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6・早くも挫折の雰囲気の中での、周囲の人達との日常です

(2023/09/10)タイトルの文末を合わせました。内容は無変更です。

(12/11)前半部分の流れはそのままに、少し内容を変更し、後半を書き足しました(罫線より後の部分)。表題も変更しました。

高校生としては多分普通の体格である私と石川先輩、高校生にしてはかなり小さいと思しき丸善先輩の3人の席に、高校生にしては明らかにデカ過ぎな八嶋先輩が加わった事により、場の空間が一気に圧迫され過密状況となった。

て言うか私と石川先輩で平均値なところを丸善先輩が割り引いてくれていたようなもので、その余裕分を凌駕してなお圧迫する八嶋先輩のデカさときたら‥‥

今日も今日とて額に横線の形に赤くなっている所があり、恐らく入店時にまたぶつけたものと思われた。

席の並びは私と石川先輩・丸善先輩と八嶋先輩の組み合わせで、今の八嶋先輩の席は先ほど私がいた場所になる。

そしてその八嶋先輩は、どうやら丸善先輩を含めた幼馴染の石川先輩に再会できたことを素直に喜んでいる。

ほんでもって八嶋先輩の面前に追加で注文した、やはり同じコテコテのトッピングを施した飲み物が置かれた。

八嶋先輩は「ワーイ」とソレを両手に持って、トグロを巻いてる生クリームのトッピングの山にカブりつくと、その山は5合目から上の方が一瞬にして消失した。

さしずめ、その昔の会津磐梯山大噴火のビフォー・アフターを想像させられる、知らんけど。

そんな八嶋先輩を、相変わらず無邪気で子供っぽいなと微笑ましく見守る石川先輩と、行儀悪いとたしなめる丸善先輩。

まるでアニメのワンシーンのように、八嶋先輩の口元についた生クリームをそっと指で拭い取り、自分の口に運ぶ、のではなく紙ナプキンで拭き取ったのは、石川先輩ではなく丸善先輩の方だ。

てかこの凸凹過ぎる3人の組み合わせこそ謎すぎるのだが‥‥


ところで、八嶋先輩は幼馴染の石川先輩が帰国している事は勿論、つい先日から復学し通ってる事も知らなかったらしい。

偶然にも、駅までの帰宅途中のいつものカフェに丸善先輩がいないか窓越しに確認した所、私達3人の姿の中に石川先輩を見つけ驚いたという。

そもそもこの3人は幼馴染だろう? ナゼ帰国したこと・復学したことをこの凸凹2人に報告しなかったのか?

私のそんな疑問を他所に、久しぶりの再開とばかりにはしゃぐ八嶋先輩に丸善先輩が質問した、今日は部活はどうしたのか?と。

すると八嶋先輩は、今日はこれから例の〝秘密の場所〟に行きたいので顧問の教師や先輩らにクリニックに薬を貰いに行くとウソを付いて早抜けしたとのこと。

ソレを聞いた丸善先輩は真顔になって「それは駄目よ!」と制したのだ。

続けて、前回そこに行ってからまだ中1日しか経っていないと、その駄目の理由らしき説明を加えると八嶋先輩は「え?そうなの?」と、知らなかった的な反応を示す。

丸善先輩は次は来週の月曜日以降だと八嶋先輩を諭した。

私と石川先輩はその話が全く見えず一体何の話かを二人に問うが、両者ともコチラの話であり私達2人には全く関係ないと説明を拒否した。

ただ丸善先輩はいつもの落ち着いた、飄々(ひょうひょう)とした口調でそう返すのに対し、八嶋先輩がイヤに慌てて「何でもないので気にしないで〜」と何やら怪しい汗をかいている。

そんな温度の違う二人の様子に、怪訝そうな石川先輩もサスガに突っ込むことをはばかってソレ以上言及するのをやめ、その代わりに八嶋先輩に、私と丸善先輩が図書室で聞いたのと同じ石川先輩が帰国した経緯ついての説明を始めたのだ。


結局小一時間程後に、私達4人はこのオシャレで少々値が張る喫茶店で談笑をお開きにすると店を出て駅へ向かう。

結局店内では、石川先輩の退屈であったと言うイギリス留学中の話と、八嶋先輩のバレー部での様子が中心となって場に花が咲いていた訳だが、私と丸善先輩はその殆どの時間、ずっと二人の話の聞き役に終止していた。

