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エピソード2:告白③

 ユカの言っている意味が分からず、政宗と統治は無言で顔を見合わせる。

 彼女は今、はっきりと、『縁故』としての力がないと言ったのだから。

「ケッカ、それは……その、体調不良で能力が不安定になってるってことか?」

 ユカはそれこそ、仙台にいる時から……体調不良も重なって、能力的に不安定なことが多かった。能力のみならず視力まで奪われたことは記憶に新しい。

 でも、それも全て――時間が解決してくれている。だからきっと、今回も一時的なものだろう。

 内心そう思いつつ尋ねる政宗の言葉に、ユカは静かに首を横に振った。

「どげんやろうね。これまでは、能力が裏に隠れたような感覚やったけど……今回はなんか、そこにあったものが消えたような感覚なんよ。やけんが、これからどげんなるのか……いっちょん分からん」

 あくまでも『事実』として淡々と告げるユカに、政宗は必死で食い下がる。

 ここで諦めたら、全てが終わってしまう――そんな気がしたから。

「どうしてそんな……何かキッカケはあったのか?」

「福岡の街中で、偶然お母さんの『遺痕』と会った。そこで視界を切り替えたら、彼女があたしに対して強烈な恨みをもっとることとか一発で分かるやん? そこから……フッと、『縁』が見えんくなったと。原因は分からん。その原因を探るために、双葉さんが呼ばれたのかもしれんけど」

「じゃあ、あの『遺痕』との『関係縁』を切れば戻る可能性があるんだな?」

「どうやろうね。それで戻ればいいけど……要するに今のあたしには、何も出来んと」

 全てにおいて曖昧な返答をするユカに、政宗は言いようのない歯がゆさを感じながら……ここで改めて、セレナの怪我を思い出した。


 ――完全回復にはいつもよりちょっと時間がかかっとるけど、とりあえず大丈夫。骨や神経に異常はないし、傷が残らんように仰々しく包帯を巻いとるだけやけんね。ただ……この怪我をしてから、自宅待機にされたっちゃんね。


 昨日、彼女はこう言っていた。そして先程、政宗と統治が母親の『遺痕』とすれ違ったと告げた際……ユカは、とても動揺していた。


 あの『遺痕』は、ユカと関わりが深い人物を選別(・・)して襲っている可能性がある。

 ユカとの関わりの深さは……当人の『関係縁』を見れば、彼女でも一目瞭然なのだから。


「なぁケッカ、実は昨日、セレナちゃんに会ったんだ。その時、腕を怪我してたんだけど……」

 政宗の言葉に、ユカはピクリと反応した。そして、セレナの近況を聞きたそうに口を開きかけたが……己を律するように前を見据え、口元を固く結ぶ。

 自分にはその資格がない、そう思ったから。

「それも全部、あのお母さんのせい。レナが動揺するといかんってことで、彼女にはここまで言っとらんはずやけど……悪いことしちゃったな。レナまでまた狙われるかもしれんけんが、今は福岡支局から離れてもらっとると。だからさっき、政宗と統治が襲われんかったって聞いて、名雲って凄いなって思ったよ」

「そういうことか……」

「やけんが今、本当はこげんフラフラしとっちゃいかんっちゃけどね」

 ユカは自嘲気味にそう呟いて、手に持っていた袋を持ち直した。そして、2人に背を向けたまま、努めて明るく言葉を続ける。

「買い物もしたし、あたしはまた引きこもるけんが……2人も早めに仙台に帰った方がよかよ。あの『遺痕』は福岡で対応するけんが、今のあたし達に出来ることは……何もなかと」

 こう言って話を終えようとする、そんなユカを引き止めるしかない。政宗は彼女が離れていないように、言葉を探して必死に訴えた。

「そうは言っても……俺たちでも協力出来ることがあるんじゃないか? 一応、『縁故』としての場数は踏んでるつもりだぞ?」

 そんな政宗をユカは一瞥した後……彼の隣に立つ統治を見やり、迷いを振り切って口を開いた。

 統治本人は悪くないけれど、これは……もう、どうしようもないことだから。

「その……名杙って、相手に対して優位に立てる特性があるやろ? それが今回、お母さんの『遺痕』に対して火に油を注ぐことになるんんじゃないかって懸念があるんだって。名雲の縁を隠す能力の邪魔をされるかもしれんってね。だから……」

