第13話 初めての冒険者ギルド
今迄投稿する事に精一杯であまり気にしていなかったんですが。
いつの間にかブックマークしていただいている方や、評価していただいてる方がいらっしゃったんですね!
本当にありがとうございます。励みにさせて頂きたいと思います!
もうすぐ誕生日だったのは覚えてる。
ただ、唯一祝ってくれていたおばあちゃんが居なくなってから。誕生日なんてただの普通の日だと思ってた。
ステータスを確認していなければ自分の誕生日が来ていた事さえ気が付かなかっただろう。
っていうか異世界に来てから日付の感覚も時間の感覚もアバウトになっていた。
こちらには暦のようなものがあるのだろうか?
細かい時間を知る方法があるのだろうか?
こちらの世界の人間から聞かねばわからない事ばかりだな。普通の人ならそのへんの人に声かけて聞くことだってできちゃうんだろうか。
僕にとってはとてもハードルが高いな。
もし、こっちでそういう事が気軽に聞ける知り合いが出来たら色々教えてもらおう・・・。
トントン!
そんな事を考えていると突然部屋のドアがノックされた。
「疾風さん、お部屋にいらっしゃいますか?」宿のおかみさんの声だったかな?女性の聞きなれた声が聞こえた。
ドアのところまで行きドアを開ける。
「疾風さんにお客様がお見えですよ。」宿のおかみさんがにっこり笑顔でドアの前に立っていた。
「誰だ?」おかみさんに聞く、おかみさんがスッと横にずれると、後ろから見たことない小綺麗なおじさんが姿を見せた。
「お初にお目にかかります。この町で代表を務めさせていただいております、オリバーと申します。」おじさんはオリバーと名乗った。
「俺は疾風という。」名乗られたからには名乗るのが筋というものだろう。今までの人生で僕が学んだことの一つだ。
「勿論存じております。昨夜はどうもありがとうございました。疾風様のおかげで町が救われました。」そういえばドルトンさんが後で町の代表が挨拶に来ると言っていたっけ。
僕はそれを無視して宿に戻ってきてしまっていたのだった。それを謝っておくべきだろうか・・・。
「慣れないベッドでは落ち着けなかったのでな。無理を言って宿に戻ってしまった。すまない。」僕にしてはちゃんと謝れていたと思う。すごい頑張った。しかし目は合わせられていない。ちょっと斜め下を向きながらだからきっとかっこ悪い。
「いえいえ、とんでもない。私も枕が変わると寝られなくなってしまう性質ですので、疾風さまの気持ちもわかっているつもりでございます。」オリバーさんは気を使って答えてくれた。
「昨夜のお礼ですとか色々とお話ししたい事もございます。ゆっくりとお茶でも飲みながらお話したいので、よろしければ宿の向かいにありますギルドの応接室までお越しいただけるとありがたいのですが。疾風様の怪我のお加減はいかがでしょうか?後日再度伺った方がよろしいでしょうか?」オリバーさんは怪我してる僕に気を使ってか、申し訳なさそうな顔で聞いてきた。
「怪我はたいしたことはない。面倒な事は早めに済ませておきたいから、今で構わない。準備をするから外で待っていてくれ。」本当に愛想のない言葉しか発せられない・・・。これでも極力普通に答えてる方だと思うが、どうしても初対面の人に対しては構えてしまう。何度会っても変わらないという話もあるが・・・。
「ありがとうございます。では下で待っておりますので準備ができ次第お願いいたします。」オリバーさんはそういうとドアを閉め下へ降りて行った。
部屋着から制服に着替え、鏡も無いのでササっと手短に身だしなみを整える。
貴重品だけポケットに入れて戸締りをして部屋を出る。
「こちらです。」オリバーさんが案内してくれたのは、ギルドの受付の奥の方にある1室だった。
