第16話 装備を買ったら打ちのめされた
昨日は群馬にある永井食堂のもつ煮をお土産でもらいました。
以前群馬までわざわざ買いに行った程好きなもつ煮なので嬉しかったです。
自分実際に作ってみるとよくわかるんですが。もつ煮って丁寧に下茹で処理しないと、とっても脂っこいんですよね。
永井食堂のもつ煮はそんな事は一切なく、煮汁にご飯を入れて食べられるぐらいあっさりしています。
永井食堂の回し者ではないですが、もつ大丈夫な方は一度ご賞味くださいませ。
食堂でお昼ご飯を頂いたあと、かさばる荷物を1回宿へ置きに戻った。
ちなみにあの食堂の名は【狂牛亭】という物騒な名前らしい。
狂牛というのはこの地方の野生の牛の事を指すらしく、食用にしているのは食肉用に飼育した狂牛だが、それでもかなり気性が荒いらしくて生産者も生傷が絶えないそうだ。
狂牛亭の食事はとても美味しくて、その名に恥じない肉々しいランチだった。
昨夜もそうだったが、人生でこれほど肉ばっかりの食事は人生でも経験したことがない。
あ、そういえば僕は焼肉食べ放題っていうお店に行ったことがないんだ。
3歳からずっとおばあちゃんと一緒に暮らしていたし、おばあちゃんはあまりお肉中心の食事が好きじゃなかったから。外食と言っても焼肉屋さんとかにすら行ったことがないんだ。
そのかわり家で作るご飯はとても美味しかったし、僕自身おばあちゃんから色々な料理を教わっているからレパートリーは多い方だと思う。思うってのうはそういうこと話す友達が居ないから比べる対象がないっていう事なんだけどね・・・。
だからこちらの世界にきて出会った食事はとてもカルチャーショックで、毎食ワクワクしながら食べている。
さて、午後は装備類を買いに行こう!という事でまずやってきたのは防具屋さん。ギルドの隣にあるからわかりやすい。
店内に入ると坊主頭の仁王像のような体格の店主が出迎えてくれた。めっちゃ怖い顔の。
「いらっしゃい。」怖い顔に似合わない笑顔で声を掛けられた。
「俺の体格に合う防具が欲しいんだが。」内心ビビりまくりだが、ビビったら負けだとばかりに平然とした態度で要望を伝える。金はあるんだお前の見立てで持ってこい。ぐらいの態度だと思う。ちょっと偉そう過ぎたかも、怒ってないかな?怖い怖い。
「重装備と軽装備どちらがお好みかな?」町で会ってしまったらそのまま拉致されて海外に売り飛ばされそうな顔してるけど割と丁寧に話してくれるな。
「動きやすい物がありがたい。」僕の戦い方から言えば軽装備だろうな。重い装備でも肉体強化すれば問題は無さそうだけど、動きにくいのはストレスにもなるしね。
店内をぐるぐる回りながらサイズを見つつ探してくれる店主。動きが意外と可愛い。動物園のシロクマみたいだ。シロクマ店長と呼ぼう。
シロクマ店長が店内をウロウロしてる間に壁に掛かっているものが気になった。
盾かな?手首に装着するような感じの楕円形をした金属の板。全体的に流線形になっていて、良い感じに攻撃を受け流してくれそうな形をしている。
手に取って装着してみる。
手に持つ盾よりも手が自由に使えて扱いやすい。これを持ちながら両手剣を使ったり出来るようになっているのかな?
