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7・絶世の巨女・八嶋先輩についての何やカンやです

(9/10)前半部分を若干推敲し、言い回しやシーンを替えたりしてますが、展開は変わっていません。同時に後半部分を追加(罫線より後)し、第7章目としてアゲました。

(7/17)続きを書くため読み直し。その際テニヲハを調整、一部曖昧な表現を修正しました。内容やストーリーは全く変化していません。

はるか数百メートル先からでもその人と解る人物・八嶋先輩は、その巨体を力強く躍動させてコッチに向かってきた。

石川先輩がそんな姿を見て、多分寝坊でもしたんだろうと平凡で有りがちな分析をすると、どうやらソレは正解だったようだ、八嶋先輩は私達と正対するとあまり息を切らした様子もなく自ら寝坊の事実を明かすのだ。

石川先輩大正解、サスガ幼馴染だなー‥‥(棒)

だが当然ながら状況の違和感を感じたのは八嶋先輩の方で、二人で何をしているのか?学校はどうした?と訊ねる。

その疑問に、石川先輩が解説スキルを発揮し、チョッとアレな八嶋先輩にもよく分かるように説明すると、八嶋先輩は慌てて損したとコレまたテンプレートの反応を見せた。

そんな様子を見て石川先輩は時計をチラ見すると、さてこれからどうしようか、一杯お茶でも飲んで映画でも見に行く?と提案すると、八嶋先輩は短絡的に喜んで同意する。

この反応がイヤに子供っぽいんだよな、図体に似合わずこの人‥‥

そして石川先輩は当然ながら私もソレに誘うのだが、イヤこのメンツでのお茶はサスガに経済破綻を予感し、丁寧に断ろうと何か理由を見繕っていると、ソレを察したのではないだろうがお茶はあの店で良いかと指差す。

その先にあるお店はまさしく庶民の憩いの店・ドトールコーヒーショップ。

私はソレならば安心とばかりに承諾した。

ただし、学校のババァ… 土偶教頭はじめ教師陣から素行を慎むよう言い付けられたことも自他共に忘れぬよう念を押しておく。


店内では壁側の席を八嶋先輩が独占し、私と石川先輩が対面側の椅子に座る形で、フロアーの奥の隅っこに収まっている。

テーブルの上にはそれぞれの飲み物と、八嶋先輩の前にはミラノサンドが2皿並んでいて、石川先輩はレタスドッグが、そして私は性懲りもなくホットコーヒーのみである。

イヤさっき、開店直後のサイゼでピザを2切れ程食べたからでして‥‥

そうそう、真夢はこの場にはいなくて、先程自宅へ帰った。

あの娘の性格からして、この私以外の見知らぬ先輩方々との同席はサスガにこれ以上は無理なのだろう、適当なその場しのぎの理由を用いてイチ抜けたのだ。

勿論石川先輩はその辺の空気も余す事なくシッカリ汲み取り、また機会があれば一緒にお茶を飲みながら会話をしようと、漫画やアニメのテンプレさながらの爽やかな先輩風味を放出させていたのだった。

で、まず話を切りたしたのは八嶋先輩、学校が休みになった理由は理解したが、何でまたそんな騒動に発展したのかという、当然私も含めて誰もが思う疑問だった。

勿論石川先輩が真相を知るハズはないだろうし、本人も個人的な予想だと前置きして、事件を誰かがその筋に垂れ込んだのではないか?と述べる。

私もその線しか思い浮かばないが、では誰が?というトコには皆目見当がつかない訳で、そこに石川先輩はあまり意外でもない、寧ろ平凡な考察を披露した。

その漏洩者は学校関係者、或いは生徒ではないかというが、八嶋先輩はチョッと驚くものの私はありそうな見解過ぎでわざとらしく驚いて見せておく。

そして、学校側から睨みを利かされているとは言え面白半分に喋ったりする生徒が居ないとは言い切れない、そう反応する。

その一方で、その事で垂れ込んだ人が得られるモノって何だろうか?という疑問ももれなく付属させたのだ。

強いて言えば今の私達のこの状況、学校が休みになるくらい、まさか学校休みたさにそんな事するかいな? 断言はできないケド。

第一、私達が通う横浜都筑の丘高等学校(よこはまつづきのおかこうとうがっこう)は、そうは言ってもそれなりの社会的立場を有するそれなりの人種の子息が通う学校であり、決して通俗的なソレと切り離されてるわけじゃないものの、それなりの人間性は兼ね備えているものと理解している。

