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エピソード7:あの時の君へ①

 第3幕のユカが手紙を書いているシーンは、ボイスドラマで補完しました。(https://mqube.net/play/20180825739319)


 是非、上記音源を聞いた上で……2人の関係性を把握した上で、小説をお楽しみください。

 飛行機はほぼ定刻通りに福岡空港を出発して……予定通り、18時30分頃に、仙台空港へ到着した。

 福岡からの便は飛行機が小さめなこともあって、ほとんどの場合、空港のターミナルビルから少し離れた場所で降ろされる。係員に誘導されながらタラップを降りると……体に吹き付ける風に、福岡とは質の違う冷たさを感じた。

「さっむっ……」

 咄嗟に顔をしかめるユカに、後ろから降りてきた政宗が、ニヤニヤした反応と共に彼女を覗き込む。

「無事に到着できて良かったな、ケッカ」

「うぅっ……こげん寒かとか聞いとらんっちゃけど……帰り、名取のユニクロに行くしかなかとやか……!!」

「近くに西松屋もあるぞ?」

「やけんがユニクロでよかと!!」

 2人でこんなやり取りをしながら歩みを進め、後ろから続く統治と共に建物の中に入った。そして、預けた荷物が流れてくるベルトコンベアの前で待つことしばし。自分の荷物を受け取ったユカが、自動ドアをくぐって到着ロビーへ出てみると……。