まァ今日に限っては私の財政負担が損害ナシだったので良かったが、今後毎回この店だと結構ヤバいと思うのでチョッと考えなくてはならない。

何だかんだで時間はもうすぐ夕方4時になろうとしていた。

駅では私は上り方面のホームへ、3人は反対側のホームに向かうので改札で別れるのだが、その別れ際に石川先輩が思い出した様に私に携帯電話番号の交換を申し出てきた。

私は快く申し出を受け入れ、ピロリン♪と通信で番号を互いに交換、石川先輩は後で送受信の確認を兼ねてショートメールを送るとの事で、そこで私は3人と別れた。

ホームに上がると、反対側のホームにあの凸凹過ぎる3人がコチラに向かって立っていて、八嶋先輩と石川先輩がコッチに向かって手を振っていた。

私も振って返すが、丸善先輩は全く気にもとめない風でドコか別の一点に視線を飛ばしていた。

その次の瞬間、私の面前に電車が滑り込んできた。


電車に揺られつつ帰宅の途につく私のスマホがブルブルとほんの一瞬震えるので、取り出してみると電話番号で送るショートメールが着信していた。

相手は勿論先程交換したばかりの石川先輩だ。

内容は試験送信を兼ねたものだという内容で、私もそのメールから直接適当な文章を加えて返信を返した。

すると、ほんの数秒後に更にその返信の返信が届く。

その内容は、自分ら3人幼馴染含めた親しい間では『ディスコード』を使っているため、ソチラにアカウントを登録して仲間に入らないかとのお誘いだった。

実はその時私はその『ディスコード』とやらのことを何も知らず、でも何らかのメッセージアプリだと直感したので、ならばLINEアカウントを教えようとしてメールに記述し送ったのだ。

だが、石川先輩はじめ丸善先輩も八嶋先輩もLINEは使用していないとのこと。

今時珍しいなと私は思ったのだが、今の私達の間では友達になったりした際にまず最初に必ずLINEアカウントは共有し合うモンなのだ。

だが今思えばこの3人に至っては、LINEアカウント交換の話が全く出なかったことに今更気づいた。

結局私はその『ディスコード』とやらについて、来週にでも教わるべく内容を綴って石川先輩に返信した。


石川先輩、フルネームは石川豊(いしかわゆたか)とか言ってたような。

イギリス留学を中断して帰国するも学年は2年留年、年齢は丸善先輩と同じ年度だけど学年は八嶋先輩と同じなのか。

そのイギリス留学生活も半年で中断して帰国したらしいが、その理由が単純につまらなかったからというのも何だかニワカには信じがたい。

何か別の理由アリアリだろうが、丸善先輩も知らない様子だったし、て言うか先ず、そもそもあの凸凹過ぎる3人トリオは謎が多い。

ソレだけでも私の好奇心は盛り上がっていたのだが、既に丸善先輩の〝オムツ購入〟の件や八嶋先輩のバレー部員の〝オッパイに顔をうずめてた〟シーン目撃など、更に好奇心を刺激する〝けしからんネタ〟が既に幾つか上がっている状況。

ところが、それらを解き明かそうにもサスガに直接面と向かって真意をインタビューするわけにも行かない、つーか訊けるワケがないよね。

ソレってつまり、結局私自身の中だけでずっとモヤモヤしっぱなしのまま時間が過ぎ、そのうちドーでも良くなって、結局は好奇心や探究心さえも薄れていきそうな気がした。

私の性格からして、そのうち初心を忘れちゃうのって十分有り得る、身も蓋もない話だけど。

何だかな、ラノベ原作のアニメがキッカケで高校入学を期に面白そうなこと、興味が惹かれることに打ち込んで充実した青春時代にしようと息巻いてたワリには、現実にはそうそう面白いことなんか転がってないし、平凡な日常を過ごしてナンボな人生なんだろなと、結局無難な所に着地してしまいそう。

現実は小説より奇なることなんて実際にはそうそうない、むしろ現実は至って平凡なのである。

つまんね、とうとうそんな思いが浮かんでしまった。


  ◆


自宅に帰宅すると、そこでもチョッとした騒動になっていた。

十数個の段ボール箱が玄関から廊下に積み上げてあり、その奥でアーでもないコーでもないと両親の言い合う声が聞こえている。

一体何事かと奥の部屋をのぞくと、父親の部屋の荷物をダンボールに無造作に詰めている両親の姿があった。

私は事の次第を尋ねると、来週末に転勤先の新潟の住所に持っていける荷物をある程度運ぶと言う。

転勤はゴールデンウイーク明けの来月じゃなかったのか?と真偽を問うと、ゴールデンウイーク中は道路が大混雑するため、今のうちから運べるものは少しでも運んでおきバタバタ慌てないようにするのだとお利口サンな返事が返ってくる。

