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エピソード6.5:お土産のススメ

 ユカと政宗が地下鉄を使って福岡空港へと到着した時、時刻は14時になろうとしていた。

「天神から空港まで……本当、あっという間に着くよな……」

 地下から地上へ続くエスカレーターを登りながら呟く政宗に、一段前に乗っているユカが「そうやね」と相槌を打つ。程なくして福岡空港の国内線ターミナルに到着したのだが……連休最終日ということもあって、多くの人がそれぞれの場所へ旅立とうとしており、それを見送る人もいる。要するにとても混み合っていた。

「ケッカ、先に大きな荷物を預けておかないか?」

「あ、うん。分かった」

 政宗が指をさす先にあるのは、航空会社のカウンター。その一角で、キャリーケースなどの荷物を預ける人が列になって並んでいた。既にオンラインで搭乗手続きを済ませていたので、2人して荷物を引きながら移動してその列に並び……無事に、身軽になる。

「さて……統治達はどこにいるんだ?」

「レナからの連絡だと、2階のお土産屋におるらしいっちゃけど……とりあえず上に行ってみらんとね」

 二人がいるのは1階なので、エスカレーターなどを使って2階へ移動する必要がある。人の流れを意識しながらエスカレーターの表示へ向かって歩いていると……目の前を唐突に団体客が横切って行ったため、ユカが思わず勇み足になった。

「うわっ!?」

「ケッカ?」

 思わず別の流れに巻き込まれそうになったユカの腕を、政宗が咄嗟に掴んだ。そして、少しだけ力を入れて自分の方へ引き寄せる。目を丸くしている彼女を見下ろした政宗はあっさり手を離した後、平然とした表情で問いかけた。

「大丈夫か? やっぱ、連休最終日は人が多いな……」

「あ、うん、そうやね……ありがとう……」

 ユカは面食らいつつ体制を整えると、政宗を見上げ……肩をすくめる。

「本当、政宗って……そういうとこあるっちゃんねー」

「ケッカ?」

「ほら、上に行こう。あたしも自分のお土産ば買っておきたいけんね」

 そう言ってユカは再び、彼の半歩前を歩き始める。政宗はそんな彼女の後ろに続いて……先程、すぐに手を離してしまったことを、少しだけ後悔していた。


「――ユカ!! ムネリン!!」

 2階に移動してユカがセレナと連絡を取り合っていたところ、思いの外すんなりと合流出来る。

 セレナと統治、それに一誠と瑠璃子の4人は、ターミナルビルの2階にある保安検査場(南)の近くにあるベンチに腰を下ろしていた。二人の姿に気付いたセレナが立ち上がって手を振ってくれるので、それを目指して早足で近づいていく。

 統治の脇には既に大きな紙袋が3つほど置いてあり、ある程度買い込んでいることが伺えた。ユカがセレナと立ち話をしている間、政宗は統治に近づくと、紙袋の中身を覗き込む。

 最初に目についたのは、黄色い包装紙の『博多通りもん』だ。ミルク風味の生地の中になめらかな白あんがたっぷり入っており、和菓子の技術と洋菓子の要素が混ざりあった、福岡土産の大定番である。

 個数が少ないタイプも販売されているので、渡す人に応じて選ぶことが出来る。案の定、統治も大きめの箱から簡易包装タイプまでを複数購入していた。

「やっぱり『博多通りもん』は外せないよな……統治、どこに買ったんだ?」

「実家と『仙台支局』、茂庭さん、伊達先生、櫻子さん、名倉家……忘れているところはないだろうか」

 統治の返答に対して、政宗は年長者の顔を思い出して提案する。

「そうだな……万吏さんと伊達先生には明太子もつけとくか。あと、当主に芋焼酎を渡しておけば、分町ママにも行き渡るだろうし……あ、自分用にも明太子くらい買っておきたいよな……」

