5・宮小路先生には何やら妙な秘密がありそうです
(8/20)中盤の内容に一文を挿入しました。丸善先輩と善子の図書室での会話のシーンに、モノローグで丸善先輩が病院の売店で買っていた『ブツ』に関する件を訊ねたいがサスガにムリ…と云う一文です。全体の内容に変化なしです。
(3/24)後半部分追加しました。サブタイも決定しました。
(1/6)展開を変更しました。当初周囲の各キャラ数人の話を同時進行しようとしていましたが、それではダラダラと話が進まなくなると考え、一人づつスポットを当てるやり方に変更しました。若干話の向きが変わっていますので、後半がまとまってから読み直しするのも良いかなと。
(12/23)サブタイは仮題です。前半部分ですが、後半を書く際もう少しアンコになりそうな要素を詰めるかも?
今日は土曜日である。
授業は本日も行われるが、いわゆる教科やクラスごとの補習授業で、朝の朝礼の後は通常の授業が行われる。
コレは中間・期末試験や各種模擬試験などの結果を踏まえた教科ごとの補習であり、各自が指定教科の補習授業を受けるべく教室を移動するとのこと。
勉学に於いて弱点を作らず克服し、平均的な学力を持たせる方針であるとも考えられるわけで、一芸に富む思想はないと思わされる‥‥
だがまだ入学まもない私達は1学期の間はそれら不得意科目が洗い出せてないことから、通常の授業となるわけだ。
そんな変な意味特別な土曜日の朝のホームルーム前、私は久美子ちゃんが登校してくると挨拶の後で昨日の件について成果を訊ねてみた。
すると久美子ちゃんは名瀬川先輩からの部内の紹介を踏まえ、持ち帰って検討するが前向きに考える旨を伝えたという。
その返事は来週末まで保留とのことだが、私が見たところでは本人は入部するつもりな空気を感じていたものの、一方で何やら微妙な空気も滲ませているのも気になった点である。
そんな朝の会話でワチャワチャしてる所に、今日も事件による入院欠席の担任である宮小路先生に替わって教頭先生がドスドス現れ、その野太い声で静粛を促した。
ホームルームでは職員からの朝の伝達事項は、先日告げられた渦中の宮小路先生の件についての続報、はなく、一連の事件や噂界隈に一切気を取られることなく勉学に励むことを強要しつつ、自身らも日頃の生活態度を顧み清く正しい日々を送ることを付け加えた。
そこにクラスメートの男子が宮小路先生の現在の状況について質問を投げたものの、教頭先生はたった今伝えたことをもう忘れたのかと憎まれ口を返しただけで、そんな事に気を取られず今やるべきことに集中する事を命じられ、質問に対する回答はなかった。
それどころか、補習授業の意義についてクドクドと説法を受ける羽目となり、教室中が重苦しい空気で満たされてしまう。
その話の中に、このカリキュラムを企画したのが他でもない自分であると強調もしていた。
そんなタルい話で始まった午前のみの授業が終わり、その最終授業を担当した教師によるごく簡素な締めのホームルームを10分程度こなすと、昼食の時間となる。
ちなみにその最終授業は英語で、担当教師は1組の担任の女性教師だった。
サバサバした性格で教頭先生のような湿気や粘り気も全く無いため、かつ効率重視で無駄のないその簡易的なホームルームも5分と経たず終了、私達クラスの生徒はザワザワと、今日から再開される午後の部活前の昼食を取るべく机を動かし始めたのだ。
大体このタイミングで1組の真夢がヤッホーとばかりに教室の入口から顔を見せるが、今日はまだ来ない。
そもそも私や真夢は現在のところ帰宅部なので昼食を取る必要はないが、生徒の中には関係なくお弁当を持参してる娘もいて実は私も菓子パンを用意していた。
その意図は私と同じで、午後真っ直ぐ家に帰らずどこかへ立ち寄るつもりだからだろう。
その場合、帰宅部諸氏の目的地は学習塾にほぼ間違いはない、実は自分もソッチ系を選択せねばならない立場であるからして。
閑話休題私は久美子ちゃんと例の件の続きを話すべく昼食の同席を依頼するが、久美子ちゃんは今日は用があるので先に帰宅すると申し出ると、そのままイソイソと教室を出ていった。