ただソレはいつもの事で単に思いつきで始めたクセに、チョッと気の利いたフリをしてるだけのこと。

それにしても既に十数個の段ボール箱が廊下の壁に沿って積まれていて、狭い通路を更に狭くしていて少々迷惑な気分だ。

ただウチら家族は3人揃って平均的な変哲のない標準体型なのが功を奏し、胸があたって少々通りにくいが不便な程ではない。

私は暇な様子を見せていると手伝いを強制されそうになるのを察し、自分もまた勉強するフリをして自室に閉じこもると、制服を脱ぎスェットに着替えてベッドに寝転がる。

その耳に、ドア向こうでワヤワヤと騒々しい両親が作業してる音が聞こえる。

そう言えばさっきは電車の中で平凡な日常に退屈を感じてたばかりだが、パパのイキナリな時期外れの転勤という、大したことではないショボクレたささやかな騒動が家の中で起きてはいた訳だ。

ただソレは自分には直接何も関係ないことなので何ら影響はなく、それだけにチョッとだけつまらなさがぶり返していたところに、真夢からLINEが入った。

内容は、午後はイロイロ済まなかった、というお詫びの文章が並んでいた。

そこで私は、今から近くのコンビニでアイスでも食べながら話そうと誘ったのだ。

引っ越しの手伝いをさせられるもの嫌だったし、影響の及ぶ圏外への逃走に丁度いい理由付けにもなった。


マンションの近くにあるコンビニで、私はチョコジャンボモナカを、真夢はカップ入りのチョコアイスを買って、店先の駐車場の端っこで食べながら談笑する。

真夢は今日、付き合ってもらったのに突然帰ってしまって申し訳なかったと謝るので、私は全然平気だと謝罪には及ばない旨を返した。

また、丁度自宅でパパの引っ越し準備が執り行われており、手伝いを強要されない旨逃走する良い言い訳になったと感謝を述べると、ウチのそんな事情を以前真夢には話していたので、真夢はおウチの方大変だねと労いの言葉をかけてくれた。

本当は、あの後に丸善先輩から聞いた話が気になっていたので、ココで例の件の真夢の真意を知りたかったのだが、とは言えストレートに訊く訳にもいかずどう質問していいやら解らずモゴモゴしてしまう。

やはりどんなに親しい友人とは言え、その人それぞれのプライバシーだって当然あるわけだしソコに土足でヅカヅカ踏み込めるわけがないのだ。

私自身が知りたがってることは、真夢にとっては知られたくないモノの筈だろうし、ましてや性癖とかエロとかそう云うプライバシー方面であれば尚更だ。

冒頭で『変態心理』の研究とか称して、チマタの何やカンやを心理学もどきを通してイロイロ研究する、そのものズバリ『エロ』について深く知りたいと意気込んでたワリに、決意から1ヶ月も経たない数週間程度で挫折の様相を見せ始めていたのはつい先程のこと。

それはまるで、大人しく平凡な日常に収まるが〝吉〟であるかのような。

すると次の瞬間、真夢が私に向かってどうかしたのか?と逆に訊ねてきた。

どうやら先程から自分のことに悶々と考え込んでたのが顔に出てたのか、真夢の方から先に私に逆に訊かれてしまったのだ。

私は思わず慌てて、イヤ何でもない、個人的な考え事だと取り繕う。

コレでは立場がマンマ逆さまだと自分でも呆れていたところに、真夢は予想外のことを口にした。

今日の放課後の事で自分に訊きたいことがあると思うので、その事を話すと。


真夢は頭脳明晰だ。

当然私の素行がチョッとおかしいとすぐに気づいて、その理由がカンタンに見当がついたのだろう、私の図星を突いて来たため、私は言葉が詰まって返事を返せず苦笑するしかない。

