第10話 人見知り、正義の味方になる
今日はお昼に回転ずしに行ってきました。
疾風が食べることが出来ないであろうお寿司をこれでもかと食べてやりました。
オチはありません、すいやせん。
「向こうの家にも火が付いたぞ!!」「門を守れ!突破される!!」「キャーーーー!!」「助けて!!」「女子供は町の奥へ!」怒号と悲鳴が飛び交う。
目が覚めると窓の外は地獄絵図だった。
町の中心にある大通り、その一番門寄りにある宿屋【ツバメの宿木亭】その2階の窓から見える景色は火の海だった。
大通りにある建物は石造りの頑丈な建物が目立つが、町の外周に絶つ家々は木製の平屋が多い。
宿の部屋の窓は丁度そちらの方に面しており、その火事の光景が窓からよく見える。
家々に火の手が上がり、住民が右往左往しているのがここからでも確認することが出来た。
町の柵外から射かけられる火矢が原因でその家々が激しく燃えているようだ。窓からでも火矢が飛んでくるのがよく見える。何者かの襲撃を受けているのだ。
僕は慌てて飛び起きると、靴を履きストールを手に外へ出る。
宿の外に出たところで頭から口元を覆うようにストールをグルグル巻き煙を吸わないように対策する。気持ち姿勢を低くする。
町の入り口の方は煙に巻かれていて、ここからではよく見えない状態だった。
大勢の女性たちが子供を抱えたり、手を引きながら門の方から逃げてくる。
その流れに逆らって門の方へと進むと、門番たちが門を必死におさえているのが遠くから見えた。
いったい何が攻めてきてるんだ?門へ走りながら周りを観察する。「盗賊の襲撃だ!」「女子供を逃がせ!」町の中からそんな声が聞こえてくる。どうやら盗賊が町を襲いに来たようだ。昨日に引き続きまた盗賊か、盗賊の神にでも好かれてるのか?
なぜ盗賊がこんな大規模な襲撃を?
いくら小さい町とはいえ、住民全員が武器を持って応戦すれば無傷ではいられまい。
そんなリスクを負ってまでも町に攻め込むメリットなんてあるのか?
疑問は尽きないが、まずは目の前の問題をなんとかしなければ・・・。
町の入り口に走りながらそんな事を考えていた。
門前の広場に辿りついたところで、ついに門が大きな音を立てながら内側に倒れてきた。
門をおさえていた門番達が、倒れる門の下敷きにならないように後ろに下がる。
門を倒壊させた盗賊たちはゆっくりとそれぞれの得物を手に町の中に入ってくる。ざっと見たところ盗賊は30名ぐらい居る。
「男共は殺せ!女子供は生け捕りにしろ!」ひときわ背が高く、頬に大きな傷があるリーダー格と思われる男が指示を出す。
それを、門をおさえていた4人の門番達が、これ以上先には進ませまいと迎え撃つ。
「おら!死ねえ!!!やっちまえ!!」鍛えられた体格の門番たちだったが数の暴力とは恐ろしもので、盗賊たちに取り囲まれあっという間に満身創痍の状態だ。
広場に集まっていた僕の周りの町の男達も、棒切れや石を拾い加勢しようと声を上げている。
しかしあれじゃぁ、とてもじゃないが盗賊達に敵うとは思えない。
どうにかしなければ。
自分になにができる?
魔法を撃ち込んで盗賊たちを撃退するか?
それでは門番たちに当たってしまう。
身体強化で突っ込むか?
それじゃ間に合わない。
一人も犠牲は出したくない。
盗賊たちを怯ませないと。
動きを止めてこちらに注目を集めないと。
こっちを、僕の方を見ろ!
一瞬のうちに色々な作戦を思い浮かべる。
今までの経験でこういう時にはどうしたら良いかを考える。
自分に何ができるかよく考える。
自分がしなければいけないことを考える。
自分の正義を貫く。
正義の味方になる!
僕が町を守る!!
広場の端にあった大きな木の箱をひっくり返して上に乗る。
そして空に手を上げて火の塊を放つ。
20m程上空で火の塊を大きな音が出るように大爆発させる。
【ドドーーーーーーーーン!!!】
怒号が飛び交う中でもひときわ目立つ、とても大きな爆発音。
剣戟が止み、その場にいた全員の注目が僕へ集まる。
盗賊も門番たちも広場に集まった男達も逃げ惑う女性や子供達も全ての人の視線が集まる。
たまらず、緩んで下がってきたストールをぐいっと持ち上げ顔を隠す・・・。
負けるな僕。
頑張れ僕。
やってやれ!
僕ならできる!!
身体中の力を振り絞り出来る限りの声量で啖呵を切る。
「群れなければ何も出来ないド底辺のクズ共が!!!」【こっちを見ろ!俺を狙え!!】
「こんな事をして神が見逃すと思うか!!」【俺のところに来い!俺を攻撃しろ!!】
「俺の怒りが天に届く前に、今すぐここから立ち去れ!!!!」【頼む俺を攻撃しろ!ほかの人を傷つけるな!!】
【パッン!】何かが弾ける音が聞こえたその時、僕の中から突然光があふれ辺りを一瞬で昼間の様な明るさに照らしだす。
門番たちと対峙していた盗賊たちは、もう僕しか見えないとばかりに、一斉に僕めがけて走り寄ってくる。
緊張の糸が切れたか、門番たちはその場で崩れ落ちる。
盗賊達が走り寄ってくるが物凄くゆっくりに感じる。周りの世界がスローモーションに見える。だから僕はとても落ち着いていた。
「天上より与えられし聖なる炎よ」右手をさっと上に上げ空を指さす。
「アインス、ツヴァイ、ドライ」指の先から順番に1個ずつ、3個の火の塊を作り出していく。
「愚か者共を裁く3つの火球となり焼き尽くせ」3個の火の塊が段々大きくなっていく。
あれ?こんな大きさ想定してなかったぞ!?
