だと言っていたけど、一緒に祀られているわけでは無いのかな?
その像が立っている以外は、キリスト教の教会のように十字架が掛かっているとか、そういう事は無いようだった。
ただ、教会に来たというだけで不思議と心が穏やかな気持ちになれるのは異世界でも同じらしい。
像の前にはじゅうたんが敷かれていて、ここでお祈りをするんだなっていうのが経験で理解できた。
僕は像の前まで行くと、膝をつき胸の前で両手を組み、目を瞑った。
お祈りの言葉とかはあるのかな?お祈りの姿勢はとったけどこの先どうしたら正解なんだろうか?と、考えていると。
突然スーーーーッと意識だけが上に引っ張られていくような感覚に陥った。
「うわっ!!」っと声を出して目を開くと、そこは見覚えのある景色。僕がこの世界で初めに目にした景色が目の前にあった。
「どうしたんじゃ?儂が恋しくて戻ってきたのか?」
一瞬何が起きたのかよくわからなかったが、聴き慣れた声を聴いて精霊の泉に居る事を理解した。
声のする方を見るとサラが祭壇に腰掛けてこちらを見ていた。
「教会でお祈りをしてたんだ。気が付いたらここにいた?なんだろこれ?」僕は混乱しながらサラに話しかけた。
「実体はないようじゃな。精神体だけ飛んできてしまったのかのぉ?」サラも困っている・・・。
「まぁどちらにしろ元気に過ごせておるようじゃな。元気そうな顔を見れて儂は嬉しいぞ。」サラは楽しそうにニコッと笑った。
僕は頷いて立ち上がろうとする、その途端に意識が下に引っ張られていく。肩を掴まれ揺すられる感触。
「大丈夫ですか!?」床に倒れる僕の肩を掴み、シスターが必死に声を掛ける。
「・・・。」何が起きたのかわからない。周りを見回すと、教会の中だった。サラはもうそこには居ない。
「大丈夫だ。」身体を起こし返事をする。
「お祈りを始めると突然貴方の身体が光り出したんです。その後まぶしいほどの光が収まったと思ったら貴方はそこに倒れていて・・・。」シスターは状況を説明してくれた。
ちょっとお祈りしようと思っただけなのに大騒ぎになってしまったな。シスターには迷惑をかけてしまった。
「すまない。お祈りをしていただけなんだ・・・。迷惑をかけた。」お詫びをして立ち上がろうとする。
「もう少し休んでいってください。お茶を入れましょう。」シスターは近くにあった椅子に座らせてくれると奥に行ってしまった。
どうなってるんだろう?さっき会ったサラは本物のサラみたいだった。意識だけが飛んで行ったのか?
サラも僕の存在は認識していた。
どういう仕組みなのかわからないけど、まぁ一瞬だけでもサラに逢えた、ただそれだけは嬉しかった。
奥からシスターがお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう。」礼を言ってお茶を口にする。どこまでも透明な、まるであの泉の綺麗な水のように透き通った味がした。
シスターも僕も何が何やら大混乱だが、お茶を飲み気持ちを落ち着けた僕はお礼を言って教会を出た。
その後宿へ帰り、買った装備を広げてみた。
とりあえず装備と服を着たり脱いだりしてみよう。
という事で僕はひたすら服を着て装備を装着して、装備を外して、服を脱いで。
これを1セットとして、50セット繰り返した。
5時間ぐらい掛かった、5時間ぐらい。
最後の方はもう装備とかチャチャっと装備できるぐらい慣れてきたほどだ。装備自体も僕の体に馴染んできたんだと思う。
そして次にやることは装備を着て武器を振り回して戦う訓練。
これには町の外に出て魔物や獣を狩るのがベストかなって思ってたんだけど。
オリバーさんに聞いたところによれば、この町の近くには魔物が生息する場所が殆ど無いという事で、実戦訓練は今回諦める事にした。
そのかわり門番たちが使っているという練兵所を借りれることになった。練習用の案山子相手に訓練をする事にした。
案山子の前に立ち様子をうかがう。相手が動いたらそれに合わせてこちらも動く、隙を窺いつつ動きを見る。じーっと相手の出かたを見る。
まぁ動くわけないんだよね。やれやれ。
とりあえずこれを5セット続けてみる。
その意味の無さにわずか5セットでやめる事を決意した。
カウンターの練習をするにはやはり実戦が一番だな。
次に魔法の練習。
まぁ攻撃魔法を使った練習はちょっと危なそうなので強化魔法の訓練に限定していろいろと試してみたいと思う。主に風の魔法を使っての身体強化。
火の魔法での身体強化【ファイアアップ】をイメージしながら風の魔法を身体の中に巡らせるイメージをして・・・。
その後しばらく風魔法を身体に纏う練習を繰り返した。
その結果習得できた強化魔法は4種類。
【クイック】風の魔法を主に足へ集中させ、素早い動きを実現させた。込める魔力量により速度が変わる。
