第9話 人見知り、買い物をする
昼間と夜の寒暖差が激しい季節ですね、花粉も飛び散って花粉症の方にとっても過ごしずらい時期です。
皆さま体調管理にはくれぐれもご注意ください。
自分は体調崩してやたら眠いです・・・。
ガタガタガタ、馬車の横を何台かの馬車が通り過ぎていく。通り過ぎていく町の人の話声も聞こえてくる。ウトウトとした微睡の世界で漂う僕の意識。
何かあればすぐ起き上れるぐらいの浅い眠りで流れる時を数えている。
もうすぐお昼だろうか、太陽がだいぶ高い位置まで上がっていた。
「どうもお待たせしてしまって申し訳ないですじゃ。マーサも落ち着いたので治療所のリリィに任せてきました。これから宿までご案内させて頂きますじゃ。」ドルトンさんが申し訳なさそうな顔で僕に話しかけてきた。
「なに、昨夜は寝てないからな、ちょうどいい休憩時間だったよ。」僕は体を起こしてドルトンさんに答えた。
その後ドルトンさんに僕の希望を伝え、宿屋を紹介して貰い部屋をとってもらった。
宿代はドルトンさんが出してくれた。お礼だと言っていたので素直に受け取ることにする。
フォレストウルフの毛皮は、町のギルドで売ってもらえることになった。
次回から自分で出来るように隣でやり取りを観察させてもらいながら。
どうやらギルドに登録していなくても魔物の素材は買い取ってもらえるようだ。フォレストウルフの毛皮は3枚で銀貨90枚になった。
宿代が朝晩の食事つきで銀貨6枚だった事から想像するに、大体銀貨1枚1000円ぐらいの計算になるのだろう。
それを考えるとフォレストウルフの毛皮1枚で3万円か。なかなかの稼ぎになりそうだ。1枚あれば3~4日分の生活費にはなる。覚えておこう。
今後ギルドに登録して討伐依頼などをこなしていけば、更に安定した生活がおくれるかもしれないな。
因みに銀貨100枚で金貨1枚となる、つまり金貨1枚10万円。
銀貨の下は銅貨となっていて銅貨100枚で銀貨1枚となっている。銅貨1枚は10円換算ってことだね。
しばらく貨幣価値が身につくまでこんな感じで日本円換算していくことになるだろう。
ドルトンさんは今夜治療所でマーサさんに付き添って泊まるそうなので。
雑貨屋の場所まで案内してもらったあと、1回別れる事にした。
明朝宿に来てくれるという事だったので背嚢の事に関してはその時にでも相談するとしよう。
雑貨屋に入ると人の好さそうな主人が出迎えてくれる。ドルトンさんが店の主人に僕の事をよろしくと声を掛けて行ってくれたので笑顔で迎えてくれた。
店の中に入るとかなりの種類の商品が置いてあった。そこで旅に必要そうなものをある程度買い揃えておくことにする。
とりあえず町と町の間は結構離れているみたいだし、天幕は必要だな。それと野営の道具、調理器具や調味料、あとは食器類か。替えの下着とかも欲しいところ。
そういえばドルトンさんに言って、盗賊たちからはぎ取ったナイフを1本貰っておいた。4本あった中で一番程度のいいやつを。それがあれば魔物の解体や料理はできるだろう。短剣じゃやりにくかったからね。
店内をブラブラ見て回ったが、文字が読めないと説明書きがあっても何もわからないな・・・。
早急に文字を覚える必要がありそうだ。
思い切って店主に聞いてしまえばどうにかなるかと思い、意を決して話しかけてみた。
「天幕が欲しいんだが、どれが良いかわからない。建てやすく持ち運びやすい物を選んでもらえないだろうか?値段はある程度しても構わない。」人と話すのは難しい、愛想よく会話できる人がとてもうらやましい。
「それならこれはどうでしょう?中の支柱を現地調達してもらう事にはなりますが、そのおかげで畳むととても小さくなります。」主人はたくさん並んでいる中で目立つ所に置いてあった天幕を手に取って見せてくれた。どうやらおすすめ商品らしい。
「建てる手本を見せてもらうことはできるか?」説明書など渡されても読めないので、天幕の建て方を教えてくれないか聞いてみた。