余計な心配をさせてしまったと真夢のほうが重ねて謝るので、もはや私は自分で穴を掘ってでも穴に入りたい気分だ。

真夢はそんな私の方から目線を別の方向に移動させて、淡々と語りだした。

勿論それは、丸善先輩のクラスメートでもある『伝統文化部』副部長の出水玲奈(いずみれいな)先輩の話であった、その事は当然予想どおりであったわけだが。

すると真夢は、入学式後の新入生校内オリエンテーションの時に出水先輩から声をかけられたと打ち明けたのだ。

勿論部活の勧誘のためなのだが、その時真夢はハッと思い出したことがあったと言う。

ソレは真夢がその昔、私と同じマンションに引っ越してくる前の街で暮らしていた頃の思い出だというが、ドコにでも良くあるありふれた話で、その当時の知り合いに出水先輩が似ているという内容だった。

──────────────────

私と真夢は同じマンションに住んでいるため、マンションのエントランスまで一緒に戻ってきた。

そこで私はエレベーターから出てきた人とぶつかりそうになり、慌てて身をひるがえすとスミマセン!と思わず声が出てしまう。

すると相手方も全く同じ反応で、謝る言葉までもが私のソレとハモってしまい、私はその聞き覚えのある声に気づいて改めて相手を見ると、パパだった‥‥

なぁんだ、謝って損したと互いに思い、私はパパにドコへ行くのか、荷物の片付けから逃亡する気かと意地の悪い質問を浴びせる。

するとパパは、それが一区切り突いたからビールでも買いに行くところだと返答し、直後に真夢に向かって「鹿屋さん、こんばんは」とステキなお父様を気取って柔らかく紳士的にご挨拶する。

真夢もソレに対しキチンと挨拶を返した。


真夢は2階に着いたエレベーターから降りると、じゃまた、と別れしなに挨拶をする。

私も返事を返しそのままエレベーターのドアを閉めると、自宅のある最上階の5階で降りて共用廊下の一番奥にある自宅へと帰り着いた。

家の中ではママがもうすぐ夕食だと言うので、私はそれまで自室で待機することにし、とは言え何かする事も特にないのでベッドに寝転がって、先程の真夢の打ち明け話を脳内でリピートしていた。

先に要約を述べた通り、真夢は幼い頃住んでいた別の町でのチョッとした思い出があって、それに出水(いずみ)先輩が似てたんだそうな。

それで実際ヒョッとしてその当人かも知れないと思い確かめたくなったらしい。

それであの時『伝統文化部』の部室に行ったのだが、予想外に人集りが出来てて気後れしたのだと。

でもソレなら別に確認するくらいは付き合ったんだけどな、でも真夢曰く何だかバツが悪くなってその場を離れたくなったんだと。

よく解らんのだけど、結局それでこの話はオシマイだと言っていた、ホントかね?

でもまァ人に歴史ありじゃないけど、真夢も過去に色々あったらしいのは前言通りで、コチラとしてもあまり詮索できない、彼女がそう云うのだから放っとくしかない。

ほらね、ココでもまた行き止まりに行き着いてしまった、イヤ別にスキャンダルを期待してるわけじゃないけど‥‥


ところが〝私たち〟のもとに急転直下の事件が起きたのはその翌日、日曜日の夕食中に起きた。

部屋の片隅にパパの引越荷物が邪魔くさく置いてある中で私とパパが夕食をとっていると、丁度夜のニュースが一通り報じられ、その他の細かい情報をダイジェストで読み上げてる中にソレがあった。

何と、外部に漏らさないように私の学校の職員が内密にしていた先日の宮小路先生の事件を、とある民放がごく狭小地域の話題と前置きしながらも、シレッと報じたのだ。

最初あまりにもさりげないその報道に私は全く気づかなかったのだ、がパパがふと気づいてお前の通う学校の話じゃないのか?と訊ねるので私は何事かとテレビに視線を送ったのだ。

その時は既にアナウンサーがニュースの台本を読み終えており、残り香のように一瞬だけ私の通う高校『都筑高』らしき校舎の写真がチラッとだけ見えたのだ。

だが私は何のニュースだったのかはその時点では解らなかったが、確かに映像にほんの一瞬見えたのは都筑高だったのはなんとなく確信した。

テレビのアナウンサーは既に番組を閉める挨拶の言葉を述べてお辞儀をしていて、私は思わずパパにニュースの内容を問いただすが、パパもよく聞いていなかったのでワカランと返された。