まァそんなお坊ちゃま・お嬢様学校だったとしても、中には精神的に下賤な生徒も居るのかも知れない、このありふれた予想が正しければ。

私は石川先輩のキャラらしくない分析話に少し期待ハズレだったが、むしろ私が彫り下がることを期待していた宮小路先生の話題は、この場ではこれ以上展開しなかった。

私があの事件はホントに冤罪なのか、或いは何らかの性犯罪の常習性があったのではないかと熱心に焚きつけるも、湿った薪のごとくナカナカ会話に火がつかずシナシナとどうでもいい的な空気が漂ってしまった。

何だか私だけ妙に残念な気分になってしまうが、それを悟られないように取り繕うつもりで、私はコーヒーのおかわりを買いに席を立った。

てか私が真夢と一緒に帰らずにコチラ2人との同席を選択したのは、他ならぬ宮小路先生の件をもっと深掘りしたかったからなのだが‥‥


2杯目のコーヒーを持って席に戻ると、石川先輩がスマホで何か検索していた。

どうやら何の映画を見に行くかで二人で話していたが、どうもイマイチ興味を引きそうな作品がないらしい。

ゴールデンウイークが近いため、封切りを休み前に設定しているせいと石川先輩が分析するのだが、そう言えば今週末からいわゆる大型連休が始まる事に、言われて初めて気づいてしまった。

当然、ではどうするのか代案を考え始める二人だが、何だか八嶋先輩は既に何か思いついてた様子で、自分の希望を表明した。

それも何やら遠回しに濁すような言い方で、女子の買い物をしたいのでチョッと都心部まで出かけると言い出したのだ。

そしてナゼか私のこの後の予定を訊ねるのだが、本来なら今日は月曜日・平日で予定は学校に行く事しかない訳で、訊かれるまでもなくソレ以外にある筈がない、てかその予定がこうしてなくなった訳ですし。

私がそう反応を示すと八嶋先輩は喜んで、ではコレ食べたら一緒について来ないかとテンションを上げるのだった。

サスガに石川先輩は女子の買いものとあれば同行するわけにも行かず、では自分はドコかテキトーな場所で試験勉強でもして帰るかな、と言う。

試験勉強? 何の話だろうかと私は質問を返すと石川先輩は、毎年ゴールデンウイーク明けに各学年とも小テストが行われるとのこと。

私はにわかに驚き、そんな話は聞いていない旨訴えた。

するとソレもその筈だと前置きして石川先輩は、色んな意味で基礎学力や授業内容の認識能力を測るためだろうと解説した。

その話に私は若干不安を覚えながら、2年3年はその事を知っているのか、連休中勉強してるのかと問うと、一度経験してるから勉強する者もいるだろうし、部活に精を出す者、連休中遊び呆ける者など様々だと言いながら、サイゼリアの方を指差す。

そもそもその事を知っているので、2年は新学期始まってから既に対策してるし、3年に至っては受験だから抜き打ちにすらなってないと正論を説いた。

その言葉を聞いて、私は突然不安に襲われて直ぐに帰って勉強した方が良いのか考えてしまうが、今この話を聞いたからと慌てても仕方がない、シッカリ対策計画をたてて取り組む方が良いと石川先輩がアドバイスした。