一人残された私は数秒間呆然としていたが、では真夢が来るのを待つことにして再び席に座ると、まさしくそのタイミングでお待ちかねの真夢がやってきた。
その真夢の口から出た言葉は、一緒に帰宅しようという誘いだったのだ。
私はその言葉に少々残念な気分が混合してしまったのだが、真夢は続けて、一緒に帰る際に一つ相談がある旨を申し出てきたのだ。
この日私は実は例の『社会学研究会』に、何とな〜く顔を出そうかな〜なんて考えていたのだが、菓子パンの存在はソレを考慮したものだった。
だが真夢の言葉には意外な内容が含まれていた。
彼女もまた気になる部活があってどう思うのかという話だったのだ、ナニガシお前もか的な。
周囲の物事に殆ど興味を示さない真夢が、自ら話のネタを振り出すのは意外中の意外だったため、私は些かならず驚いたものだ。
私は次の瞬間、そのお眼鏡にかなった部活とは何かを訊ねていたが、それは『伝統芸能部』と云う、またしても聞き慣れない部活名称だった。
私と真夢は気がつけば教室の机を挟んで膝を突き合わせていた。
話の中心は伝統文化部とは何か?についてだが、どうやら日本古来の伝統や文化を見聞し学ぶソノマンマの部活で、華道・茶道・書道が一緒くたになった部活だそうな。
この3つの日本文化を併せて『三道』と言うらしい、マンマだけど。
その内容がむしろお得感満載とかで魅力に感じた、というのだが‥‥
確かに色々な文化芸術に触れる機会があるし飽きなさそうな、一粒で複数の美味しさを体験できそうで言う通りお得感満載だ。
それでこの後チョッと覗きに行ってみないか、と私を誘ってきたのだ。
だが私はチョッと社会学研究会に興味を惹かれていた矢先だったのだが、サスガにその辺を悟られるのも難だしと妙に警戒心を駆り立てられたのだろうか、あまりその気はなかったのにむしろ是非にと積極的に真夢の申し出を快諾したのだ。
◆
善は急げとばかりに昼食もサッサと切り上げ、と言っても真夢は何も持ってきてなかったので私のチョココルネを与えたのだ。
ボチボチ燃料を補充した私達が向かっているのは、特別教室棟の1階にある多目的教室の1室である和室。
日本の伝統文化なのだからソレらは畳の上で執り行われるのである、まァ当たり前だけど。
てな訳でその多目的教室へ向かう際、図書室へ通じる廊下を反対側に折れ曲がり、私が行こうとしていた方向に背を向ける格好になった。
だが目的の場所に近づいた時、その先に異様な光景を目撃してしまう。
それは多目的教室の並ぶ一番奥の和室前に、何やら10人近くの女子生徒がザワザワと詰めかけていたのだ。
何なんだ?これは、と思い私はふと真夢の方に目を向けると、真夢も微妙に残念そうな、無表情をその方向に向けている。
私はこの状況に戸惑っていることを真夢に伝えると、何と真夢は予想してはいたと妙な返事を返すのだ。
そんな10人ばかりの女子生徒の一団に私と真夢は加わり、彼女らの視線の先に私達も焦点を合わせると、その先にはお約束と言わんばかりに美形の生徒の姿が。
まぁね、年頃の女子が一番興味を惹かれるのはそりゃまァイケメン男子でしょう。
そんなミーハー集団に思わず私も仲間入りしてしまった訳だが、ん?よく見るとソコに見えるのは何か話しているごく普通の男子生徒と女子生徒の姿だ。
男子は決してブサイクではないが、かと言ってこの辺の女子をキャーキャー言わせるようなキャラではない。
イヤ実はこの時は既に気づいていたのだが、もう一人の女子生徒が只者ではないオーラを放っていた。
スラリと高い身長は向かい合ってる男子生徒よりも高く、その身長によるものだろう長い手と長い足、決して短くはない女子制服のスカートが何となくミニスカになりかけている。
その長い足は黒のハイソックスで、ますます足の長さが際立っていた。
セミショートの緩やかなウェーブのかかった髪と整った顔立ちは、まるで宝塚の男役、要するにマジイケメン女子だったのだ。
私は、あーこの娘らはそー言う事なんスかソーですか、とイロイロ納得した。
