どうりでよく寝るわけだ
「魔法学校が始まる前から、普通の学校は存在していて学校たるもの四月入学というのは決まっていた。で、ここに無理やり合わせたら、今みたいなことになった」
羊羹が指を振りながら蜥蜴に解説する。
「もう一年遅らせるという案や、四月だけ検査日をずらすという案もあったのですが、
この少しの誤差のために、一年遅らせるのは違うという話になり、この案はボツになりました。
四月だけ検査日をずらす、という案は実際一度やってみたことがあるらしいのですが、ほとんど誰も覚えていなかったという結果に終わったそうです。みんな十五歳の誕生日の翌月の十五日で覚えてましたから」
猿賀も羊羹の説明に付け足す。
「最初の検査日が覚えやすすぎたことが原因だな」
ふむふむなるほどと頭を上下運動させながら蜥蜴が納得した。
「でもさ、こんなこと授業で習った?」
「蜥蜴くんは座学の授業中いつも寝ていますもんね」
「そんなことは、ないと思うぞ?」
「そもそも、上に着てるのがいつも寝巻きっていうところからやる気を感じないよね」
は?
こいつがいつも上に着ているTシャツ、寝巻きだったのか?
魔法学校にも制服というものは存在する。
男子のズボン、女子のスカート。
これは制服として入学者説明会の日に採寸を行い、入学式の日に支給される。
その他には、靴、上履き、傘、学年色みたいな役割を果たすその代専用のネックレスなんかも支給されたか。
だが、それ以外は自由ということになっており、みんなそれぞれ勝手なものを着ている。
なので、寝巻きでも校則違反にはならないだろう。
でも、ねぇ。
まさか寝巻きだったとは思わなかったよぉ。
「どうりでよく寝るわけだ」
「馴鹿⁉︎俺はそんなに寝てないよな⁉︎」
寝ています。
「ここが、商店街」
商店街の入り口についた馴鹿はそう言った。
「随分とたくさん人がいるな。休日だからか?」
蜥蜴は目の前の光景を見てそういった。
「ここが、一度こようと思ったけど、迷子になって来れなかった商店街ですか」
徒歩十分ぐらいの距離だけど、猿賀迷子になったのね。
「そういうこともあるよね」
羊羹がよしよしとなぐさめる。
「地図は、読めないんですよぉ」
およよ、と言いながらそんな弱点を告白する猿賀。
「でも、あの遠い実習室までは行けてるじゃん。私、あれで迷子になりかけたのに」
「あの時は馴鹿くんが一緒でしたから」
いや、確かにそうか。
あの時、地図は馴鹿が持っていたしそういうことになるか。
でも正直、隣にいた猿賀が地図を読めなかったなんて全く気づかなかった。
「なので、羊羹さん。迷子にならないように、私と手を繋いでください」
「私もそこまで方向感覚に自信があるわけじゃないんだけど」
そう言った羊羹だったが、素直に猿賀の手を握った。
「で、馴鹿はいつもここで買い物してるわけか」
そんな様子を確認した後、蜥蜴が馴鹿に言った。
「ああ、いつもあそこらへんで買い物してる」
そう言って個人の露店からスーパーマーケットみたいな建物までいろいろな種類の食品店が出店しているエリアを指さした。
「では、まずそこを見てみましょう」
猿賀がそう言ったので、馴鹿たちはそちらに向かって歩き出した。
「毎日買い物しているんですか?」
「ほぼ毎日だな」
「大変だよね。そう考えると家持組って」
「寮ってどうなってるの?寮母さんとかが朝ごはん作ってくれたりするの?」
「寮母なんていないですよ。寮全体の一日分の食材が毎日食堂に届くだけで、そこから先は全て自分たちだけでしなくてはなりません。今日は卵が美味しそうだからこれ食べようといった感じでその日届いた食材の中で何を作るのか、何を食べたいのかを考えて自分で食事を作ります。ですが、考えてみれば、食材が届くこと自体ありがたいんですよね」
自分で作るのか。
ん?
自分で作る?
「蜥蜴。今日の朝ごはん何食べた?」
こいつ、一体どんなもの食べてるんだろうか。
料理とかできそうにないけど。
「キュウリを十本ぐらい食べた」
なんでそんな栄養かのないものを、訳のわからない量食べているんだ、こいつは。
「美味しかった?」
羊羹が首を傾げて聞いた。
「すっごい美味しかった」
こいつは少し変な子かもしれない。
だが、そういうことか。
馴鹿はなんとなく寮の食事事情を想像した。
「取り合いとかにならないの?」
今の二人の話を聞いて、どうやら一人一人決まった食材が届くというパターンではなく、寮全体宛に届いた食材の中から、自分が食べたいものを選んでいくというスタイルらしい。
つまり、人気の食材はみんなに取られるということだ。
取り合いとか起こらないのだろうか。
「そういうのも見越して多めに送られていますからね。朝になくなることは滅多にありません。夜に食材切れだったから仕方なく別のものをという状況は経験がありますが。ただ、私も寮に入ってからまだ一ヶ月も経っていない身なので、そこまで正確なところは分かりません」
「朝に食材がなくなることは滅多にないって、そりゃ朝ごはんをまともに準備している奴が少ないからなぁ」
「それはあるよね。蜥蜴みたいな人、そんなに珍しくないし」
「だろ?」
まあ、俺も自分で作っている身だ。
気持ちはよく分かるよ。
毎朝作るのは面倒くさいよな。
前日の残り物を食べようにも、前日に何も料理してなければ残り物なんて出ない訳で。
要するに、今食べるもので手一杯です。
「ん?あれは?」
食品売り場で傘を当てないように注意しながら一歩一歩進んでいくと、羊羹が突然そう言った。
指を指している。
その先には同じ傘を持った一人の少年がいた。
あの傘をさしているということは、つまり同じ魔法使いということだ。
「あれ、奇遇だな」
向こうもこちらに気づいたのか、声をかけてくる。
「同じ組の駱駝葉くんだ」
しかも同じ教室にいる人だった。
え、俺知らないんですけど。
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