私は残ったご飯をかき込んで後片付けもせず自室に飛び込むと、背後からパパの小言が聞こえてくるが無視した。

ちなみにママは今日は夜勤を代わらなければならなくなったと言って一足先に夕食を済ませ、ついさっき勤め先の病院に向かった。


部屋に戻ると私は先ず年代物のMacBookの電源を入れる。

ボワーンという音ともにシステムが立ち上がるが、こんな時にモタモタと焦れったい様相を見せる中、今度は携帯電話が着信を知らせた。

電話の相手は真夢であった。

私は要件がなんとなく推測できたため電話に出ると、やはり先程のニュースの件だという。

この際私は彼女に詳細を問うたが、どうやら宮小路先生の件がマスコミに漏れたのか、すごく曖昧ながら宮小路先生の痴漢行為と、その逃走中に電車に接触して病院に搬送された件を報じていたのだそうだ。

だがコレでこの報道が終わらなかった訳で、この後マスコミが大好物な数々があぶり出されてしまうことを、この後別の人物から知らされることとなる。


  ◆


月曜日。

いつもどおり私は真夢と一緒に電車で登校していたのだが、学校の最寄駅で改札を出るとそこでバッタリと石川先輩と遭遇した。

やぁ、おはよう、奇遇だね、的な爽やかなパイセンぶりを演じている石川先輩は嘘が付けない性格なのか、実は待っていたのだと自らバラすのだ。

イヤこれを嘘が付けない性格と言うのかどうかはワカランのだが。

私は少しばかり呆れて、その代わり横にいる真夢を石川先輩に紹介すると、今度もまた爽やかなパイセン宜しくイロイロあって私のお近づきになったことを説明し、以後見知りおいていただけると嬉しいと語る。

そんな様子に、私は改めて奇妙な人だなと感想を持ったが、男嫌いの真夢は案の定腰が引けていた。

そして3人で学校へと向かう。

ただ真夢は人見知りで石川先輩から一番離れたポジションを取って終始黙ったまま付いてくる、コレは実は彼女の毎度のことで私自身は何ら変哲を感じていないが、念の為石川先輩には何ら気にしなくて良いと伝えた。

道中は私と石川先輩の間で昨日のニュースの話で持ちきりだったが、ココまでの電車内でも私と真夢はヒソヒソとそのネタをやり取りしていたのは言うまでもない。

そして当然ながら周囲の同じ制服の生徒たちからも同じ様なヒソヒソ話が聞こえてくる、そんな何だか穏やかでない空気の朝だったのだが‥‥

校門をくぐり玄関ロビーで、私達は1年と2年のそれぞれのシューズボックスの列に分かれる。

石川先輩はじゃまた放課後♪と爽やかに消えていくのだが、真夢は妙な誤解をしたようで、私と石川先輩の経緯について後で話そうと話題の予約を求めてくる。

私は決してスキャンダルな話は全くないことをくれぐれも断っておいた。


6組の教室に入ると早速違和感を感じた、さもありなんではあるがクラスメートも一様にヒソヒソとざわついている。

私はとりあえず自分の席に荷物をおいて座ると、朝の挨拶も早々に隣の久美子ちゃんが話しかけてきた。

彼女によると今日は臨時休校になるらしいとの事だ。

事が急で職員の間でも情報共有がままならず、生徒にも伝達が遅れている事情があるとのこと、勿論その原因は昨夜のニュースの件。

もしソレが本当であれば何だか損した気分にもなりそう、そう考えていると予鈴が鳴り響いて、殆ど同時にお約束となった教頭女史がドスドスとお出ましになった。

この後の、朝礼でのことは以前に話したこととほぼ同じ様な展開なので割愛する。

そしてくれぐれも念を押された事は『学生の本分を弁えよ』との事、まァソレは例の宮小路先生のネタがマスコミバレした事に拠るものなのは明白だけど、そうでなくてもこのセリフは教頭女史が教壇に立ってまだ2回目なのにとっくに飽きていた。

そして久美子ちゃんの情報も正しかったことも併せておく。

そんな訳で、週初めの一番憂鬱なタイミングに降って湧いた臨時休校の話。

ただ何でもっと早く情報を生徒に拡散させなかったのかその辺は解りきってる、要するに生徒は一旦全員出席させてソコでキッチリ釘を差しておく目論見があったのだろう。

私達はヤレヤレとばかりに登校後すぐに下校という、かつて無い珍事を経験することになった。

そうそう、当然ながらマスコミと思しき連中との接触は厳禁である旨キツく命じられた。


そんな訳で、これからどうする?と言う話がクラス内に漏れ始め、私も久美子ちゃんと困り顔を合わせていると、そこに教室の後ろの入口から久美子ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。