え? ンじゃまさか真夢も? と思ったのだが、思わず見てしまった真夢の表情は、さっきと殆ど変わらない無表情のまま。
そして、不意に私の方を振り向き、小さな声でゴメンと一言発するとやっぱりイイや、とこの場を立ち去る旨の発言をして、私より先にクルリと振り返り歩き出す。
私はとっさの事に一瞬行動に付いて行けず出遅れると、慌てて真夢を追った。
状況がよく解らず私は真夢にどうしたのかを後ろについて歩きながら質問したが、真夢は何でもないと濁し、目的が不発に終わった事を詫びる。
そんな事はイイのだが、私は部活の内容を見学しなくて良いのかを重ねて問うと、その件についてはまた出直すと言うのだ。
私は、いやソレは今見学してきてもよいのでは?と提案すると、真夢は突然用事を思い出したと返す。
私は明らかに真夢の様子がおかしい事に気づいたが、それ以上突っ込むことは良くないととっさに気づいて私も思わず黙ってしまう。
それでもこの何時にない緊張状態を緩和すべく、何か切り替える切っ掛けか手がかりを得るため良い問いかけを考えている間が空いたその時、背後からよく知った声で誰かが話かけてきた。
振り向くとソコに丸善芳佳先輩のチッチャイ姿が一人ポツンとあった。
右手にカバンを、左手は何やら中くらいの家電の箱を小脇に抱えていた。
丸善先輩は少々驚き加減の真夢の方に目線を向け、私に友人であるかを確認するので、私は真夢を幼馴染として紹介した。
真夢は自己紹介すると深々と頭を下げ、その直後私にまた来週と声をかけてその場を立ち去った。
その様子に丸善先輩は一緒に行かなくてイイのか?と確認したが、さっきの件で私は後を追うのをやめた。
何だか、私が知らない真夢の意外な一面を見たような気がした。
◆
結局私は当初の予定通り、移転した図書室一角の『社会学研究会』活動拠点にいた。
丸善先輩は何やら無骨な機械を近くにあるコンセントにつなぎ、これがWi−Fiの中継アンテナだと説明した。
図書室には学校内の無線LANがイマイチ届きにくいらしい。
私は丸善先輩の話に、あぁそうなんだ的なリアクションを示したためか、丸善先輩はノートパソコンを開きつつ突然『伝統文化部』に何の用があったのかを質問してきた。
私はビックリして見られていたのかと悟りつつ、実は真夢の付き添いであるとウッカリ口を滑らせてしまう。
すると丸善先輩は全て解っていると言わんばかりに、質問したワリには返答にあまり興味を示さなかった。
その代わり、何やら当該部活について話し始めたのだ。
伝統文化部は当初『三道部』と言ってたらしい。
今の部長が、文言は間違っていないがいまいちイメージが伝わらず馴染みにくいと名称変更を生徒会に提出、今年度から『伝統文化部』になったとのこと。
同時に、三道以外にも着付けや作法・マナーなど、日本固有の文化に裾を広げたいとの意向もあるらしい。
その手始めに、陶芸を加えたいと先日の生徒会の部活動/部長会議の際に提出したのだそうだ。
その予算が如何程かは解らないが、何せ部員数が約30人ほど、書道・華道ともに県内ではソコソコ実績を上げてる手前、申請が通れば夏休み前には始めるんじゃないかと丸善先輩は私見を述べた。
ちなみにさっき見かけたフツメン・モブ男子が部長らしい。
そこで私は、何となくその時話してたイケメン女子について質問したところ、丸善先輩は目だけで私を見つつ僅かに口角が吊り上がるのを私は見逃さなかった。
私は丸善先輩の術中にハマった感を禁じえなかった‥‥
さてその女子生徒。
名前を出水玲奈、何を隠そう丸善先輩とクラスメートなのだそうだ。
現在伝統文化部副部長、ご覧の通りの女子にモテモテであるという。
つまり先程は真夢がその出水先輩を見に来ていたのでは?と勘ぐられたわけだが、実は私も真夢の本当の意図は解らずも、言われてみれば何となーくそんな気もしていた。
ただ真夢にそんな趣味があるとはつゆ知らず、て言うか実際そうなのかどうかさえ全く知らないわけだが‥‥
丸善先輩曰く、まァあの体で意外と謎も多く、ただナゼか丸善先輩は彼女から敵視されてるフシが有るとのこと。
そう言えば先日も、バレー部の斎藤先輩も似たようなこと言ってたような?