練習していた時よりも何倍も大きな塊になっていた。火の塊に魔力をグングン吸われていく感覚。
まぁいい、とにかくやってやれ!
「ファイアボール!!!」向かってくる盗賊達と僕の間、もうそこには町の人達は誰もいない。
その盗賊達の目の前めがけて火の塊を撃ち込む。
そして盗賊達に当たる手前でそれを爆発させる。
「エクスプロージョン!!」
【ドガーーーーーーーーーン!!!】
大爆発の爆風で盗賊達が後ろへ大きく吹き飛ぶ。
想像していたよりもだいぶ大きな爆発が起きて内心動揺していたが、そんな事を考えてる暇はない。
すぐに周りの状況を確かめる
吹き飛ばした盗賊達は起き上ってこない。
しかし爆発から逃れた4人の盗賊達が一斉に襲い掛かってくる。
まずは先頭の長剣を振り上げながら走ってくる大柄な男。
【ファイアアップ】身体強化の魔法をかけて一瞬で男の懐に飛び込み当身を食らわす。
【ズバババババババッ!!!!!】派手なSEと共に男が後ろへ吹っ飛ぶ。後ろを走っていた2人の男が巻き込まれて門柱に激突して門柱をへし折った。
身体強化をかけているとはいえなんて威力だ!?先程の魔法もそうだったが想定外の威力に思わず動きが停まる。
それは残りの一人の盗賊も同じだった。
門柱まで吹き飛ばされた盗賊達を見て立ち尽くす。
我に返った盗賊がゆっくりとこちらを振り返る。
ひときわ背が高く、頬に大きな傷がある。リーダー格だと感じた男だった。
「よくもやってくれたな、このガキが。」リーダー格の男は物凄く怖い顔で凄んできた。
「俺がガキならお前は赤ん坊か?」僕よりも頭3個分はデカい相手だが、思いっきり見下すようなポーズで腕を組み見得を切る。
「言ってろ!!」男は手に持った戦斧を振りあげながら突っ込んでくる。
僕は一瞬で間合いを詰めると、振り下ろされる戦斧を持つ手首めがけて手刀を繰り出した。
【スバババババババババッ!!!!】派手なSEと共に男の持つ戦斧が吹き飛ぶ。握っていた手首と共に・・・。
男は手首を押えながらその場にうずくまる。
それを見ていた門番たちがすかさず一斉に取り押さえる。
他の吹き飛ばした盗賊達も、町の男達によって取り押さえられている。
手首を弾き武器を落とさせようとしただけだった。っていうかなんだあのSE、会心の一撃?
この世界にきて何度か聞いたあの音。
あの音がすると凄い威力が出る。
想定していた以上の威力が出て、自分ではコントロールができない。
手首ごと吹っ飛ばしちゃったよ・・・。
「ウォォォォーーーー!!!」周りで見守っていた人達から大歓声が上がる。
まぁ、とりあえず全て終わった・・・。
「あとは・・・頼んだ・・・。」僕はその場で倒れこんだ。
翌朝目覚めるとベッドの上だった。宿屋の僕の部屋じゃない。知らない部屋のベッドだった。
「目が覚めましたか?」女性の声にびっくりして身体がビクンとする。
声のした方を見ると、見たことのある女性だった。昨日治療所で見かけた薬師さんの助手と思われる女性だった。たしかリリィさんと呼ばれていたかな。
ってことはここは治療所か?いやあの時見た治療所はこんな壁じゃなかったはずだ。
身体を起こしてみる。
ズキズキ・・・。頭が割れるように痛い。額に手を当てると頭には包帯が巻かれていた。
「倒れられた時に頭を強くうったそうです。薬草を塗って包帯を巻いてありますので明日には良くなる思いますよ。」リリィさんは優しく微笑んだ。
「ここは?」僕はリリィさんに尋ねた。
「ここは門番の詰め所になります。あなたが倒れたところのすぐ近くにあったので皆で運び込みました。」そうか、僕はあの後倒れたんだったな。その時に頭を打ったんだろう。
「盗賊達は?」一番気になっていたことを聞いた。
「全員捕らえられました。何人かは絶命していましたが、残りの者は縛られ尋問を受けています。」絶命した?僕が殺したのか?
相手がこちらを殺す勢いでかかってきたんだ。自業自得だろう。自分に言い聞かせる。
でもそんな事が許されるのか?人の命ってそんなに軽くないだろ。
いや、あいつらも人の命を軽く扱った。殺してやるって笑ってただろう。
実際門番たちは血まみれだった。ああするしかなかった・・・。助けるには戦うしかなかった。
「町の者達に被害は?」リリィさんに聞いてみる。
「おかげ様で死者は出ませんでした。傷ついた門番たちも、火事の被害に遭った者たちも、ギルドにある集会所で治療を受けています。」リリィさんが教えてくれた。
「そうか・・・。」そういうと僕は再びベッドに倒れこんだ。
町の人達に死者は出さなかった。怪我人は居るもののなんとか守れたんだ・・・。
枕に顔をうずめて、リリィさんにバレないように僕は泣いた。