これいいな。これも買おう。
そんな事をしているとシロクマ店長が戻ってきた。
「こんな感じでどうかな?」シロクマ店長が持ってきてくれた装備は分厚い皮で構成されていて、左胸・肩・肘・膝の部分だけ金属で覆われている装備だった。
「試させてもらおう。」試着させて貰う。
店主も装着を手伝ってくれたが、意外と大変なものだな。皮が馴染んでくればもう少し楽に着れるかな?。
実際着てみると意外と動きやすい。各関節は動きやすいように可動域を邪魔しないような作りになっているし。金属部分もしっかりと弱い部分を隠してくれている。
装着したままシロクマ店長と一緒に店内をウロウロしてみたが違和感はなかった。シロクマの親子のようだ。
「気に入った、これを貰おう。それとこれも。」先程気に入った盾も一緒にシロクマ店長に渡す。
「ありがとうございやす!」務所帰りの兄貴を迎える子分のポーズ。
「武器も見ていくかい?」シロクマ店長から聞かれた。
「そうだな、武器も一応みてみよう。」そう告げるとシロクマ店長が武器屋へと続く扉を開けて案内してくれる。
「おう!お客様だ。案内頼んだぜ。」シロクマ店長は武器屋の店主に伝票の様なものを渡して僕を紹介してくれた。
武器屋の店主は僕より少し背が低いひげもじゃのおじさんだった。知ってるこの人ドワーフだ!!映画やアニメに出てくるドワーフ像そのものだった。鍛冶屋、武器屋と言えばドワーフなんだな。
「いらっしゃい。」こちらは防具屋と違って不愛想な口調だった。気持ちはわかる僕もそうだし。いや、同じ心境なのかは知らないけどね。
店内をウロウロ見て回る。防具はまだ装着したままだ。
とりあえず今持っている装備は、ゴブ吉の短剣と盗賊のナイフと木の盾だ。
長い武器、デカい武器はとりあえず考えていない。動きやすさを考えたらダガーとかかなぁ・・・。でもあまり刃物は扱いなれてないんだよな。料理に使う包丁とはわけが違うし。
壁にかかった色々な長さ、形の武器。
その中でもちょっと変わった武器が目にとまった。
こういうのってなんて言うんだろう。手甲?ナックルガード?握り手の部分を守る様に金属で覆われた短剣が目についた。
形状的にはシミターって言うのかな、鉈のようにも使えそうな反りがある短剣だ。
ガード部分で殴る事も出来そうだし、見た目もちょっとかっこいい・・・。中二心をくすぐるデザイン。実際はもう中三だけど。
手に持ってみると重さもそれほど気にならないし、ガード部分が少し重いせいか妙にバランスが良い気がする。
刃の部分に振り回されないっていうか、とても扱いやすい。
「これを貰おう。」その短剣に一目惚れした僕はドワーフ店長にそれを手渡した。
「まいど。」不愛想な店長は防具の分と合わせた金額を書いた伝票を指し示す。
合わせて金貨5枚と銀貨80枚。
うへ!高っ!!!!!
昨日の30万円をこれまた軽く超えてきやがりました、その額なんと58万円。おい、車かよ。
装備って高い物なんだなぁ・・・。
命を預けるんだからそりゃそうか・・・。
勿論そんなの知ってるしね、別に金額聞いてビビってねーし。最初からそれぐらいすると思ってたし。金持ってるしね。
そんな雰囲気を漂わせながら支払いを済ませる。
ドワーフ店長は最後まで不愛想な姿勢は崩さず、そのうえ帰り際に【にやり】と笑いやがった。
なにあの【にやり】完全に負けた。負け試合だった。完封負けだ。
この異世界にきて初めて負けた・・・。
あのドワーフ絶対魔王だ。
店を出て宿の部屋に帰るまで、僕はガックリと肩を落とし敗北の味を噛み締めるのだった。
次は絶対負けない!!
僕を見送った武器屋の店主に後ろから声がかかる。
「まったくお前は愛想がないねぇ。もうちょっと愛想振りまいたらどうだ。あんな良い装備をポンっと買ってくれた上客だぜ?」防具屋のシロクマ店長がドワーフ店長の頭を小突く。
「なんだ?十分愛想よかっただろう?最後は満面の笑顔で見送ったぜ?」ドワーフ店長が反論する。
「それがお前の満面の笑顔かよ。どう見てもしたり顔じゃねーか。」シロクマ店長が呆れ顔でヤレヤレというポーズをする。