 政宗は指折り数えつつ顔を上げると、談笑しているユカ達4人へ問いかける。

「誰でもいいけど……おすすめの明太子のブランド、教えてくれませんか?」

 この問いかけに4人は一斉に彼の方を見ると、ほぼ同時に即答する。


「『やまや』やろうもん」

「少し高いけど『稚加榮(ちかえ)』かなー」

「ムネリン、『福太郎』がオススメだよ」

「政宗君、『ふくや』がよかよ」


 4人がそれぞれに違うブランドを同時に名指ししたので、政宗は思わず目を丸くして言葉に詰まった。

「え、えぇっと……え? 何だって?」

 聖徳太子の能力を要求されて困惑する政宗に、ユカがジト目を向ける。

「なんね政宗、聞いとらんかったと?」

「いや、聞いてたけど聞き取れなかったんだよ!! えっと、ケッカのオススメは……『福太郎』?」

 彼の答えにユカは憮然とした表情で首を横に振る。そして、真顔で土産物店の方を指差した。

「ぶっちゃけ、どこのでも食べれば美味しかよ」

「それ言ったら終わりですよねケッカさん!?」

 政宗のツッコミにも、ユカはツンとした表情で視線をそらすだけ。途方に暮れる彼を見かねた瑠璃子が、「そうやねー」と口を開いて助け舟を出した。

「辛さを求めるか、昆布だしの強さを求めるか、量が多いやつがいい、とか……何を重視するかによって変わってくるけんねー。明太子は価格帯も広いけんが、お財布と相談して直感で決めるのが一番なんよー」

「そ、そうなんですか……財布と相談して直感って微妙に矛盾してません?」

「ほら一誠、政宗君を案内してあげんねー。って……ユカちゃんも何か買うやろうけん、私達も一緒に行こうかねー」

 政宗のツッコミを笑顔で遮断し、率先して瑠璃子が立ち上がる。彼女に続くように座っていた3人も順に立ち上がった。そして全員で、土産物屋が並ぶ通りを目指す。


 福岡空港・国内線ターミナルビルの2階は、国内線の保安検査場が南北に二箇所あり、その間に多くの土産物店が軒を連ねている。福岡の代表的なお土産から空港限定品まで数多くの品が並び、ここに来れば福岡・九州の土産物を一通り買い揃えることが出来るのではないだろうか。

 品数が多くて迷うことがあるかもしれないが、本当に迷ったら『博多通りもん』と『めんべい』を買えば甘さと辛さを両方カバー出来て福岡らしさもアピール出来るし、多少は日持ちもするので割とオススメだったりする。インパクトが足りなければ『二〇加煎餅』を入れておけば完璧である。

 それはさておき。

 政宗は店先のケースに並んでいる明太子を見比べつつ……万吏と聖人には量より質、自分用は質より量を重視することに決める。

「っても……どれにするかな……伊達先生、確か福岡に親族がいたはずだから、こだわりありそうだよなぁ……」

 政宗が試食しながら悩んでいる間、ユカはセレナと共に、菓子類が並んでいるコーナーへ向かった。『博多通りもん』が最前列に鎮座している店内には、甘いものから辛いものまで、様々な菓子が並んでいる。

「今の時期は、栗の限定品が多いっちゃね……」

 やはり秋の限定品が前面に押し出されることが多く、自然といくつも目に入ってきた。ユカがパッケージを手に取りながら思案しつつ……隣にいるセレナと視線を合わせて、2人同時に肩をすくめた。

