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ぽーかーふぇいす  改訂版  作者: 大平麻由理
第七章 グリーグ ピアノ協奏曲イ短調
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80 相崎医院

「ポーカーフェイスか……。でも大学ならそんなに気を遣わなくてもいいからちょっと楽だよね。こうちゃんと一緒にいたって、それだけでひやかされることもないし、逆にみんな無関心って感じだもん」

「確かに」

「なのに、うちのママったら本当にうるさいったらありゃしない。何でも知りたがるんだから……。あんな母親にこうちゃんとのこと知られたら大変だよ。そりゃあ大歓迎で大喜びするのはわかってるけど、デートにまでついて来そうだし、スカイプとかでドイツの夏子先生たちの耳に即報告なんてことにもなりかねないし……」

「おっと。それだけは勘弁願いたいな。わかったよ、もうそれ以上は言わなくてもいいから。当分は今のままがいいのかもな」


 康太は深く頷くと、そろそろ料金所だなと言ってスピードを落とし、右側の窓を開ける。

 残念ながらETCカードは使えない。

 明細に使用した高速道路の料金所が表記されるからだ。

 父親あての明細に帰国した両親が目を通す可能性がある限り、うかつなことは出来ない。


「この後、道案内よろしくな。……それにしても、いいところだな。ビルとかも少ないし……。自然がいっぱい残ってる。翠台にちょっと似てる気がするよ」


 康太は沙紀の用意した金額を料金所の職員に渡し、高速の出口に向う。

 ここは二人の住む翠台から一時間ちょっとかかるところにある、郊外の町だ。

 この後十五分ほど車を走らせたところに、沙紀の祖父母の家があるらしい。

 沙紀はこの父方の祖父母が大好きなようで、ことあるごとに話を聞いていた。


「沙紀、もうすぐ、おじいちゃんたちに会えるな」

「うん。お正月以来だから、楽しみ。でもね、おじいちゃんにもおばあちゃんにも、悪いことしたなって、そう思ってる。結局、医者になる道は断念したし、おじいちゃんの跡継ぎになることはもう叶わなくなっちゃったわけだしね」

「そうだな。でも、沙紀のこと、応援してくれてるんだろ? 」

「うん。まあね。好きなようにしなさいってね。でもね、おじいちゃん、なんだか寂しそうだった。パパにも裏切られ、そして、孫のあたしにもそっぽを向かれ。おじいちゃんになんとか元気になってもらいたくてね。あたしの身勝手を許してもらって、これからのあたしの生き方に共感してもらえたらいいなって。そう思って、今日はこうちゃんに無理言って、ここまで連れてきてもらったんだ」

「……で向こうに着いたら、俺はどうしたらいいんだ? 」


 沙紀をここまで連れてくるのは簡単だが、いったい自分はどのように振舞えばいいのかと、康太は次第に不安になる。


「隣のこうちゃんに無理言ってここまで連れてきてもらった……ってありのままに事情を説明するから。あたしがおじいちゃん達と話してる間、一緒にそばで聞いててくれたらいいよ。昔からこうちゃんのことも知ってるんだし、別に何も不信に思わないよ。それにおじいちゃんもおばあちゃんもこうちゃんのこと、やけに気に入ってたから、逆に大喜びするんじゃない? 大きくなったわねって。少しの時間、お年寄り孝行するの手伝って」

「そうか? だといいんだけど。案外、大事な孫娘かっさらいに来たって大騒ぎになるんじゃないの? わしらの目の黒いうちは、変な虫はごめんこうむるってな。それに、俺がついて行ったこと、おばちゃんにバレるぞ? 」

「それは大丈夫! こうちゃんも知ってるとおり、うちはちょっとパパとおじいちゃんの関係が複雑なところあるでしょ? だからむやみやたらに電話とかしないんだ。それに今日ここに来たことは誰にも言わないでってお願いすれば、百パーセント、ママにもパパにも知られずに済むから」


 沙紀の父親と祖父の確執が続いたままである以上、家同士で頻繁に連絡を取り合うことはないということだ。

 父親が長期出張で家にいない時を見計らって翠台に足を運ぶ祖父母に、康太も何度か会ったことがある。

 沙紀の言うとおり、彼女のことなら何でも聞いてくれる優しい二人だった。

 目の中に入れても痛くないとはこのことかと、子どもながらに理解したことも記憶に残っている。

 このたった一人の孫娘がかわいくて仕方ないのだろう。

 彼らが沙紀の嫌がることは絶対にしないと、これまた確固たる信頼関係ができあがっているようだ。


「ふーーん。やけに自信あるんだな。確かに、おじいさんもおばあさんも、沙紀にメロメロだもんな。まあ、俺たちの関係がバレた時は潔く認めるよ。ここに来ようと決めた時に、覚悟は出来てるからな」

「んもう、こうちゃんったら、心配性なんだから。大丈夫だってば。あっ、そこ右。次の信号を左ね」


 沙紀の適格なナビが炸裂する。


「あの学校、パパとママが出会った高校なんだって。二人は高校の時の同級生で、卒業して同窓会で再会して、意気投合して結婚したみたい」

「へーー。そうなんだ」

「あそこに見える公園は、パパが小さい頃、遊んだ場所なんだって。あ、この店の駄菓子は町で一番おいしくて、珍しいものが置いてあるんだって。あっ、こうちゃん、次の分かれ道は左側ね。そこを真っ直ぐ行って……。そうそう、神社を通りすぎて……。あの大きな瓦葺のお家を通りすぎて。あ、見えた見えた。あの看板。相崎医院はこちらって文字、見える? 」

「よし。了解! 」


 小高い丘を中腹まで上ったあたりで、医院の建物が見えてきた。

 外来用の駐車場に車を停めると、裏手の荘厳な門に歩いて向かい、沙紀が私邸のインターホンを鳴らす。

 中から人が出てくる気配がして、彼女の隣に立っている康太に俄かに緊張が走った。


なんとかギリギリ、投稿が間に合いました。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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