本当に魔法だぁ
「凛に馴鹿くん、調子はどう?」
二人は声のした方に顔を向けた。
「三人目は羊羹さんですか」
「二人に遅れること一週間、ついに私も一つ目の課題を突破したよ」
いやー大変だったと親父みたいな口調で言いながら、馴鹿たちの前に座った。
「にしてもこの実習室、広いけど遠いね。私、一回迷子になっちゃった。で、二人はどこまで進んだの?」
「まだまだです。先週からやってますが、火炎魔法の魔法陣をやっと覚えて次は念力魔法に取り組んでいるところです」
教室では使用禁止とされている魔法がある。
火炎魔法なんていうのはそうだ。
理由は、いきなり教室で火とか起こしたら火事になっちゃうから。
なので、そういう魔法を使う際は別教室に移動しなくてはならない。
その移動先が、この実習室だ。
広さは大体、体育館の二倍ぐらいある。
「馴鹿君も?」
「俺も」
「へぇ。じゃ、私は火炎魔法からかな」
そう言って教科書を広げる。
「うへっ。火炎魔法複雑なんですけど」
「それでもまだ他のと比べたらマシな方ですよ」
「本当だ」
他のページをパラパラとめくりながら、羊羹は言った。
「どれが一番難しそう?」
「冷凍魔法じゃないですか? 初めて見つけた時、教科書を破り捨てそうになる人が出るぐらい複雑です」
「いうなよ」
もちろん馴鹿のことである。
仕方ないだろ。
複雑な上に左右非対称なんだから。
「教室のみんなはどうですか?」
猿賀が羊羹に聞いた。
「みんな悪戦苦闘中」
初めての課題は自分の魔力を感じ取り、操ること。
すべての魔法は魔法陣を覚え、その魔法陣に魔力を流すことで発動することができる。
そのためには自分の魔力を感じ取り、操らなくてはいけない。
これがなかなか難しい。
どうして自転車に乗れるか文章で教えてくださいって言われても、乗れるから乗れるんだとしか答えられないのと同じで、こればっかりは自分で一回できてみないと分からないのだ。
その感覚を掴むために、現在馴鹿たちのクラスメイトは魔力で動く携帯電話に自分の魔力を流し込み、電源をつける課題をやっている。
つけられるようになった人は、先生から教科書をもらい、実習室まで飛ばされるのだ。
「火炎魔法、どれぐらいで出来るようになった?」
「三日ぐらいかかった」
「へぇ。ねぇ、ちょっと見せてよ」
羊羹が目をキラキラさせて言う。
仕方なく、馴鹿は近くに火を起こした。
「本当に魔法だぁ」
馴鹿の魔法を見て羊羹は拍手をし、私もできるように頑張ろ、と教科書に視線を落とす。
「私たちも、念力魔法を頑張りましょうか」
「そうだな」
馴鹿たちも、教科書に視線を落とした。
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