祭り 【月夜譚No.5】
祭りの夜は街が華やかになる。囃子の音が耳を震わせ、空腹を刺激する匂いを漂わせた屋台が軒を連ねる。普段の街とは雰囲気を違えて、人々の表情も一段と明るく見えた。
そんな空気の中、小さな少年が雑踏の足許を走り抜けた。藍の浴衣の袖を翻して振り返ったその顔は狐の面で覆われて、表情は読めない。だが弾むような動作を繰り返していることから、目一杯楽しんでいるのが手に取るように判った。
少年は迷うように屋台の前を行き来し、やがて「りんご飴」と書かれた屋台の前で立ち止まった。身振り手振りでりんご飴を一つ買い、嬉しそうに面の前に掲げる。
そして再び駆け出すと、今度は祭りの中心に向かった。そこは一等賑やかな場所だが最奥まで行くと灯りも人もなくなって、大きかった音も声も膜を一枚隔てたようになる。
少年は一度振り返ると面を外しながらにっこりと笑み、佇む社の中へと姿を消した。