振り返った久美子ちゃんと私はソコに女子生徒を見る。

あァ、久美子ちゃんのお友達が一緒に帰ろうとか誘いに来たのだろうと私が思っていると、久美子ちゃんがその娘を呼び捨てで「麻美子」と呼んだ。

私は久美子ちゃんがこの後特に何も用がなければ、例のポップカルチャー部とのその後について進展情報が知りたかったので、何なら一緒に帰ろうと誘うつもりだったのだが、どうやら先客が居たらしい、チョッと残念だ。

ところが予想外にも、逆に久美子ちゃんが私を帰宅の同伴に誘ったのだ。

勿論私は即答でOKするが、その麻美子さんとやらも一緒らしい。

そんな訳で、私と久美子ちゃん、そして久美子ちゃんの〝連れ〟の麻美子さんとの3人でこれからお早い帰宅と相成った、のだが、ココにもう1人加わる。

私達3人で廊下を歩いていると正面から真夢が現れ、予想外にも一番最初に麻美子さんが反応したのだ。

ナゼか真夢も麻美子さんを知ってる様子で、どう言うわけか真夢はちょっと怪訝そうな表情に替わった。


真夢も加わった4人で教室等の廊下から階段を降りてロビーへ向かう道中、私達は互いに紹介しあった、と言っても知らなかったのは私だけだった。

久美子ちゃんと麻美子さんは何と姉妹であり、久美子ちゃんが姉で麻美子さんが妹だと。

令和の時代では極めて珍しい同学年姉妹であった。

だがナゼか真夢はその事を知っていたと言い、いつだったか麻美子さん以外の3人でお弁当食べた時にナゼ教えてくれなかったのかを真夢に問うた。

勿論真夢はその時居なかった麻美子さんの話をあの場でするのもトートツだろうと弁明し、私もそりゃそうだと納得するしかない。

そんな他愛もない話、とは言っても結構驚いた新事実ではあったが、そんな談笑を交えながらついさっき来たばかりの学校のロビーに降りてきた。

てか下駄箱前に登校後小一時間足らずで戻ってくるという、何だか奇妙な気分を私以外の皆も感じていた様だ。

そんな違和感を感じている私達4人の所に更にメンツが加わる、その人は想像に難くないであろう石川先輩である。

だが石川先輩の方も横に2人ほどお連れサンがいた、ポカル部の名瀬川先輩と竜宮先輩だった。

ドチラも色んな意味でキャラが濃かったので何となく覚えていた。

向こう側3人もそれぞれ見知ったメンツが居ることに、やぁやぁと手を降っているのだが、何となくワザとらしく見えたのは多分気のせいだろう。


  ◆


さてココに来て奇妙な組み合わせの一団が形成されていた。

1年生の私達女子4人に2年生の男女2人、そして3年生の竜宮先輩。

私達7人が居るのは駅正面の商業ビルにあるサイゼリア、ご存知のとおり私達学生の憩いのファミレスである。

丸善先輩らと毎回立ち寄ってたあのオシャレなカフェとは大違いで、私の様な平民には実に居心地が良い空間なのだが、この場所を指定したのは最上級生の竜宮先輩ではなく、意外にも石川先輩の方だった。

この間、そのオシャレで高めのカフェで全員分おごってくれた事から、それなりの経済的余裕のある家の人なんだろうと勝手に予想していただけにチョッと拍子抜けだ。

しかも最上級生の竜宮先輩と石川先輩、3年2年の間柄なのに会話がタメ口であるが、その理由は二人は元・クラスメートだったとのこと、丸善先輩と同じでコッチはチョッと考えれば解ることだった。

何で集まったのかは理由不明ながら、席について顔を合わせた際の最初に自己紹介じみた会話の冒頭で、竜宮先輩の方から自分ら二人は元クラスメイトだったと明かし、周囲は一応驚いてみせた様な変な空気。

そして、学校の玄関先で私達が偶然にも出くわしたのも何かの縁という訳で、言い出しっぺの竜宮先輩が音頭を取り、にわかに設けた宴席にご参加ありがとうと何だかイヤに芝居じみたご挨拶を披露した。

時間はまだ午前10時を過ぎたばかりで昼食には早すぎるとは言え、各自適当にドリンクバーを、そして摘みとしてピザをモッツァレラとアンチョビで2皿並べられた。

ちなみにこのピザ2皿は竜宮先輩のオゴリだそうだから、コチラはそれなりの経済的余裕のあるご家庭なのかな?