勿論それは丸善先輩に気をつけろと言う忠告なのだが、その割に私はナゼか今ココにいるわけである。
実は今日は、私は何か確固たる目的があってこの場にいるわけではなかったため、その出水先輩の話が終わって間が空いた際の話題に事欠いてしまい、しばらく空虚な時間が図書館内の静寂に取り込まれていた。
話を終えた方の丸善先輩は、ノートパソコンのキーボードをペシペシと打ちまくっている。
最近のパソコンはキーボードがフラットで以前のような凸った形ではない分、叩く音が静寂である、ンな事はどーでもいい。
ホントは、その宮小路先生の電車事故に絡んでもう一つ気になっていた事、丸善先輩が私の母親が勤める病院の売店で買っていた〝オムツ〟と思われるソレについての質問を投げたいのだが、サスガにソレは躊躇している。
まぁサスガに訊ける訳もない、なので私の中からもほんの少しづつではあるがその件は意識から薄くなり始めていた。
でも私は今ここにいる状態をフイにせず何かプラスを得たいととっさに感じたのだろう、何か話題を提供すべく、その割にあまり考えナシに個人的に旬な話題と思われるネタを提供してしまった。
それは宮小路先生の騒動についての事だ。
今現在大怪我をして病院に入院中であるが、その原因が痴漢騒動という事で警察沙汰にもなっており、話題を振っておきながらその後でタイミングを間違えたか?と少しだけ後悔した。
まァ私自身が痴漢騒動自体に興味があったせいなのは否定できないのだけど。
その振りに対して丸善先輩は案の定、何だ、その話かとばかりに飄々(ひょうひょう)とした反応だった。
君はどう思う?と言うのが、次の瞬間丸善先輩の口から出た言葉だ。
どう思うも何も、最初はびっくりしてどう処理していいか解らず、今になってもその件に問われたところで、イヤぁー乱世乱世‥‥てな感じであるとしか言い様がない。
そんなワケワカラナイ反応をしてしまうと、丸善先輩は宮小路先生が私のクラス担任であることを確認してきたので、ソレについては率直に肯定した。
丸善先輩は続けて、この学校は曲がりなりにも名門校、すぐに准・名門校と訂正し、生徒の親御さんはじめ周囲の視線がスキャンダラスなアレコレに敏感であることを説明、そのため校内の運営・経営サイドでは右往左往している事実を解説した。
だがそれは他の生徒はともかく私自身は全く気づいていない事だった、鈍感と言われれば否定はできないんだけど。
学校の外ではウチの学校の生徒も含め、水面下では色んな情報が飛び交ってるらしく、当然噂やフェイクなど織り交ぜたカオスの様相だと。
それを聞いて私は何だか取り残された気分だ、今まさに変態研究を始めんとしてる矢先にいきなりつまづいてスッ転んだような。
すると丸善先輩はフイに、私がパソコンを持っているかについて質問してきたので、私は一応親譲りの古い型落ちのソレは所持しているものの、日常的には使いこなせていない旨を伝えた。
丸善先輩はソレは何かと訊ねるので、私は古い『MacBook』で、OSは『LION』と答えると、丸善先輩は話しながら動かしていた手をピタッと止め、どう云う訳か頭を抱えてしまうのだった。
◆ ───────────
