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あの磁石、自分一人じゃ取れないんだよなぁ

「もう直ぐ出ないと間に合わなくなるな」


時間を確認した馴鹿(となかい)は、靴を履く。

雨が降っているため、傘を持ち家の鍵を閉めた。

生憎の天気だな、なんて思わない。

なぜならこの世界は84パーセントの確率で雨が降るから。

逆に晴れの日の方が珍しいため、学校からこんなものまで支給される。


「意外と、気に入ってるんだよな。この柄」


落ち着いた色合いにちょっとしたワンポイントがある傘。

伝統ある魔法学校が支給する学生用の傘だ。

休日もこの学校指定の傘を使うかどうか迷ったのだが、休日でも使っている人が大半なので、馴鹿(となかい)も普通に使うことにきめた。

それに、柄が気に入っているだけではなく、作りもよくできているのだ。

滅多なことでは壊れないだろう。

流石、雨ばかりの世界で卒業まで使うことを考えられた傘である。

エントランスまで降りてきた馴鹿(となかい)はその自慢の傘を広げて歩き出した。




馴鹿(となかい)くん。今日はよろしくね」


待ち合わせ場所の学校の校門前に着くと、馴鹿(となかい)と同じ傘をさしている人が二人待っていた。

片方は猿賀(さるが)だった。

そして、もう片方の羊羹(ようかん)が話しかけてくる。

あれ、来るとか言ってたっけ?

多分言っていなかったはずだが。


「昨日寮で話してる時、私も行きたいって言っちゃったんだけど、いい?」


「いいよ」


一人ぐらい増えたところで、大して変わらないだろう。

残るは蜥蜴(とかげ)だけか。


「ごめん、待った?」


「いや、今きたところだ」


今使うべきではない台詞のやり取りを男同士でしながら、全員集まったことを確認し、馴鹿(となかい)たちは商店街に向けて歩き出した。




「そろそろ、一人ぐらい途中入学生が来てもいい時期じゃないか?」


「確かに十五日は過ぎたけど、まだじゃない?本当に早くても来週ぐらいにならないと来ないと思う」


羊羹(ようかん)が蜥蜴に向かって言った。

国立魔法学校。

馴鹿(となかい)たちが通う学校の名前だ。

全国から魔法適性を持つ子供たちが集められ、勉強する唯一の魔法学校である。

魔法使いは必ず十四歳までにその適性を見せる。

早く適性を見せる子はいるが、それ以降に適性を見せる子はいない。


「あ、そう言えば、十五日過ぎたんですね。じゃあ、今年度入学生最後の適正試験が終わったってことですか」


なので、十五歳の誕生日の次の月の十五日、それぞれの村で適正試験を受けるのだ。

ちなみに十五日なのは十五歳と被らせた完全な洒落らしい。

十五歳の誕生日を迎えた次の月の十五日。

まあ、確かに忘れなさそうだよね。

要するに今月の十五日、三月生まれの子たちが適正試験を終えたのだ。

この子たちがいつ入学してくるか、ということを話している。


「何人ぐらい、来るかなぁ」


本当に早くても来週、なんて現実的なことを言っていた羊羹(ようかん)だが、実はかなり楽しみにしているらしい。


「今、二組の人数が三十六人です。この三十六人が十一ヶ月の誕生日で集まった数なので、十一で割ってあげると、大体三人ぐらいじゃないでしょうか」


流石、優等生でメガネをかけている猿賀(さるが)

なるほど、としか言えないような答えを出す。


「でも、私はもう適正試験とかやりたくないなぁ。かなりくすぐったかったし」


魔法使いの適性を調べる方法、それは簡単である。

この世界には魔法使いにのみくっつく磁石というものが存在するため、それに触るのだ。

もしくっつけば、魔法使いだし、くっつかなければ魔法使いでは無い。

…初めて聞いたときはだいぶん魔法使いの価値が下がったような気がしてならなかった。


「あの磁石、自分一人じゃ取れないんだよなぁ」

「そりゃ、全身にくっつくからね」


蜥蜴(とかげ)が何かを思い出したように身を震わせていった。

考えてみれば簡単なことである。

磁石は磁石にくっつかないもので取って初めて離れるのである。

スチール缶にくっついた磁石を取るためにもう一つスチール缶を持ってきてもそっちに着くだけだ。

磁石にくっつかない人の手を使って初めて取れる。

しかし、人間にもくっつく磁石だったら。

右手から剥がしたと思ったら今度は左手にくっついている。

そんなことの繰り返しだ。

だから、あの磁石は危険なのだ。

対魔法使い専用で。


「にしても、中途半端だよな。なんで、みんな一気に入学じゃないんだよ」


「蜥蜴、授業聞いてなかったでしょ…」


羊羹(ようかん)が呆れたように言った。

猿賀(さるが)も一緒に頷く。


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