「……ユカちゃん……!!」

「櫻子さん!?」


 先に出でいた統治と立ち話をしていた櫻子が、ユカの姿を見つけて駆け寄ってきた。ユカもまた、荷物を引っ張りながら彼女へ近づいて……久しぶりに向かい合う。

 ベージュのロングカーディガンから見えるロングスカートとショートブーツ、首元にストールを巻いている櫻子は、ユカを見下ろして、とても嬉しそうに目を細めた。

「あの、えっと……」

「皆さんおかえりなさい。お仕事、お疲れ様でした」

 こう言って笑顔を向けてくれる櫻子が、自分側の事情をどこまで把握しているのかは分からないけれど……ユカは自然と口角を緩めた後、帽子の位置を直して返答する。

「……ただいま。お土産沢山買ってきましたよ」


 その後、櫻子が運転する車で仙台市へ戻ってきた4人は、途中のファミレスで夕食を一緒に食べた後、それぞれの場所へ帰ることとなった。

「ユカちゃんと佐藤さんを降ろすのは、同じ場所でよろしいのですか?」

 櫻子の問いかけに、後部座席に乗っているユカが「はい」と短く首肯する。

「政宗の家からならあたしの部屋も近いですし……ちょっと、用事もありますから」

「分かりました」

 櫻子はやはり多くを尋ねようとせず、ユカと政宗を同じ場所まで連れて行く。

 政宗の自宅マンション前で車を降りた2人は、助手席に座っている統治へそれぞれに言葉をかけた。

「統治、お疲れ様。家でゆっくり休まんねよ」

「一緒に行けてよかったよ、統治。明日からもまた宜しくな」

「……ああ。2人もあまり、遅くならないようにな」

 統治はそう言った後、助手席の窓を閉める。そのまま発車した車が見えなくなるまで見送った2人は……互いに顔を見合わせて、一度だけ頷いた。


 福岡から仙台に帰ってきただけでは……まだ、全て終わったとはいえない。

 6月のユカが書いたという手紙を見せてもらって……過去の補填をしなければならないのだから。


 その後、政宗はユカを連れ立って、数日ぶりに自宅へと帰ってきた。

 ポストに入っている郵便物やダイレクトメールをまとめて手に持ち、空気が停滞している廊下を進む。リビングのドアを開けた瞬間……ひんやりした空気が出迎えてくれた。

「人がいなかったから冷えてるな……ケッカ、暖房つけるか?」

「んー……別によかっちゃなかと? その代わり、コーヒーいれてよか?」

「ああ。場所は……分かるよな。適当に使ってくれ」

 政宗の了承を得る前に、ユカは1人、台所へと向かっていた。そんな彼女に肩をすくめつつ……政宗は1人、リビングの隣にある自室へと足を踏み入れる。


 部屋の電気をつけて、壁際にある棚の引き出しから……手紙を1通取り出した。

 封筒に記載されているのは、彼女の名前。

 当然だが、政宗は内容を知らないけれど……6月の彼女は、今の彼女の助けになれば良いと思ってこれを書いたと、自分宛ての手紙には書いてあった。

 きっと……きっと、悪いようにはならない。彼女が一生懸命考えた言葉は、きっと、今のユカにも届くはずだから。

 瞼の裏に彼女の笑顔を思い出して、政宗は1人、静かに手紙を握りしめる。

「……ありがとな、ユカ」

 政宗は彼女に笑顔で謝辞を告げると、しっかりとその封筒を携えて……1人、部屋を後にした。


 彼がリビングに戻ったとき、ユカもまた、二人分のコーヒーを用意し終えて、テーブルに運んでいたところだった。

 部屋から出てきた政宗の右手に、問題の封筒を確認した瞬間――胸が一度、大きく跳ね上がる。

「政宗、それが……」

「ああ、これがその手紙だ。1人で読むよな?」

 彼女にそれを手渡して、暗に自分は退室すると告げたのだが……カップを机上に置いたユカは慌てて首を横に振る。その行動が意外で、同席が許されると思っていなかった政宗は、思わず目を見開いた。

「う、ううん……何があるか分からんけんが、ここにおってくれると助かる、かな……」

「わ、分かった」

 ユカの言葉に思わず緊張しつつ、どこに座ろうかと思案する彼の服を、ユカが一度だけ強く引っ張った。そして、引き続き驚いた顔でしどろもどろに自分を見下ろす彼を見上げると、自分を鼓舞するためにも強い口調で指示を出す。

「やけんが政宗はあたしの隣に座っとって!! 分かった!?」

「わ、分かりました……」

 こう言われると、とりあえず頷くしかない。何に対して「やけんが(だから)」なのかは、いまいちピンときていないけれど。

 ユカが座った隣の椅子を引いて腰を下ろした政宗は、この状態でどうすればいいか分からず……とりあえず彼女が用意してくれたコーヒーをすすった。

 身長差があることもあり、隣に並んだ状態でユカを見てしまうと……どうしても、手紙の中身がちらちら見えてしまうのだ。

 そんな政宗をユカは横目で見やり、静かに封筒の中身を取り出した。そして、二つ折りにされた便箋を開くと、迷いなくそれをテーブルの上に広げるではないか。

「け、ケッカ!?」

 まさかここまでおおっぴらにされるとは思っておらず、政宗は自主的に視線をそらした。そんな彼の服をユカはもう一度引っ張ると、とりあえず自分の方を向かせて……強い眼差しで言葉を続ける。

