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エピソード0:招かれざる客

 本格的にお話が始まります。

 が……今回はシリーズ第7弾ということもあり、キャラクターの詳細や立場、彼らの能力などに関しての基礎的な情報はほとんど記載しておりません。

「なにこれよく分かんないけどどんな話か気になっちゃう」という方は、下記内容でざっくり把握してやってください。


【あらすじ。】

 人間同士をつなぐ『縁』が見えて、それに干渉できる能力者。彼らは自分たちを『縁故えんこ』と呼び、1つの組織を作って、意図的な縁切り/縁結びで富と権力を築いてきた。

 そんな『縁故』の1人である主人公・ユカは、ふるさとの福岡から知人がいる仙台へと赴任し、『縁故』として働いていた。

 報告会のために一度福岡へ戻ったユカだったが、突如、福岡から戻らないという通達を出されてしまう。

 それに納得出来ない仙台の政宗と統治とうじは、彼女を連れ戻すために福岡へと向かった。


【主な登場人物】

山本結果やまもと・ゆか

 主人公。過去の事件で成長が非常に遅く、実年齢は20歳だが外見年齢は12歳程度。

 冷静でどこか達観しているところもある。食べることが好き。


佐藤政宗さとう・まさむね

 仙台の長でユカの旧友。明るく社交的な性格の24歳。本命の前ではヘタレ。酒好き。

 ユカのことが好きだが、10年前に発生したユカの事件の原因の一端を担った人物。


名杙統治なくい・とうじ

 東日本を仕切る組織の長子。冷静沈着な政宗の右腕。家事能力が高い。

 普段は縁の下の力持ちだが、今回は周囲に背中を押されて福岡へ降り立った。

 10月上旬、3連休直前の金曜日。時刻は18時30分を過ぎた頃。

 福岡市にある福岡空港第1ターミナル内の一角、乗客が出てくる到着ロビーに設置されたベンチで、佐藤政宗は飛行機の着陸情報を見つめていた。

 日が沈み、闇が広がり始める時間だが……飛行機を仕事で利用している人、レジャーやツアーで利用している人など、性別や国籍を問わず、多くの人が荷物を引いて空港内を行き交っている。

 彼が見つめる先にある電光掲示板には、仙台から到着した飛行機の情報が記載されていた。既に到着済みという表示に切り替わってから数分が経過しているので、本当に彼が搭乗しているのであればそろそろ出てくるはずだ。半信半疑のまま、祈るように視線を奥へ向けると……。


統治(とうじ)……!!」


 数時間前に別れたはずの見知った人物が、キャリーケースを引いて到着の自動ドアをくぐってくる。ベンチから立ち上がった政宗は、小走りで彼の方へ近づいていった。


 政宗がその連絡を――統治が2人を追いかけて福岡に来ることを――知らされたのは、今から約2時間前。彼自身が乗った飛行機が福岡に到着し、スマートフォンの機内モードを解除して、届いたメッセージを確認していた時のこと。

 統治から届いていたその文面を見た時は、日本語としては理解出来たけれど……状況としては、一切、理解が出来なかった。


『急で申し訳ないが、仙台で色々あって、16時35分発の飛行機で俺も福岡へ行くことになった。』


 要点が明瞭完結に書いてあるからこそ、詳細が一切理解出来ない。

 どうして、彼が、福岡に? 統治とは話し合って、彼が仙台に残ると決めたはずなのに。

「もしもし、佐藤か?」

「と、統治!? あ、あの、メール見たんだけど……何が一体どうなってんだ!?」

「要するに色々あって、俺も今から福岡に行くことになった」

「端折りすぎだろ!?」

 慌てて電話をかけた政宗は、しれっと応対する統治にその場で思わず脱力してしまった。

「っていうか空港のアナウンスが聞こえる……マジなんだな……」

 電話越しに聞こえる、空港特有のアナウンス。少なくとも彼が『仙台支局』にいないことが分かる。状況をジワジワ悟って福岡空港の片隅で立ち尽くす政宗へ、仙台にいる統治は、いつもどおりの口調で言葉を続けた。