「裏の庭で建ててお見せしましょう。」主人は快く引き受けてくれた。
店の裏に回ると、天幕を地面に広げて見せてくれる。広げると1辺が2m程の6角形の布地だった。
「まずはこの6か所を杭で地面に留めます。」主人は金属の杭で6か所の角を留めていった。
「そしてこの中に入って支柱を立てて終わりです。」天幕の上部分を持ち上げ、持っていた2m程の支柱を天幕の中心に入れて天幕の天井を支えた。
所謂ワンポールテントってやつだな。
支柱には木の枝などを用意してやらなければいけないが、その分支柱を持ち歩く手間もない。
僕だったら魔法を使って、このぐらいの支柱は容易に現地調達する事が出来るだろう。木さえあればだけど。
「これを貰おう。」主人に告げると店に戻り他の物を物色する。
調理器具や食器類などは主人も一緒に選んでくれた。持ち運びやすくて使いやすそうな物を中心に。
まずは焚火に直接手で持って使えるような大き目のスキレット。大き目と言っても薄く作ってあってだいぶ軽くなっている。
持ち手は畳めるようになっているので携帯性も良い。
あとは鍋だが。ダッチオーブンの様なものが欲しかったが、重すぎるし嵩張るので軽い物をチョイスした。
耐久度は下がるが、そこは消耗品だとあきらめよう。
大きさは嵩張るが、これが入るぐらいの背嚢を頼めば持ち運べるだろう。
まぁ重くても身体強化を使えば大丈夫なんだろうけど・・・。
あとはBBQの焼き網みたいなものも買った。30㎝ぐらいの正方形の網で、うまく石を積んで簡易炉を作れば、五徳代わりにもなるしそのまま焼肉もできるので便利そうだ。
丈夫な作りだが網なので軽く、持ち運びも用意だろう。
調味料は塩と砂糖を買った。胡椒も欲しかったがかなり高価なものだそうで、このお店には売っていなかった。
塩も場所によってはかなり高価だそうだが、この町は近くで岩塩が採れるそうで安く入手できた。この先手に入れられないと困るので少し多めに購入しておいた。
砂糖に関してはとても安く、この辺りはどこでも手に入るとのことだったので買っておいた。どうやらこのあたりはサトウキビの産地らしい。
塩も砂糖も精製があまく、真っ白ではなかったが、それはそれでアジだろう。
醤油や味噌なんかは無いだろうと踏んでいたが。案の定なかったのでとりあえず調味料はそれだけにした。
バジルとかローズマリーとかハーブ類があると良かったんだけど、雑貨屋さんには置いてないようだった。
あとは小麦粉とサトウキビから作ったというお酒を買っておいた。
お酒はラム酒みたいなものかな?もしくは泡盛か。まだお酒を飲める年齢ではないのでそのへんはわからない・・・。
小麦粉に関しては薄力粉なのか強力粉なのかわからないので、使ううちに確かめたいと思う。
食器類に関しては木の皿と深皿とマグカップを購入した。一人旅だけど一応2個ずつ。サラが合流した時に使うかもしれないしね。
それと下着類を数枚と、ちょっとみすぼらしいが部屋着にはいいだろうと簡易的な服も1着買った。
以上の買い物で銀貨60枚だった。日本円にして6万円、なかなかの値段だな。日本でもそんな買い物はしたことが無かったかもしれない。
最後に 店主がこれも必要になるだろうと薄めのブラケットをサービスで1枚つけてくれた。
そういえば寝具的なものは買い忘れていた。まぁ気候も温暖だしこれ1枚で足りるだろう。
雑貨屋で買ったものはかなりの量だったので、雑貨屋の主人が後で宿まで届けてくれると言った。
まぁ宿は目と鼻の先なので自分で運んでも良かったんだが、この後他にも店を回りたかったので頼むことにした。
そういえば薬師さんから渡された袋には金貨が10枚入っていた。日本円に換算すると100万円!!コンラット草の葉は20枚ほどあったから、1枚で5万円って言う事になるな。
市価の倍って言ってたからそれでも通常1枚2万5千円するって事か。めちゃくちゃ高価なものだったんだな。
