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書簡小説  作者: 八谷響
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第二章

     一月十八日 柊耶から征志郎へ


 先日の大雪は、大事なかったでしょうか? 早く暖かくなってほしいものです。寒さは僕の身体には特別堪えます。征志郎さんも、風邪など引かれませんようお気をつけください。

 いただいた本は、ようやくすべて読み終えることができました。論文も順調です。このままいけば、お約束の日には完成できるでしょう。

 身体のほうもよくなれば、以前お話のあった征志郎さんの大学の講師という職についても考えたいところです。勉強は好きですし、それを仕事にできるのであれば夢のようです。

 本当にありがとうございます。征志郎さんの優しさが、僕には何よりの支えです。


     一月二十二日 征志郎から柊耶へ


 君の努力と意欲には、本当に頭が下がります。論文の完成を、私も楽しみにしています。けれど、どうか無理をしないように。

 前に会ったのは、確か師走の終わりごろだったと思いますが、そのときも私は君の白い頬が妙に赤かったのがとても気になっていた。あれは寒さではなく、熱のせいだったのではないですか?

 その後、寝込んだりはしていませんか? 正月に美倉家に伺ったときも、君が早くに部屋へ下がってしまったから気を揉んでいたのです。

 どうか、身体を大切にしてください。


     一月二十五日 柊耶から征志郎へ


 征志郎さんは本当にお優しい方ですね。正月の時は、僕はあまり酒が得意ではないから早めに休んだだけです。本当は、久しぶりに征志郎さんとお話しするのが楽しみだったのに。

 微熱が出ることは、時折あります。でも前に比べるとずいぶん減りましたので、ご安心ください。先のことに希望が見出せると、身体の調子までよくなっているような気がします。

 来月になれば多少落ち着くでしょうから、また会っていただけますか?


     一月二十八日 柊耶から征志郎へ


 お返事がなくて心配です。お身体を悪くされてはいないでしょうか。はがき一枚でもいいのです。お元気であることをお知らせいただければと思います。


     二月一日 征志郎から柊耶へ


 手紙をいただいたのに、返事ができなくて申し訳ありませんでした。でも、どのみち君と会うことはできなかったでしょう。急に千景と出かける用事ができてしまったのです。ただの社交的な訪問でしたが、間際になって突然切り出されたので多少面食らいました。

 何やら千景が言ったようで、美倉家から妙な問い合わせもありました。我々の夫婦仲はどうなのかと、遠回しに尋ねられました。

 彼女が何を考えているのか、正直まったくわかりません。


 追伸 何日か前にも、手紙を送ってくださっていたのですね。返事がなくて、ご心配だったでしょう。千景の部屋の戸棚に隠されていたのを、偶然見つけました。なぜそんなところにあったのかはわかりません。


     二月六日 柊耶から征志郎へ


 お返事のなかったわけがわかって、ほっとしました。そういうことなのでしたら、どうぞお気に病まないでください。

 両親は、よく征志郎さんたちのことを話しているようです。子供はいつになるだろうとか、夫婦としてうまくいっているんだろうとか……。

 姉さんが幸せかどうかなんて、どうでもいいようです。

 征志郎さんは、姉さんに子供を産ませるためだけに結婚したわけではないのに。いくら幼いころからの許嫁だったとはいえ。

 征志郎さん。征志郎さんは、姉さんのことをどう想っておられるのですか?


     二月十五日 征志郎から柊耶へ


 君の手紙を読むときが、本当に心安まります。いつも私を気遣ってくれて、本当に嬉しい。

 来週には、また会えますね。君のことを教授に紹介できるのを嬉しく思います。論文の草稿を何度か見せてもらいましたが、あの内容ならばきっと講師の話もうまくまとまるだろうと信じています。

 早く、君の顔が見たいです。


     二月二十一日 柊耶から征志郎へ


 先日はありがとうございました。教授は素晴らしい方ですね。ご紹介くださって、本当に嬉しく思います。

 春からは、もっと征志郎さんにお目にかかる機会が増えるのですね。夢のようです。自分の力で自分を養えるというのが、こんなに強い安堵感をもたらすなんて思いもしませんでした。

 何かと至らないところも多いと思いますが、どうぞ先輩としてよろしくお導きください。


     二月二十五日 征志郎から柊耶へ


 君の力になれてよかったです。これから勉学に励むのはもちろんですが、健康にも一層気をつけてお過ごしください。働くためには、身体が何よりも大切です。

 講師の口が決まったあとの君が本当に嬉しそうで、私も嬉しかったです。いつも、あんな明るい顔をしていてほしい。

 わからないことや心配なことがあったら、いつでも相談に来てください。同じ学校で働く仲間であるのはもちろんのこと、君は私の義弟でもあるのですから。


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