「俺も10年前、山本を縁故採用する旨を頼まれているからな。仙台でこれからも共に働くために、自分が後悔しないように動く……それだけだ」

「統治……」

「福岡に到着次第、連絡をする。佐藤はそれまで、現状把握に務めてほしい」

 統治の言葉を聞きながら、彼は無意識のうちに……耳にあてたスマートフォンを、強く握りしめていた。


 3人が初めて顔を合わせ、交流し、絆を深め――別離のキッカケを作ってしまった場所・福岡。

 この場所で全てを清算出来るするつもりならば――彼は必要不可欠だ。

 最高のお膳立てじゃないか、政宗の口元に思わず笑みが浮かぶ。


「分かった。気をつけてな」

「もう飛行機に乗るだけだ。切るぞ」

 そう言い残して躊躇いなく電話を切った彼は相変わらずだと、1人で苦笑いを浮かべながら……通話が終了したスマートフォンを見下ろす。

 あの統治が福岡に来る、ということは、仙台側で相当強力な後押し(ゴリ押し)があったのだろう。それこそ、統治をなし崩し的に福岡へ送り出すだけの――強力な、何かが。

 ある程度予測は出来ているものの、誰が主導しているのか分からないままなのも釈然としないため……政宗はとりあえず、『仙台支局』へと電話をかけてみることにした。

 スマートフォンの通話履歴からすぐに番号を見つけ出し、発信。2コールほど呼び出したところで、ブツリという音と共に電話が繋がる。


「――はい、東日本良縁協会仙台支局です」


 落ち着いた声音で応対したのは、仙台支局の事務アルバイト・片倉華蓮だった。

 政宗は軽く咳払いをした後、とりあえず名を名乗る。

「お疲れ様、片倉さん。佐藤です」

 相手が政宗だと気付いた華蓮は、冷めた口調で問いかけた。

「……佐藤支局長、忘れ物ですか?」

「いや違うから」

 電話の向こうにいる華蓮へと思わずツッコミを入れた政宗は、「そうじゃない」と自分に言い聞かせて思考を切り替える。

 今、自分が確認したいのは――『仙台支局』がどうなっているか、それだけだ。

「片倉さん、今の責任者と話をしたいんだ。取り次いでくれるかな」

「分かりました。このままでお待ち下さい」

 華蓮は2つ返事で頷いた後、電話を保留に切り替えた。政宗がそのまま待つこと十数秒――電話に出た彼は、政宗が予想していなかった(・・・・・)人物だった。


「――はいよ、政宗君、福岡はどう?」

「ば、万吏さん……!?」


 保留明けに電話の向こうから聞こえてきた声は、茂庭万吏(もにわばんり)のもの。

 彼は確かに、『仙台支局』とは縁がある大人だけれども……支局の業務を委託している、いわば部外者なので、今回の件には絡んでいないと思っていた。

 てっきり伊達聖人が出てくると思っていた政宗の間抜けな声を受けて、万吏が楽しそうに笑いながら理由を告げる。

「よく考えてよ政宗君、伊達ちゃんが支局長代理だなんて無理だって。『仙台支局』が2時間で潰れちゃうよ?」

「それは困りますね……」

 確かに、社交性とちょっとした顔の広さ、そして何よりも万吏自身が『仙台支局』とビジネス関係にあることを考えると、支局長代理として対応するのは当然の気がしてくる。少し離れたところから、聖人らしき声が「しくしく」と言っているように聞こえたが……とりあえず今は放置しておいた。

「というか、万吏さんもいらっしゃったんですね……お仕事は大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。今日はこれから伊達ちゃんや里穂達とダベって終わりだから。あ、コーヒーとか勝手に飲ませてもらうからね」

「万吏さん……」

 彼は事もなしげに言ってのけるが、平日、しかも連休直前の金曜日の夕方、そこをフリーにするためには事前の調整が必要だったに決まっている。聖人も医者として働いているし、櫻子、里穂達学生チーム、彼ら全員が自分たちの予定を調整して、仙台支局のために時間を作ってくれたのだ。

 改めてそれを実感すると、思いが溢れて言葉につまる。

 そんな政宗へ、仙台にいる万吏が激励の言葉を送った。

「だから政宗君は、統治君と一緒に、自分の役割を果たして戻ってくること。3人一緒じゃないと、事務所の鍵は返さないよ」

 こうまで言われたら、何が何でも結果を残してみせる。政宗は背筋を伸ばすと、声に力を込めてこう答えた。

「分かりました。何かあれば迷わず俺に連絡してください。宜しくお願いします」

 この言葉に、万吏が「はいよ」と返答して……簡単に打ち合わせをした後、電話が切れる。

 政宗は通話を終えたスマートフォンを握りしめたまま、ベンチに深く腰を下ろして……少しだけ俯くと、髪の毛で顔を隠した。

 消化できない思いが渦巻いて、泣きそうな顔を……誰にも見られたくなかったから。

「何だよ、もう……泣かせないでくれよ……!!」

 この10年、自分なりに必死になって頑張ってきた。

 上手くいったこと以上に、上手くいかなかったことばかりで……己の無力さを嘆き、アルコールで気を紛らわせることも多かったけれど。


挿絵(By みてみん)