ところでこのメンツ、全くの初顔合わせは麻美子さんくらいで他は1度は会ったことはあるものの、まだ宴席を囲む程の親睦があるわけではないのだが。


私達がナゼ月曜の午前中から学校からのトンボ返りを食らっているのかは既出の通り、この宴席の話題も宮小路先生の件で持ちきりとなるであろう事は予想できた。

のだが、実際まず最初に切り出された話題は予想外、何と久美子ちゃんだ。

彼女どうやらポカル部入部を決意し、今日入部届を出すつもりで持参してきたらしい。

ところが予想外のこの状況にもかかわらず、久美子ちゃんはこの席でその事を告白し、カバンから用紙を一枚取り出して、ナゼか名瀬川先輩に差し出す。

ただその事に一番テンションを上げたのが竜宮先輩、まぁ部長だから当然か。

そして私は今ココでその話が出て驚いたのだが、もっと仰天したのは妹である麻美子さんだったのが意外だ。

姉妹なわけだし、テッキリその辺の話をしてる、相談してるんじゃないかと思ってたのだが、麻美子さんは寝耳に水の反応で、チョッと待て考え直せと今更説得を始めたのだ。

その理由にナゼか『親に怒られる』的な理由が混ざっていて、何と言うか、家族の中での久美子ちゃんの立場がどうも思わしくないような印象を与えかねない発言だったのが気になった。

でも久美子ちゃんはもう決めたことだと妹の説得を受けず、部長の竜宮先輩と部員の名瀬川先輩に今後とも宜しくと丁寧に頭を下げた。

で、石川先輩はと言うと、彼もそんなサプライズにチョッと驚いた様子をみせたものの、それ程ビックリしたような感じでもなく、元クラスメートと現クラスメート双方に部員獲得おめでとう的な言葉を送っていた。

そんなハプニングに更にテンションを上げた竜宮先輩が、この場をお祝いの席に変え、飲み物も食べ物も自身の財布から賄うと大盤振る舞いを宣言し、場の空気をアゲまくる。

そして同時に、私の方にもこの勢いに乗じて入部しないかと誘いをかけてくるのだが、当然私はソコは冷静に、丁寧にお断りを申し上げた。


結局この妙な親睦会は、私達が分裂することで第1部がお開きとなる。

私が密かに期待してた『宮小路先生のスキャンダルについて』の話題はほとんど挙がることがなく、ひたすらサブカルチャー・二次元の話題の応酬で、基本的に私と真夢と麻美子さんはオイテケを食らった形となってしまった。

そんな訳で竜宮先輩、名瀬川先輩、そして久美子ちゃんの3人は2次会と言いながらサイゼに残留、麻美子さんは「もう知らん!勝手にしろ!」とばかりに独り帰宅、そして私と真夢と石川先輩のグループも、麻美子さんと同じタイミングでサイゼを出て駅に向かった。

ちなみに麻美子さんはココから少し離れたバス停へ向かった、どうやらバス通学してるらしく、一応私達に軽く挨拶して足早に消えていった。

て事は久美子ちゃんもバス通学だったのか、どーでも良いけど知らなかった。

それにしても、突然のこととは言え随分と奇妙な時間を過ごしたような気がする。

私はその事を石川先輩に話すと、石川先輩もまるで台風のようだったと感想を笑いながら述べる。

まァアイツらズブのオタク界隈の連中だから、趣味の話だけで一日を過ごしてる様なモンだと、ワタシ的にはアンタもその界隈じゃないの?と突っ込みたくなる事を言った。

かと思うと、学校はアレ程警戒してたのにどうして、どこから漏れちゃったんだろう?と、今回のひょんなハプニングの根本となった事件に話を持ってくる。

ソレは私が今最も関心を寄せてる一件で、サイゼで勝手に期待していた話題であったがハズレてしまい、ココに来てようやくその話が出て興味が復活した。

ところがその時、またしても珍客が一人加わるのだった。

それは駅の方から慌てて巨体を揺らしながらコッチに駆け寄ってくる、あの人だった。

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