宮小路智徳先生は北海道出身、丸善先輩は次の瞬間いきなりそう発した。
私は一瞬「は?」となってしまい、丸善先輩のその発言の趣旨がわからなかった。
そんな私の目が丸くなっているところをチラッと見た丸善先輩は、そんな事だろうと云ったふうに鼻でフンと微かに聞こえる程度に息を吐くと、話を続ける。
数年間の学習塾講師を経て2年前にこの学校に赴任してきたらしいこと、塾講師の前も別の私立高校で教鞭を執っていたこと、そしてその学校はどうやら地方の辺鄙な町のソレであったことなど。
この学校の教員採用試験は校風からして比較的難しいとのことで、毎年数人が採用試験を受けに来るらしいのだが、合格率はおよそ半分程度だそうな。
ただ教員採用に受験する志望者が多いのは、恐らく給料が他校のソレよりだいぶ良いからではないかと推測するが、ソレは事実だろうと付け加えた、まぁ個人的にはドーでもいい話だが。
そりゃまぁ私だってこの学校の入試は全身の毛穴から血が出るほどの苦労を強いられたのだが、教える側の教師もまた同じ様なレベルを超えてきてるという訳だ。
だが私には丸善先輩のこの話の意図がよくわからないため恐る恐る訊ねてみると、今日何度となく向けられた態度ではあるが、ヤレヤレと云った風にこう返された。
要するに、少なくとも当初から何となく怪しい人物であることは伺い知れるとの事だが、何だか話がアッチ行ったりコッチ行ったりしてて良く解らない。
そんな私たちの所に、不意に別の生徒が現れた。
ソレも男子生徒で、中肉中背の何の変哲もない普通のモブ生徒だが、詰め襟のバッジは2年生を示すものが付いている。
そしてその男子生徒は若干挙動不審ながら、少し照れくさそうに丸善先輩に向けて片手を目の高さくらいの所に挙げて「久しぶり‥‥」と小さく声をかけたのだ。
それを見た丸善先輩の表情が、ゆっくりと驚きの表情に変化し無意識に立ち上がるとその次に発した言葉は、アンタ何故ココにいる?という質問だった。
ソレについて彼は、借りっぱなしだった数冊の本を返却に来たのだと返すのだ。
だが丸善先輩はその返答は質問の内容に合っていないと突き返し、イギリスに留学したのではなかったのかの真偽を問いただしたのだ。
その追求にナゼかたじろぐ男子生徒、そんなやり取りが私の頭上を往来していた。
気がつくとその男子生徒は、お誕生席・いわゆる上座の椅子に着席していた。
そんな彼を丸善先輩は私に紹介してくれた。
名前を『石川豊』といい、丸善先輩の元・同級生なのだそうだ。
実は幼稚園・小学校・中学校とずっとクラスメートでもあり、八嶋先輩ほどではないにしろ自宅も近かったため幼馴染とも言える存在とのこと。
もっと言えば丸善先輩・八嶋先輩とこの石川先輩は幼馴染3人組なのだそうだ。
そんな石川先輩は昨年の秋からイギリスに留学していたらしい。
そしてひとしきり紹介が終わった所で、丸善先輩は本題に入る、石川先輩は今ナゼここに居るのか。
その質問に石川先輩は何の変哲もなくアッサリとこう答える、途中で辞めて返って来たのだと。
それを聴いた丸善先輩は、先程の私へのリアクション同様に呆れたような表情とともに、これまた同様に頭を抱えるのだ。