 でも、いつの間にか……縁が繋がり、今や政宗に対するセーフティーネットになって、彼をしっかり支えてくれている。

 そんな彼らの思いを、無駄にするわけにはいかない。


 ただ――


「……」

 手元のスマートフォン、暗くなった画面を見つめて……反射的に、更に強く握りしめた。

 政宗は出発前にも、ユカに向けてメッセージを送っていた。しかし当然のように既読にはならず、福岡側から何のアクションもない。

 『関係縁』は切れていないので、最悪の事態は回避出来ているが……それでも、これだけ消息がつかめないと、不安ばかりが募る。

 今、彼女は一体――どこで、何をしているのだろう。

「どこにいるんだよ……ケッカ……!!」

 俯いたまま呟いたその言葉は、周囲の喧騒にかき消された。


 その後、ホテルへのチェックイン等で2時間ほど時間を潰した政宗が……再び、福岡空港の到着ロビーに戻ってきて。

 ソワソワしながら半信半疑で待っていた彼の元へ――福岡へ、統治がやってきた。

 彼の姿を見ると、改めて現実を実感する。

「統治……本当に来れたんだな」

「ああ。飛行機が落ちなくて何よりだ」

「やめてくれよ……」

 統治なりの軽口に政宗は肩をすくめると、思考を切り替えて彼を見据えた。

 とにかく今は、情報を整理しておきいたいから。

「統治、泊まる場所はどこなんだ?」

「博多駅の近くのビジネスホテルだ。佐藤と同じではないが、近いところにしてもらっているらしい。とりあえずチェックインをして荷物を置いてから、本格的に動こうと考えていたところだ」

「分かった。じゃあ、地下鉄で移動だな」

 福岡空港から博多駅へは、地下鉄に6分ほど乗っていれば到着する。他の主要な空港と比べても、中心部へこれだけ短時間でアクセス出来る空港は他にないのではないだろうか。

 地下鉄の改札口へと歩き出す政宗の隣を歩きつつ、統治は彼の横顔を見やり、現状を共有することにした。

「佐藤、何か新しいことは分かったか?」

 その問いかけに、政宗は前を向いたまま首を横に動かす。

「いや、正直……特に報告できる進捗はないんだ。一誠さんや瑠璃子さんに電話をかけてみたけど、仕事中なのか留守番電話に切り替わるだけでさ……一応、福岡にいるってメッセージは残したけど、特に反応なしだ」

「だろうな。気になるのは……どうしてここまで意図的に俺たちを避けているのか、ということか」

「そこなんだよな……仮にケッカの勤務地が福岡に戻される場合は、流石に名杙本家へ連絡があるはずだし、あの瑠璃子さんが、仙台の責任者である俺に詳細を語らない理由が分からないんだよ。要するに……」

 地上から地下へ伸びるエスカレーターに乗った政宗は、下降していくその先を見つめながら……少し目を細めて、ボソリと呟いた。


「要するに……直接あちらさんへ怒鳴り込んで、苦情を申し立てるしかなさそうだ」

 福岡空港は、驚くほど街中にあります。冗談じゃないです。マジで街中です。

 今は国内線のターミナルが全面改装されて、めっちゃ綺麗になりました。雑居ビルみたいだった第1ターミナルが嘘のようです。あの平成初期感も好きだったぜ……。

 博多駅からは地下鉄で2駅くらいだったかと思います。利便性が抜群すぎて、羽田空港や仙台空港など、他の空港を使う時の移動時間をミスすることもありますね……え? 主要駅から15分程度で空港に着かないの?(迂闊)


 そして小説公開後にイラストが!! 増えました!! ドンドンパフパフ!!

 何度経験しても嬉しい瞬間ですね。本当に有り難いです。

 皆に背中を押されて前に進む政宗は、ボイスドラマでユカ役をお願いしているおが茶さんが描いてくれました!! ありがとうございます!!

 指輪をつけた手が誰なのかすぐに分かりましたとも。彼の未来がどう転がるのか、これから一緒に見守ってやってくださいませ!!

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