「……そうか」

 一言呟いた統治の表情が明らかに曇ったことが、今のユカにはとても心苦しいけれど。

 でも……ここで2人を巻き込むわけにはいかない。

 何かあった時に、万が一の事態に遭遇した時……自分では彼らを守れないのだから。

 ユカは立ち止まって振り返ると、2人を見上げて頭を下げる。

「ここまで来てくれて、本当にありがとう。これ以上深入りせんほうがいいけんが――」


「――そう言われて、俺達がホイホイ帰ると思ってるのか?」


 刹那、政宗の言葉にユカがバッと顔をあげ、目を見開いた。

 そして……苦々しく吐き捨てる。


「……そういうの、やめようよ」


 予測していたし、嫌な予感もしていた。

 彼がそう簡単に諦める性格ではないことなど、ユカはずっと前から知っているのだから。


「正直、政宗はそう言うと思った。けど、今回は事情も陣地もぜーんぶ違うと。それに……福岡であんまでしゃばると、名杙からも良い印象を持たれんやろ?」

 ユカの言葉に、政宗はドヤ顔で返答した。

「安心してくれ。俺はそもそも名杙から良い印象なんか持たれてないからな」

「あのねぇ、開き直ってどげんすっと? 政宗と統治だって見たやろ? あの『遺痕』はこれまでと格が違う。さっきはたまたま(・・・・)大丈夫やったけど……あたしとの強い『関係縁』があるって分かったら、次は2人ともどげな目に合うか分からんとよ!?」

 自分でも語気が強くなっていくのが分かる。いけない、自制したい、そう思っても……今の彼を前にすると、冷静な自分でいられなくなってしまう。

 こういうことが前にもあって、反省したのはそう遠くない過去の話なのに。

 焦るユカとは対象的に、政宗は落ち着き払った声で言葉を返してきた。

「ケッカこそ落ち着けよ。事情が分かればいくらでも対処出来るんだ。だから――」

 こう、どこか楽観的に物事を考えている彼と、そんな政宗を放置している統治に対して、どうしようもない苛立ちが募る。

 どうしてこう、いつも、根拠のない自信を掲げて前へ進もうとするのだろうか。

 何かあった時に悲しむ人がいることを……彼らを必要としている多くの人がいることを、ちゃんと分かっているのだろうか。


 政宗を失ったら、仙台は瓦解してしまう。

 統治を失ったら、名杙本家が大変な騒ぎになってしまう。

 彼らの努力が全て、水の泡になってしまう。


 ――今の自分では、彼らを守ることが出来ない。

 だから、遠ざけたいのに。


「――そういうのが大きなお世話って言いたいと!!」


 刹那、ユカの大声に気圧された政宗と統治が、それぞれに目を開いた。

 そして……政宗は統治を手で制してユカの前に立つと、静かに彼女を見下ろして問いかける。


「本気で、言ってるのか?」

「当たり前やんね。門前払いされとるのに居座られたら迷惑に決まっとるやろ?」

 刹那、政宗が表情をしかめた。そして、顔の端々に怒りを滲ませながら……声を低くして吐き捨てる。

「居座るって……言うに事欠いてそれかよ。帰ってくるはずだったのに急に連絡が取れなくなって、福岡に聞いても教えてもらえなくて……不安にならないと思ったのか? ケッカが俺たちと同じ立場だったら、同じことしてるはずだぞ」

「そうかもしれんね。じゃあ……政宗はあたしの気持ちも、分かってくれるんじゃなかと?」

「ケッカの、気持ち……?」

 眉を潜める政宗へ、ユカは臆することなく切り返す。

「そう。危険だって分かりきっとる案件に、わざわざ首を突っ込ませたいと思う? 連絡もせんで心配をかけたことは申し訳ないと思うけど、でも……西と東では何も言えん事情だってあることくらい分かるやろ? やけんが……」