サラありがとう。十分すぎるぐらいの旅の資金を得られたよ。
スリとかにあっても大丈夫なように銀貨を入れた袋とは別にパンダちゃんバッグの奥の方にしまってある。
雑貨屋を出ると大通りをぶらぶら歩く。この町は中心の大通り沿いにしか商店はないそうだ。
この通りだけで全て事足りるって事ね。なんて便利な町なんでしょう。
っていうか選択の自由は無いっていう事でもあるから、不便でもあるってことか
ちなみに毛皮を売ったギルドもこの大通り沿いにあり。宿屋の向かい側にあった。
普段は店で買い物するのが苦手で、食料品以外のものは大体ネット通販で済ませるようにしていた。
でもこっちの世界ではそういうわけにはいかない。Amazonなんて無い、本当の意味でのアマゾン(密林)ならあるだろうけど・・・。なんとかお店で買い物が出来るように慣れなければ。
ちょっとお腹が減ったなぁって思ってたんだけど時間で言えば大体お昼過ぎたぐらいになるのかな。
太陽は傾き出してるぐらいの時間だ。
お昼を食べに食堂に入ってみたいけど、まだ一人で食堂に入っていけるほどこの世界になれていない。
こういう事も今後の課題だな・・・。
元の世界では普通に出来ていたような事もこの世界では難易度が上がる。人見知りには向いてないのかもな・・・、異世界ってやつは。
そんな事を思いながら大通りを歩いていると1件のお店が気になった。
文字が読めないので店の看板に何が書いてあるのかはわからないけど、どうやら乾燥させた植物を売っているお店のようだ。
予感がして店内に吸い込まれていく。
「いらっしゃい。」年の頃なら20代前半ぐらいのお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。
ガラスのビンに入れられて並んでいる何種類かの乾燥した植物の葉や花や根などの商品。
どこか見慣れた植物もちらほら見かける。
「これらはハーブで間違いないか?」お姉さんに尋ねてみる。
「ハーブ?聞きなれない言葉だね。これは薬草だよ。乾燥させてあるからあとは必要な材料をすりつぶして混ぜるだけさ。」お姉さんが教えてくれた。どうやら薬草の類はこうやって乾燥させて売られているようだ。
しかしその中にはどうみてもローズマリーの様な植物の葉がある。その横には見慣れたバジルの葉のようなものまである。こちらにあるのは月桂樹の葉か?
「ちょっと蓋を開けて匂いを嗅いでみても良いか?」お姉さんに聞いてみる。
「構わないよ。じっくり選んでから買っておくれ。」お姉さんはビンの蓋をとって渡してくれた。
うん、やっぱりローズマリーだ。そしてこっちはバジル、あとこっちはローリエだ。
どうやらこちらの世界ではハーブは薬草として知られているようだ。
「この3種類が欲しいんだが。」匂いを嗅いだ薬草を買うことにした。
「まいど。10コルずつでいいかい?」重さの単位だろうか?お姉さんが聞いてくる。
「10コルでどれぐらいの量になる?」お姉さんに聞いてみた。
「ちょっとまってね。」天秤に乗せて量ってくれる。「マリルを10コルだとこれぐらいだね」お姉さんが見本を見せてくれた。まぁこれぐらいあれば十分だろう。
ちなみにローズマリーはマリル、バジルはリコ、ローリエはリエッタというらしい。
それぞれ値段は違うが全部で銀貨3枚だった。
結構するもんだな、まぁ薬草だというんだから高価なもんではあるんだろう。
とは言え料理にはそんなに大量に使うわけでもないし、良しとしよう。
薬草店を出ると、再び町をぶらぶらしていく。
衣服を売るお店、魔道具店らしきお店、武器を売るお店、防具を売るお店、本?魔導書?を売るお店、などなどいろいろなお店があった。
今欲しい物があるわけでは無いのでそれらを軽く見て、ある程度の相場を確認し、その日は宿へ帰った。
宿へ帰ると部屋には雑貨屋で買った品々が届けられていた。部屋まで持ってきてくれるとは親切なお店だなぁ。