道すがら聞いた話では、この町のギルドは簡易的なもので、大きな町のギルドのように冒険者が集まって依頼を受けたりするような機能は通常備えて無いそうだ。
何年かに一度ある魔物の氾濫時に、他の町に居る冒険者を受け入れたり。
時折町に立ち寄る冒険者や隊商から魔物素材を買い取ったり。
この町の人間が冒険者になりたいと言った時に冒険者登録を行ったり。
祭りの前に会議をしたりするような場所として開放されていたりしているという。
その為ギルド内には受付兼事務所、執務室兼応接室、会議室兼集会所。その3部屋しかない。
よく小説や映画で見るような酒場が併設されているような賑わいのあるギルドではないようだ。
そういえばドルトンさんが、ギルドの集会所で怪我した人の治療をしていると言っていたっけ。
僕が通されたのは応接室で、普段はオリバーさんが町の代表として、そしてギルドマスターとして執務をしている部屋らしい。
聞いた話によると、この町の門番たちも元は冒険者という事で、依頼としてこの町の門番を引き受けた人たちなのだそうだ。
そういえば昨日フォレストウルフの毛皮を買い取ってもらう時に対応してくれたのはオリバーさんの奥さんらしい。夫婦でギルドの運営をまわしているそうだ。
応接室に案内されるとすぐにオリバーさんの奥さんがお茶を持ってきてくれた。
「あらためまして。昨日の盗賊討伐、昨夜の盗賊団討伐、合わせまして誠にありがとうございます。盗賊達の素性に関してはある程度調査が終わりました。報奨金に関しては、各盗賊に掛けられた賞金と盗賊団全体にかけられた賞金分として合計で金貨96枚と銀貨30枚という事になります。」すごい金額でた。え?日本円に換算すると・・・。963万円?約1000万円なんだが・・・。
昨日6万円分の買い物してすごい王様みたいな気分になっていたんだが?
「そうか。」内心動揺しまくりだったが、僕はそんなもの表に出さずに平然とした顔でそう答えた。
「報奨金に関してなんですが、とりあえずこの町の運営費としてすぐにお出しできるのがこちらに用意いたしました金貨50枚です。」ドンっと机に金貨の入った袋が置かれる。
「恥ずかしながら残りの分に関しましては、既に領都のギルドに申請を出しましたので、次の領都からの荷が届く20日後までお待ちいただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「そしてこの町をお救い頂いた事へのお礼といたしまして。町の代表個人として、疾風様のこの町での滞在費と今夜祝勝会を行わせて頂く事で返させていただきたいのですが、どうでしょうか?」オリバーが申し訳なさそうな顔で頭を下げながら聞いてきた。
つまり町にあまりお金が無いから、すべての金額揃えるまで時間掛かっちゃうし、祝勝会開くからそれで勘弁してくれっていう事かな。
僕としては祝勝会でみんなから注目を集めるのも勘弁だし、そんな大金をよこせとも思っていない。
「別に祝勝会など開いて貰わなくて結構だ。町の滞在に関してもドルトンが既に宿代を払ってくれているし。だいたい住民の家があれだけ焼失してしまった今、そんな事している場合ではないだろう。」
「この金も町の復興に使ってくれ。別に金が欲しくてやった事じゃない。」僕は机に出された金貨の入った袋。金袋をオリバーさんの方に突き出した。
正直昨日治療所で薬草を売った代金だけでもかなりの金額になる。あれだけあれば恐らく一生遊んで暮らせるんじゃないかと思ってるぐらいだ。それを1千万近くくれるとか言われても使いきれないだろう。
おばあちゃんとよく行った定食屋さんの大好きなレバニラ定食900円が10700回食べられちゃう。すごい金額だ。
よく広告が入ってた駅前にできた新しいマンションの価格が4500万円って言ってた、あのマンションが何個買えるか。
あれ?1個も買えなくない?
1千万円ってたいした額じゃない?
あれ??
