第15話 買い物でもカウンターをとっていく
私は料理が趣味なんですが、こうやって物語の中で文章として書いていくのって難しいものですね。
食レポに関してはまだ良いとしても、料理の行程を書いていって味が伝わるかどうか。
しかも現代の調味料があまりない世界。どう再現したら良いものか、少ない調味料で美味しい料理を作るには。
割と最近そんな事ばかり考えていて、実際そうやって少ない調味料・食材で料理を作ってみて実験したりしています。
祝勝会?誕生会?成人式?なんだかわからないうちに始まった宴会も、気が付けばベッドの上だった。
初めてのお酒で良い感じに酔っぱらった僕は、宴もたけなわなな中早々に宿に送ってもらった。
それも全てオリバーさんの計らいである。
あ、酔っぱらったって言っても、飲んだのは1杯だけだよ?最初に注がれた1杯をチビチビ飲みながら、食堂で気に入った果実を絞ったジュースをメインに飲んでた。
そういえば宴会の最中、挨拶に来た魔道具店の店主が面白い事を言っていたっけ。
それは安全に旅をするなら結界石を使うといいという話だった。
結界石の大きさによって範囲が変わるらしいけど、小さい物であっても天幕を張ってゆっくりと野営が出来るぐらいの範囲は覆うことが出来るとのことだった。
高価なものだそうだが、ゆっくりと睡眠がとれるなら持っていた方が良いだろう。
それと、服も買っておいた方が良いな。どうやら僕の着ている制服は目立つらしいから。
それとギルドでオリバーさんから聞いた話によると、冒険者らしい装備もあった方が良いっていう事だった。
それらしい格好をしていれば、どこにいってもちゃんと冒険者として扱ってくれるそうだ。
あと僕はずいぶんと若く見えているようで、挨拶に来た人達から10歳ぐらいだと思っていたと言われた。
オリバーさんはドルトンさんに色々聞いていたからか、初めから大人として接してくれていたが。門番に初めて接した時も、そういわれればそんな事言われたっけ。
まぁ向こうでも背は平均身長をちょっとだけ、ちょっとだけ下回るぐらいだったし、同年代の女子よりもちょっとだけ低かったし、こっちに来てから会う人会う人全て僕より身長高いし、元々コンプレックスだし、子供っぽくみられるのはしょうがないとは思ってたけどさ。10歳は流石に言われ過ぎだと思うんだ。と心の中で激しく抗議した。激抗。
まぁそんな見た目だから格好だけでもちゃんとしておこうという事で。装備を買った方がいいかなって思ったんだ。
朝食を済ませ宿を出ると、焼失した家々の建築が始まっていた。
昨夜聞いた話によると、家を失った人達は、焼け残った家に泊めてもらったり、ギルドの集会所を間借りして生活しているそうだ。
一日も早い復興を祈っている。僕にできる事があれば手伝ってあげたいが、手伝いましょうか?なんて気軽に声を掛けれる自信がない・・・。
でもまぁ頼まれたら積極的に手伝いに行こう。
話を聞いて気になっていた結界石を見に、まずは魔道具店へ向かう。
店に入ると昨夜話を聞かせてくれた店主が出迎えてくれた。
「昨夜はありがとうございました。早速来ていただいたんですね。」20代後半ぐらいの女性店主はこの世界の人には珍しく背が低くて、僕より少し低いぐらいだった。背の低い種族なのかもしれない。
「結界石を見に来た。」僕がそういうと、待ってましたと言わんばかりにすぐにテーブルに並べられた。
「いまうちにある結界石はこちらです。石としては小さい方ですが、この4つで最大20歩四方の結界を張ることが出来ます。」袋から4つの石を出して教えてくれた。
「ちなみにこちらで金貨3枚になります。」
うわ高っ!!30万円って事か!?高価なものだって昨夜言ってたけど値段聞くと流石にビビるわ。
そんな高い買い物したことないぞ。一昨日買った雑貨屋の6万円が人生で一番の買い物だったのに、それを軽く超えてきた。びっくり。くりびつ。
でも懐にはそれを物ともしない額の金貨が入っている。快適な旅の為にこれは買っておこうと思う。
「ではそれを貰おう。」懐から金貨3枚を取り出してテーブルに置く。
ほんとそんな金額ぐらいでビビってませんけどねっていうぐらいの平気な顔で。金額を聞いて即答でしかも食い気味にそう答えた。
だってなんか今すごいスローモーションだったからね。ってかこれって反撃術発動してない??
