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エピソード1:結果、行方知れず。②

このエピソードから登場するキャラを紹介します!!


・橋下セレナ(はしもとせれな)

 福岡に住むユカの親友。第5幕(作中では約2ヶ月前)に仙台へ遊びに行き、政宗へ告白して失恋している。

 周囲をよく見ており、その上で自分の立ち回りを決める子。良い子。セレナ可愛いよセレナ。

 地下鉄を使って天神まで戻ってきた政宗と統治は、一旦、地下街から地上に出て……警固(けご)公園の近くにあるファミリーレストランへと移動した。店内は学生が多く、雑多な空気が蔓延している。指示通りの場所にたどり着いた2人がキョロキョロと周囲を見渡していると……。


「――あ……!!」


 『彼女』の姿を見つけた政宗は、案内のために奥から出てきた店員に事情を説明して、統治と共に店の奥へと歩みを進めた。そして、店の奥にある4人がけのボックス席の前で立ち止まると、『彼女』を見下ろして口元を緩める。

「セレナちゃん、わざわざ時間を作ってくれて、本当にありがとう」

 席に座っていた彼女――橋下セレナは、政宗と統治へ向けて笑顔で軽く手を振った後、席へ座るよう促した。そしてマジマジと2人の顔を見比べた後……笑顔のまま、肩をすくめる。

 今の彼女は長い髪の毛を右下で一つにまとめ、えんじ色の長袖トレーナーとジーンズ素材のバキーパンツを着用していた。セレナとは8月に仙台で会っているので、こうして顔を合わせるのは2ヶ月ぶりになる。

「ムネリンからメールもらった時は、冗談かと思ったっちゃけどね……まさか本当にトーチ君まで来てくれるげな、思っとらんかったよ」

 そう言いながら統治を見るセレナに、彼はどこか決まりが悪そうな表情で視線をそらした。そんな様子に政宗と2人で笑いつつ、セレナは2人へそれぞれにメニューを差し出す。

「2人とも、まだ夕ご飯食べとらんやろ? 腹が減っては戦はできぬ、って言うけんね」

「ありがとう。セレナちゃんも一緒にどう? 情報料ってことで」

「ムフフ、ありがとうございます……と、言いたいところなんやけど、正直、私も今回は蚊帳の外なんよ。やけんが、ムネリンやトーチ君が本当に知りたいことは教えられんと思うけど、それでもよか?」

「知っていることだけで十分だよ。なんてたって……福岡支局からは門前払いをくらってるからね」

 政宗はそう言って、2つあるメニューの一つをセレナに向けて差し出した。彼女が「ありがとうございますっ」と右手でそれを受け取った瞬間……トレーナーの袖口から、白い包帯が見える。

「セレナちゃん、右腕……どうかしたの?」

「え? あ……」

 彼女がファッションで包帯をつけるようなタイプには思えない。政宗の指摘に、セレナはメニューを受け取った後……苦笑いで肩をすくめた。

「ちょっと仕事中に怪我しちゃって……とりあえず注文してから、順を追って話していくけんね」

「分かった。じゃあ、さっさと注文しちゃおうか」

 セレナの言葉に同意した政宗は、統治からも見えるようにメニューを広げつつ……やはり福岡で何か起こっている、その予感が更に確信へと近づくのを感じていた。


 3人それぞれに食事とドリンクバーを注文し、飲み物を手元に持ってきてから。

 セレナはメロンソーダの入ったグラスにストローをさしながら、目の前にいる2人へ向けて口を開く。

「実は私も……かれこれ1週間以上になるんかな、ユカとはいっちょん会えとらんとよ」

「セレナちゃんも?」

 意外な事実に政宗が目を丸くすると、セレナはグラスの中にある氷をストローで浮き沈みさせながら……不満を隠しきれない様子で言葉を続けた。

「そう。ユカが帰ってきた時、私も嬉しくて、一緒に遊ぶ約束までしとったっちゃけど……私が『縁故』としての仕事中、対応しとった『遺痕』が急に逆上して襲いかかってきたことがあってね。結局私は取り逃がしちゃったんやけど……あれ、どげんなっとるとやか。久しぶりに怖かったなぁ……」