「これ、一緒に見て。それで……書いてあることが本当か嘘か、ちゃんと教えて」

 今のユカが最も不安なのは、過去の自分が書いた手紙の内容が……果たして事実なのかということ。それを確認したくても、今のユカは記憶が曖昧すぎてあてにならない。

 だから……全て覚えている人物(政宗)の協力が必要なのだ。

 彼女の意図を理解した政宗は、首を一度縦に動かした後……口の中にたまった唾を、コーヒーの香りと一緒に飲み込んだ。そして、2人で同時に、手紙へと目を通す。

 そこには、ユカ自身がとても見慣れた文字で……こんなことが、記載されていた。




 山本結果へ



 はじめまして……というのもへんな話だけど、はじめまして。

 あたしは今年の6月、ちょっとだけ出てきた……そんなかんじの、山本結果です。


 多分、今のあなたは、6月に体のぐあいがわるかった時のことを、おぼえていないと思います。

 そして、この手紙を読んでいるということは……きっと、記おくがなくて、こまってるんだよね。

 そんなあなたのために、あたしが知っていること、感じたことを書いておきます。


 これを書いているのが、本当にあたしなのか信じられないかもしれないので……本人しか知らないことも書いておくね。

 あたしの本名は、緒方結唯香。お母さんの名前は、緒方たか子。あ、これ、政宗に見せちゃダメだよ。あたしもここまでは教えてないからね。


 ここまで書いたら信じてもらえたと信じて、続きを書いていきます。

 あたしの記おくは、10年前の合宿が終わったところでおわっていて……その間のことを、2人に教えてもらいました。

 なんと、あたしは今、仙台にいて、政宗やとう治と一緒にはたらいているんだって。すごいね。

 でも、今は体のぐあいがわるくなって、足もうごかせなくて……今は、政宗にずっと、かんびょうしてもらっています。

 あたしはずっと、合宿の時から、政宗のことが好きだったから、すごくうれしかった。

 そして……政宗も好きだって言ってくれて、本当に、うれしかった。


 でも、今、この手紙を読んでいるあたしは、政宗のこと、好きじゃないって聞いたんだけど……



 それは、ちがうよ。

 山本結果はずっと、佐藤政宗のことが好き。

 10年間ずっと、そうだった(・・・・・)んだよ。

 これだけは、じしんをもって伝えます。


 むらさき色の『関係縁』が、この先もずっと、同じ色でつながっていますように。

 そして……早く、あたしが、あたしのことを思い出してくれますように。



 追伸。――




 全体に一度目を通したユカは、無言で机に突っ伏した。

 隣に座っている政宗は、青ざめた顔でため息をつく。

 まずは1人で読めばよかった……今更のように後悔が押し寄せるが、それも全て後の祭り。

 まさか、自分へ宛てて書かれたはずの手紙が、ここまでどストレートな政宗へのラブレターだとは思わなかったのだ。

 しかも、どれだけ読んでも……具体的に何も思い出せないという残念なオマケ付き。

「もうちょっと……もうちょっとなんか、こう……あぁっ……!!」

 ユカは苛立ちを抑えようと、用意したコーヒーをすすった。そして、隣に座っている政宗を横目で見やり……冷たい声で釘を刺す。

「追伸で書いてあることを他の人に話したら……『縁』、切るけんね」

「わ、分かってるよ!? 俺も流石にこれはアウトだと思ってるからな!!」

 刹那、ユカは目の奥にあった侮蔑を眼球まで押し上げて……要するに彼を最上級に蔑んだ状態で声を荒らげた。

「アウトだと思ってることをあの時のあたしとやったってこと!? っていうかそげなものどこで買ったとね!! 信じられん……!!」

「だ、伊達先生からもらったんだよ!! マジで、マジで!!」

「伊達先生からとかただの悪意の塊やんね!! それを馬鹿正直に使うけんがバカ政宗って言われるったいバカ政宗!!」

 涙目で首を振る政宗へため息をついたユカは、結局何も分からなかったことに顔をしかめつつ……一応、事実関係を確認しておくことにした。

「あたし……そういえば、足が悪かったとやんね?」

 これは8月、聖人から少しだけ聞いている。ユカの問いかけに、政宗は「あ、ああ」と気を取り直して返答した。

「悪かったっていうか、神経が通ってない感じで動かすことが出来なかったんだ。だから富沢さんにも助けてもらって……」

「な、なるほど……とりあえずそこは事実なんやね……それは分かったっちゃけど……」

 ユカは机上の手紙を折って封筒の中に戻すと、それを見下ろして大きなため息をつく。

「まさか……手紙を読んだだけで、何も分からんとは思わんかったー……」

 手がかりだと思っていたものが盛大に空振りだったのだ。しかも、自分の恋心……らしきものを盛大に暴露されて終わるという笑えないオマケ付き。

 分かったことはあるけれど……知ったところで何も思い出せなかった。いや、これはむしろ一生忘れていたいくらいだけど……それにしても、モヤモヤが残る結果になってしまっている。