【ステップ】空中に空気の塊を作り出し、足掛かりにすることが出来る。階段のように設置し空中を登っていくこともできるし、壁を作り出しそれを蹴って空中で方向転換することも出来る。まぁ身体強化というよりは補助魔法だけどね。
【ウインドヴェール】身体の周りに風を纏う。飛び道具を防ぐのに効果的だと予想・・・、あくまでも予想。石を上に投げて落下地点で待ち構えたが、身体には当たらずにはじき返したので多分矢も行けるだろうとの予想。あくまでも予想。
【ファイアヴェール】ついでに火を纏ったらどうなるだろうと実験したところ成功。纏った状態で案山子にパンチを当てたところ、殴った部位が焦げていたことから、火属性の打撃が繰り出せるはず。火属性が弱点の相手には有効と予想。これもあくまでも予想。
まぁ全身に火を纏う戦力的メリットって少なそうなんだけど、ビジュアル的に威圧感あると思うから、それを感じる相手には有効かもしれないね。
やはり強化魔法に順応性が高いのか、強めに魔力を込めてもある程度の時間扱えるぐらい効率は良いらしい。強化魔法に関してはある程度むちゃして使っても問題なさそうだった。
因みにクイックでどれぐらいまで早く動けるか試したが、一瞬だけなら目にも止まらないぐらいの速さで移動が出来た。
それをずっと繰り返すと驚くほどの疲労が身体に溜まるので、魔力が尽きるというよりは、体力(筋力)が限界を迎えるという表現がよさそうだ。
なので体力さえつけば、かなりの時間使っていることが出来そうだった。要筋トレ。
因みにステップで作られる空気の塊は意識している間ずっと存在するので、それを使って空中に立っていることもできた。
これを使えば高い位置から周りを見渡すこともできそうだ。
以上が魔法の集中練習期間に習得できた強化魔法たちである。
時間があればもっと習得できたかもしれないけど、今回はこれが限界。
この時点で準備期間の3日を経過しており、この日の夜にドルトンさんから仕上がった背嚢を受け取ることが出来た。
早速色々買い足した旅の道具類を背嚢に詰めてみたが、まだ余裕があるぐらいの収納力があった。
注文通り、荷物が少ないときには小さくすることも出来るし、増えたら広げて大きく使うことも出来る。これは便利だ。
それと背嚢の外側には多数のフックがついていて、そこに色々ぶら下げることが出来るようになっていた。ひもを結べば重い物を括りつけることも出来そうだ。これで魔物素材を安全に持ち歩くことが出来る。
そして最大のチャームポイントは最小の大きさにしたときにもちゃんと見えるように描かれたパンダちゃんの絵だ。エコバッグに描かれていた絵と瓜二つの可愛いパンダちゃんを描いてくれた。これははかどる。
おまけという事で、革製のポーチもつけてくれた。服の内側に装着できて、スリなどを防止できる為、財布を入れておくのによいという事だった。金貨はそこに入れておくことにした。
銀貨以下の貨幣は腰に金袋をぶら下げて入れておく。目立つ所にあるのでスリならまずこっちを狙うだろう。
まぁどちらにしろ気配察知でスリも事前にわかるだろうけどね・・・。
隊商が来るのが明後日なので、明日は旅の食材の仕入れとお世話になった人たちへのお別れの挨拶に使う事にした。
あまり人と関わらないように生きているが、それでも割と関わっていた事実に驚いた。
リストにはまだやる事書いてあっただろうって?
そんなものは知らん。
という事でシルエラの町で過ごす最終日、買い物と慣れない挨拶回りを頑張った。
治療所では薬師さんもリリィさんも忙しく働いていた。コンラット草から作った薬を必要とする患者さんが連日押し寄せているらしい。
雑貨屋の作業場には、ドルトンさんとマーサさんも来ていてまとめて挨拶することが出来た。
マーサさんはすっかり良くなっていて、背嚢に書いてくれたパンダのお礼も直接言うことが出来た。
門番の詰め所に行くと、門番達から大歓迎を受けた。いつでも遊びに来てくれとシルエラの門番を示す記章を貰った。
狂牛亭には、あれ以降連日のように通っていて、新メニュー開発というか。僕が欲しかったマヨネーズ開発を手伝ってもらっていた。
なんとか納得のいく配分を導き出せたのが昨日、挨拶に行くと店主が徹夜で作ったと言う大量のマヨネーズを持たせてくれた。
こんなに持って行って腐らせては勿体ないからと瓶2個分だけ貰って、あとはお店で使ってほしいと置いてきた。
レシピは完成したから、これでいつでもマヨネーズを作ることが出来る!
ギルドへ顔を出すとオリバーさんと奥さんが集会所の大掃除をしているところだった。
怪我人の治療で大変な騒ぎだったからなぁ。僕も掃除を手伝うと言ったんだが、オリバーさんから丁重に断られた。未だにかしこまられている。
思っていたよりも、やってみれば何とかなるものだ。
人と接するのはまだ苦手だが、昔ほど嫌ではなくなっている。むしろ積極的に人と関わっていきたいとすら思えてくる。
異世界は僕を精神的にも大人にしてくれたのかもしれない。
そして翌日いよいよ隊商が町にやってきた。