続いて、今度は石川先輩が丸善先輩に私の存在について質問した。
すると丸善先輩は石川先輩に、私が丸善先輩が主催する社会学研究会に興味のある、入会希望の新入生だと紹介した。
まァ興味あるのは事実だけど、入会・この場合は入部相当なんだろけど、そこまでは心情的にまだ進展はしていない。
もっとも否定も出来ない所までは進展してはいるンだが、それはまだ明かせない。
それはともかく紹介されて私は、ココは一旦入会希望の方は半分程否定しておきつつ、石川先輩にはじめましてと頭を下げてご挨拶する。
すると石川先輩は、友達が極端に少ない彼女だから可能な範囲でいいから相手してあげて欲しい旨を私に申し出る。
ソコに間髪入れずに『極端』は余計だと丸善先輩が否定反応を示すが、友達が少ない部分については否定しない様だ、てか何となく察してますが。
そんな石川先輩は私に対して当然持つであろう疑問を呈する、社会学研究会にどんな興味があったのか。
だが私はその件については真実を返答する訳にはいかないため、どうしたものか口ごもってしまうと、ソコに助け舟とは言い難い丸善先輩のフォローが入った。
それは、人間に興味がある様だという趣旨の言葉だった、まァ広義には合ってるんだけど。
◆
石川先輩は、ところで二人で何を話していたのかを問いかけるので、宮小路先生の一件を丸善先輩からかい摘んで聞かされると、それを踏まえて私に向かって宮小路先生の素性に興味があるのかと振ってくる。
びっくりした私は、担任である以上気にならなくはないが興味があると言う程ではないと7割否定・3割肯定の意思表示をする、実際は逆なのだが。
石川先輩は実は先週末帰国したばかりとのことで、学校には一昨日から来ていたがその件は噂レベルで知ったらしい。
で、丸善先輩の洞察を受けて石川先輩もその怪しい人物というレッテル貼りにはアッサリ同意し、また話を私に振ってこの件についての感想を求める。
すると私はさっきと同じ様にびっくりして、慌てて良く解らない的に返してしまう。
石川先輩はそんな様子の私に向かって、もっと具体的な、痴漢行為の事実についての意見を尋ねてきた。
いやぁ、ソコは本音では非常に興味深いポイントなんだけど、サスガに対外的にそれを悟られるのは宜しくないため、苦し紛れに私は痴漢容疑に対する逃走行為の是非を逆に質問した。
それを聞いて反応したのは丸善先輩だった。
つまり痴漢行為が冤罪だとしても、その行為の性質上たとえ冤罪でもそれを立証することが困難なため、文字通り逃げるが勝ちと思うのか、そう私に確認したのだ。
私はその内容に説得されたのか、あまり考えずに同意してしまうと、そこに石川先輩が本領を発揮したかのように加わってきた。
石川先輩は丸善先輩からノートパソコンを借りて何やらペシペシと打ち始め、同時に被害女性に関して丸善先輩に質問する。
それを受けて丸善先輩は、被害者とされる女性は大学生で、特に被害届を出したという様子もなく、むしろ警察にも騒ぎになってしまった事で気後れしたのか、早々にその場を立ち去ってしまったらしい、などの状況を話す。
てかそんな情報、どっから仕入れたんだろうか?