それにこのまま私が帰宅の選択をすると、ソコにいるデカい娘さんが借りてきた子犬の様に残念そうな表情に変わりかけていたので、要するに私の行動は決まってたようなモノだ。

つーか八嶋先輩、アナタは試験勉強とかしなくて良いんですか? 余計なお世話でしょうけど。


  ◆


時計は既に昼前を示す頃、私と八嶋先輩は都心部を走る地下鉄車内の座席に座っていた。

この時間の電車は比較的空いている様子、ソレもその筈、今日は月曜日の平日だ。

とは言ってもサラリーマンはじめ様々な立ち客も多くて、空いてると言ってもソレは朝夕のラッシュ時と比較してのこと。

ただサスガに八嶋先輩は座席も2人分占拠する勢いなので、寧ろ立って頂いた方が良いのだが、実は先にこう言われた、立つとデカさが際立つからなるべく座りたいのだと。

だがその座高もそれなりに高さがあるんだが、私より頭一つ分以上。

でも恐らく手足が長いのだろう、言われてみれば確かに座っているとそんなに目を奪われるような高身長である事には気づかないかも知れない。

そんな八嶋先輩と私は地下鉄日比谷線の『広尾』駅で下車するが、いい加減学習したのか今回は八嶋先輩は車両の出入り口に頭をぶつけないよう、暖簾をくぐるように腰を曲げてホームに降り立つ。

その際に、やはり周囲の乗客たちが視線をコチラに集中させるが、気になるのは私だけで当の八嶋先輩は気にしていないか、もしくは気づいてすらいない。

背後で次の駅へ向かって電車が発車する風圧に、八嶋先輩はロングの黒髪をうなじに手を当てて抑える、ちなみに前髪はパッツンで若干右斜めに傾いている。

で、駅の出口へ向かっていると、にわかに八嶋先輩は足を止め、少し間を置いてクルリと振り返って私の面前で合掌して「ゴメン!」と発したのだ。

何事かと私は問いただすと、曰く何だか急に恥ずかしくなってしまい、目的地へは一人で行きたいと言い出し、併せてこんな所まで無駄足にさせて申し訳ないと謝罪の言葉も何種類か重ねるのだ。

そりゃまぁ確かに、絶世の巨女・八嶋先輩、デカいだけにいろんなパーツもスケールに合わせてそれなりのサイズに思える。。。

決して巨乳ではないが女の私が見てもスタイルの良いオッ◯イも、アンダーが既に80後半であるのは確かだろうし、お尻もそれなりにデカい。

ソレに合う下着・ランジェリーと言って良いのか、何だかLが数個並ぶようなデッカイそれを見られるのを気恥ずかしく思うのも、そう云うお年頃でもあるし何となく理解できる。

当初は女子同士で都心部のオシャレなお店でお買い物を楽しむ、ほのぼのした風景をイメージしてたのかも知れないが、サスガにその購入目的がチョッとキワモノと言う訳で気が変わったのだろう。

私の脳裏に、八嶋先輩の帆船の帆の様にデカいおパンツを掲げるシーンが映し出される。

そんな私はその辺の事情を十分察したので、まァここまで来て突然の予定変更にも二つ返事で受け入れられたのだった。

そして八嶋先輩がココまでの電車代と称して、千円札を一枚ドコからともなく取り出して私に差し出すがサスガにソレは遠慮し、次回のお茶の時にでもコーヒーをご馳走してくれれば良いと代案を提示した。

ソレならば次回この埋め合わせは必ずすると約束し、八嶋先輩は合わせた両手のひらよりも下の方に下がるよう、深々と頭を下げてやがて私の視界から遠ざかり、改札の外へと消えた。

