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欠陥少年は精霊使いに憧れる  作者: 磯崎 瑞樹
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05 一悶着

ラーテル達に大精霊の祠行きを告げてから翌日。

学院の長たるミネルヴァは頭を抱えていた。

大精霊の祠にラーテルとティアクリナを向かわせることが、一部生徒の反感を買っているのだ。

曰く

「歴史的価値ある建造物を社会科研修名目で行かせるならば、我々も行かせろ」

曰く

「学院の代表として向かわせるのならば、精霊を持たないような弱者ではなく、生徒会役員に向かわせるべきだ」

曰く

「例え実力があるとして、生徒のみでは何か起きても責任がとれない」

と、まぁ例を上げていくと切りがない。

本来はラーテルとミネルヴァで行くつもりだったのだが、事情によりティアクリナを同行させることにしたのが不味かった。

ラーテルとティアクリナ両名を祠に向かわせるべく担当教師であるシャーレン・アディルに許可を取ったのだが、彼のクラス内で溜まっていたラーテルへの鬱憤が爆発したのだ。


「さて、どうしたものか」


元々ラーテルの属性について判断を仰ぐのが目的だ。

それが達成できるのならば別にクラス単位で行かせるのも可能なのだが、祠はそんなに広くない。一クラス入るかと言われると疑問だ。

それに、クラス単位で行くとなると全学年行かせなくてはならない。ラーテルのクラスだけ特別扱いすると、また新しい問題を抱えることになるだろう。

では生徒会役員に行かせるのはどうか。

確かに生徒会は生徒たちの代弁者であり、学院側と生徒側を繋ぐ重要な役割を担う。

資格としては十分にある。

しかし、生徒会に行かせると当然ラーテルとティアクリナは行かせられない。

特別扱いするなと言う話なのだからラーテルとティアクリナが祠に行くのは無理だ。本来の目的が達成できないなら、この話はなかったことにした方が良いくらいにも思う。

生徒のみで向かわせることの安全面での責任問題については心配はない。最高責任者たるミネルヴァ自身が責任を負うのだ。どの教師にも異論は言わせない。

だとすれば問題は、どうやって二人を学院の代表として向かわせるのかだ。


暫し考え込むと、ミネルヴァは一人の生徒を呼び出した。

さほど待たずにミネルヴァのいる校長室にノックの音が響き、一人の男子生徒が入室する。

彼の名はルイ・エル・ソロワ。

王国貴族ソロワ家の次男にして、聖マルケス学院の生徒会長である。


「お呼びですか、校長」


さらりと金色の髪を揺らし、オレンジ色の瞳がどこか退屈そうにミネルヴァを見つめている。


「なに、暇をもて余しているだろうと思ってな」


「お言葉ですが、私は生徒会長を預かる身です。暇というわけではないのですが……」


ルイの言葉に嘘はない。

ミネルヴァとて、生徒会長が学院に持つ権利を維持するためにどれだけの労力を払っているか知らないわけではない。

しかし、このルイ・エル・ソロワは違う。

会長の業務を徹底的に合理化し、効率を追求。

常人が一月かける仕事量を一週間で済ませてしまう才覚の持ち主。

極めて優秀な彼が、学院の長たるミネルヴァの話を断るはずはない。


「理解している。だが、本来多忙であるはずの会長だが、今は暇だろう?」


「奇跡的に手は空いております」


「ソロワに一つ頼みがあるのだ。聞いてくれるかな?」


「慎んでお受けしましょう。内容をお聞きしても?」


「勿論だ」


誤魔化しは効かないだろう。

ミネルヴァはそう考え、端的に事実のみをルイに伝える。


「我が校に精霊を持たぬ生徒が一人いる。

そいつを大精霊の祠に連れていきたいのだが、周りはそいつだけ特別扱いするなという。

この辺りに詳しく、知識ある我が校の生徒であれば当然大精霊の祠くらい知っているだろうが、そいつは孤児でな。

我が校に入学するまでは孤児院暮らしだった為にこの辺りの地理的知識は元より、基本的な知識も少々怪しい。

私としては、この機会に見聞を広めて欲しいのだが、周りがそれを嫌う。

そこでだ。

ソロワの権限で、そいつを生徒会にいれてやってはくれないか?

生徒会所属となれば、反発もなくなろう。

なにせ学院の代表として大精霊の祠の巫女様にもお目通りできるだろうしな。

どうだろうか?」


じっとルイの目をミネルヴァは見つめる。

虚偽はない。

隠すべき真実は隠し、ミネルヴァの本音に近い部分を話したつもりだ。

ルイもまたミネルヴァの視線を受け止め、彼女の真意を探るかのように静かに立っている。

やがて、ルイは口を開いた。


「お断り致します」


「理由は?」


「はい、まずは彼を生徒会に入れることで確かに校長の目的は叶うでしょう。しかし、それでは他の生徒会役員達に示しがつかない。

何より、生徒会の敷居を大幅に下げてしまいます。

それに、我が校は郊外とは言え王立高等学校、精霊学の権威が校長を務めるエリート校です。

あなたの実験対象として精霊を持たない生徒は興味深いのでしょうが、生徒会に入れるとなると聊か外聞が悪いのでは?」


「正しいな。だが……」


「そこで、私から提案があります」


「ほぅ?」


面白い、というように微笑みを浮かべ、目を細めてルイを観察するミネルヴァの目を、ルイは怖気ることなく受け止める。


「簡単な話です。我が校の代表たる力があると周囲に示せばいい」


「つまり?」


「私とその精霊を持たない生徒で練習試合を提案します」


「なるほど……」


悪くない。むしろ大変面白い。

生徒会長たるルイと試合を行い、周囲にルイと競えるほどの力があると納得させればいいのだ。

だが、このルイ・エル・ソロワと言う男は八百長を認めるような生徒ではない。

おそらく全力で迎え撃つだろう。そうなればラーテルに勝ち目はない。


「分が悪いな。手加減はしてくれるのだろうか」


「当然怪我をしない程度には手加減をするつもりです。

ですが負ける要素のない相手に接戦を演じることはできません」


胸は貸すが、負けることはできないと語るルイの言葉に、ミネルヴァは頷く。


「ならば、2:2での試合を組ませてほしい。精霊を持たない者と一騎打ちをすると精霊含めて人数的にも倍の戦力だろう?

そんな状態で勝利しても卑怯者だと言われないかな?」


「道理です。でしたら二対二での練習試合でも構いませんし、なんなら僕は一人でも構いません」


「いや、人数は公平にいこう。そちらの人選は任せる」


「わかりました。日時は?」


「早いほうが良い、こちらも生徒たちには伝達しておく、人員が揃い次第始めよう」


「わかりました。では、失礼いたします」


「ああ、助かる。よろしくな」


ルイが校長室を退出するのを確認してから、ミネルヴァは深いため息をついた


「はぁ、これはどう転ぶかわからないな」


だが、楽しみだと笑うと、ラーテルとティアクリナを校長室に呼び出したのだった。










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