 セレナの言葉に、政宗は思わず息を呑んだ。

 生きていない存在を相手にしている仕事なので、危険と隣り合わせなのは理解している。とはいえ、セレナも『縁故』としてそれなりのキャリアを持っている福岡のホープだ。そんな彼女が手こずった相手となれば、それなりに強力な『遺痕』なのだということが予測出来る。

 続きを促す政宗に頷いたセレナは、右腕を服の上から軽く撫でながら……苦笑いを浮かべた。

「その時は新人の子をかばったこともあって、場所が空き家の中で、荒れ放題やったけんが……壁から出とった釘で、腕を怪我してしまったんよ」

「そうだったんだ……災難だったね。利き手だから不便も多いと思うけど、大丈夫?」

「完全回復にはいつもよりちょっと時間がかかっとるけど、とりあえず大丈夫。骨や神経に異常はないし、傷が残らんように仰々しく包帯を巻いとるだけやけんね。ただ……この怪我をしてから、自宅待機にされたっちゃんね」

「自宅待機……」

「普段やったら福岡支局で瑠璃子さんの手伝いをしたり、一誠さんに帯同したりするっちゃけど、今回はそういうのが一切なくて……とにかく怪我をしっかり治してほしいって、そればっかりなんよ」

 釈然としない表情のセレナに、政宗が無言で考え込む。場が静まり返ったところで、ほうじ茶を飲んでいた統治が口を開いた。

「橋下さん、山本の居場所に何か心当たりは?」

 その問いかけに、セレナは「多分やけど……」と前置きをしてから、左手の人差し指を立てた。

「ユカは麻里子様の部屋で過ごしとると思うよ。私も大体の住所は知っとるけど、実際に行ったことないっちゃんねー」

「麻里子様の部屋、か……どのあたりにあるんだ?」

「変わってなければ百道浜(ももちはま)のはず。ドームやタワーの近くやね。確かムネリンやトーチ君も、その辺で合宿したっちゃろ?」

「あ、ああ、そうだ……そう、か……」

 セレナの答えを聞いた統治が、言葉に詰まって黙り込んだ。政宗もまたその理由を察して、自分を落ち着かせるために手前のお茶を飲む。


 福岡市の百道浜は、3人が初めて出会った場所だ。

 切磋琢磨して、交流して……思いを通わせた、そんな、特別な場所。

 その場所に今、ユカがいる可能性があると言われている。


 政宗は中身が半分ほど減ったコップをテーブルに戻すと、セレナを見つめて笑顔を作った。

「ありがとう、セレナちゃん。情報としては十分だよ。統治、ケッカとの『関係縁』を辿って場所を特定出来ないのか?」

 言われた統治は、「試してみる」と頷いた後、瞬きをして視界を切り替えた。『縁故』は繋がった『関係縁』を辿って相手の居場所を探すことが出来るが、仙台と福岡など、物理的に距離が遠い場合は最後まで追いきれない。

 ただ、今は……統治もユカも福岡にいるはずなのだ。名杙直系という絶対的なアドバンテージを持っている統治に託した政宗だったが……数分後、統治が再び瞬きをして首を横に振る。