もっとも深々下げた頭もその高身長が災いし、私と同じ目線より僅かに下になったくらいだったけど。

でも実は、この突然気が変わった八嶋先輩のワガママにすんなり理解を示したのには少々わけがあった、実はこの駅からはママの職場の病院が近いのだ。

私はスマホを取り出すとママに電話、丁度お昼を過ぎた時間帯なので昼食を一緒に取るべく都合を聞いたのだった、コレでお小遣いの節約も出来るしね。


と言う訳で、私の方も予定変更でランチをママと一緒に取ることになった。

場所はオシャレなレストラン‥‥ではなく、病院内にある普通のレストラン、まァ食堂と言うには雰囲気が少々都会風味な所ではある。

私も八嶋先輩に遅れて同じ改札を出ると、階段から地上に出てその病院のある方へと歩き出した。

ママの職場の病院はこの小高い丘の向こう側で、ちなみにその丘には超高級マンション群、いわゆる億ションの団地がある。

緑の公園も多くて比較的環境の良い、芸能人や著名人も多く住んでいる都心の中でも白金や麻布と言った高級住宅街の一つに数えられるセレブの街だ。

そんな自分にはおよそ縁のないであろう場所を横切るように続く道を歩いていると、その先にまたしてもデカい女性の‥‥イヤもうこの際ズバリ名指すけど八嶋先輩の後ろ姿が見えたのだ。

コチラは高級住宅街で、要するにショップなどがない訳ではないが、でも八嶋先輩がこの道を歩いてる事には少々疑問符が付く。

或いは、セレブ御用達の隠れた名店でもあるんか?

八嶋先輩がそのセレブ枠内かどうかはともかく〝都筑高(つづこう)〟生徒であればご家庭にそれなりの財力はあるンだろけど、でも失礼ながら違和感が拭えなかった。

そこで私はママとのランチの約束を忘れた訳ではないけど、申し訳ないが後を付けさせて頂くことにした。


しつこい様だけど八嶋先輩はあの図体、恐らく100メートル以上後方に離れてても見失うことはない。

私は楽勝過ぎて全然苦にならない尾行の末、とある雑居ビルの中に消えてく八嶋先輩を確認すると、その建物に近寄って様子を見た。

その雑居ビルは普通の四角い建物ではなく、建築家の意匠が加わった様な若干複雑な形状をしていてその1階と地下には高そうな高級レストランが構えている。

八嶋先輩はその脇にある階段を上がって上方の階へ行ったっぽい、と言うのもこの高そうな高級レストランに入ったとは思えないから。

それにここに来るまでにドトールでミラノサンド2食分食ってたし。

だが私は更にその後を追う事はしなかった、イヤできなかった。

ここから見た限りでは上階の方にはリラクゼーションサロンの様な看板と、何やら設計事務所っぽい雰囲気のテナントの看板が見えたからで、特にランジェリーショップらしき店舗は確認できなかったのだ。

ただ建物が複雑な構造をしており、見た目には解らなかっただけでもしかすると他にもショップが入っているのかも知れないけど、サスガに建物の中に入って様子を伺える様な雰囲気ではない。

なにせ高級レストランの横の階段を上がった突き当りに、ソレこそセレブがお忍びでやって来るようなリラクゼーションサロンみたいなお店が口を開けており、その入口に門番宜しくエスニック風味の衣装をまとったスリムな女性が、お客様をお待ちしている風に直立している。

と、ソコに不意に私のスマホが賑やかな着信メロディーを鳴らしまくったので、私はびっくりして慌ててその場を離れ、スマホを取り出すとママからの着信だった。

要件は、今ドコにいるのか、自分は既に待ち合わせの病院内レストランのテーブルに付いているとの内容だった。

私はママに待たせていた事を謝りつつ、八嶋先輩の件には後ろ髪を引かれつつも自分が先ににママを誘ったわけだからソッチが優先である。

私は慌ててその場を離れると、ソコから程近いママの勤め先の病院へと大急ぎで向かった。


私の目的は難なく遂行された、率直に言えばお小遣い節約のための昼食タカリ作戦、まァソレも八嶋先輩の件が途中でキャンセルになった事からの機転なのだが。

おかげで普段はそんなお金掛けられない昼食に、国産牛のハンバーグ定食1200円と言うセレブリティなランチにありつけたのだ、昼前に2切れだけ食べたピザは丁度胃を通過してた頃合いでもあったし。