それを聞いて石川先輩は、痴漢については冤罪なのか事実なのかは判断できないが、ナゼそうまでして全力で逃走を図ったのかの方が気になると言う。
そこ私が、濡れ衣を着せられるのを恐れたからでは?と返すと、石川先輩はナゼ濡れ衣を着せられるのを恐れたのか?と被せて質問してきた。
さすがにソレは誰だってイヤだろうと私は思うのだが、私がそのままそう言うと石川先輩はどうもソレが引っかかっている様子で、うーんそりゃそうなのだが、、、と唸って椅子の背もたれに体重をかける。
その様子を見た丸善先輩が、次に私の方に僅かな時間だけ目線を向けてノートパソコンを引き戻しペシペシとキーを打ち始めると、さっき自分が少なくとも何となく怪しい人物である旨を予感した根拠がそこにもあると補足した。
だが私にはサッパリだった‥‥
ここで「あ、そうだ!」石川先輩が急に話を変える、あの店に行かないか?と言うのだ。
あの店?と私は思ったのだが、丸善先輩はしょうがないわね、とアッサリ承諾するとノートパソコンを閉じ、テーブルの上の幾つかの荷物をかばんに入れる。
そして私に向かって場所を移動する旨を指示した。
え? その『あの店』とやらに私も行くの? てかその時、嫌な予感がよぎった。
嫌な予感は的中した様だ、二人が歩く方向には例のあの店がある。
私は思わず財布の中身について記憶を遡って残金を予想していると、前を歩く石川先輩が私に痴漢に遭ったことがあるかを尋ねた。
私がイキナリでビックリしていると、丸善先輩がソレはセクハラだと釘を差し、すぐさま石川先輩は質問を取り下げてゴメンゴメンと謝る。
そんな石川先輩に私は速攻で両手のひらを向けて左右に振って、とんでもないデスと言葉を交えつつ謝罪の必要がない旨を表した。
やがて〝あの店〟に到着した。
店の前に立っただけで私の財布がお小遣い残金枯渇の悲鳴を上げそうだ。
石川先輩は入口の扉を自ら開けて、ジェントルな態度で丸善先輩と私を先に店内へと招き入れる。
それすらも私にとっては寧ろ足カセの重りが増える思いの行動だ。
カウンターに立った私たちは、まずは注文を尋ねられる訳だが、丸善先輩はこの間とは違う別の飲み物を注文する。
コーヒーに何やら、バニラとチョコのソフトクリームみたいなのがタップリとトグロを巻いて浮いている所に、カラフルな色の細かいツブツブのトッピングが散りばめられた、見た目にも高そうな品を指差し、何やら増々(マシマシ)と云う単語を付け加えている。
次に私の番となり、ナゼか恐る恐る最安値のブレンドコーヒーを注文した直後、突然後ろから石川先輩が代金が自分が持つので好きなものを選ぶよう声をかけてきたのだ。
私はビックリして振り返りその発言の真偽を確かめると、今このタイミングで冗談を言う事に何ら意義がない旨を呈され、とっさに私はブレンドコーヒーの注文を取り下げた。
そして十数秒悩んだ挙げ句、何を頼んでいいか解らず思わず丸善先輩と同じものを注文してしまった。
席に付いている私たち三人の前に、三つの同じ飲み物が置かれた。
そして石川先輩が自身の帰国と丸善先輩との再会、そして私に対してのハジメマシテの意を込めた乾杯の音頭を取った。
私は早速その豪勢な飲み物に口を付けようと口元に運ぶものの、どうやって飲んでいいか解らず何となくカップの縁に唇を当ててカップを傾けると、熱くて苦いコーヒーが少しばかり口の中に入ってきたもののクリーム状のトッピングでヒゲを作ってしまう。
慌てて紙ナプキンでそのヒゲを拭いつつ隣の丸善先輩の方を見ると、やはり同じ様に口ひげを豪快に蓄えていて、その様はこの間の様子と同じだった。
正面の石川先輩は、一緒に運ばれてきた柄の長いスプーンで白黒のトッピングの境目をすくい取って口に運ぶと、美味しそうに満足げな表情を浮かべたかと思うと今度は、そのスプーンでトッピングの山をコーヒーの中にザクザクと沈めて強引にかき回し始めた。
私は思わずアレが正しい飲み方なのかな?と思ったが、丸善先輩が相変わらず風情のない飲み方であると苦言を呈する。
そしてそのまま私に向かって、彼はカレーライスも最初に隅々までかき回してご飯とカレーを完全に馴染ませてから食べるのだと呆れるのだった。
そんな私たちの様子に、人の好みはそれぞれであり尊重すべきところはすべきであり、人の趣向や趣味もまた然りと口上を述べると、先程の続きを始めようと仕切り始めたのだ。
そこに、またしても突然に、聞き覚えのある呼び声が何だか斜め上空の方から聞こえてきた。
その声のする斜め上方に私と石川先輩が目を向けると、既にお気づきと思われるがあの八嶋先輩の巨体がそびえ立っていた‥‥