「ダメだ。恐らく名雲の『(まじな)い』で、居場所の特定が出来なくなっているな」

 名雲――その名前を聞いた瞬間、政宗は盛大に溜息をついた。

「そうだった……ここは、西だったな」


 名雲家。

 東の名杙と同じく、西で『良縁協会』を取りまとめている家柄だ。

 その能力は、ある意味では名杙と対象的で……『縁』を隠すことに長けていると言っても過言ではない。


 改めて、思い知らされる。

 東日本で絶対的な権力と実力を持っている名杙だが、西日本に来ると……西を治めている名雲と、実力が均衡してしまうことを。


「セレナちゃん、麻里子さまって名雲の関係者だったっけ……」

「うん、そのはずやね。詳しいことは聞いとらんけど、直系筋の血は入っとったと思う」

 セレナが頷いたことを確認した政宗は、ため息をお茶と一緒に飲み込んだ。

 東で感じていたアドバンテージはなくなり、全てがマイナスに作用しようとしている気さえする。頭では理解していたけれど……ここでは本当に勝手が違うことを、嫌というほど感じていた。

「マジで俺たち、完全にアウェーだな」

「じゃあムネリン、諦めて帰ると?」

 彼をからかうように尋ねるセレナへ、政宗は「いいや」と首を横に振って、彼女を見据える。

「帰るわけないよ。このくらいのピンチを乗り越えられないようじゃ、この先やっていけないからね」

「ムフフ、たくましかねぇ……その勢いでユカに告白すればよかとにー」


挿絵(By みてみん)


 ニヤニヤと政宗を煽るセレナに、彼はストローから曖昧に口を離しながら口ごもるしかない。

 それが出来ずに10年経過した、それが今の政宗なのだから。

「セレナちゃん、それとコレとは別問題だから……」

「えぇー? でも、ユカはユカで意識しとると思うっちゃんねぇ……詳しくは言わんけど」

「ちょっ!? そこ、詳しく教えて欲しいんだけど!?」

「そこまでサービスせんよ。それに……そういうのはちゃんと、自分で気付かんと。ね、トーチ君」

「同感だ」

「統治まで……」

 涼しい表情で夕食を食べる親友の横顔にジト目を向けた政宗は……同じく注文したパスタが届き、フォークでクルクル巻いているセレナを見やる。そして、仕返しにもならないことは承知の上で、彼女のそっち方面の現状を尋ねてみることにした。

「セレナちゃん、そういえば……(かける)君とは連絡取ってるの?」

 駆君――宮城に住んでいる千葉駆(ちばかける)という青年のことだ。2ヶ月前、遊びに来ていたセレナに一目惚れして告白し、今は地道に『仙台支局』への転職すら狙っている、そんな真っ直ぐな若者である。

 政宗の口から駆の名前が出たことに気付いたセレナが、口元にニヤリと笑みを浮かべる。

「んー? なになにムネリン、気になるとー?」

「ま、まぁ……駆君を雇う可能性がある者としては、ね」

 何となく言葉を濁してお茶を飲み干す政宗に、セレナはムフフと笑いながら……巻いたパスタを口に入れた。咀嚼して飲み込んだ後、机の脇に置いているスマートフォンに視線を向けて……目を細める。

「連絡は、取っとるよ。他愛もないことばっかりやけど。なんか、新聞記者もやりがいがあって楽しいって。この間、櫻子さんのイベントを取材したんやったっけ? ネットニュースでは読んだっちゃんねー」

「そうだね。駆君、普通に今のままで頑張ってもいいと思うんだよなぁ……」

 前述の通り、駆は今、『仙台支局』へ転職する機会を伺っている。とはいえ、現職の新聞記者としても仕事を任せられており、自分がどの道を進むべきなのか、悩んでいる最中なのだ。

 そんな彼の姿を思い出している政宗へ、セレナがパスタを巻きながら笑みを向ける。

「でもムネリン、人手は欲しいっちゃなかと?」

「まぁ、ね……だからセレナちゃん、いつでも仙台に来てくれていいよ」

「未来で考えときまーす」

 笑顔でそう言ってパスタを食べるセレナに、政宗もまた、笑顔で肩をすくめて……そういえば、自分が頼んだミックスグリルだけ来るのが遅いな、と、少し心配になって厨房の方を見つめた。