そんなご満悦をママに感謝の意を混ぜて語ると、ママ曰く、ココから程近いところにある若葉会幼稚園に子供を預ける、ガチで大金持ちのママ友ランチは万札が数枚必要だと言うのにアンタの貧乏性ときたら‥‥と、タカられた腹いせを浴びせてくるのだ。

だがそんな異世界の話なんてドーでも良い、私は1200円のハンバーグ定食で充分だし、身の程・身の丈を理解してる賢さこそ認めて欲しい。

そのように嫌味ではない全くの正直な言葉をママに聞かせると、ママは棒読みで中途半端な親孝行な娘に大変感謝していると述べた。

だが一方で別の話題、先日パパとの転勤報告会帰りの騒動が、私の学校関係者・いや私のクラス担任が絡む事故・事件だったことをリークすると、今頃知った様子で驚愕していたのは意外だった。

だがこの後、もっと意外なことが起きた。

それはそんな私の近況などの報告を兼ねたママとのランチを終えて、病院内のレストランを出たその時だった。

何気に向けた視線の先に、またしても丸善先輩のチッコイ体が横切っていく姿を捉えたのだ。

私は無意識に体をママの背後に隠し、その行動にママも何事かとビックリしたようだった。

私は自分の不可解な行動をママに説明する、今すぐ先の方を歩いて行ったのは、私の学校の先輩だと。

するとママは、フーンとさほど気にした様子はない反応を示したのだが、あの娘は病院内で頻繁に目撃する娘さんだと意外な事実を明かし、私は驚愕した。


  ◆ ───────────────


私は都心部からの帰宅の電車内で、ママとのランチ前後に起きた一連のことを思い返していた。

あの時の丸善先輩は私服だった、てか今日は例の件で学校が臨時休校になったのだが、あたかもソレを早々に知っていたかのように。

でもまぁあんな先輩だからして、何らかの手段で一足早く今回の一件を察知していたのかも知れない。

だがもっと気になったのはママの言葉、病院内で頻繁(ひんぱん)に見かけるということ。

時々とかチョクチョクとかではない、形容動詞が『頻繁』と言う言葉だったこと。

単純にママのボキャブラリー上の問題かも知れないが、頻繁という単語がどうしても気になって仕方がない。

ママが帰ったらもう一度詳しく聞いてみようか、そう思っていたのだが、ランチの席でママは今日は遅番だから帰りは終電になる旨を私に伝え、パパにも伝言する様命じられたのだ。

て事は丸善先輩の新たな謎に関しては明日以降にお預けとなる。

私は今日という日がまだ半日残ってることを鑑み、どうやって過ごすかを考えてる内に、いつの間にか電車内でウツラウツラ船を漕いでいた。


時計が午後3時を過ぎた頃、私は自宅マンションの2階に住む真夢の玄関のピンポンのボタンを押していた。

部屋の中でインターホンのモニターに私が映ってるのを確認した真夢が、直接玄関のドアを開けて私を招き入れてくれた。

当然ながら真夢は何の用事だろうか、普通に遊びに来ただけなのか?的な反応だったが、私は実は重要な情報を持っていたからココに来たわけであって。

それは何を隠そう石川先輩から仕入れた、ゴールデンウイーク明けの小テスト開催の件である。

私は今日の昼前、真夢たちと分かれて石川先輩側に同行した際に仕入れた情報・連休明けの抜き打ちテストの情報を、一大スクープとばかりに真夢にリークすると、彼女は予想通りの反応を示してきた。

要は、ついでに勉強を教わろうかなと云う魂胆があって‥‥

だが真夢は、驚きついでに私がまだ制服姿なトコにも疑問をぶつけてくるのだ。

実はソレは、満腹を抱えた事もあって電車の音と揺れが心地よく、つい電車で寝過ごして横浜市の果ての地・長津田まで行ってしまったのが原因で、同じマンションの自分の家に行って着替える時間すらケチってココに来たのである。