一瞬店主の目がキランと光ったように見えた。
「いえ、お代は結構です。町を救っていただいた疾風様からお題を頂くわけにはいきません。」僕が差し出した金貨をぶわっっと右手の平で遮ってダメダメポーズしてきた。
どうやら昨夜からそのつもりだったらしく、今のも予め考えていた返事だったようだ。僕ぐらい食い気味に出してきた。
しかしそんな事も予想済み。僕もずっとスローモーションに見えてるし、2手先ぐらいまで既に読んでいる。
その出てきたダメダメの右手の平をズバッと弾き、左手に握らせる。
「礼などいらん。見返りを求めて助けとあれば俺も盗賊と一緒だろう。俺は経済を回してこの町の復興を手伝いたいんだ。金はしっかり受取れ。」
【ズババババババババッ!!!!】クリティカル発動。反撃術が見事に決まった瞬間だった。しかし台詞が長くなった。動揺してる証拠だ。
戦闘以外でも発動するんだな、このスキルって。
店主もカウンター狙ってたみたいだが、僕もカウンターで負けるわけにはいかないんだ。許してくれ。
しかし弾いた手が吹き飛ばなくてよかった・・・。
言葉のカウンターでクリティカルでたから良かったけど、危ないところだった。
調子に乗って使い過ぎないように気をつけよう。
あわあわした顔の店主の手にしっかりと金貨を握らせて、僕は結界石を袋に戻し受け取る。
「これは一本取られましたね。」店主は片目をつぶりテヘって顔をした。
そのあと、色々な魔道具を見せてもらった。
魔力を込めると水を出してくれる魔法石。
火をつける魔法石。
風を起こし涼がとれる魔法石。
遠くにいる人と文章のやり取りができる魔道具。
気になったのはこれぐらいだ。
火と風に関しては魔法でなんとかなりそうだし、連絡を取り合いたい知人もいないし・・・。
とりあえず旅に使えそうな水の魔法石だけ買っておくことにした。
これで飲み水を持ち歩く手間が省けるな。
因みに水の魔法石は銀貨30枚だった。まぁまぁの値段。
次は服屋さんに入った。
「疾風さんいらっしゃい♪」30代ぐらいの色気のある女性店主が出迎えてくれた。
入っていきなり声を掛けられたので多少ビクッとしたが顔には出さない。
「服を見繕って欲しい。デザインとサイズはあなたのセンスに任せる。」負けじと若干食い気味にそう答える。
「は~い♪」そう返事をすると店の中から色々と服を集めてきてくれた。
「この組み合わせなんてどうかしら?」持ってきてくれた服を受け取ると、試着室を利用して着替えさせてもらう事にした。
「一人で大丈夫だ。」店主が一緒に試着室にはいって来ようとしたので、一人で着替えられる年だからとやんわり遠慮させてもらった。店主はとても残念そうな顔をしていた。
着替えてみると、ちょっと服に着られてる感が半端なかったが、現地の人とは見た目が違うんだからしょうがないだろう。
「この服を買おう。こんな感じであと2通りぐらいの組み合わせを持ってきてくれ。」
という事で3着の着替えを購入した。これで少しは目立たなくなるかもしれない。
服一式を買ったところで手荷物がかなりの量になっていたので、1回宿に荷物を置きに戻ることにした。服ってかさばるもんだなぁ。
道すがら店を眺めながら歩いていると1件の食堂の前で声を掛けられた。
「疾風さんこんちわ。今うちの店で新しく出すメニューを作ってみたんだけど、どうしても疾風さんに味見してみてほしくてさ。」そう言うと食堂の店主は店の奥から皿に乗ったサンドイッチを持ってきた。
昨夜の宴会で僕が作って食べていたサンドイッチを早速商品化しようと試してみたらしい。それは僕が適任だろうな。
「そうか、じゃぁ頂こう。」店に買い物袋を置かせてもらい、サンドイッチを試食する。
あのパンにカモ肉のようなローストされたお肉がたっぷりと、レタスのような野菜が挟まれているものだった。
ふむふむ・・・。なかなか美味しいが少し物足りないな。カモ肉には塩味が効いているが、脂も無くさっぱりしたお肉なので、もう少しソースの一味が欲しいかも。レモンみたいな柑橘系のしぼり汁とかが入るだけでだいぶ締まりそうだし。なんならこちらの世界でサラダによくかけられているワインビネガーもいいかもしれない。
という事でワインビネガーに少量の油と塩を混ぜたドレッシングをかける事を提案した。
ちょっと待っててくれと裏に行った店主が速攻でドレッシングを仕上げて持ってきた。
先程のサンドイッチにドレッシングをかけて食べると、とてもフルーティーなビネガーの香りと良い感じに塩っ気の効いた味がベストマッチだった。
これにあとトマトのような野菜が加わると更によくなるかもしれないと提案してみたんだが、どうやらトマトで通じたらしく、すぐ試してみると言って裏に行ってトマトをスライスして持ってきてくれた。
パンもそうだが、僕が日本で食べていた物と同じ名前のものと、先日買ったローズマリーやバジルなどのハーブ類のように違う名前になっているものと混在しているようだ。
この違いについてはまた後日ゆっくりと考えてみる事にしよう。
先程のサンドイッチにトマトを挟んだものは店主に食べてもらった。味の想像はついたしね。
それを食べた店主は大喜びで新メニューが完成したと他の店員にも食べさせて回った。
もう昼だし、せっかくだから食べていってくれと店主に誘われて、僕は昼食をとることにした。
先日は気後れして一人で入れなかった食堂だったが、こんな風に歓迎されると自然と入れるものなんだな。
あまりちやほやされるのは得意じゃないが、こうやって呼び止めてくれる人の存在ってすごく嬉しいものなんだって事がわかった。
新メニューにも貢献できたし。お腹いっぱい食べさせてもらおう。
この日僕は人生で初めて、一人で外食をした。