「限定品も気になるっちゃけど……やっぱり、普通の味が一番美味しかったりするっちゃんね」

「分かるよユカ。最終的にはノーマルが一番!! って思うと」

 こう言って2人で笑いあい、ああでもないこうでもないと会話をしながら、同じ時間を共有して。

 福岡で当たり前だったこんな時間も、また……しばらくの間、お預けになる。

 そう思うと切なさも感じるけれど、でも、ユカはもうしばらく仙台で頑張ると決めた。その決断を尊重してくれる親友に、情けないところは見せたくない。

 だからこそ……ユカは口元を引き締めると、自分の中で考えている『とある提案』を、彼女にだけ、こっそり伝えておく。

 自分以外の誰かに伝えることで、己の覚悟を決めるためにも。

「……ねぇ、レナ。この間……政宗のこと、どげん思っとるかわからんって……泣きついたやん?」

「え? あ、うん。そうやね」

 セレナはユカが自分からその話題を口にしたことに驚きつつ、彼女の言葉に耳を傾けた。

「あれから色々考えて……正直、この結論が正しいかどうか分からんと。でも……こうしてみたいなって思っとることが、あってね……」

「うんうん……って、えぇっ!?」

 そんな前置きと共にユカが語った内容に、セレナは思わず大声を出してしまい、周囲から向けられた視線を笑顔で慌てて誤魔化した。

 そして、視線の先を親友に戻すと……彼女の並々ならぬ斜め上の決意に、脱帽するしかない。飛躍しすぎている気がしなくもないけれど。

「ゆ、ユカ……それ、本当にやるつもりなん?」

「え? あ、うん。多分……これくらいせんといかんやろうな、って」

「まぁ確かに、今のムネリン見とったらそげん思うのも分かるけど……」

 セレナはユカの考えに同意しながら……先程聞いたことを思い出していた。

 昼食時に聞いたのだが、ユカは午前中のテストを満点に近い点数で合格している。一度「やる」と決めたことは、しっかりこなしていけるだけの能力があるのだろう。

 それならば……政宗に任せるよりもユカの自主性を尊重したい。セレナはこころの中でそう結論を下すと、親友を誇らしげな眼差しで見つめる。

「やっぱ、ユカは凄かよ」

「そ、そう?」

「うん。凄いと思う。やけんが……上手くいくといいね」

 こう言って、心からの幸せを願ってくれるセレナに、ユカは「ありがとう」と言葉を返した後……視線を前方に戻して、改めて考える。

 さて、自分用へは……一体、どれを持って帰ろうか。

「バームスティック、ひよこのピィナンシェ……チロリアンは買っていくとして後は……梅が枝餅も食べたかね……」

 限られた時間と手荷物の中、何をどんな組み合わせて買っていけば、より多くの種類を味わうことが出来るだろうか。

 時間ギリギリまで悩むユカを、セレナは隣で見守りながら……過程より結論を重視しがちな彼女らしい決意を思い出して、人知れず肩をすくめる。

「ムネリン……仙台に戻っても大変やねぇ……」


 その後、土産物を分担して持った3人の元へ、麻里子と孝高も合流して。

 セレナの提案で全員揃った写真を撮影したり、麻里子が政宗に飲み比べセットを渡す様子をユカがジト目で見たりしていると……あっという間に、保安検査場を通過する時間になってしまった。

 検査場の前でユカ達3人は福岡メンバーの方へ向き直り、各々が頭を下げる。

 顔を上げたところで、政宗が口火を切った。

「今回は……本当に色々とありがとうございました。次は、仕事とかナシで遊びに来たいですね」

 こう言って苦笑いを浮かべると、瑠璃子が笑顔で言葉をかける。

「バタバタしとったけん、ゆっくり観光も出来んかったね。次はもっと、時間がある時に遊びに来て欲しいかなー」

 こう言った瑠璃子の隣で、セレナが「そうですよね」と同意した後……。

「次は1日くらいフリーの日を作って、デートくらいして欲しかねームーネリン」

 セレナがそう言って政宗に意味深な眼差しを向けると、彼が盛大に視線を横へそらして統治に助けを求めた。統治は真顔でそんな彼から視線をそらすと、一誠や孝高へ向けて声をかける。

「お世話になりました。システムを使った上での感想や不具合があれば、随時教えていただけると助かります」

 主に実戦を担当している一誠が、彼の言葉に力強く首肯する。

「あぁ、分かった。俺も現場で使うのを楽しみにしとるよ」

「……契約の詳細は佐藤支局長に伝えている。折を見て共有して欲しい」

「分かりました」

 一誠と孝高の言葉に統治が頷いていると、頭上の掲示板がパラパラと回転して……仙台行の飛行機を、2段ほど上に押し上げた。中待合室へ向かう保安検査場にも行列が出来始めているので、早めに中へ入っておくのが得策だろう。

 ユカは居住まいを正して麻里子達を見ると、帽子のつばの位置を整えて――口角をあげた。


 次にここへ来る時に、自分がどんな姿なのかは分からないけれど。

 でも――どんな姿であっても、自分が理想としている『山本結果』でありたい。



 ――あとは結唯香がどげんするか、それだけやんか。自分のことも決めきらん奴が、己の価値を決めようとするんじゃなか。



 自分自身がどう生きるか、胸の中にあるその答えに自信を持って……居場所を守る、そのために。



「じゃあ――行ってきます」



 その言葉に、麻里子が一度だけ強く頷いて。

 3人は名残惜しそうに手を振りながら……保安検査場を抜けて、その先にある待合室へと移動した。

Q:福岡のお土産で何を買えばいいですか?

A:博多通りもんです。


聞かれたらまずこう答えます。福岡を出てから思い知ったのですが、博多通りもんを持参して嫌な顔をされたことがないです。(個人の感想です)

宮城でいうと『萩の月』がこれにあたるかもしれませんね。長く愛されている鉄板のお土産って本当に強いんですよ。新商品に冒険するのもアリですが、年上の人や会社に渡すんだったら、通りもんとめんべいの組み合わせが最強です。(個人の感想です)


あと、明太子はどこのを買っても美味しいです。白ごはんで食べましょう。明太パスタにするなら、明太マヨネーズとかのほうが使い勝手が良いのではなかろうかと……。(個人の感想です)


さて、ユカ達は福岡を離れ、仙台へと戻ります。

あと2話くらいで終わりそうですが……もうちょっとだけ続きます……!!

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