 ユカは努めて冷静に言葉を選びながら、政宗を……そして、その先にいる統治も見据え、言葉を続けた。

「やけんが……」


 この先を本当は、言葉にしたくないけれど。

 こうでも言わなければ、彼らは納得してくれない。


「……今回は、これ以上深入りせんでほしい。何かあった時に、あたしは足手まといになる。10年前の二の舞になる。そんなのはもう……ゴメンやけんね」


 思い出すのは、10年前の夏の日。

 親しくなれそうだった『彼女』に襲われて、意識を失った。

 先程まで暑さを感じていた陽の光も、うるさく鳴いていた蝉の声も――彼らの声も、全てが一瞬で遮断される。

 そして、次に意識を取り戻したのは病院のベッドの上。全身に栄養を送る管が不快だったことをよく覚えている。


 全てを理解した時に感じたのは、喪失感だけだった。

 これからも、一緒にいられると思った。

 未来に向けて、新たな一歩を踏み出せると思ったのに。


 全て――全て、駄目になって。

 彼らにお別れの挨拶すら出来ないまま、戦線を離脱してしまった。



 やっぱり自分は、中途半端な足手まといなんだ。

 そして今は特に、政宗の側には居ないほうがいいことも……分かっている。



 ――9月中旬、名波蓮を追いかけて聖人を尋ねた際、聖人からこんな話を聞いていたから。


「あたしが持っている『縁由(えんゆう)』が……渉さんみたいに、政宗に悪い影響を及ぼす可能性はどれくらいあると?」

「ケッカ……!?」


 彼女の問いかけに、政宗が目に見えて狼狽した。

 聖人の話を聞いて……政宗自身も危惧していたことがある。


 ユカが彩衣と同じ素質を持っているのであれば、自分は――彩衣の兄・渉の立場になるのだろう。

 彼女を『心配』という理由で束縛して、やがて……彼女を傷つけてしまう。

 自分の意思や理性だけでは抗えない、そんなことになってしまったら……政宗は立ち直る自信がない。


 聖人はしばし閉口した後……嘘をついてもしょうがないので、現時点での情報と予測を告げることにした。

「ケッカちゃんや政宗君も薄々気付いているかもしれないけれど、『縁由』は個人差がとても大きいんだ。渉みたいに過干渉を内に秘めてこじらせてしまうこともあるし、倫子ちゃんに反応する蓮君みたいに、理性を失ってしまうこともある」


 『縁由』、それはとても曖昧な概念で、『縁』のように目に見えないもの。

 それを持っている人物は、時に強く惹かれ合い――時に、激しく反発する。とても両極端な『素質』だ。


 ユカと政宗はかつて、『縁由』持ちだと言われた中学生の阿部倫子が、同じ素質を持っている名波蓮から執拗に迫られる姿を目撃していた。

 あの時の彼は、人格が豹変しており――何が起こったのか、今でも信じられないほど。


 聖人の助手を務める富沢彩衣(とみざわあやえ)は、かつて、実の兄に軟禁されていたことがある。

 その後、色々な出会いと別れがあって……彩衣は今でも、兄と物理的に離れなければ安息を手に入れることが出来なくなってしまった。


 人の理性では抑えられない、そんな『何か』に『縁由』という名前を与えて、聖人はずっと、兄妹が共に過ごすことが出来る手段を研究しているけれど……その成果は芳しくないのが現状だ。

 そして今、ユカと政宗にも、かつての富沢兄妹と似たような現象が発生しようとしている、らしい。


「政宗君は恐らく、渉と蓮君の中間だと思うんだ。ケッカちゃんと物理的に離れていれば、彼女に対する興味が薄れることもあるけれど……一度再会すると他の人より速い速度で一気に燃えがってしまう、って言えばわかりやすいかな」

 聖人の推測に、政宗は苦笑いを浮かべる。

 旧知の仲である――ましてや片思いの相手でもあるユカは、今年の4月まで10年間福岡に住んでいた。会わなければ気持ちは薄れるし、会えば嬉しくなる……そんな『当たり前』の心の動きにまでいちいち理由をつけられるのは、どこか納得出来ないから。

「伊達先生、それは……その、ある意味では人として当たり前の感情の流れじゃないんですか? ケッカとは10年間ずっと離れていたので、言い方は悪いですが関心が薄れるのはしょうがないと思います。でも、こうして今は約束を守れたことで――」

「――自分が言っているのは、今のことじゃないよ。約2年前、政宗君が江合さんとお付き合いしていた時のことだけど」

「あれは……」

 思いがけないエピソードを掘り起こされ、政宗は困惑した表情で聖人を見やる。

 政宗がかつて付き合っていた女性・江合(えあい)なるみ。

 トータルで考えると3~4ヶ月付き合っていたことになるが、最終的には政宗の気持ちが薄れたことを悟ったなるみが身を引いたような形で終わっていた。

「でも俺はあの時、ケッカには……」

「福岡からのヘルプで、ケッカちゃんと一緒に熊本でお仕事をしたことがあるはずだよね。政宗君にしてみれば、十分すぎる刺激になったんじゃないかな。だからその後、なるみさんとは連絡を取りたくなくなった……ってことが言えたりするんだ」

