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ぽーかーふぇいす  改訂版  作者: 大平麻由理
第十章 チャイコフスキー ピアノ協奏曲第一番
112/188

110 暴露大会

「そういえば、そうだよね。あさって、あななたち二人とパートリーダーで集まるって連絡もらってたけど。いつの間にか今日に変更になったの? 」

「えっ? いいや、あさってもやるよ。てか、あさってが本番の打ち合わせなんだけど。今日はまず、二人の意見を合せておこうって、葉山が言うから。あたしはね、あさってだけで充分だって言ったんだよ。でも葉山が……」


 まどかが少し不機嫌になる。


「お、おい。なんで俺のせいにするんだよ。まどかだって、そうしようって言ったじゃないか。それにおまえがずっとこの店に行きたいって言ってたから俺だって気を利かせたんだ」


 ん? ずっとこの店に行きたいって言ってた? 

 ってことは、この二人は、必要以上に頻繁に連絡を取り合っていたのだろうか。


「気を利かせた? 何よそれ。自分から誘っておいてそれはないんじゃない……」

「まどかだって、次はおいしいもの食べに行こうって言ってたじゃないか」


 次は? ってことは……。

 連絡だけじゃなく、二人はしばしば会っているということになる。


「おい、もう辞めろ。ちょっと頭冷やせよ、二人とも。冷静に考えればわかることだろ? おまえたちも同罪。俺と沙紀と一緒ってこと」

「え? 」


 まどかと葉山が決まり悪そうに顔を見合わせる。

 康太も沙紀と同様、目の前の二人が怪しい関係だと踏んでいるようだ。


「葉山、往生際が悪いぞ。素直に認めろ。おまえらも結局のところ付き合ってるんだろ? あっ、必要ならばいつでもアリバイ協力するから……。おっと、いよいよ次だ。やっと順番が回ってきたな。じゃあ四人の席でいいか? 」

「お、おい、吉野。おまえらと一緒にするな。俺は、俺とまどかは、そんなんじゃないから……」


 康太は葉山の言い訳など、これっぽっちも聞く素振りも見せず、白いコック帽をかぶったスタッフの案内に従い先陣を切って店の中に足を踏み入れた。


 ボリューム満点のパスタセットは、男性陣にも満足のいく量だったようで、味よし、量よし、値段よしと三拍子そろったこの店が人気を集めるのも無理はないという結論に落ち着いた。

 締めのエスプレッソがテーブルに並べられ、ひと口飲んだまどかが、今日何度目かのため息をつく。


「はあ。それにしても沙紀と吉野君とはね……。あたしは転校生だから小さい頃の二人は知らないんだけど、中学の時は毎週、吉野君ちにピアノのレッスンに行ってたのに、なんで気付かなかったんだろ」

「まどかちゃんったらまだそんなこと言ってる。だからさっきも言ったけど、中学の時は何もないってば。それに親にもまだバレてないんだもん。まどかちゃんが気付かなくても不思議でもなんでもないよ」

「それにしても、二人のポーカーフェイスはプロ並だね。ああ、だまされた、だまされた。で、どうやってデートしてたの? 今日みたいなことしてたら、もっとすぐにバレちゃうよね? 」

「今日は、ちょっと浮かれちゃってて。いつもはもっと慎重なんだってば。みんなに会いそうな近場を出歩くときは、十メートルくらい離れて歩くことも普通だったし」

「へーー。苦労したんだね。でも同情しないから。二人は家も近いし、吉野君ちはご両親も不在。そりゃあ、あんなこともこんなことも、さぞかしやりたい放題……」

「ま、ま、まどかちゃん! ちょっと、声が大きいって」

「はいはい。ああ、でも、やっとこさ沙紀の真相が明るみになって、高校入学以来、三年半もの間、もやもやしてたのがパーーっと晴れて、すっきりした気分。今日、このお店に来て、ホントよかった」


 まどかは満足げにエスプレッソをすすっている。


「で、まどかちゃん。さっきの秋の北高合唱部定期演奏会にOBが出演するって話だけど、ホントに星川先輩も来るの? 去年も一昨年も顔出してないのに、何で急に来るんだろ」


 沙紀は空になったカップをソーサに戻し、組んだ両手の上に顔を載せて首を傾げる。

 横に座る康太は少しばかり浮かない顔をしているが。


「そうだ、もしかして先輩、お父さんに……」


 沙紀は言いかけて途中で辞めた。

 その内容を察した康太が、とたんに表情を曇らせたのだ。

 先輩の父親である星川教授にピアノの個人レッスンを受けていることは、きっとあまり人に知られたくないのだろう。


「お父さん? 先輩のお父さんがどうしたの? 」


 すかさずまどかが興味深げに訊いてくる。


「あっ、いや、なんでもない。間違えちゃった。えへへ」

「もう、沙紀ったら、昔とちっとも変わんないんだから。わけわかんないことばかり言ってさ。それはそうと、水田先輩が作詞して星川先輩が作曲した混声四部合唱を披露することになったから、来月は沙紀も練習に参加してね」

「へえ、そうなんだ。わかった、出来るだけ参加するよ」

「それとね、水田先輩がチラッと言ってたけど、沙紀にソロ部分をお願いするかもって。あっ、ど、どうしよう……。あたし言っちゃったよ。練習開始するまで内緒って言われてたのに……。先に言ったら沙紀はなんだかんだ理由つけて練習に参加しなくなるからって。あああ、今の聞かなかったことにして」


 まどかが慌てて手で口を塞いでも、もう遅い。

 一度聞いてしまったものは消えないのだ。


「ほんっとにおまえって奴は……」


 と言いながらも、どこか愛おしそうにまどかを見守る葉山は、間違いなく彼女に恋している。

 さっきの康太の反撃もあながちはずれてはいない。いや、的の中央を射抜いている。

 

「ねえ、まどかちゃん。今日までこうちゃんとのこと内緒にしてたおわびに、ソロでも何でも協力するからさ。部員のみんなには、今日のこと黙っててくれる? お願い。葉山君も……」

「もちろんよ。誰にも言わない。てか、言わないほうがいいかも。だって、相手は吉野君だよ。部員の中にもファンがいたからね」

「そうだな。それが賢明だ。言わない方がいい」


 葉山も大きくうなずく。


「高三の後輩にも好きだって子がいたはず。妬まれたりしたら怖いもんね」

「あ、ありがとう、まどかちゃん……」

「どういたしまして。で、吉野君。さっきの外泊の件だけど。あたしの沙紀を、いったいどこに連れまわしたのよ! 場合によっちゃあ、ただではおかないわよ! 」


 まどかが冗談交じりに康太を責める。

 沙紀の祖父母の家に行って、泊まっただけだと正直に告白しても、もちろん葉山もまどかも、そんな嘘っぽい話を鵜呑みにするほど世間知らずではない。

 大嘘つきのレッテルを貼られた沙紀と康太は、その夜の大暴露大会から、当分解放されることはなかった。


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