リビングのテーブルに出された麦茶を飲みながら、私は今週から連休にかけての空いた時間を一緒に勉強する提案をする。

真夢は二つ返事で了解してくれたが、実際ドコがテスト範囲になるのかが疑問として上がる。

私はそれは高校生として授業スタートしてから4月に習得した内容全般ではないかと予想するが、実際ソレ以外に考えられない、当然真夢も同意見だ。

そんな訳で、アッサリと共同戦線の同盟は締結されこの話は終わるが、真夢は立ち上がって自室に入ると、早速何から始めようかと教科書を漁りだす。

私はそんな真夢にリビングから自室の真夢に向かって、石川先輩が計画立てて合理的に取り組むべくアドバイスをくれたことを、さも私自身の意見のように追加した。

すると、ソレもそうかと納得した真夢は再びリビングに戻ってくるが、その手には数学の教科書が携えられていた。

真夢は自称・数学が苦手であることは知っていたが、私のソレよりはだいぶマシである。

そんな真夢は、あ、ところで、と話題を切り返した。

私のパパが転勤になる話、引っ越しはゴールデンウイークの連休中に行うのでは?との疑問を述べたのだ。

あぁ、そう言えば、パパはソレより先に荷物を整理していたが、そのゴールデンウイーク期間中の混雑を避けたい旨の計画はどうなったんだろう?

まァウチの家族の性格からすれば何となく察しが付くのだが、そう云う意味でも厄介を手伝わされるのを回避する大義名分を得たのは大きく、そんな事を言うと真夢も同調して良い作戦だと評価してくれる。

ただ私はそんな私の周囲のネタはさて置き、例の伝統芸能部の副部長こと出水玲奈(いずみれいな)先輩と真夢との微妙な関係が気になっていた。

とは言え、またしても私のグズグズした性格が後ろ髪を強く引っ張るため、その事を口に出せないでいる、いやズケズケと切り出せる訳もないんだけど。

だからという訳でもないが、私はその真夢が訪ねていったのであろう、あの伝統芸能部の副部長について、幾つか情報を提示した。

切り出し方がわざとらしいと自覚しながらも、そう言えばさぁ、みたいな冒頭から始まり、真夢が訪ねて行った目的の人物であろう先輩のフルネームを開示すると、真夢は、へーそーなんだー、的な若干薄めの反応だった。

私はその瞬間の少し淀んだ空気に、アレ、マズかったのかなぁと若干後悔するが、真夢はそんな私に気を使ったわけではないだろうが、あくまで昔話と前置きした上で話し始めた。


自分の麦茶のコップをテーブルに置いて私の真向かいの椅子に座ると、ここに越してくる前の街での話を、数学の教科書を台本代わりのようにパラパラめくりながら始める。

向こうでは色んな事情や自分の性格から、学校でも浮いてて友達もいなくて、そんな中唯一仲良くしてくれていた隣人が居たという。

それが出水先輩‥‥ではなく、出水先輩がその人に良く似ていたのだそうだ。

部活の勧誘週間が今月の半ばから今現在も続いていて、クラスの別の娘たちがイケ女先輩がいるとキャッキャはしゃいでいた時、偶然居合わせた真夢もそのイケ女先輩とやらを見かけたんだと。

そのイケ女先輩とやらが出水先輩だったと。

なので、ヒョっとして?と思ってわざわざ会いに行ったのだが、合致しているのは2歳年上な事とボーイッシュな比較的背の高い女性である事と、名前が『イズミ』さんだった事だという。