「……」

 聖人の言葉は事実なので、これ以上何も言えない。言ったところで墓穴を掘るのが目に見えているからだ。

 政宗の沈黙を肯定だと捉えたユカは、改めて聖人を見つめ……ため息をつく。

「政宗の恋愛遍歴はさておき、伊達先生は……人の行動に何でも理由をつけるっちゃんね」

「そうだよ。理由があると思っているからね」

 にべもなく言い放った聖人は、正面に座っている2人を見据え……言葉を続けた。

「ケッカちゃんの体は『生きること』に全てのエネルギーを使っているから、政宗くんに分けてあげるものは何もない、これで平穏が保たれていた(・・)けれど……6月に一度成長したことで、そのバランスが崩れてしまっている可能性ある。ケッカちゃんの質問に戻るけど、このまま2人が一緒にいることで、政宗君に悪い影響を及ぼす可能性は……現時点では、8割ってところだろうね」

 8割――予想以上に高い見立てに、政宗は無言で俯くことしか出来なかった。

 もしも、これからの自分が――彼女の意思を無視した行動をしてしまったら?


 ……いや、既にしているじゃないか。空笑いが口の端から漏れる。

 6月、心が通じ合ったユカと関係を持ったこと。その時は本人の同意を得たつもりだったけれど、結果的には何も覚えていない今のユカに対して、不信感を植え付けることになってしまった。

 そのことに関して、今の彼女がどう思っているのかは分からない。彼女の拒絶を聞くのが怖くて、深く聞けないというのが正直なところだ。


 ――つまり……政宗君が『今後もしもケッカちゃんを好きになったとしても、それは彼女が持っている素質に起因する可能性が極めて高い』、って、ことかな。


 ――『縁由』は『縁故』能力と違って、制御することが出来ない。脳に直接作用する麻薬みたいなものかもしれないね。そして……行き着く先はおおよそ、『過度な独占欲』か、『行き過ぎた拒絶』なんだ。


 ――自分はかつて、『縁由』の『相性が良すぎた』ことで……『縁由』持ちだった実の妹を拉致監禁した人物も知っているよ。人間の理性と関係ないところで暴走することがあるのが『縁由』なんだ。政宗君……心当たりはないかな?


 8月に聖人から聞いた言葉が、順番に脳裏をよぎる。

 そして、先の話から導き出された見立てを信じるならば……自分は8割の確率で、今後、ユカに対して悪い影響を及ぼす可能性があるらしい。その『悪い影響』が具体的に何なのかは分からないけれど、すでに彼女は仙台来てから体調が不安定だし、失明騒動もあった。

 そう、言ってしまえば『悪影響』は既に出始めている。今後これがどうなるのか分からないけれど……聖人の言葉を否定するだけの根拠を、今の政宗は示すことが出来ない。


 そしてそれは、ユカも同じだった。

 福岡で出来ていたことが、仙台で出来なくて。もどかしい日々を過ごすことが以前よりもずっと増えた。それは単に環境が変わったせいもあるとは思うけれど……案に「それだけじゃない」と言われてしまったら、どうしても不安が残る。

 自分の知らないところで何かが変わっていくのは、何度経験しても怖いし……不愉快だから。


 黙り込んでしまった政宗の代わりに、ユカは「ありがとうございます」と、聖人へ返事を返してから……残っていたコーヒーを、静かに全て飲み干した。



「あの時、伊達先生からも忠告されたやろ? あたしと政宗は、あんま一緒におらん方がよかと。特に今は……やけんが……!!」

 ユカの言葉を聞いた政宗は、反論のための言葉を探して……無意識のうちに、自分の左手を見下ろす。

 左手は、ユカとの『関係縁』が繋がっている手だ。

 通常は赤い『関係縁』だが、誰かに好意を抱くと、縁の色が紫色に変わっていく。お互いの『縁』が紫になれば両思い、片方だけなから片思いだ。

 今まではずっと、自分だけ紫色だった。2人を繋ぐ『縁』の色が変わるなんて、信じられなかったけれど。





 ――ユカ、俺は……君のことが好きだ。





 あの時告げたこの言葉で世界の色が変わり、未来を切り拓くことが出来たと思っている。

 自分の気持ちは、想いは、告げなければ伝わらない。どれだけ『縁』が見えても、そこから相手の気持ちを推し量ることが出来たとしても――真実は本人が発した言葉だと、そう思いたいから。