いや、逆に言うと荷物を届けに来たってだけで、部屋に勝手に入れてしまう宿のセキュリティ意識に疑問を感じるが・・・。
他人を疑い過ぎだろうか?まぁ田舎だからっていう言葉で済ませてしまう方がいいのかな。
どっちにしろ部屋に貴重品を置いて出掛けるのはやめた方がいいかもなと思った。
その後は夕ご飯の時間まで部屋で時間をつぶし、夕ご飯の時間になるやすぐに食堂へ向かった。
店が混む前に落ち着いて食事を済ませたかったからだ。
予想通り店内はすいていて、席も選び放題だった。
店内で目立ちにくい場所に位置するテーブルに腰かける。
こういう席を無意識で選んでしまう自分は、時々殺し屋かな?って思う。
チェックインの時に説明があったが、食堂にメニューは無く、その日の決まったメニューを席に座ったら自動的に出されるシステムらしい。この世界での勝手がわからないのである意味ありがたい。
この日のメニューは何かのお肉の塊と、じゃがいものような野菜と、玉ねぎのような野菜を煮込んだ茶色いスープと。葉野菜のサラダと。籠いっぱいに盛られたパンだった。
飲み物は別料金らしいが、カウンターに果実が並んでいたので。それを絞ったジュースが欲しいと頼んでおいた。
さて、まずはスープから。
んー、不可ではないが、決して美味くはない・・・。
肉に関しては柔らかくはあったが、もう1味欲しいと願ってしまうような惜しい味。スープにはそれがありありと出てしまっていた。
サラダに関してもドレッシングとかがかかってるわけじゃなく、上から酢がかけられたような味だった。
酢っていうかワインビネガーの様なものかな。フルーティーな味わいでまずくは無いが、もう少しガツンと味が欲しいな僕は。
だが、パンに関してはこれが当たりだった。フワフワとしていて且つモッチリと食べ応えもある。
小麦の味わいも深い、日本で食べても美味しいと言えるぐらいの美味しいパンだった。
ドルトンさんから貰ったパンがカチカチだったのでパンに関しては期待していなかったが、これは美味しい誤算である。
きっとあれは旅の間に食べられる保存食としてのカチカチパンだったのだろう。
じゃなけりゃドルトンさんの顎がワニ並みに強いって事だろう。
これらの事を考えると雑貨屋で売られていた小麦粉は強力粉なのかもしれない。そうするとパスタなんかに向いてるかもな。いつか作ってみよう。
そんな事を考えながら夕食を味わった。全体的に味は単調でもうひと味欲しいと思ってしまうが。
肉自体は柔らかく煮込まれていたし、野菜も美味しかった。
ワインビネガーがあることも分かったのでそのうち買う事にしよう。
パンは凄くおいしかったのでこれは嬉しかった。あのパンに色々な具材を挟んでサンドイッチにするのもいいなぁとか考えている。
そんな事を考えていると段々と店内がお客さんで埋まっていく。どうやら宿泊客以外のお客さんも多数いるようだ。
店員のお姉さんを呼び、飲み物の代金だけ払うと部屋に戻った。
そうそう飲み物はとっても美味しかった。オレンジの様な果実をベースにさっぱりとした味わいにまとめられた飲みやすいジュースだった。
あとで部屋にも持ってきてもらえるように頼んだ。
部屋に戻ると部屋着に着替え、ベッドに寝そべる。
暫くすると宿のおかみさんがたらいにお湯を入れて持ってきてくれた。どうやらお風呂代わりにこれで体を拭くらしい。
郷に入っては郷に従え。たらいのお湯で体を拭いてこの日は寝る事にした。
今日は色々な事があったな。そういえば盗賊の討伐報酬に関しては数日待ってくれという事だった。領都に問い合わせて手配書などを照会してくれるとのこと。
たいした盗賊ではなかったからそんなに報酬は期待できなさそうだけどね。
お金に困ってるわけじゃないけど、ドルトンさんが作ってくるという背嚢の出来上がりを待たないといけないし。
ついでに待って受け取っておこう。急ぐ旅じゃないしね。
この町でのんびり過ごしていこうと思う。