 食事を終えた3人は、とりあえず今日は解散することに。自宅へ帰るセレナと途中で別れ、2人で博多駅まで戻ってきた時……時刻は21時近くになろうとしていた。

 金曜日の夜ということもあり、博多駅周辺は、まだまだ多くの人で賑わっている。

「さて、統治……とりあえず俺たちもホテルに戻るか?」

「そうだな。明日はどう動く?」

「そうなんだよなぁ……福岡支局に行っても無駄だろうし、そもそも土曜日で休みか」

 地下鉄の改札を出て、地上へ向かうエスカレーターに乗った政宗は、2段下から問いかける統治に渋い顔を向ける。

 今の自分達には、圧倒的に手がかりが少ない。その中でまだ、潰していない可能性は――

 政宗は口元を引き締めると、統治へこんな提案をした。

「百道浜、行ってみるか? 近づくことで何か分かるかもしれないし」

 その言葉に、統治も静かに首肯した。

「そうだな。俺たちの手がかりはそれだけしかない。分かっていると思うが……1人で飲みに行くなよ」

「い、行くわけないだろ!? 博多駅の中の角打ちなんか調べてないからな!!」

「佐藤……」


 統治が政宗へ向けてジト目を向けた次の瞬間――ピクリと両肩を震わせて、軽く目を見開く。

 何かを感じ取った、そんな反応だ。


「統治?」

「――っ……!?」

「統治、おい……統治?」

 先にエスカレーターから降りた政宗が、自分に続いてきた統治を見やり、思わず表情を引き締めた。

「何かあったのか?」

「いや……どう言えばいいか分からないんだが……今、下の方から異質な気配を感じた。恐らく『遺痕』だろう」

 統治の能力は、政宗よりもずっと練度が高い。多くの人が行き交う博多駅、普段とは違う環境下で、微細な『遺痕』の気配に気づくことが出来るのは彼くらいだ。現に政宗も、エスカレーターで下って何十メートルも下にいる『遺痕』の気配までは感じ取ることが出来ていない。

 『遺痕』は生者との間に残る『関係縁』のせいでこの世に留まっているので、人が多い場所になれば、自ずと遭遇する可能性が上がってしまうのだ。

「まぁ、これだけ人が多いとなぁ……一誠さんに連絡したほうがいいか?」

「いや、そこまでは――」



 統治が頭を振ろうとした次の瞬間、エスカレーターの下の方から、女性の悲鳴が聞こえた。



 近くで発生した緊急事態に、政宗は思わず足を止めて後ろを振り返る。

「な、何だ……?」

 週末の夜なのでまだ人通りも多い。その場に居合わせた全員の視線が地下に注がれる中、下で反響している声をつなぎ合わせてみると……エスカレーターを降りたところで、女性が一人、体調不良で倒れたらしいということが分かってきた。どうやら長い髪の毛をピンでまとめていたらしく、そのうちの1本が頭皮に刺さっていて血も出ているらしい。

 駅の職員らしき男性がエスカレーター横にある階段を駆け下りていく様子を見送って、2人は再び歩き始める。

「急にびっくりしたな……これ以上、大事に至らないといいけど」

「そうだな」

 統治は歩きながら軽く後ろを振り返って……周囲に不穏な気配が残っていないことを確認した。そしてすぐに視線を前方へ戻すと、ホテルがある出口の方へ歩き出す。

 折角、屋台文化が根付く福岡までやって来たというのに……今日はとても、夜の街を出歩く気分にはなれなかった。

 挿絵が、増えたー!! おが茶さんが速攻で描いてくださいました。セレナの髪型を軽率に変えたにも関わらず、しっかり反映させてくださって有り難い限りです……!!

 セレナの顔ですよ顔!! この含み笑いをしている表情が最強ですし、それにしっかり反応している政宗の情けなさが天下一品ですわ。統治、顔は見えないけど何となく察するよお疲れ様!!

 公開直後にこんな嬉しいことがあるので、モチベーションがうなぎのぼりです!! 本当にありがとうございます!!

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