「俺は……」


 政宗は自身の左手を右手で強く包んだ後、息を吐いて――彼女を見据え、自分の意思を伝えた。



「俺は……嫌だ」

「政宗……!?」


 真正面から彼に拒絶され、ユカは一際大きく目を見開いた。

 どうして分かってくれないのか。自分は彼らのことを考えて、悩んで、悩んで……伝えいるのに。

 心を砕き、想いを削りながら……言葉にして伝えているのに。どうして。

「あの、ねぇ……っ!! 『あたし達』は部外者だってどうして分からんと!? 福岡支局でさえ手をこまねいとる現状に、あたし達が出来ることげな何もなかと!! 正義感で突き進むのもいい加減にしてよ!!」

 悲痛な激高が秋の海岸線に響く。ユカ自身も彼らを簡単に言いくるめられるとは思っていなかった。ただ、実際に『彼女(遺痕)』を目の当たりにして、怪我をした人物や事故まで目撃しているのに……どうしてここで引き下がってくれないのか。


 苛立ちが、募ってしまう。

 きつい言葉を使いたくないのに、フィルターを通さずに言葉を発していると、また、いつかのあの時みたいに……。


 ……自分の父親と同じように、政宗を傷つけてしまうのではないか。


 苛立ちを隠せない表情で頭をかくユカに、政宗は毅然とした態度で一歩、足を踏み出した。

「なぁケッカ、覚えてるか? 10年前……福岡で初めて会って、3人で一緒に過ごして……あの時があるから、今の俺がここにいる。ケッカと統治が手を差し伸べてくれて、俺に生きる意味をくれたんだ」

「いきなり思い出話? 話をそらそうとせんでよ、あたしは――!!」

「――なのに、今のケッカは何なんだよ。ずっと下を向いたままで、現実から目をそらして……前にケッカは1人で抱え込むなって俺に言ったけど、ケッカこそずっと1人じゃないか!! どうして俺達を頼ってくれないんだよ!! どうして1人になろうとするんだ!!」

「っ……!?」

 政宗の言葉に、ユカは思わず身じろぎして俯いた。


 頼ってくれないなんて、言われたくない。

 しょうがないじゃないか。

 頼りたくても……頼れないのだから。



「……そげんするしか、ないやんね」

「ケッカ……」

「だって……どげんしようもないやんね!! 今のあたしは『縁故』じゃなかと!! 仙台にも福岡にも、あたしの居場所なんか――!!」

「――ここにあるだろうが!! ケッカの目はそんなことまで見えなくなったのか!?」

 刹那、両肩を強く掴まれた。政宗は視線を泳がせる彼女を真正面から見据え、己の意思をぶつけていく。

 真っ直ぐな言葉が、彼女の心に届くまで。

「俺が結果(けっか)を未来へ繋げる、そう決めたんだよ。どうしようもないなんて認めない。納得出来る答えをもらうまで……ここからも、福岡からも離れないからな!!」

「納得出来る、って……そげなこと言われても……」

「俺が知ってるケッカは……山本結果っていう女性は、そう簡単に諦める人じゃないんだ。自分が辛い時に誰かを励まして、絶望しか視えなくても立ち続けてた。それは、どんな姿でも変わらなかったんだ」

 政宗の言葉を受けて、ユカの目に迷いが生じた。彼女自身も自分が何も出来ない歯がゆさを抱いている。けれど……友人が怪我をして、見ず知らずの人物が傷ついている。そして、切り札だったはずの手札(能力)も奪われ、どうしようもなくなっているのだろう。


 そんな彼女に、今の自分が出来ること。

 それは……。


「ケッカ自身が一番辛いのに、自分より俺たちのことを心配してくれてるのも伝わってる。だから……」

 政宗はここで言葉を切ると、肩を掴んでいた手を離す。

 そして、改めてユカを見つめると……口元に笑みを浮かべて、体の力を抜いた。



 ――絶対に迎えに行く。約束も……全部、果たしてみせる。今度は絶対に、10年も待たせないから。



 彼女の前で、未来への約束した。

 あの時の彼女は、最後まで笑顔を向けてくれたから。だから今、自分も笑っていようと思う。

 この先、未来がどんな結果になっても……この瞬間を思い返して、後悔しないように。



「だから……俺は、そんな君を好きになった」

「え……?」



 彼の言葉が理解出来ず、ユカは思わず顔をしかめた。

 そんな反応に政宗は少しだけ苦笑いを浮かべたが、すぐに笑って、同じ言葉を繰り返す。






「ユカ、俺は……君のことが好きだ」

 前回の告白時は、驚くほど感慨深かった霧原ですが、今回は単なる通過点という印象です。(ヲイ)3幕の時が落ち着いた雰囲気だったので、今回はガヤガヤしております。そこも対照的にしておきました。

 告白した結果や、彼女に思いを告げたその真価が問われるのは……もうちょっと後になります。

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