だがそのうち、たった今私がもたらした決定的な情報によって結果ハズレ、人違いだった事が判明した、と真夢は明かす。

それは、その当時の思い出の人『イズミ』は名前であり、名字ではないのだと言う。

その打ち明け話に、今ココで出さない方が良かった話題だったかも、と私は何だかバツの悪い思いをしてしまうのだった。


  ◆


さて翌日。

当然ながらこの日は普通に授業は行われ、皆無関心を装いながら、或いはそんな事一切どーでも良くなったのかも知れないが、先日の騒動の余韻もなければ残り香すら感じない程に、いつもの日常が戻ってきてしまっていた。

私は昼休みのお昼の席で、隣人の久美子ちゃんにゴールデンウイーク明けの抜き打ちテスト開催の事実を、小耳に挟んだ情報と称してリークした。

久美子ちゃんも真夢と同じ反応を示し、この事をクラスの子全員に広めるかどうかを逆に質問してくる。

そこで私は、我々6組の学年成績底辺の中にあって、まずはそのクラス内の成績ヒエラルキーを上層部に持って行きたくないか?と越後屋よろしく企みを明かした。

すると久美子ちゃんは、ソレは良い発想だと同調してくれて、この件は2人だけの内緒にしておこうと言う訳で、ワルよのぅ協定が成立した。

その後はこの話を懐に隠し、久美子ちゃんがセットポジションから一塁方向をチラ見するかのごとく、ある人物に視線を飛ばした後、私に顔を寄せてヒソヒソ話す。

その内容は、教室の反対側の隅の席で男子3人がお弁当を突いてる中の1人『宗近(むねちか)』クンをどう思うかとの質問だった。

え?と私はトートツなその話題に呆気にとられるが、久美子ちゃんが飛ばした視線の先にいる男子3人組の1人に、かなりのイケメンの存在がある。

私は彼のことはあまりちゃんと見たことはなかったが、クラスに随分なイケメンが居るなぁとは思っていた、女子にモテるだろうなぁとも。

そんな自分には関心がない方面の予想が早速的中した様な状況である。

そんな名実ともに青春スイッチがONに切り替わるイベントが巻き起こってるっぽい久美子ちゃんの話だが、私はとりあえず興味ない事実を伝えると、久美子ちゃんはナゼかツマんなそうだった‥‥

まぁ久美子ちゃんはツマンナイかも知れないけど、実際私は今はイケメンとかには興味はなくて、あるのはズバリ『変態さん』なのである。


やがて放課後。

私は、あのババァ‥‥土偶教頭の15分以上時間超過したホームルームの訓示がようやく終わって、大きなため息とともに教室から吐き出される生徒の一人となっていた。

話の内容はもうご承知の通りで、説明する気力もない、ようやく帰宅の途につける。

それなのに今日に限って真夢は日直とかで、何らかの当番を命じられて一緒に帰れないとの事だった。

ただ私は昨日の2つの事が気になってて、まずはその1つ目、体育館に繋がる渡り廊下が見える所にナゼか足が向いていたのだ。

残念ながら、ここからでも十分その人と解る人物の存在は体育館周辺にはなく、違う部活の所属部員らしき人物が数人行き来するのが見えただけ。

私はその直後冷静になると自分の行動を省みる。

サスガに何やってンだか、と自分に呆れて、真夢の代わりと言っちゃ難だが久美子ちゃんと一緒に帰るべく、今からでも間に合うかと急ぎ教室棟に戻ろうとした。

この時は久美子ちゃんの例の件はスッカリ忘れてて、そう思ってキビスを返した直後、その目線の先に丸善先輩のチッコイお姿が目に飛び込んできたのだ。

私は思わずフリーズするが、丸善先輩は一言も発すること無く私に視線を向けたまま、チョッとだけ顔を右に振る様な仕草で、つまり顎を使って『チョッと来い』とジェスチャーを飛ばし、私は嫌な予感を感じてしまう。