「10年間そうだったって言われても……」

 過去の自分からも肯定された恋心は、驚くほどピンとこない。あの時の彼女が感じていたことを、今のユカは受信するアンテナがないような……そんな、決定的な違い。

 手紙を読めば、過去の彼女に近づけると思ったけれど……逆に遠ざかってしまったような、そんな気さえしていた。何か……何か、共通点はないだろうか。

 釈然としない表情のまま、ユカはもう一度手紙の内容を思い返して……不意に、とあるフレーズを思い出す。


 ―― むらさき色の『関係縁』が、この先もずっと、同じ色でつながっていますように。


 この言葉を信じるならば、この手紙を書いたユカと政宗を繋ぐ『関係縁』の色も、紫色だったことになる。これは、今のユカとも同じだ。

 昨日、貴子と繋がった『関係縁』を掴んだ時、彼女が自分をどう思っていたのかが、強い悪意と共に伝わってきた。両者の関係をずっと繋ぎ止めてきたその『縁』は、相手をどう思ったのかを全て記憶していると言っても過言ではない。


 もしも――今、紫色の『関係縁』を掴んだら……どうなるだろう。

 何か、思い出せるのではないか。


 ユカは静かに瞬きをして、視える世界を切り替えた。彼女の動作で切り替えを察した政宗が、「ケッカ?」と呼んで首を傾げた後、ユカと同じく視界を切り替える。

「どうしたんだ? 何か気になることでもあったのか?」

「ちょっと、試してみたいことがあって……政宗、動かんでね」

 ユカは曖昧に言葉を濁した後、政宗と繋がっている紫の『関係縁』を確認すると……手を伸ばし、それを、右手で握りしめる。



 ――瞬間的に流れ込んで来たのは、とても歪な(・・)感情だった。



 拒絶と寛容がせめぎあい、陣取り合戦をしているような……そんな、言いようのない感覚。

 混沌としていて真意が視えない。彼の思いを感じ取るどころか、自分の想いも感じ取れない……そんな、とても曖昧で、漠然とした『関係縁』。


 これは――本当に、両思いの『関係縁』なのだろうか。

 この縁で繋がっている自分たちは……何なんだ?


 思っていなかった答えに、ユカは思わず目を見開くと……首を何度も横に動かし、『関係縁』を握る手に力を込める。



 違う



 違う




 知りたいのは、そんなことじゃない



 もっと奥、もっと深くにあるものを感じ取りたい



 2人の最奥へアクセスするパスワード、それは――




「……っ!!」

 刹那、苦痛に歪むユカの横顔を見た政宗が、これ以上は駄目だと判断を下した。

 神経を集中しすぎると、意識が混濁して乖離を起こし、戻ってこれなくなる可能性も否定出来ない。ユカの焦燥は分かるけれど……悪者になってもそれを止めるのが、自分の役割だと思うから。

「ケッカ、ちょっと一度手を離して――……」


 そう言いながらユカの右肩に触れた瞬間――世界が、反転する。


 襲いかかってくるのは、目眩よりも更に強い力。

 意識を根こそぎもっていかれるような……そんな感覚。



 政宗にとってもこの感覚は久しぶりで……嫌になるほどよく知っているからこそ、思わず口元に笑みがうかんだ。

「マジかよ……なんで、ま、た……」

 彼女の肩に触れた手が、力をなくしてズルリと落ちていく。その感覚で我に返ったユカは、反射的に『関係縁』から手を離した。



 そして。



「え……?」



 気を失った政宗が椅子から落ちていく様子が、現実味のないスローモーションのように見えて。

 鈍い音が部屋に響き……彼女は、1人きりになった。

 第3幕のユカ(大人Ver)の精神年齢は9歳くらいだと思っているので……


 ……手紙を書くとすれば、何の参考にもならない独りよがりの内容にしようと決めていました。(笑)


 そして、追伸に何が書いてあったのか……まぁ、内容がアレなのでカットしてます。第3幕で伊達先生が華蓮を通じて渡していたものに関することです。書くとすれば外伝送りになりますので、2020年の政宗誕生日あたりをお楽しみに!!

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