15歳の少年の金銭感覚が崩壊をおこした。
オリバーさんは僕の思いもかけない行動に驚きを隠しきれなくて手をわたわた動かして身振り手振り言葉にならない口ぱくぱくで何か僕に伝えようと頑張っている。
僕の中でも金銭感覚崩壊で同じような状態だ。
今回は引き分けって事で勘弁してやろう。
「そ、それはいけません。町の復興とこれとは別のお話です。報奨金に関しても受取るわけにはいきません。これはお納めください。」突き出した金袋をオリバーさんが凄い顔して突き返す。
「祝勝会に関しても、開かなければ町の人間から私が責められます。既に祝勝会の為に準備も進められていますし、私を助けると思ってどうかどうか、開かせてください。」なんか逆にすごい剣幕でお願いされてるんだが。
「わかった。じゃぁよろしく頼む。だが、派手になり過ぎないようにな。俺はあまり騒がれるのは好きじゃない。」顔をそむけながらそう答えた。
「これはありがたく受け取っておく。だが20日も待つ気はない。俺は準備が出来次第次の町に向けて旅立つ予定だ。残りの金は俺が受け取ったことにして、家を失った者たちに分け与えてくれ。」突き返された金袋を懐にしまい、ぶっきらぼうにそう言った。これが最低限の譲歩だと言わんばかりに。
「ありがとうございます。」オリバーさんは深々と頭を下げて声にならない声を出した。
顔を上げたオリバーさんの目は真っ赤だったがそんなものは見ていない。見なかった。
「それでは次のお話なんですが。」まだ話があるらしい・・・。
「今回の盗賊退治の件を経歴に載せておきたいと思います。これは十分過ぎる経歴ですので。」経歴?オリバーさんがよくわからないことを言い出したのでオリバーさんと少しだけ目があった。恥ずかしい。
「という事で疾風さんの住民カード、もしくはギルドカードをお借りしたいのですが。」はい、わからない単語二つ目出たー。
どう答えりゃいいんだこれ。話の流れからして住民カードとかギルドカードってのは誰でも持ってるような物みたいな感じなんだが。
異世界から来たのでそういうものは持ってませんて答えていいものかどうか。
サラだって異世界から人が来たなんて聞いたことはあるけど見たことは無いって話だった。
この世界の人間にそんな事言ってとてもまともに受け取ってもらえる保証はない。
しばらく考えた後、僕は答えた。
「両方とも持ち合わせていない。俺はこの国にきたばかりで、身分を証明するようなものは持ち合わせていないのだ。」苦しい、非常に苦しいがこれが精一杯だ。まぁ嘘でもないしね。
「詳しい事は話せない。怪しい者だと思われるだろうが、どうすることも出来んのだ。」詮索されないように付け加える。
「怪しい者などと思うはずがございません。既に町も住民も救われ、ドルトンからも疾風様にどれだけの御恩があるか聞いております。」オリバーさんは僕を信用してくれているようだ。こんな怪しいやつなのに。自分で言うのも何だが・・・。
「それではギルドカードを新たにお作りするのはどうでしょうか?住民カードに関しては王都の管理するもので、こちらで勝手に作成することはできませんが、ギルドカードでしたらこちらで発行して申請書を提出するだけですので簡単に済むと思います。」
「これから旅を続けられるという事でしたので、身分を証明するものが無いと色々と困ると思います。町に入るにも本来住民カードかギルドカードの提出を求められますので。」
身分証持ってなくてもこの町に入れたのは、ドルトンさんの連れだという事と、マーサさんがすぐに治療所を必要としていた事、盗賊を捕まえてきたという信用?があった事が重なった事によっての偶然の産物なんだろうな。
ほんとこれらの事がなかったらと思うと気が遠くなる。
「ではギルドカードを作らせてもらおう。」僕は答えた。
「ありがとうございます。それでは少々お待ちください。」オリバーさんが応接室の戸を開けて奥さんに声を掛けると、奥さんが水晶玉の様なものを持って入ってきた。
「こちらは冒険者としてのステータスを表示させる魔道具になります。ギルドカードの作成に必要なので、こちらに両手を乗せて頂けますか?」水晶玉をテーブルの上に乗せ、僕の方へ差し出す。
水晶玉に手を乗せると自分で見るのと同じようなステータスが水晶玉に浮かび上がる。
「疾風様は家名持ちなのでございますか!?これは重ね重ね大変失礼をいたしました。」どうやらなにか勘違いをされているような感じだし、別に失礼な事は何もされていないんだが・・・。
「別に構わん。」とりあえずそう答えるしかない。
「いえ、貴族の方に対して失礼過ぎる行動をお詫び申し上げます。」オリバーさんは椅子から立ち上がり膝をついて仰々しく頭を下げた。
どうやら貴族に対しての礼の作法というものがあるらしい。