かくして、私はまたあの図書館の片隅に丸善先輩を前にして座っているのだった。


丸善先輩は、面前にノートパソコンを開かず置いて、椅子に座るなり私を正視して昨日のことを訪ねた。

それもナゼか遠回しでもなくオブラートに包むこともなく直球で、デカくて目立つ八嶋先輩と2人連れ立って、制服姿のまま医療脱毛クリニックに行ったそうだな?と咎めるのだ。

私は突然の尋問内容にビックリして、すっかり慌てて昨日の記憶を脳内で巻き戻して再生し直す。

ソコに現れた過去の記憶の映像を参考にしつつ弁解するが、その時八嶋先輩は、上着は既に脱いでカバンと一緒に手に持っていた事を思い出し、質問の回答にはそぐわないと思いながらもそう説明する。

イヤ、待て、何? 今『医療脱毛』とか言わなかったか?

私は急に冷静になると、自分が八嶋先輩と出かけたのはランジェリーショップであると訂正しつつも、実は今思うとそれは確定事項ではなく曖昧な部分だったので確認してみた。

すると丸善先輩はほんの少しだけ表情を動かし、ナゼか顔の半分を手で覆ってため息を一つ。

そして丸善先輩は私に、実際ドコまで知っているのか?と妙な質問を投げてきたのだ。

だが私はそんな事訊かれてもサッパリ訳が分からなかったので、ドコまでも何も、ド最初からいったい何の話なのかを逆に質問し、今さっき『医療脱毛』って聞こえた事も併せて確認した。

そこで丸善先輩は追及の手を一旦弱めて、発言に間を置き、もう一度軽くため息をついてから今の話を聞かなかったことに出来るかどうかの質問に切り変えてきた。

その急展開に私もつい意表を突かれるような形になり、ついモゴモゴとなってしまった次の瞬間、もう一人の人物がこの応酬に加わるのだった。

お解りだと思うが石川先輩である。


石川先輩は、たった今八嶋先輩と体育館前で分かれてここに来たと自分の行動を説明すると、丁度その八嶋先輩のことで揉めているのか?と訊ねた。

丸善先輩はその質問に、アンタは関係ないと突っぱねるが、私たちの会話の一部がすでに漏れ聞こえたのか、昨日の八嶋先輩と私の行動についての話だと察知し、昨日は八嶋先輩に同行してクリニックを訪れたんだよね、と、私に対して石川先輩も妙なことを言い出す。

今度はクリニックという自身あまり馴染みのない言葉が飛び出し、しかもその言葉にナゼか丸善先輩の方が突然、知っていたのか?と少し驚いた様子で返すのだった。

そんな丸善先輩の方に話の矛先を替えて、石川先輩は細かくは知らないけど概ねの事情は知っている、風な返事を返したことで、丸善先輩は完全に頭を抱えた。

そんな二人の様子を前に私は、八嶋先輩に何か秘密でもあるのか?と、よせば良いのに突っ込んだ質問を好奇心旺盛に浴びせてしまったのである。

すると丸善先輩は、サスガに答えられないと突っぱねたのに対し、その言葉に被せるように石川先輩が、もうバレてるわけだし別に良いのでは、と開き直った。

ソコで私は、八嶋先輩はご承知の通りの巨女だから、パンティもそれなりのサイズにならざるを得ないとは言え、ソレを人に見られるのはサスガにイヤかも、という意味で、八嶋先輩本人は見られたくないと気が変わって直前で別れました、と当時の事実を淡々と述べた。

だがソコに、石川先輩は衝撃的な返答を返してきたのだ。

石川先輩こう曰く。

確かに様々な事情とかでお股をツルツル無毛にする人がいる、ただそれを他人に見られるのはイヤかも知れないけど、寧ろ特定の人に見せるつもりでパイパンにする女性(ひと)もいる訳で、でも彼女の場合は完全に趣味だよね多分、と‥‥

その発言を聞いた瞬間、私は石川先輩が何を言ってるのかワケが解らずキョトンとしてしまったが、一方丸善先輩は石川先輩の脇腹に拳をめり込ませていた。

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