家名持ち=貴族という事か。特別なんだろうとは思ってたが、そこまでのものとは想像してなかった・・・。
「俺はこの国の貴族ではない。気にするな。それと、この事は伏せてくれ。あまり詮索されたくない。」あまりかしこまられると面倒くさいのでオリバーさんにそう言った。
「かしこまりました。このステータス表示もカードを作るこの時だけしか確認されませんのでご心配はいりません。ギルドカードに表示される名前に関してはフルネームで表示されてしまいますが、二つ名という事で何とかなると思います。」オリバーさんが答えてくれた。相変わらずかしこまったままだが。まぁ最初から丁寧な言葉使いで接してくれていたからしょうがないか・・・。
っていうか門番の人も最初僕の服装を見て貴族の子か?って聞いてきたっけ。っていうか門番の人はそんな事聞いてきた割にかしこまってはいなかったな。面白い。
という事は服装を見直さないとまずいのかもな。滞在中にこの世界の服を新調する必要が出てきた。
その間にオリバーさんはステータスの他のところも色々と確認していき、カードを作成する作業をしてくれている。
「疾風様は15歳なのですね、14歳だと未成年という事で本登録のカードは発行できなかったのでギリギリでございましたね。本登録できないと経歴の記載に親の承諾書等が必要で少し面倒になるところでした。」どうやらこの国では15歳で成人という扱いらしい。
「なら今日で良かった。昨日だったらダメだったと言う事か。」あぶねー今日誕生日でよかったー。という気持ちがボソッと出てしまった。
「本日は疾風様のお誕生日なのですか!?それはおめでとうございます!!」オリバーさんは急に立ち上がり拍手してくれた。え?誕生日って拍手されるものなの!?
横にいた奥さんも一緒に拍手してくれた。
なんだかなぁ・・・。
でも人から誕生日を祝って貰えるのって嬉しいな。
そんな事はもう無いって諦めてた事だけど、とても嬉しい事なんだなって思いだした。
なにやらごにょごにょと水晶玉に向かって作業していたオリバーさんは、先程のステータス情報からギルドカードを発行してくれた。どういう仕組みかはわからないが、水晶玉からニュッと金属のカードが出てきた。
カードの表面には僕の名前とギルドランクが表示されているらしい。文字が読めないので僕には何が書いてあるのかわからないけど・・・。そうオリバーさんが教えてくれた。
そしてそのカードを水晶玉の上にかざして何やら書類を水晶玉に入れた。文字通り入れた、ニュッと。
これでOKらしい。カードを手渡された。
「これでギルド登録と経歴の追加が完了いたしました。経歴の追加により、ギルドランクも自動的に上がっております。」オリバーさんがギルドランクについて説明してくれる。
どうやら冒険者はランク分けされているそうで。最初はFからスタートして、最終的にAまで上がる仕組みらしい。
その上には特別なランク分けもあるらしいが、冒険者と呼ばれる者に対してはAまでということだ。
Fランクというのは見習いという位置付けらしく、魔物の討伐等が依頼されるのはEランクからという事らしい。
今回盗賊討伐という経歴が加わったことによりランクはDという事で登録がなされた。
「これで身分の証明ができますので、身分証の提出を求められたらこれを出してください。保証人の欄には私の名前を書いておきました。」色々面倒な項目もあったらしいがオリバーさんが融通を効かせてくれたようだ。
「町の住民として暮らす場合には税金の支払い等の義務も発生します。しかし冒険者の場合は依頼の報酬を受けとったり、魔物の素材を売買したりする際にその都度税金を徴収しているので、定期的な納税の義務はありません。そのためどの町や国を拠点として活動していても身分が証明されるわけです。」
「ただし家や土地等を購入した場合には、定住するしないに関わらず、その財産に対する税がその地に定められる法によって定期的に発生いたします。その時は私や、その地のギルドの者に相談いただければと思います。」オリバーさんはそんな事も説明してくれた。詮索するなと言った僕にいろいろ気を使ってくれてのことだと思う。
「それではここでの手続きはこれで終わりでございます。祝勝会については準備が進んでおりますので、整い次第お部屋へお迎えに上がらせて頂きます。、お部屋でごゆっくりとされていてください。」やっと解放された僕は宿に戻ることになった。
今日は色々な事があったが、僕はついに冒険者となったのだ。
あと、成人にもなったよ。こっちの世界での成人だけどね・・・。成人って事はお酒とか飲めちゃうのかな?結婚とかもできる?
大人って何ができるのかわからないし実感もないけど。成人と認められたなら大人として振舞わなければいけないなと、心を引き締める僕であった。